傷…そして(03)

Rushifa 作

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「い、いきなり何なんだよ。俺、別に悪い事してねぇじゃんか!!」

目を丸くしながら叫ぶ青年。…みかけは大人風なのに言葉遣い、顔つき
少々、幼い。あいつに似ている…。何なんだと、こっちがききたい。
この餓鬼は一体、何なんだ。

「そうですよ、三蔵…。いきなり銃を向けることないでしょう。」
「…………」

睨み目をむけるがそれをもろともせず、ただ微笑んでいる奴。
こいつを怒らせるわけにいかねぇか。

――チっ…。

それにしても、こいつを見てると腹が立つ。
あいつに余りにも似すぎていて。
しかもなんだ。犬の名が俺と一緒だと?!
バカにしてんのか。

「そうそう。あのバカ猿って決まったわけじゃねぇんだし…」

冷汗かきながら悟空と名乗った青年が抱く犬をつっつく悟浄。
普段、女性しか相手にしない奴が犬を撫でている。
なんか不自然きわまりない。
釈然としねぇ…な。

「あの…今日、宿まだみつからないなら…俺の家、きてよ!」
「良いんですか?…悟空、さん…」

さん付けして呼んだ事がないせいか、上手く顔をみれない。

『僕らしくありませんねぇ…』

「…悟空でいいよ、何か変な気分。お兄さん達とは始めてあったのに前から知ってる気がする。」

俯きながら犬に頬擦りし涙うかべている。
あいつと同じ音声…金鈷…おまけに駄目押しの涙。

――本当にこいつは…なんだ?

人が訝しがっているというのに、話しをすすめる八戒。
イライラしてくる。…俺は何をこんなにいらついている?

「とりあえず…自己紹介、しますね。こちらの金髪さんは三蔵、こっちの格好いいお兄さんは悟浄。
そして僕は八戒。宜しくお願いします、悟空。」
「…き、金髪さん…、三蔵っていうのか?わ〜!この子と同じだ!!」

小さな子供みたいに犬を抱き上げ喜びまわす悟空。
性格まで幼いのか、こいつは。
何から何まであいつと類似する青年。
もう、怒る気もしねぇ…。
溜息をつき案内されるがまま、足を進める。

「なんか、さ…三蔵さんって太陽みてぇ!」
「…俺のことは三蔵でいい。」

あいつと同じ事、いってやがる…。
もう、やめろ。俺は忘れた。悟空の事を。
忘れたはずだ。この1年間で。
あいつへの想いを封じたんだよ!

「それじゃ、三蔵!…腹へったからどっか食べにいこ!!」
「…何いってやがる。」

……腹………減ったか。随分、懐かしい響きだな。

「三蔵、僕と悟浄はこれから居酒屋さんに行ってきますんで、悟空と一緒に食事してきてください。」
「あ?!勝手にきめてんじゃ…」
「たまには可愛い子とデートしてみ?若返るかもよ〜?」

軽い口調につけくわえ、肩を抱き合いながらいわれても説得力ねぇ。
ま、こいつが本当に悟空か見定める機会ができたというわけだ。
好都合と言われればそうかもしれんな。

「俺とじゃ…嫌?さんぞー…。」

不意に腕を掴まれ目がぶつかり合う。

「初対面の奴にお前は皆、そう媚びるのか?」
「違うよ…ただ、…懐かしくて…さんぞーを見ると…幸せな気分になるから…だから…。」

犬を強く抱き締め大きな瞳が揺れている。
こいつ…、悟空なのか?
そんなはずはない。
あいつは一年前、死んだ。
…俺を遺して逝った。

「とにかく、食堂でもどこでもつれてけ。」
「う、うん!!」

心底、嬉しそうに微笑み俺の手を引っ張り走り出す。
落ち付きのないところまで似てやがる。

「ここの中華料理屋さん、すっげー美味いんだ!!あれ?菩薩ババアだー!!」

あ?誰の事いってやがる。悟空の目線と合わせると、意味深な笑みを浮かべる
奴…観世音菩薩と呼ばれる神がそこには立っていた。

「よう、金蝉…。悟空との再会、楽しんでるか?」

口元だけで微笑を作り近付いてくる。

「何、いってやがる。悟空は死んだ。」
「ああ、見た目はな。」

目を吊り上げ隣人を睨み上げる。
何をいってやがるんだ。こいつは。

「……。」
「お前「抗魂の業」というものを知っているか?」
「しらん。」

こいつとはなすと面白くねぇのか、そっけなく答えちまう。
何もかも知っている、そういった顔。
頭にくんだよ。そーいう奴は。

「単刀直入にいやぁ…俺がその術を使ってあいつを助け、生を長らえた。」
「……あ?」

すると何か?1年前、悟空は死なず…ただ、姿を消しただけ。
そーいいてぇのか。こいつは。

「お前らの記憶と引き換えに、生かしてやった。」
「余計なことすんな…。」

本当は嬉しいはずなのに、素直によろこべねぇ。
神の力がねぇと悟空を助ける事が出来なかった。
結局はそういう事じゃねぇか。
…ざけんな。

「なー、菩薩ババアとさんぞーって知り合い?」

目をぱちくりしながら拗ねる悟空に目を合わせることなく彼等とは全くの逆方向を歩き出す。
まるで遠ざけるかのように。

 
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