1996年9月後半 1996.9.15〜9.31
1 温泉旅日記 徳間文庫 著者は、ドイツ文学者の池内紀さんです。20年来の 温泉巡りのうち50湯をエッセイで紹介しています。そして旅先での古本屋め ぐりのこと、売れ残りのその地方で刊行された本を買い求める話など、湯と本 づくしの一冊です。それぞれの温泉の簡単に経路も紹介されていてガイドにも なりそうです。原本は’88に同社から刊行。
2 浪漫疾風録 講談社文庫 著者はハードボイルド作家生島治郎。大学でたての 著者が早川書店に入社し、田村隆一編集長のもと「EQQM」の創刊から退社 まで、まわりの人物すべて実名で登場する私小説です。ミステリー好き、本好 きには答えられない内容の本です。後の文豪たちが、出だしの新人で山のよう に沢山出てきます。秀逸は飲みまくりで借金取りにおわれっぱなしの田村隆一。 原本は’93年同社から刊行。
それと、「古本ぶんこやさん」届きました!驚愕、流石・・・。その志やよし! ありがとうございました、クレインさん。
文庫といえば、文庫やさんの『文庫三昧』(前略手紙特集号1996.7)、それにしても面 白いエッセイです。会長の谷口氏はまったくの古書業界の素人で、客として買い漁った 11万冊の文庫本が開店の資本となったそうですが、パチンコ店の住み込みなどをしなが ら生活費を切りつめ、本に埋もれながら生活したという話しは凄いの一言につきます。 1冊百円としても1千万円以上つぎ込んでいることになりますが、どこか希望を感じる物 語です。
再び話しは変わりますが、江口書店翁の買い取りの話。言葉を弄せず、どこか信頼で きる様子が伝わってくるように思いました。私が本を売却した唯一の古書店はF書店 でしたが、何軒かまわった中で買い値も高かったこともさることながら、余計なこと は何も言わず、本の見るところをきちんと見て、きっちりと評価してくれたので、売る ことにしたのでした。 散人
〇東京年中行事(上・下)若月紫蘭編
〇増訂 武江年表 金子光晴校訂
〇明治東京逸聞史 森銑三著
まどの東京物も充実。最近は、魯庵の書物随筆も入りました。価格は高めですが古書店 には、必ずある常備書の一つ。題名に引かれて買うというのも楽しい作業です。
>「追いつめる」の生島治郎氏、実生活「片翼だけの・・・」シリーズ素敵でした。この関係、なぜか小生、まともに比較してしまうのが金子光晴氏です。「風流尸解記」のモデルでもある30歳年下の少女との30年にも渡る、日陰の生活は感心できません。「金子光晴のラブレター」江森陽弘、ペ ップ出版では当女性からの聞き書きを元に、江森氏が本人に成りきり女性言葉で思い出をつ づりますが、男女の関係を女性言葉で男性が語るこの手法では、どうもいけません。生の言 葉で読んでみたい本でした。
追記)文庫と言えば、「創元推理文庫」も、小生お気に入りなのです。背カバーに テーマごとのマークが入っていて、独特の雰囲気と品ぞろえで。ところが、 装丁が変わってシンプルになって以来、どんどん書店の棚から消えているよ うな感じが・・。特に小生お気に入りの「幻想と怪奇」ジャンルが激減。。 絶版とか品切れ扱いで減らしてくのでしょうか?。誰か、情報ありますか?
◯22日、台風がほぼ直撃。終日雨。風つよし。鳶魚翁の「中公文庫版1巻」を読む。 捕り物の話である。最近時代物の本を読むときは「官職要解 講談社学術文庫」を 座右に置くことが多い。侍の名前から、公家社会の官位を知るためである。たとえば、 浅野内匠頭の官職名「内匠頭」は、宮中の内装・装身具の整備を職掌する「内匠寮」 のチーフで、官位は従五位下。こんなことをして読んでいるうちに夕方。いつのまに か台風は去った後である。聞けば東京の降水量は、1日260ミリと観測史上3位の 記録であったとの由。
◯23日は神田。開店・閉店半々である。古書センターの前で店子の高山書店がバーゲ ン中、岩波文庫「シュルレアリスム宣言」創元推理文庫「魔術ミステリー選」を2冊 で200円。日本特価書籍で「魯庵随筆 読書放浪」、東京堂で「雑誌東京人 風俗 画報特集」を買う。魯庵は「書物随筆上・下 改造文庫」を所持しており、これで彼 の書物ものはほぼ読破。また、風俗画報は来年「CD−ROM10巻 ゆまに書房」 で出版されるとのこと。しかし価格は18万。ほしいがなぁぁぁ。
まず3月は26冊購入。J・J・ポ−ヴェ−ル刊「モルニエ画集」が最大の収穫。そ の他鹿島茂「子供より古書が大事と思いたい」、マイケル・ペイジ「古書殺人事件」、 ジョン・タニング「死の蔵書」、村上博美「幻想書誌学序説」を面白く読みました。
4月は42冊購入。ピエール・ルイス「ポーゾール王の冒険」ほか「世界大ロマン全 集」より十数冊、洋酒マメ天国より澁澤龍彦「ヌードのカクテル」などが収穫。
5月は29冊購入。パゾリ−ニ「テオレマ」、セリーヌ「懺悔」、ビ−グル「心地よ く秘密めいたところ」など購入するが、最大の収穫は嵐山光三郎「口笛の歌が聴こえ る」。その他「吉岡実全詩集」「中井英夫全集」第3巻、マンディアルグ「刃の下」、 唐十郎「雨月の使者」と新刊もなかなかです。「未來のイヴ」が正字旧仮名で刊行され たのはとても嬉しかったです。
6月は何と653冊購入。推理小説の文庫を中心として大量に箱買いしてしまいまし た。創元推理文庫の「日本探偵小説全集」が含まれていたので大満足。その他では、探 求書であった日夏耿之介「鏡花文学」、ヴェルレ−ヌ詩・澁澤龍彦譯・池田満寿夫畫の 「女と男」、懐かしのカルト雑誌「ヘヴン」創刊号を入手できました。何気なく購入し た坂本一敏「古書の楽しみ」も面白かったです。
7月は65冊購入。「柳田国男全集」が箱入美本であまりに安かったので衝動買い。 エルンストの三部作も一気買い。平井呈一譯「古城物語」「メリメの手紙」を春陽文庫 より、齋藤磯雄譯「近代フランス詩集」(新潮社)を購入。新刊でもマンディアルグ「す べては消えゆく」、松岡正剛「知の編集工学」、植島啓司「快楽は悪か」など収穫が多 かったです。
8月は35冊購入。推理小説の端本買い程度で見るべきものはなし。新刊では、こち らのHPでも話題になった唐沢俊一「古本マニア雑学ノート」を楽しく読みました。途 中日夏耿之介の名前が出てきてびっくりしました。また長山靖生の「偽史冒険世界」が 「地球ロマン」を想起させ面白かったです。そう言えば、OYAGIさんに貴重な書籍を何 冊かお譲りいただいたのもこの時期です。
9月は現時点で34冊購入。収穫と言えば山尾悠子女史の作品集2冊ぐらいでしょう か。その他諸星大二郎の新刊漫画を入手。大半が推理小説の端本の類です。
てなわけで、質より量のここ毎日であります。
96.09.23
貝塚 英樹
MGG01033@niftyserve.or.jp
kaizuka@gemini.bekkoame.or.jp
あっ、それと散人さん、いつかこのボードで、提案がありました、オフ、いよいよ 読書の秋ですから、企画しませんか?。全国各地にちらばっていますので、日程あ わせが難しいかも知れませんが・・・。
たとえば、神田古本まつりの初日に、個々に会場を探書したのち、待ち合わせて、 自己紹介と成果報告そして所蔵の自慢本の紹介など(^_−)。その様子を写真にとれば、 散人さんのホーム・ページに報告記が掲載できそうですね。 そして春は京都で実施とか。思い付きでUPしちゃいましたが、いつかそんな機会 がもてて、参加者で愛書談義したいものですね(^_^)
市内にある古書店では、青翰堂にて探していた当時の赤塚不二夫の漫画「天才バカボ ン」を発見。連載されていた『少年マガジン』の該当箇所を合冊して製本したもので70 回分とのことでした。1971年6月から1972年11月までの分ですが、B5サイズで4分冊にな っています。8000円と少々値は張りましたが、せっかくですので購入しました。家に持 ち帰ってみると、ウーマンリブ運動への差別的なものなどもあり、貴重な資料となりそ うです。それになかなか笑えます。青翰堂は漫画は専門ではないのですが、同じような 当時の雑誌の合冊本が多数売られていていました。
六九書店街に新しく出来たというヤマトヤ細田書店六九店。初めての探訪でしたが、 それなりの品揃えでした。『近世畸人伝』教育社(\2400→\1200)、『空撮日本の名山百 選』山と渓谷社(\2000→\1500)を購入。「荷風全集」中央公論版が1万円で売られていま したが、車を遠くに止めていたので購入しませんでした。「天才バカボン」に8000円使 うぐらいなら、せっかくなので買えばよかったと後悔しているところです。目録をくれ ましたが、細田書店の支店という扱いのようです。
源池の細田書店では、店内は品薄になっていましたが、100円均一本7冊を購入。中沢 新一『雪片曲線』青土社、『現代詩入門』中央公論、『コミュニケーション不全症候群 』筑摩書房などの比較的新しい単行本でした。
慶林堂、秋櫻舎、ドゥセコンドでは迷ったものの、購入は諦めました。 散人
永山則夫「永山則夫の獄中読書ノート」朝日新聞社、読書した書籍、総ての目次をノートに写しとる。数十篇納めた短編集の目次項目にも子細もらさず成されます。推薦文、解説文などの類も、写し記録されます。その転写の量は日記本文より多いほどです。殆ど永遠に叶わぬ蔵書所有行為の擬似転化はレイ・ブラットベリ「華氏451度」の世界です。ノートはまさしく永山氏専用のミニマム図書館でしょう。
マキシムの図書館になりますとホルヘ・ルイス・ボルヘス短編集「伝奇集」集英社・岩波文庫に、全世界に存在しうる全ての書物を蔵する[バベルの図書館]が物語られます。あらゆる言語のあらゆる組合せの書籍群が螺旋階段状に連なり、1活字のみ違って印刷された本が、各々の本の両隣に、それが延々と連なります。それが短編集「砂の本」集英社、[砂の本]になりますと、1冊の書籍になってしまいます。言わば流動的な砂粒の並びで読める本ですから、たまたま現れたページは、本を閉じた後には、殆ど、もう2度とは現れません。
主旨に外れましたが、横井、永山両氏の抑圧境遇体験に擬して、敢えて監獄内で誕まれた 物語の著者マルキ・ド・サドを思い浮かべると、[文学と死への権利]などの評論も思い浮かべてしまいます。文学空間には自己のため、他者のための区別すら空しい。ブランショ、バタイユの評論世界です。
でも、これほど大量の本を購入して、実際に読破する冊数というのはどのくらいなの でしょうか?まさか、すぐに全部読んでしまうということは・・・・。私は、読むのに 時間の掛かる本ばかり買っているせいもあって、読むスピードが買うスピードに全く追 いつかず半分くらいは中をペラペラめくった程度になっています。(ナサケナイ、トホホ・・・)
それと購入した本の整理はどうしているのでしょうか?これほどの量を購入したら収 蔵場所がすぐになくなってしまうと思うのですが、収蔵場所はどうしているのでしょう か?古書愛好家にとって本の収蔵場所の問題というのは、凄く大きいと思うのですが。 私の部屋は床に本が無造作に積んであるという情けない状態になっています。本が痛む からやりたくないんですけど、もう並べる棚が無いのです。また棚を整理しなければ。
リストは、興味深そうな書名が並んでいて見ているだけで楽しかったです。私は、セ リーヌや中井英夫、澁澤などの有名どころしか知らないのですが。ところで、「懐かし のカルト雑誌 ヘヴン」とはいかなる雑誌なのでしょう。何やら、書名から醸し出され る怪しげな雰囲気に興味を引かれてしました。
以下両日での主な収穫。
○スピリット,Theophile Gautier,田辺貞之助譯,沖積舎,2500
森開社のゴ−チエ選集の既刊分は所持していますが、こんな本が出ているなんて知
りませんでした。ましてや田辺貞之助の遺稿として出版されていたなんて。
○ゴルフ奇譚集,Jean Ray,秋山和夫譯,白水社,800
「幽霊の書」や「マルペルチュイ」のジャン・レイです。
○季刊銀花第96号,,,文化出版局,900
田村書店の主人が渡邊一考氏の造本について書いています。書影が素晴らしい。
○ほかには推理小説の文庫などを数冊購入しました。
96.09.29
貝塚 英樹
MGG01033@niftyserve.or.jp
kaizuka@gemini.bekkoame.or.jp
私は、「世界でいちばんコワイ話 薔薇の悪魔」という題の本を持っています。著者 は竹内健で新書館から1968年に出版された物語です。本の内容は、寺山修司がカヴ ァーに推薦文を書いているだけあって、耽美的で幻想的です。
この「薔薇の悪魔」はプロローグとエピローグ、そして幻想黙示録と題された6章の 短編によって構成されています。章には、それぞれ「バラ色のプロローグ」や「赤色の 鳥(幻想黙示録第一章)」や「銀色の海(幻想黙示録第四章)」などと様々な色の名前 の入った凝った題名が付いています。各章はそれぞれ独立した話になっているのですが、 主人公は常に「少年」です。でも、少年には名前がついていないので各章の少年が同一 人物なのかは分かりません。「幻想黙示録」というだけあって、話はどれも幻想的でグ ロテスクです。例えば、第三章「黄色の虫」ではクモの写生をしている時にクモを殺し てしまった少女が、クモの復讐によって身体を内側から喰い破られたり、第五章「紫の 丘」では、眼の見えない少女の眼を見えるようにするために、少年が彼女の瞼を切り取 ってしまい、腐乱した眼球から蛆虫が這い出てくるという恐ろしい場面が有ります。
この本の挿絵は宇野亜喜良がやっているのですが、この挿絵がまた素晴らしいのです 。細かなタッチで描かれた全裸の少女がクモの巣に捕らえられている絵や、湖の畔で両 手をポケットに突っ込み陰鬱な眼をこちらに向けて立っている少年の絵などは素晴らし くデモニッシュで作品のグロテスクでエロティックな雰囲気をさらに高めています。