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AM 11:55 コンコース
1、2分毎に、改札口から溢れ出る人達…。インフォピアの利用によって
物理的な移動が少なくなったとはいえ、今も昔も駅には人が集まる。
都市部としてはそう大きくないこの駅でも例外ではない。
駅舎は線路を跨ぐように作られた構造で、東西口を持つ。それにもかかわ
らず、その主流は右…東口方面へと人を誘う。この時間、工場エリアの
西口方面へ向かう人は少ない。
ガラス張りのドーム天井からの日差しを受け、金色に輝くコンコース中央
の時計は、建造当時から50年以上時を刻み続けている。
その時計の周りにはベンチが配置され、格好の待ち合わせ場所となってい
た。改札口から人が溢れる度に、そこに居るほとんどの人が、そちらに目
をやる光景は微笑ましい。
二人の男女がベンチに掛けていた。男性の方は膝の上においたノートPC
のキーボードを忙しなく叩いていた。キーボードは人間工学的に形状を微
修正されながらも、この時代のデータ入力装置として生きていた。
女性の方はPradaのバッグから取り出したペーパーディスプレイを、改札
口に向けている。初めて会う人へのサインかなにかだろう。
二人の仕草は、仲の良い恋人同士か夫婦に見えたが…
「まだ少し、早いね。」
「…ん、そうだね、姉さん…」
島崎姉弟である。
姉は古都、弟は拓といった。二人は、やはりMirokuSystemTCGの
熱烈なファンだった。毎月のように場所を確保し、実デュエルの場を世の
MS-TCGファンに提供していた。
インフォピアを使うことで実デュエルを行なう必要もないのだが、そこは
古都の拘りがあった。不思議とMS-TCGファンにはおかしな拘りがある。
ドーム東西の壁面の3D広告装置からコンコースに色んな立体映像が
飛び出して来る。未来に行った青年が、飛び出す鮫に驚くクラシック映画
を見たことがあるが、今や驚く人はひとりもいない。
ノートPCの画面に何かのクライアントがポップアップした。
「姉さん、公式大会が決まったよ。」
「えっ!、いつなの?」
「今日13:00から、ナゴヤで。」
「そう…」
と、目線を遠くに向けた古都の頬が紅潮していく。
「どうする?」
拓は心の中では参加を決め、猪突猛進的な古都が行かないわけはない
と確信しながら、冷静に聞いた。間髪入れず、
「もちろん、行く!」
期待通りの答えを受け止めつつ、既に先の事に考えを巡らして
いた拓は、
「今日の講習会参加者への言い訳はどうする?」
「俺さまにまかせときな!!」
好んで男言葉を使う古都は、そう言い、自分の心拍数が上がっていく
のを感じていた。
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