後 悔
フェイはあの直後から、意識を失ってしまった。シタン達は急いでフェイを、ユグドラシルの医務室に収容する。フェイの酷い傷を目の当りにしたシグルドはシタンを、ガンルームに呼び出し事の説明を問いただす。
「ヒュウガ!どう言う事だ!フェイ君がいなくなったかと思ったら、今度はこの傷だ!お前は一体、何をしていた!」
「…すいません…私がついていながらフェイを…守りきれませんでした…」
「とにかく、説明してもらおうか!」
「分かりました。…今回の事は全て、カレルレンとミァンの陰謀です。…ミァンの話しによると何らかの方法で、フェイに連絡を取り脅迫した様です。そしてフェイは我々に危険が及ばない様に、記憶を消したのです。実際に消したのは、グラーフですが…」
「ちょっと、待ってくれ!我々からフェイ君の記憶を消したのは、彼の意志だったと言うのか?!」
「ええ、そうです…しかし私達の事を思っていたからこそ、彼は我々から記憶を消したんですよ…ソラリスに連れて行かれた後フェイは…ミァンに『力について実験』を強要されたようです。その実験は最初、苦痛だけの物だったらしいです。…そしてミァンの実験は、エスカレートしていったのでしょう。彼女の事ですから、ね。…所で、シグルド貴方は精神接合実験を知っていますか?」
「いや、知らんな…初めて聞いた。何なんだ?それは?」
「昔ミァンに聞いた話なのですが、精神接合実験とは“アニマの器”の同調率が優秀な人を集め、フェイと精神を接合させる事を目的とする実験の事です。…ソラリスに潜入し、フェイを救出した時凄まじい光景が広がっていました…恐らく相当の時間、実験されていたのでしょう…」
「フェイ君、何て事だ…ヒュウガ、大体分かった。それにしても…ミァンは何故フェイ君を実験したんだ?ましてや彼女が個人で、実験をするとは…怪しいな。」
「ええ。恐らくフェイの内在する力に、惹かれたのでしょう。」
「フェイ君の内在する…力?どう言う事だ?」
「今は、言えません…いずれ時が来れば…話します。」
「そうか…呼び出して、すまなかった。…お前はフェイ君の傍に、いてやれ…今一番辛いのはお前じゃない、彼だ…」
「分かっています。」
「…ヒュウガ、私とてフェイ君が大事なんだ。若の次にな。・…もう、彼を離すなよ。」
「ええ、言われなくても、離しませんよ。…シグルド、失礼します。」
シタンはシグルドに会釈を軽くし、一目散にフェイのいる医務室へ向かう。医務室に入るとそこには、部分部分に包帯で身を包んだフェイが寝ていた。傷が癒えたとは言ってもまだ、予断を許さない。フェイの寝顔を見て、深く溜息をつく。
「フェイ…貴方が受けた心の傷…私が必ず、癒して見せます…必ず…」
そう言った物の…今となってはフェイが目を覚ますのを、待つことしかできない。シタンにとって、それは辛く悲しい事だった。フェイの寝顔を見る度に胸が、張り裂けそうになるのを感じていた。ソラリス守護天使として活動していた頃は、温厚な中にも冷静さを持ち合わせていた。本当の優しさとは、違う物かもしれない。あの頃は、ただ天帝の命令に従いエレメンツとして任務を、遂行してきただけの言わば半分人形の様な存在だった。しかし3年前フェイとであった事で、本当の優しさの意味を知った。彼と出会わなかったなら、自分は人形の間々だっただろう。この3年間、本当に幸せだったな、っと暫しシタンは回想に、ふける。
『こんばんは!先生!今日ユイさんと、ミドリいないの?』
『おや、フェイ。こんな夜遅くに良く、来てくれましたね。今日は2人とも隣町まで買い出しに行って、帰ってこないんです。』
『…そうなの?今日は先生…一人だけ?寂しくない?』
『仕方ありませんよ。…寂しいと言ったらフェイ、貴方は呱々に居てくれるんですか?』
『今日?…俺は、別に良いよ!リー爺さん、出かけてるし。』
『では、決まりですね。今日はもう遅いです、フェイお腹空いていませんか?』
『…ちょっと、待って!…今日…先生の、手料理か?』
恐る恐るフェイは、シタンに問う。
『そうですよ?…何か、不安な事でも?』
『そ、そんな事ある訳ないじゃないか!先生の手料理、楽しみだな!ハハハハ!』
明らかにその態度は、不自然だった。シタンは苦笑いをし、台所にあった自作の料理「つちのこのポワレ魚煮込み」をフェイに振舞う。魚の香が些か、きつい。フェイは覚悟を決め、スプーンを取り一口食べた。
『んっ?お、美味しい!今日は珍しく、美味しいよ!』
『…珍しくは、余計です。ユイにレシピを教えてもらったんですよ、貴方の為に。』
『え…?(どういう…意味…?)』
フェイは内心、不思議な感情に押されながらも、シタンとの食事が済ませると、ポンポコ風呂を2人で入った。そして、寝る時間になる。
『ねえ、先生…今日一緒に、寝ても良い?』
『勿論…良いですよ、フェイ。今日は一緒のベッドで、寝ましょうか…』
『本当!?い、良いの!?やったぁ!有難う!!』
『別にそんなに喜ぶ事では、無いでしょう。そんなに、嬉しいんですか?』
『……。』
『…フェイ?』
『俺…ラハンに来た時からずっと…好きな人がいるんだ。その人はいつも俺の傍にいてくれて、支えてくて…傍にいるだけで、安心させてくれて……でもねその人には、奥さんも居て子供もいるんだ。でも俺…気持ち誤魔化せなくて…どうしたら良いのか…分からないんだ。先生…』
『フェイ…私は…』
『良いんだ、何も言わないで!…分かってるから!…今日は先生の事を、忘れようと想って…来た…ん!』
次の言葉を発しようとした時、シタンはフェイを抱きしめ唇を奪われる。突然の出来事に、フェイはシタンから離れた。
『せ、先生!?止めてくれ!何でこんな事…するんだよ!…先生の事…忘れなくなるじゃないか…先生、ずるいよ!!』
『…遊びでこんな事は、しませんよ。私も貴方が、好きです…初めて見た時から、ずっと惹かれていました。気が付いたら、貴方を愛していた…』
『せん…せい…』
フェイは予想もしなかった一言に、涙が出てきてしまう。その様子を見るに見かねたシタンは、再び抱き締めた。そしてシタンはベッドに、フェイを連れて行く。これから起こる出来事を想像できていないフェイは、困惑する。
『…先生?どうしたの?もう、寝るのか?』
何も知らないフェイは、シタンにさり気無く聞いてみる。
『まだ寝かせませんよ?フェイ。やっとお互い気持ちが、通じ合ったんです。こんな良い日に、寝かせるわけ無いでしょう?』
『そうなんだぁ…ねえ、先生…ずっと俺の傍に居てくれる?ユイさんやミドリがいても、居てくれる?』
『…ユイやミドリよりも…貴方が大事ですよ、フェイ。ずっと貴方の傍にいます。』
『有難う…嬉しい…俺、先生さえいてくれたら何もいらない…先生……俺を先生だけの物にしてよ…』
『フェイ…!』
シタンはフェイをベッドに寝かせ、服を脱がせ始めた。フェイはシタンの指が体に触れるたび、緊張が走るのを感じる。そしてその夜…二人は初めて、お互いを求め合い愛し合った。愛しく、切ない想いを秘めていたのは、シタンだけではなかった。フェイとて、同じだったのだ。その事を確認するかの如く、二人は愛し合う。3年前の出来事を回想していたシタンの目に、薄っすらと涙が光る。まさかこんなにも、人間らしく涙を流すとは。ずっと、泣かなかったのに。どんなに、悲しくても。幼少の頃、捨てたはずなのに。こんな、涙など。どうして、流れるのか。それは、あの子を守れなかったから。
『あの時、私がフェイを守っていればこんな事には!…あの時、誓ったのに!ずっと、傍に居ると誓ったのに…!』
2人で、約束をしたのに。
『すいません。すいません。…フェイ。』
自責の念だけが、シタンの心を支配した。シタンはフェイの寝顔を、見てみる。穏やかな表情を、していた。あの時と同じ寝顔…純粋無垢で…あどけない寝顔…シタンの心が少しだけ、救われる想いがした。様々な複雑な想いを胸に秘めながら、フェイが目を覚ますその日まで看病をする事を誓う。
<言い訳>
ぎゃ〜!何だ、この粗末な文章は!自己嫌悪中…ああ。文書力無いよう。(泣)