Dead Heart(3)
あの忌わしい監禁から、4日が経過しようとしていた。24時間、男達の相手をさせられ、散々泣いて暴れた…あの生き地獄。思い出すだけでも反吐が出る。体を自分で抱き締め、鉄壁に縋ってみた。…分厚い壁は外部の音を掻き消し…外の情景を遮断している。…外部の情報が全くつかめない。依然来た時は活気に溢れ華やかなイメージを抱いたが、今はその逆。親友の故郷アヴェが、色褪せて見える。俺が、牢獄にいるだからだろうか。部屋に差し込む数かな光…鬱陶しい。外光を浴びても人の温もりに触れても、何とも思わない。何とも、感じない。それだけ、自分が汚れきったと言う事か。…徐々に心が、消えて行く。最早、シタンを愛してるのかさえ疑わしい。でも…心の奥底で彼に救いを、求めているのも事実。彼の笑顔が、俺の心から離れない。消えてよ、消えてくれっ!!そう、願っても溢れんばかりの想い。…嘘が…つけない。御呪いみたいに、念じてみても、彼への想いが溢れるばかり。俺は…結局、あの人を愛してる。だけど…俺はもう、シャーカーンに堕ちてしまった。アヴェに来てからと言うもの…犯されてばかり。怖い…本当は体躯ではなく、心が汚れてるんじゃないかと。
…早くシタン、俺を殺しに来て…早く…
シャーカーンとロゼは、フェイを外界から遠ざけ只管、体を求めた。女性と交わるのではなく、俺と。何故こんな事、するのか…2人の目的が分からない。顔を見るなり犯す我主と、自分を落し入れた張本人ロゼ。奴等はアヴェの官僚すら、知らない秘密の牢獄に俺を閉じ込めた。己の欲を満たす為だけに。罪無き者が投獄され、罪人が貪欲に生きる。道理に反する実態。本来、牢というのは罪を償い心改める者に与えられる部屋のはず。…でも、呱々は違う。只、主になされるが侭、犯され続ける…その為に用意された部屋。その事実を反映するかのように、種類豊富な道具の数々と監視者達。彼等の業務は本来、見回りにも関わらず彼等はフェイが欲情するように仕向ける。例えば、体調が悪い時。監視人は艶やかな液体を、彼の体に塗り催淫を誘ったりした。体が主を求めるように。後々あの液は性感帯を、濡らす潤滑油だと聞かされた。俺にとって、そんなのはどうでも良いこと。もう、疲れた。刃向かう事も、人を信じる事も。今は只、快楽に身を任せたい。薄情なものだ。この牢に入った時は泣いて、嫌がっていたのに…今では快楽を欲してる。少しずつ心が…闇に喰われてく。けれど…一人でいるよりかは…ずっと良い。孤独な時ほど、嫌な事を思い出す。忘れたい…全て…忘れたい…フェイはそっと、目を瞑り主とロゼがここに来るのを待つ。靴の音が響いた。…あの2人だ。主が牢の前に立つが、シャーカーンは俺を見つめるだけ。…何もしてこない。何時もと違う、彼に上目遣いをし、警戒してみる。俺の僅かな抵抗。それを見抜いていたのか、主はロゼに命じ“牢から出て大広間に来い”という。主に問うても、同じ答え。華やかな場所への指定。まさか。依然のオークションみたいに又、買主が変わるのだろうか。それとも…また、何か悪い事でも起こるのか。何か…嫌な予感がする。
「フェイ、お前はバルトロメイと知り合いだったな。しかも…親友に近い間柄というではないか…誠か?」
「…はい…」
「…それを聞いて安心した。これで、私の計画に一歩、近づいたと言う訳だ。ロゼ、早速だが頼みましたぞ。」
「かしこまりました。」
「な、何を…」
「怖がる事はない。お前は暗殺者になる。それだけだ。」
「暗殺…って…まさか…」
「流石に、勘が鋭いな。そうだ、バルトロメイを消す。私が正当なアヴェ国王となる為にな。その為にはフェイ…お前に奴を消してもらわねばならん。何せバルトロメイが、信頼を寄せる唯一の友人なのだからな。」
「なっ…」
(バルトを殺す?こんな俺を、マブダチだって…親友だって、いってくれた…あいつを!?嫌だよ、絶対に嫌だっ!)
不意にロゼを肘で突き逃亡をはかるフェイだったが、近くの警備兵に銃剣で足を貫かれた。警備兵は彼を刺したまま、床に根深く突き刺す。
「う…ああ…」
「馬鹿が。ここは、ファティマ城内。私に逆らえる訳なかろう。のう?ロゼ。」
「その通りです。それなのに、この犬ときたら…立場を弁えろ!!」
シャーカーンの直ぐ真横に立っていたロゼはフェイの頬を打ち、手首を縛ると両足を捻りながら踏んできた。
「うわああぁっーー!」
華やかな絨毯が、血に染まる…足の傷よりも、別の何かが痛い。空っぽで、何にも感じなくなっていた己の心。痛がってる。心はまだ、生きてるって…叫んでる…助けて…怖いよ…
「クク。本当に、お前は良い顔するよな。痛みに耐える時も、善がる時も。だがシャーカーン様に、楯突くのは頂けないなぁ?フェイ…」
踏みつけている足に力を更に加え、まるで動物を調教するように諭す。
「ああー!あああぁ!!」
「まあまあ…ロゼ殿。それくらいで許してやったら、いかがかな?クク。フェイ…お前は本当の意味で我らの道具なるのだ…感情を持ちあわせない、戦闘兵器としてな。」
「い…やだ…」
「強情だな、お前は…前に言ったろう?お前の運命は俺達が握ると。さあ、いくぞ。」
嫌がる彼に手錠をはめ、ロゼはゲブラー専用の訓練室へと連れ込む。そこには、見た事もないメカが揃えられている。彼はフェイを囚人用の手錠と、壁を鎖で接続し固定した。一体、何が始まるというのか。ロゼは室内にある機器に近寄り、洗脳プログラムを入力し始める。彼は命令を受信する際に必要な媒介を、フェイの瞳に被せた。眼から伝わる情報をシャットアウトし只管、命令を遂行し続ける。その為の物質であり、媒介でもある。当然の事ながら、己の意志など存在しない。ただの道具。だが、フェイはそう簡単には屈しなかった。シタンやバルトを想う気持ちがある限り…足掻く。例えどんなに蔑まれても、嫌われても…彼等を失うのだけは嫌だ。しかし囚われの身である彼にとって、己を保つには激痛を伴った。媒介に刃向おうとする度、頭が信じられないほど痛む。それと共に、口ずさまれる悲痛な叫び声。ロゼは、高笑いしながらフェイを欲望に満ちた瞳で見つめる。
「さあ、媒介を受け入れろ!もう、後には引けないぜ!!」
「ば、馬鹿なこと…いうな!…あ、あう…ああああ!!」
瞳から伝わる、電流。声にならない激痛が、彼を蝕む。除々に、心が侵食され始めるフェイ。…恋人と親友…仲間達の顔が、急激に薄れていく。激痛に悶きながらも電圧は上がり続け、一向に止む気配がない。ロゼはフェイの苦しむに歪む顔に、笑みを浮かべる。もっと、苦しませたい。もっと、もっと!!そんな彼の欲求は、電圧へと繁栄されていく。人体に有害レベルの電流をロゼは、流し続けフェイを追いつめる。その都度、彼は悲鳴を上げ続け仰け反った。
「うわぁあああああ!あああああ!!!!!」
激痛が脳裏を占め、何も考えられない。…自分の中の全てが…溶けて消えていく。
フェイがユグドラシルから、消えて3ヶ月。バルト達は彼の捜索を進めがらも、ゲートの破壊に勤んでいた。彼は直ぐにでも旅をやめフェイを捜したいと望んだが、それは個人的な意見にすぎない。本当は皆とて、同じ気持ちに決まってる。特にフェイと一番、傍にいたシタンなら尚更。近頃心なしか食欲がなく、何時もの元気がない。やはり、彼の事が心配なのだろう。本当はすぐにでも、見つけ出して抱き締めたい筈。だがフェイがいなくなった原因が分からない以上、闇雲に捜しても暗中模索するようなもの。それなら彼の捜索を続けながら、自分達のなすべき事をしよう。フェイがいつ戻ってきても…良いように。だから、あえて…旅を続ける。きっと彼が同じ立場に立たされたとしても、同じ事をしてたと思うから。
ソラリスに向かう為に、破壊するゲートは3つ。今現在、1つ目のゲートを壊した。残りあと2つという所で。突如アヴェ近郊の街が、滅びるというショッキングな事件が発生した。つい先程まで繁栄していた町が、数秒のうちに荒廃し荒地とかす。異常な迄の殺戮。その場所に住んでいた住民の大半は殺され…家を失った。凄まじい破壊力を持った悪魔。事件発生当初、複数犯という考えが強かったが、調査を進めるにつれ1人だけの単独犯だという事が判明した。数少ない生き残りの証言を集計した結果、何時も同じ答えは同じ。全身に黒のバトルスーツとコートを纏い、サングラスを身に付けてる男性。彼は腕に金の腕輪をしたしており、年齢は10代後半らしいとのこと。手がかりは、これだけ。犯人が捕まっていない以上…いつアヴェやニサンがいつ狙われるか分からない。バルトは危機感を募らせるが、次に狙われる場所が不明のまま。そんな彼を嘲るように、とある一室にて1人の老人が部下に命令を下した。
「今度の標的は「ニサン」だよ…さあ、行ってきておくれ…私の可愛い玩具。」
命令を受けた、その僕は軽く頷く。今夜も、漆黒の悪魔が舞う。滅亡と言う名の、粛清を行う為に。