別 れ
 
                  

『ユグドラシルは我々が完全に包囲した。ウォン・フェイフォン、投降せよ。投降せぬ時は、攻撃を開始する。』
フェイは、何処からともなく響く声に意識を集中させていた。先程から、繰り返される声。…懐かしく、とても悲しい声。夜のせいか、余計悲しく聞こえてしまう。
『…何故、俺を?』
当然の質問と言えば、当然である。
『余計な事は、考えない方がいい。私は、悪い事に…気が短いんでな。』
答は、素っ気無く返ってきた。フェイの中で、緊張が走る。
『こいつ等、本気で?…本気で、ユグドラシルを!?まさか…で、でも!…何とかしなきゃ!何とか…』
そんな想いがフェイの中で、去来する。ここには愛しい先生や、大切な親友のバルトがいる。それに、大切な仲間も…フェイはこれ以上、大切な人や罪の無い人々が傷つき悲しむ姿を見るのが絶えられなくなっていた。皆を失うくらいなら、投降した方がいいとフェイは決心するのに時間がかからなかった。
『…分った。必ず投降するから…もう、少しだけ待ってくれ!…1時間、いや30分でいいから!頼む!!』
必死の、懇願であった。相手は、それっきり黙ってしまった。声の主が分らない為、フェイはひたすら例の声の答を待っていた。
『…1時間だけ、待とう。それ以上は、無理だ。時間になったら、ユグドラシルの甲板に待機していろ。変な気を、起こさぬ事だ。』
意外な答にフェイは、安堵の表情を浮かばせた。急いで、フェイは自分の部屋を後にする。そして向かった所は言うまでもなく、シタンの部屋だった。
「先生…起きてる?俺…だけど…」
そう言って、フェイはシタンの部屋に入る。シタンは本を読み終わったらしく、すぐにフェイの声に気付いた。本を机に置き、フェイに優しい笑みを浮かばせ問いかける。
「フェイ、寝つけませんか?珍しいですね、こんな時間に…」
「ごめん…ちょっと、逢いたくなったんだ…迷惑だった?」
「いえ、迷惑ではありませんよ。」
シタンはフェイを、ベッドに座らせた。シタンも、すぐ隣に座りフェイを見つめる。そしてフェイの唇に、キスを落す。行き成りの出来事に、フェイは困惑してしまう。長々と交される、キス。舌を入れ、フェイを苛めてみるシタン。
「はぁん…先生…」
期待通りの表情で、フェイは、喘ぎ声を発する。その様子をシタンは満足そう(?)に、見つめた。
「くすくす、本当に可愛いですね。フェイは…」
「先生…愛してる…ずっと…」
その言葉はフェイの本心であった。
「私も…愛しています…先生ではなく、シタンと呼んでください…フェイ。」
シタンの目は、本気だ。守護天使としてのヒュウガ・リクドウではなく、フェイを愛するシタン・ウヅキとして彼に名前で呼んで欲しい。シタンの真剣な表情を見て、フェイは冗談ではないと確信し、彼の顔を見て照れ臭そうに名前を呼ぶ。
「うん。愛してる、シタン…」
フェイが恥ずかしそうに囁くとシタンは、満面の笑みを浮かべた。この人が表情をここまで、出す事は滅多とない。それ程、彼とって嬉しい事だったらしい。数分して安心したのか、シタンは眠りにつく。彼の寝顔を見ながらフェイは、現実に引き戻される。
「シタン…さようなら…ごめんなさい…今の俺は、こうする事しかシタンを守れないんだ…本当に、ごめんなさい。」
最後の言葉をシタンに残す…伝わったか、伝わっていないかは謎でだったが。…気付くとフェイの目から、涙が溢れ声が擦れていた。離れるのが苦しくて、悲しくて…。フェイは泣きながら、髪留めを外した。拘束具を失った髪は、開放され美しく靡いている。自分にとって一番大事なペンダントを外し、シタンに託した。それ等をそっと彼の耳元に置き、ユグドラシルの甲板に出向く。1時間きっちりになると、グラーフが姿を現した。
「グラーフ!?…そうか…相手はソラリス…だな…?カレルレンとミァンの陰謀か…」
「! 何故、うぬがカレルレンの名を知っている?今のお前は、知らぬはず。それに、何故…ミァンが関わっていると思う?」
「…夢で俺はラカンと、呼ばれていた。その時に、その名を聞いたんだ。…顔も微かに、覚えている。何故、そう思ったのかは…俺にも分からない。」
「むう…夢か。ふむ。今はそんな事は、どうでも良い事。さあフェイ、御喋りの時間は終わりだ。ソラリスに来てもらおう!」
「…待ってくれ!グラーフ!!…頼みがある。」
「何?…頼み?…珍しい事もあるものよのぅ。うぬがわしに頼みとは…」
「……そうだな…これが最初で最後の、頼みだ…」
「最初で最後か…よかろう。言ってみよ。」
「……ユグドラシルにいる皆に俺の記憶を消してほしい。」
「可笑しな事を言う。ここにいるものは、うぬの仲間であろう?」
「ああ。だからさ、グラーフ。あんたには分らないだろう?仲間を想う俺の気持ちが…」
「……良かろう…ここにいるお前の仲間の、記憶を消すのだな?後悔しても、知らぬぞ。」
「…やってくれ。」
その時だった。何者かが、会話に割り込んでくる。
「待ちなさい!フェイ!!どう言う事です?説明なさい!」
意外な人物で、フェイは目を丸くする。さっきまで、寝ていた人物が何故こんな所に来たんだろう?フェイは、突然の出来事で戸惑いを隠せなかった。想わず、シタンから顔を背けた。…グラーフは、冷静な目でシタンを見つめている。
「シタン!?…なんで…?まさか…気付いてたのか!?…」
シタンに背を向けた間々、驚きの声を挙げる。
「…当たり前でしょう?…あんな事を言われて…平気で入られると思ったのですか?!」
「シタンには、かなわないな…でも…ごめん…さよならだよ…もう良いから…グラーフ…早く!頼む…」
フェイは、シタンの目を見ようとしなかった。シタンの顔を見ると、決心が鈍るから…愛しい人の顔を見ると行けなくなるから…
「私の目を見て、話しなさい!フェイ!!」
どんなに叫んでもフェイは、目を見ようとしなかった。耐えられなくなったフェイは、グラーフに叫んだ。「早く、記憶を消してくれ」っと。
「…うむ。」
「では、いくぞ。」
「ああ。シタン、さようなら…愛してる…」
フェイは、グラーフにつれられソラリスへと向う。そこに、何が待っているのかも知らずに…

 

<言い訳>


初めて書いた小説が、投降ものって!?気は確か?私!!己の理性を疑りたくなってしまう…もっと、修行しよう。
                                    

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