孫たちに贈る森の科学 森林インストラクタ− 大森 孟
[2001/03/10 所沢市の八国山で撮す。]
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孫たちに贈る森の科学 11 ---------------------------------------------------------------------- 常緑広葉樹と落葉広葉樹の入りまじる森1 森林インストラクタ− 大森 孟 ---------------------------------------------------------------------- 常緑広葉樹と落葉広葉樹の入りまじる森 その1
(1)はじめに (2)学者の意見 (3)うまくいかない理由とそのために起ること (4)常緑広葉樹と落葉広葉樹のまじる森をつくるために! (5)おわりに(1)はじめに
そろそろ、本格的に、森林についてのいろいろなお話を始めたいと思います。 前回は、落ち葉と紅葉のお話をしました。紅葉するのは落葉広葉樹、つまり、 秋になると、葉が赤くなったり、黄色になって落ちてしまう木々のことでした ね。神社やお寺の境内などへ出かけてみると、そこには夏でも冬でも青々とし た葉に覆われた木々があります。これが常緑広葉樹です。なかには、マツ、ス ギやヒノキなどの針葉樹もありますが、たいていは、幅の広い葉を持った常緑 広葉樹だと思います。 今日は、この常緑広葉樹と落葉広葉樹の入りまじる林を仕立てることができ るかどうか、お話したいと思います。(2)学者の意見
森林について研究をしている学者の間で、「常緑広葉樹と落葉広葉樹の入り 混じった森」をつくることができるかどうかといったお話がよく聞かれます。 では、ほんとうにできるのでしょうか、といわれればば「ええ、できますよ」 と答えるしかしかたがありません。ただし、そういう森をつくるためには、人 手もたくさんいりますし、お金もたくさんかかります。 森を育てるお仕事である林業も、また、農業もみんな利益をあげなければ、 続けていく事ができませんし、森を作るためには、できるだけ安い費用で作ら なければなりません。また、国や都道府県の場合でも、市町村の場合でも、同 じことで、税金として得られる「歳入」には制限がりますし、その歳入を使う、 「歳出」にも限りがあります。ですから、ほんとうは、割に合わない森づくり を進めることはできません。 「常緑広葉樹と落葉広葉樹の入り混じった森」づくりは、割に合わないこと なのです。費用ばかりかかって、油断をするとすぐに壊れてしまうからです。 私たちの先祖がやろうとしなかったことは、大抵、私たちが乗り出してみても うまくはいかないことが多いのです。(3)うまくいかない理由とそのために起ること
「常緑広葉樹と落葉広葉樹の入り混じった森」づくりが割に合わない理由と そのために起る困ったことを上げてみることにしましょう。 (ア)かりに、同じ背丈の苗木を植えたとします。常緑広葉樹と落葉広葉樹で は、成長のしかたに違いがあるので、油断をしていると常緑広葉樹がすぐ繁茂 してしまい、落葉広葉樹がおおわれてしまいます。下になってしまった木々は どんどん元気がなくなり、やがて、枯れてしまいます。 このような林を作ろうとして、放置されている例が、東京都江東区夢の島の 熱帯植物館近くの道筋で見られます。林の中には草木がほとんどなく、落葉広 葉樹が常緑広葉樹の間にようやく生きているような様子です。 (イ)常緑広葉樹を伸びるにまかせて放っておくと、林の中へは日の光がとど かなくなり、やがて背丈の低い木々や草が枯れ、消えてしまいます。わずかに、 林の周囲の道端のいくらか光りのさしこむようなところだけに、低い木、つる のある草木や草などが残るだけになります。こういった例は、武蔵野の雑木林 でいくらでも見ることができます。 (ウ)しまいには、森の木々の大半は常緑広葉樹ばかりとなり、草木の種類も 減り、年数がたつにしたがって、生き物の種類も数も減っていくことになりま す。むずかしい言葉では「生物の多様性の劣化(れっか)」といい、これは、 今、世界中で大騒ぎになっている地球環境問題のひとつです。いうまでもない ことですが、微生物の活動にも影響がおよび、草木の枯れたもの、落ち葉や動 物の死んだものなど(普通こういうものを「リタ―」と呼んでいます。)の分 解も遅れるていくことになります。 (エ)森の木々の大半が常緑広葉樹ばかりとなり、林の中の草木が少なくなっ たり、なくなってしまいますと、雨の降る度に、表面の土が流れ出してしまっ たり、土砂崩(どしゃくず)れなどが起りやすくなります。また、森林には、 「保水性」といって降り積もった、分解途中の草木や分解されたものが混じっ た土やもっと深い所にある土に水を吸い込み、ためておく性質があります。森 の持つ大切な働きの一つです。林の中の草木が少なくなったり、なくなってし まいますと、この大切な働きも壊れていくことになります。 (4)常緑広葉樹と落葉広葉樹のまじる森をつくるために! では、常緑広葉樹と落葉広葉樹の入り混じった森をつくり、その森を維持す ることはできないのでしょうか。これに対しては、「できます。」というしか 仕方がありません。そのかわり、いつまでも細やかな手入れをつづけていくこ とが必要になります。コナラ・クヌギの人工林のように手入れが簡単ではない のです。 常緑広葉樹と落葉広葉樹の入りまじる森を維持(いじ)していくための対策 としては、 (ア)毎年、常緑樹の植木並の手入れをする必要があります。これは、枝打ち のようなものではなく、植木の剪定に近い手入れになります。 (イ)年々、樹木は成長しますから、その手入れは、年月がたつにつれて、だ んだん大変になり、手入れをする人に高い技術が求められるようになっていき ます。 (ウ)いうまでもないことですが、手入れの費用が樹木の成長とともにうなぎ 上りになっていきます。その上、手入れに参加する職人の数もふやさなければ ならなくなります。 (エ)樹木の成長と共に、手入れをする職人の技能や技量もだんだん高度とな らなければ手入れがむずかしくなってしまいます。それは、常緑広葉樹と落葉 広葉樹のいりまじる森を維持していくために、限りもなく費用がかかることを 示しています。 費用を払っていく力のある人の遊びならこれでもよいのですが、林業や農業 は、いろいろな企業と同じように「経営」をしているのですから、このような ことを続けていけるはずはありません。また、「地球の環境を保全する」と言 う立場から考えても、森の持つ大事な働きをおとろえさすことになるばかりで はなく、手入れのために無駄なエネルギ−を使うことになるので、地球の温暖 化を、押し進めることにもなります。このような愚かなことをいつまでも続け ていくわけには行きません。(5)おわりに
結論からいえば、「常緑広葉樹と落葉広葉樹の入り交じった森」をつくるこ となど、お金持ちのお遊びだということになるでしょう。【参考】所沢の周辺で見られる常緑広葉樹と落葉広葉樹
(1)常緑広葉樹(街路の植栽木も含む) シラカシ、アラカシ、アカガシ、スダジイ、マテバシイ、サカキ、ヒサカ キ、クスノキ、タブノキ(イヌグス)、シロダモ、アオキ、ツバキ、サザン カ、モクセイ、ヒイラギ、ヤマモモ、サンゴジュ、タラヨウ、ユズリハ、ス ギ、ヒノキ、サワラ、モミ、アカマツなど (2)落葉広葉樹(街路の植栽木も含む) ケヤキ、ムクノキ、エノキ、コナラ、クヌギ、アカシデ、イヌシデ、エゴ ノキ、ハクウンボク、リョウブ、オニクルミ、ヤマウルシ、ヌルデ、ヤマザ クラウワミズザクラ、イヌザクラ、イイギリ、ハリギリ、カマツカ、サワフ タギ、ネジキ、ネムノキ、アオハダ、ヤナギ、イヌコリヤナギ、ケヤマハン ノキ、ハンノキ、オオバヤシャブシ、クマシデ、クリ、ハルニレ、クワ、カ ツラ ユリノキ、ホノキ、コブシ、モクレン、ハクモクレン、シデコブシ、 ヤマコウバシ、クロモジ、ダンコウバイ、アジサイ類、ウツギ類、メタセコ イヤなど (2000/11/14)[前のタイトル] [次ぎのタイトル] [ホ−ムペ−ジへ戻る]
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