再会の果て
昨晩シタンは夢の中でフェイと再会を、果たし彼に関する記憶を全て取り戻した。フェイと過ごした時間。皆にも思い出さねば。そう心に誓いガンルームへ向かう。ガンルームには、珍しく皆が勢揃いしている。広いユグドラシルの中では、滅多とない。シタンは、取りあえずドアの傍にいるバルトに話しかけた。
「若君、全て思い出しました!フェイです!思い出してください!」
シタンの真剣な表情にバルトは一瞬、後ずさりをしてしまう。しかし落ちついき払った表情で、シタンに答える。
「…先生も、思い出したのか?俺も、思い出したんだ。何か昨日、変な夢見て…気が付いたらあいつの事、思い出してた。つまりそういうこった!でな、他の奴等にフェイの事、思い出させようとしたら、俺と同じような事いうし。…可笑しな事も、あるもんだよな。」
「夢を見て…ですか?…私も昨夜、フェイと逢う夢を見てから思い出したんです。」
「へえ。偶然だな。」
「偶然…でしょうか?皆が夢を見て、フェイの事を思い出した…これは、偶然ではない気がしますが?」
「まあ。どちらにせよ、フェイの居場所が分からない事には、迂闊に行動できねえな。」
「いえ、若君。居場所は、大体…分かっています。」
「本当か!?」
「ええ。こんな事をするのは、只一人…カレルレンしかいません!或いは、ミァンも関わっているかもしれません。つまり…フェイは、ソラリスにいると考えられます。」
「フェイがソラリスに?本当か?先生!」
「まず、間違いないでしょう。」
「そう、か。…なあ、先生。その、カレルレンって奴…危ないのか?」
「ええ…彼はかなり、危険です。何せ裏でソラリスを操り、陰では亜人や死霊を作るくらいですから。」
「なるほどな。俺達には、選択の余地はないって訳だ。…とにかく、ソラリスに乗り込むか!」
「ええ…今なら、ゲートも破壊されていますし。良い機会かもしれません。」
「よぉ〜し!いっちょ、フェイを助けに行くか!」
行き先が決まったバルト達は、急いでユグドラシルをソラリスに向けて発進させる。3時間後、ユグドラシルはソラリスのすぐ傍まで来ていた。マリアが搭乗するセプツェンの手に乗り、シタンとバルトそしてビリーが内部に潜入する事になる。一行は迷わず、カレルレンがいる研究所を目指す事にした。事実カレルレンは、一日の大半を研究所で過している事はシタンがよく知っていたのだ。研究所に侵入したシタン達は、フェイのいる部屋を探すことに専念する。
「あら?この人も駄目なの?では、次の人を!」
相変わらず、精神接合実験は続けられていた。フェイは既に言葉もなく、抵抗する力も失せている。その表情はまるで、死人のようだ。始めフェイはシタンの事を想い耐えていたが、もはや我慢の限界。人形みたいに壊れて行く、人。耐えがたい苦痛、自分を呪う声等…普通の人であれば逃げたい状況だろう。生き地獄、まさにこの事かもしれない。それ程、凄まじい光景だ。フェイは、徐々に思考能力も衰え始めていた。彼にとって、愛しく、生きる支えだったシタン…その事でさえも分らなくなる程に。生きることを、諦めた証拠と言うべきか。ミァンはそんなフェイを嘲笑うかの様に、精神接合実験をひたすら繰り返す。
シタン達は未だフェイのいる研究室が、特定できていなかった。そんな折、ハマーがフェイの場所をつき止めシタン達に報告する。フェイの居場所がわかったシタン達は、急いでその部屋を目指した。
『無事でいてください!フェイ!今…行きます!』
シタンは心にそんな想いを秘め、研究室を目指す。やっとの思いで研究室につきドアの前に立つがそこにはミァンがいた。
「ヒュウガ、これは賢い選択とは言えないわね。今なら、まだ引き返せるわよ?どう?一緒にフェイの実験でも…」
「断る!フェイは物ではない!一人の人間だ!それを、実験しようなどと!!」
「残念だわ。ならここで、さよならね。」
豹変したミァンにシタンは、只ならぬものを感じた。急いで、シタン達は戦闘態勢に入る。ミァンはエーテル攻撃を仕掛けてきた、シタン達は紙一重でエーテル攻撃を交して行く。シタンはソラリスへ行く前、シェバトによっていた。その際、妻のユイから愛刀を受け取っていたのだ。まさか、今ここで役に立つとは思わなかったが。シタンは、愛刀にエーテルを混合し攻撃を繰り出した。次にバルトも同様の方法でミァンに攻撃、ビリーも同じ様に攻撃をした。突然の事にミァンは、当然ながらダメージを受けた。その様な攻撃を何度か繰り返し、何とかミァンを倒す事に成功した。
「ここまで、力が出せるようになっていたとは…少々見くびっていた様ね。しかし、来るのが少し遅すぎたわ…フェイは既に精神が破壊されている状態…貴方達が助けた所で、もう手遅れよ!クスクス。良いデータも採れたし、そろそろ用済みだわ…廃棄処分ね。あの子。」
「ミァン…いつから貴方は、そんなにお喋りになったのです?私の理性が吹っ飛でしまわないうちに、私達の目の前から姿を消しなさい!でないと…」
「仕方ないわ、ね。また、会いましょう…可愛い、坊や達。」
そう行ったきり、ミァンは何処かともなく消えていった。シタンは深呼吸をし、怒りを何とか静める。気を取り直して、ドアの前に立った。
『フェイ…まさか…そんな、嘘ですよね?』
シュン!そんな音がなったかと思うと、そこには見るも無惨な光景が広がっていた。部屋全体が、血塗れ、人間の物と思われる臓器や死体等が散乱している。余りの光景に、バルトとビリーは、立ちくらみを起こしそうになった。シタンはと言うと、冷静に受け止めフェイの元へ駆け付ける。彼は、診察台に拘束されていた。相当の時間、実験されていたのであろう。フェイの手足は、血に塗れ痛々しい。頭から血が容赦なく流れ、顔は青褪め、その表情をまるで、死人の様だ。バルトとビリーは、言葉を失う。それ程、酷い状態である。シタンは一刻の猶予もないと判断したのか、フェイの手足にある拘束具を刀で破壊し、彼を抱え依然皆で決めておいた脱出場所を目指す。バルトとビリーは、シタンの行き成りの行動に戸惑ったが落ち着きを取り戻し後を追う。脱出場所には案の定、皆が待機していた。シタン達の姿を見て、一時は歓喜の声に沸いたがすぐにそれは消える。フェイの惨い姿を見て、エメラダは泣きじゃくり、リコは俯く。そしてエリィはと言うと、気を失ってしまった。ジェサイアは顔を背けハマーは、フェイの顔を見ようとしない。
「いつまでも、ここに居るわけには行きません。はやく、フェイを医務室へ!!」
シタンの最もな言葉に、皆は反省した。今…一番辛いのは、ここに居る誰でもない…シタンなのだ。皆は急いで、脱出口に向かう。脱出しようとした瞬間、グラーフ・ミァンが立ちはだかった。グラーフとミァンは何も言わず、攻撃を仕掛けてくる。シタンはフェイを抱きながらの戦闘の為、戦線不利であったのは言うまでもない。次第にシタン達は、追い詰められ始めていく。その頃フェイはずっと、夢を見ていた。何処に行っても逃げられない、闇をフェイは俯いて歩いている。どれくらい歩いただろう?永遠に続く闇の中で、一人の女性が現れた。とても、懐かしく優しい笑顔を自分に向けてくれる女性だ。
『何をしているの?…フェイ…』
『?…だ、誰?…かあ…さんなの?』
『そうよ…フェイ。…今、貴方の愛する人や大切な仲間が危ない目に遭っているの…助けなくて良いの?』
『何だって!?で、でも…体が動かないよ…それに今、助けに行ったら逆に…足手まといになってしまう…』
『諦めては、駄目。自分の手で、愛しい人を仲間を守りなさい。自分を信じるのよ、フェイ。』
『…母さん…分かったよ…俺、やってみる。…有難う。』
フェイは会話が終わったと同時に、重い眼を開く。そこには自分を庇い、手を真っ赤に染めながらも、刀を振るうシタンがいた。自分のせいで愛しい人が、傷ついている。フェイにとって、これ以上の苦しみはなかった。フェイはシタンに縋るようにして彼の頬に触れると心配そうに話しかける。
「シタ…ン…」
恋人の顔を見て安心したのか、目から涙が溢れて止まらない。
「フェイ!気がついたのですか!?」
「心配かけて…ごめんなさい。大丈夫…なのか?その傷…ごめん…俺の為に…」
「ああ、これですか?…いいんですよ。貴方さえ、無事なら…」
「シタン…」
驚くべき、彼の生命力にミァンは信じられない思いで見据えていた。あれ程、精神をボロボロになるまで傷つけたのに。
「フェイ。あれ程、実験したのに凄い精神力、ね。だけど、それは無駄な力よ。その証拠に今…貴方の大事な仲間達を、殺してあげる。」
「何だ…って!」
「フフ。貴方の仲間が全員…死んだら。貴方…どうなるかしらね?…通常の精神状態でいられる?それとも、狂う?とても…楽しみだわ。さあ、早速、殺させて頂こうかしら。そうね、最初の標的は、ヒュウガ。貴方よ!」
「そ、そんな事させない!!」
ドンッ!フェイはシタンを突き飛ばし、残された力を振り絞ってその場に立つ。
「…フェイ!?な…何を…?」
「シタン!…ここは…俺が…何とかするから…逃げ…て!!」
「何を言ってるんですか、貴方は!そんな体では、無理です!第一、貴方を置いていける訳ないでしょう!!」
「良いから…逃げて…!」
「…そんな悲しい事、言わないで下さい。…死ぬ時は一緒ですよ、フェイ。」
「シタ…ン」
その時、2人の後方から嘆息が聞こえる。
「ったくよう。そこのお二人さん。俺達の事、忘れてねぇか?後は…俺達に任せてフェイをユグドラに!」
バルトは、傷付いた親友を守る為、思わず叫んでいた。そんな友人の叫びをグラーフは、何にも言わず聞いている。それと対照的にミァンは、冷たい笑みを浮かべ言い放つ。
「随分、優しいお友達を持っているのね、フェイ。今の貴方では、大事な仲間さえも守れないわ。さあ、潔く…諦めたらどう?」
「い…やだ!!この人達は…俺が…俺が、絶対…守って見せる!!」
「本当に、諦めが悪いわね。では、死になさい。良い実験材料になってくれたお礼として、痛みを感じる事無く、殺してあげる。」
「フェイ!!」
「…母なる宇宙よ!我に力を与え給えよ!愚かなる愚者を裁く、千の光を!千の刃を!…千光っ。」
フェイの手から神々しい光が放たれたかと思うと、巨大な爆発が生じ辺り一面に爆風が起こった。暫くして気がつくと、2人の姿は消えていた。…フェイはというと、全て力を使い果たしたのだろう。その場で倒れてしまっていた。慌てて、シタンはフェイの傍に駆け寄り抱き締める。
「フェイ!大丈夫ですか?フェイ!!」
「……。」
「フェイ…!?しっかりなさい!フェイ、フェイー!!」
シタンが何を叫んでも、彼は何の反応も返さない。……悲しみに打ち拉がれた、シタンの声が脱出口一杯に広がっていた。
<言い訳>
ミァンって、どんな人だろう?エレハイムの極悪版?ってな感じで、私なりに書いてみました。・・・何だか、言い訳する気にもならないな・・・シクシク