寄 り 道


                                

一時経って、シタンはユグドラシルの甲板で目覚めた。自分が何故こんな所にいるのか、全く思い出せない。取りあえず、シタンは自分の部屋に戻る事にする。つい先程まで、愛する人といたあの部屋へ…
                  
「ソラリスへようこそ(?)、フェイ。これからが、楽しみだわ。良いデータ、採らせてね。…あの頃みたいに。」
「!? あの頃!?何の事だ!」
「そのうちに分るわ…嫌でもね。」
「?  カレルレンは、一緒じゃないのか?」
「生憎、彼は、忙しい身でね、貴方を相手するほど暇じゃないの。お話は、これまでよ。さあ、始めさせて頂こうかしら…」
フェイは、診察台に寝かされたと思うと手足を拘束される。何故かフェイは、懐かしさを感じていた。
『この感じ…前にもあった気がする…いつだっただろう…』
そう思ったのも束の間…ミァンは早速、実験を開始する。彼女は電磁波を使い、精神派の変動を調べ始めた。強烈な電磁波。彼の手足が痺れ、頭が割れるかの様な激痛に襲われる。それが、約2時間ほど行われたらしい。実験が、終わったかと思うとミァンは、休む間のなく次の実験に取り掛かる。冷酷な彼女の行う実験は、想像を絶する激痛へと変化していく。それは体を襲う痛みではなく、精神面に感じる…痛み。それでも。フェイは耐え続けた。結果、このような実験が、3週間ほど続けられる。実験途中、幾度も耐え難い激痛に襲われるが、フェイは辛うじて自分を失わずにいた。通常の人なら、1日でダウンだろう。だが、彼は愛しい者の名を呼ぶ事で己を維持していた。

ソラリスに来て以来、心の中で一人の名前をずっと呼ぶ。フェイにとって、一番…愛しい人の名を…
『シタン!助け…て!!たす…け…て…!!』
「…え?…今…誰かに呼ばれた気がしたが…気のせい…?」
怪訝そうな顔で、シタンは口をこぼす。最近、自分はおかしい。夜になると、知らない人の声が聞こえてくる。そうかと思うと、その人の温もりがリアルに蘇る。シタンにとって、懐かしい人の声だった。その声は酷く、気になる。思い出せそうで、思い出せないこんな事は、シタンにとって初めての事だ。
『どうして思い出せない?こんなに気になるのに。こんなに、胸が締め付けられるのに。』
シタンの心の中で、その言葉だけがリピートされる。考えれば考えるほど、その思いは強まる一方だった。しかし、誰だったのかは思い出せない。取りあえずシタンは気分転換しに、ガンルームに向かう事にした。ガンルームには、シタンと同じく怪訝そうな顔をしたバルトや仲間達がいる。
「皆さん、どうしたのですか?怖い顔をして…?」
「先生!?ちょうど、良かった!!最近…俺、可笑しいんだ…ユグドラシル内にもう一人、いた気がしてなんねぇんだ!そんでもって、そいつは俺にとって大事な…友達だった気がする…な?可笑しいだろ?そんな奴、いるわけ…ないよな?」
「いえ…そうとも限りませんよ?私も同じような事を、考えていましたから。」
「はぁ?先生もか!…皆にも聞いてみたんだが、やっぱり俺と同じような事を言うんだ。」
「そうですか…偶然ではなさそうですね。」
「ああ…心当たりはねえのか?先生。」
「いえ、全く…?…そう言えば…」
「心当たり、あるのか?!」
「ええ、心当たりか、どうか分かりませんが…私の部屋に誰の物か分らない髪留めと、ペンダントがあるんです。きっとそれが…」
「!?先生、見せてくれ!!」
「…ええ。分りました。」
シタンとバルトは、シタンの部屋に行く言う事にした。…行こうかと思った瞬間、チュチュも行くといいだしシタンとバルトは困った表情を浮かべる。思わずシタンはチュチュに帰る様、説得した。
「…遊びでは、何のですよ?これは。」
「分っているでちゅ!…チュチュにとっても、その人は大事な人でちゅ!それにチュチュは思い出す事に関しては、得意技でちゅよ!?連れて行って、損は無いと思うでちゅっ!。」
「…得意技…ですか?仕方ありませんね。良いでしょう。私の部屋には、バルトとチュチュが行きます。他の皆さんには、何か思い出した時点で報告します。それまで、各自の部屋で待機していてください。」
皆は、納得したかのように各自の部屋に戻って行く。シタン達は、気を取り直して部屋に向かう。ガンルームから、それ程遠くはない場所にシタンの部屋はあった。シタンは自分の部屋に着くなりずっと置いてあったその品をバルトに見せる。
「…これか?…何か…変わった髪留めだな。」
「ええ。これを見る度思い出しそうになるんでうすが、何か靄がかかったかの様に思い出せないのです。」
「そうか…俺も…もう少しって所まで来てるんだが、思い出せねえ。」
「?!…これ…見た事あるでちゅよ!?いつだったでちゅかねえ。……そうでちゅ!!そうでちゅよ!あの人でちゅ!」
「チュチュ?どうかしましたか…?」
「…!…思い出したでちゅ!!フェイしゃんでちゅよ!!思い出せないでちゅか?!…フェイしゃんでちゅよう!」
「フェイしゃん…?その人は、フェイという名前の様ですね。…何処かで…聞いた事が…」
シタンとバルトは、名前を聞いてもはっきりと思い出せない。気が付くと昼から夜へと変わっていた。とりあえず、バルト達は各自の部屋に戻り休む事にする。
                   
『…俺…まだ…生きてる…?』
フェイは朦朧とする意識の中で、呟く。既に手足がゆうことを効かない。無理に動かそうとすると、激痛が走る。どうやら、負傷しているらしい。ずっと診察台にいた為、自分がどのくらいここにいたのか分らない。当然ながらどの程度、怪我をしたのかも分かるはずがなかった。そうこうしているうちに再びミァンが実験の為、部屋に入って来る。今度は何をするんだろう?フェイは、半ば諦め加減だ。いつまでも実験を始めないので不審に思ったフェイは、辺りを見渡してみる。すると辺り一面、驚くべき光景が広がっていた。見渡す限り…血の海。良く見てみると、臓器が飛び散り人間が半分に割れて死んでいる。死臭が満遍なく、漂っていた。フェイは即座に、目を背けてしまう。どうして今まで気がつかなかったのだろう。それ程、酷い光景。困惑しているフェイに、ミァンは追い討ちをかける様に事の説明した。
「流石に気付いた?どう?貴方の力は…フフ。困惑するのも、無理も無いわね。14年前より、遥かに能力が上がっているのだから。」
「14年…前?何の事だ!」
「時期に分るわ。さあ、実験しましょうね。フェイ…」
その言葉にフェイは、悪寒を感じてしまった。暫くして診察台の周辺には、人が集められていた。
「待たせたわね、フェイ。さあ、再び力を解放しなさい!」
「力…だと?まさか…俺が…殺したのか?血の海になるほど…人を…?そ、そんな!!」
「あら?今、気がついたの?」
「う、嘘だ!!そ、そんな事っ!!!」
「フフ。今更、何を言っているの?さあ、始めるわよ?」
「何の為に?!何の為に…こんな事を!こんな事して、何か意味があるのか!?」
「意味など無いわ。強いて言うなら、貴方の力の解明って所かしら…」
「俺の…力?」
「そう、力。接触者としての力…今、行っている実験は精神接合実験と呼ばれる物よ。この実験は“アニマの器”の同調率が高い者を集め、貴方と精神接合させるの。そして、一致すればその人は生きられるわ。でも、一致しなければ…分るわね?」」
「……。」
最早フェイには、反論する気もなかった。そんな彼を嘲笑うかの様にミァンは、容赦無く接合実験を再び開始する。壊れて行く人、人、人。面白い程、壊れて行く。まるで、人形みたいに。砕け血だけが飛び散る。死人達の返り血。フェイの顔に付着する。余りの出来事に彼は、絶叫した。
(嫌だ!逃げたいよ!逃げる?……そうだ。いっその事、壊れてしまえば…)
そう思った時、フェイの脳裏にある人の映像が蘇る。優しく微笑んで、何時も傍にいてくれるあの人。そして自分の事を一番理解し、こんな自分を愛してくれたシタン。もう一度、あの人の笑顔がみたい。願わくば。
「フェイ…どこかで……私は…その人を知っている…」
自分の部屋で必死にフェイの事を、思い出そうとしているシタンがいた。どのくらい思い出そうとした事か。知らないうちに、眠りに入る。疲れていた為、すぐ睡魔に襲われる。一時すると、誰かが自分を見ている事に気付く。どうやら、相手側の意識につれ込まれた様だ。とりあえず、その相手を見定めた。すると、髪の長い少年が、立っている。連込んだ相手は、その少年の様だ。
「ここは?…貴方の、意識の中なのですか?貴方は…誰です?」
シタンは、暗闇の中で呟く。その少年は、シタンの顔を見つめている。暫くの間、沈黙が続く。長い沈黙の後、その少年は口を開く。
「シタン…久し振り…逢いたかった。」
気が付くとフェイは、シタンに抱きついていた。シタンは突然の出来事に驚きを隠せなかったが、拒絶しなかった。懐かしい感触、懐かしい声。漸く、シタンは靄が取れた気がした。そして、走馬灯の様に思い出が蘇る。無邪気で無垢な少年そして、何よりも大切なフェイだ。愛しい、愛しいフェイ。やっと、全ての記憶の糸が繋がる。
「フェ…イ…!?フェイ!!」
「思い出してくれたんだね…シタン」
「…すいません。今まで、私は…」
「ううん。記憶を消してって頼んだのは、俺だから謝らないで…」
「!…何故です?何故私達から、貴方の記憶を消そうと?」
「…失いたくなかったんだ。大好きな人達を…そして…シタンを…」
「……」
「今度の敵は、余りにも巨大だ。もしかしたら、誰か死ぬかもしれない…だから…」
「…私達は、そんなに頼りないですか?」
「そ、そんな事ない!でも、でも!!」
「フェイ…」
「俺が原因で、皆を危険な目に合わせたくなかったんだ。」
「もう…お願いですから、居なくならないで、下さい。」
「ごめん。でも…俺…行かなくちゃ。」
「フェイ!」
「俺、シタンの事…待ってる!」
そう言うと、フェイの姿は消えていた。シタンは動揺を隠せなかったが、フェイの最後に放ったあの言葉がシタンの脳裏から離れない。
『俺、シタンの事…待ってる!』
シタンはフェイを救う事を誓い、皆のいるガンルームに向かった。フェイの事を思い出させる為に、そしてフェイを助ける為に。 

 

<言い訳>


誤字脱字が結構あった…情けない!しかも、文章にまとまり無いような…もう少し、勉強せねば! 

 

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