傷…そして(02)

Rushifa 作

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(三蔵side)


中途半端な別れを向え数日。
旅中、立ち寄った宿の一室にて煙草を吹かす、雨音に苛つきながら。

「…チッ…」

もう、何度、舌打しただろう。
いつも隣で笑い御飯を強請るあいつはもういない。
清々する…。現に煩わしく思っていた。
そのはずだったのに…。

――俺の心にいきなり割りこんできやがった…。

壁にやつあたりしながら今は亡き人物の名を呼ぶ。

――悟空…。

五月蝿いだけのただの子供だと思っていたのに。
いつからだろう。あいつが泣くと苛立ち…あいつの傍で寝ると
落ち付くようになったのは。

――…らしくねぇ…な。やめた。あんな猿の事、考えんのは。

新しい煙草を吹かし空を見上げる。
静かな雨音がみみにつく。

――雨…か。

恐らく今の俺を見たらあいつは…悲しむだろう。
俺自身、驚いた。こんなにも悟空を欲していたなんて。

――馬鹿猿が…。

それにしても、腹が立つ。強くなるとほざいておきながら…。
結果がこれか。ふざけるのも大概にしやがれ。

――守ってやりたかった…。

あいつが離れる事を1番、恐れていたのは他でもないこの俺。

…もう、会えない…。
それくらい、分かっているはずだ。
なのに、なんだ。この渇きは。

涙?…勝手にでてきやがる…。
俺は悲しんでいるのか?

――冗談じゃねぇ。

俺は生きなければならねぇんだ。
悟空一人を失ったくらいでへこたれている暇は…ない。

ベッドに横になる度、あいつの顔が思い起こされる。
いつも騒ぎ立てるトラブルメーカー。
嘘みたいに静かな空間に違和感を感じつつも眼を閉じた。


(悟浄&八戒side)


「いつまで、そう責めてるつもりだ?」
「・・・・え?」

思いもよらぬ言葉をかけられ、八戒が失笑するのも気にかけず悟浄は続ける。

「んなことで、悩むなよ。ばーか。」
「…悟浄…でも…」

「お前は頑張った。それで駄目だったんだから、仕方ねぇよ。…だからお前は悪くねぇって。」
「……ごじょ…う…」

己を責めつづけていたのか体の震えがまだ止まらない。悟浄の温もりが
体を包みこむ。

…暖かい…。

悟空は太陽を得ても、この温もりを知らずに逝った。
愛される者が与えてくれる…この温もりを。

――そう…思うと涙が止まらなくて…辛いんです…。悟浄…。

仲間の1人が死んだ。
それぞれに傷を確実に刻んで。
それでも続く長い長い旅路。
そう、もうひき返せない…。
悟空を忘れるわけではないけど…
前に進む。それが俺達のすべきこと。


――1年後


「さんぞうっ!さんぞーーー!!」
「あぁあ!?」

3人揃って、訝しい表情を浮かべつつ後ろを振り返る。

「さんぞう〜〜?」

――ったく…うっせぇな…。

苛立ちがつのり“何度も呼ぶな”と怒鳴ろうとした瞬間、背後から小犬が現れる。

――?

「さんぞう!!捜したんだぞ!?」

子犬を抱き抱えながら心底、嬉しそうに笑う青年。
太陽光を浴びながら額に煌く物を見て愕然とした。
何故ならこの世に、存在するはずのない物が輝いていたのだから。

――!?

「さんぞー!くすぐったいてばー!」

舌打するのも忘れ唖然とする三蔵達を尻目に、その青年は金色の瞳を輝かせ小犬に微笑む。

「……………おい、あれって…」
「……金鈷…ですね。」

――っざけんな…。

「さてっと、帰ろうか!って…うわ!」

次の瞬間、三蔵とぶつかり見事、互いに尻餅をつく。

「いってぇ…何しやがる!!殺されてーか!!」
「ご、ごめんなさい!悪気はなかったんだ!」

こいつ、無垢な瞳で見やがる。…厭味か。

「……チッ……お前の名は?」
「……え?あ…悟空。」
「………殺す。」

きょとんとしている青年に銃口をむけた。

 

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