花好月円 huahao yueyuan 黄貽鈞作曲(1935年)

※6/11更新分から,別資料をもとに,内容を再更新しました(03/06/13)

もともとは黄貽鈞(こう いきん・・「胎(たい)」じゃないですよ!)の作った管弦楽曲だったのを,彭修文が民族楽団用に書き直したもの。

●黄貽鈞そのひと●
黄貽鈞(1915〜 少なくとも99年までは存命してはるみたいだが)は蘇州出身。
上海交響楽団の指揮者として国内外で高い評価を得た著名指揮者です。

彼は貧しい音楽教師の家庭に生まれ,アコーディオンから始まり,バイオリン・ハーモニカ・二胡・京胡・揚琴・月琴, はたまた京劇・崑劇など,古今東西にわたる音楽・楽器に親しみました。

長じてからは地元中学の音楽の先生になったものの,音楽への情熱を捨てがたく, 上海国立音楽専科学校(のちの上海音楽学院)に進学。その後,1934年に知り合いを通じて 上海の百代レコード(「彩雲追月」の任光もここで働いていた)所属の民族楽団に入ったことが,彼の運命を変えたのです。

初期にはメンバーが5人しかいなかったので,彼は二胡・揚琴・ギター・バイオリンなど 様々な楽器の奏者として八面六臂の活躍。さらに,作曲者がいなかったので作曲までするはめに。
入団から1年後の1935年,レコード作成のさい,まず『打更曲』という曲(これも彼が作ったそうです)を収録しましたが,時間が余り,どうしてももう1曲必要,というピンチに。追いつめられた彼の脳裏に,ふといいメロディが頭に浮かんできて,それをふくらませたのがこの曲なんだとか。で,曲の名付け親は同じ団員の二胡奏者なんだそうです。

急場しのぎのこの曲が現在に至るまで愛される名曲になりましたが,彼はその後,本格的に作曲を学んだばかりではなく,トランペットや打楽器への造形をも深め,将来,国際的な指揮者に成長していくのです。

●題名●
ふつうの楽曲解説には,月の下,花のもとで踊ってる様子をあらわす曲,とありますが,実は「花好月円」って,楽曲の名前というより,あちこちで聞く一般的な「言葉」だったんですよね。日本で出版されたふつーの辞書にものってるくらい。で,調べてみると,
 「花 美しく,月 まどか。円満で仲むつまじい形容」
とあって,その注記に「新婚祝いに用いることが多い」とありました。

花はいいけど,なぜ月なんだろう? ふつうは花と蝶とかじゃない? なんて思いながらもうちょっと調べてみると それにはもっと深い意味がありました。出典は,明代の于謙という人が書いた『翁莫悩』という詩でした。

 花不常好 月不常円          花はいつも美しく咲くわけではなく,
                        月もいつもまるいわけではない

 世間万物有盛衰 人生安得常少年  万物にはみな栄枯盛衰がある
                        人も若いままではいられないのだ

うーん,これを新婚祝いにするのはちょっと。でもそのような「無常」な世の中だからこそ, 花が咲き,月が丸く浮かんでいるという状態が二つともうまーく揃った時は,すごくおめでたいのではないか, そして喜びもいや増すのではないだろうか,それがすなわち新婚のめでたさなのかも−−と思い, プログラム案にそう書き,それがそのまま採用されたのですが・・・

上の作曲時のエピソードをみるかぎり,そんな余裕は無かったみたいね。
実は無駄な考察だったのかもしれない。

●構成●
A−B−Aの簡単な三部構成で,その前に前奏がおかれています。
にぎやかに始まる前奏のあと,柔和で軽快な主題Aが笛子によって奏でられます。
それを高胡と二胡が受け継ぎ,やや変奏を含めつつ繰り返します。

つづいて主題B,これは揚琴などがメロディを担当します。Aに比べ,より活発な感じの曲調になってます。
これをまた高胡と二胡が受け継いで反復しますが,フレーズの最後に7のフラット音が出現してGからCに転調,
お次は低音楽器の出番です。厚みのある音色で人々が月のもと,花の中で舞い踊る様子を表現します。

最後は主題Aがスピードアップして再現され,楽器が次々に加わっていきながらテンポもどんどん加速し, にぎやかに盛り上がって終わります。

※演奏データ:
・これも短い曲ですが,強弱や主題ごとの曲調にメリハリを付け,
 一気にひききったらなかなか聴きごたえのある曲です。
 とにかく,明るくて軽快,しかもめでたい曲なので,楽しく弾きましょう!

※出典データ:
・上海音楽出版社編『中国音楽欣賞手冊』(上海音楽出版社 1981)237,650頁
・中国芸術研究院音楽研究所編『中国近現代音楽家伝 第2巻』(春風文芸出版社 1994),540頁
・CD『春花秋月(民族器楽合奏薈萃二)』解説
・王濤など編『中国成語大辞典』(上海辞書出版社,1987)
↑この本,中国の古本屋さんで買いました。最近はめったに使いませんが,たま〜に役に立つ。


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