口は何のためにある?
「思いを告げるため」
ならボクの口は何の為にある??
・・・・・・・・・・・音
春が来て、小学六年生は卒業し、中学校へ進学する。小学校も中学校も同じ義務教育。変わる所はあっても、同じところの方が多い。しかし中学校と小学校の大きな差は、やはり生徒人口であろうか。
たいてい五つ六つの小学校から卒業した生徒が一つの中学校に集まってくる。そうなると、クラスの人口の五分の四は知らない人間ということになる。多くの出逢いが其処にはある。
今年青春学園(コレ書くの恥かしいです)に入学した菊丸英二もまた、クラス人口のほとんどが知らない生徒だった。入学式を終えて、クラスで簡単な自己紹介をして。だが、そんなものでそうそう人の名前と顔が覚えられるはずがない。
一週間がたって少しずつ、少しずつクラスのメンバーを覚えていった。菊丸はもともと人見知りなんかせず、人なつっこいタイプの人間で、誰とでも直ぐに仲良くなれた。
菊丸も他の生徒と同様に、二週間がたって、ようやくこの学校にも慣れてきたと思えるようになった。
学校内の地理も覚え始め、それぞれが持っている居心地のいい自分の場所も見つけた。
天気のいい日は、お昼休みに必ず其処に行く。今日もクラスメイトとお昼ご飯を食べ終え、ひとり其処へ向かった。
「またどっかいくのかぁ?」
「何処行くのか教えてくれよー」
「秘密」
仲のいいクラスメイトに聞かれても、菊丸は自分の場所を教えなかった。
べつに菊丸が人といるのが嫌いなわけじゃない。独りが好きなだけだった。
クラスメイトもそれをなんとなく理解しているから、それ以上問い詰めることがなかった。気まぐれな其の態度に「猫のようだ」とクラスメイトは思っていた。
誇りっぽい階段を上って上って、重い扉を開ける。一瞬外の光がまぶしくて、眼をつぶった。
目が慣れてきたと同時に、重い鉄の扉がバタリと閉まる。
そっと目を開けると、いつも誰もいないはずの屋上には、先着がいた。ちぇ。っと菊丸は思った。
先着の人物はフェンスに身体を預けてただ空を見ていた。顔は上を見上げているせいでよく見えない。その人がそのまま空に吸い込まれてしまいそうな感じがして、菊丸は思わず声をかけた。
「何やってるの?」
空を見上げていた少年は、菊丸の方に視線を落としてそのままこちらに歩み寄った。
「こんな所にいるなんて、珍しいね。旧校舎の屋上なんて、普通誰も来ないよ」
それは俺の場所をとるな、とも聞こえた。もちろん菊丸はそんな意味で言ったわけではなかったのだが、少年は少し困った顔をして、ぺこりと頭を下げた。
そして頭を上げて、一度ふわりと笑った。
その笑顔のなんと美しいことか。菊丸は一瞬硬直した。
そして直ぐにその少年について知りたくなった。
「ね!名前、なんていうの?」
「・・・・・・・・・・・」
「あ、俺ね、菊丸英二ってゆうんだ!エージでいいよ!!」
「・・・・・・・・・・・」
「ねぇ、名前教えてくれないの??」
菊丸の問いかけに一回も答えることはなく、少年は困ったように首をかしげているだけだった。
「・・・・・・・ひょっとして俺のこと嫌い?今会ったばっかりなのに、もう嫌われちゃった・・・・・?」
返って来ない答えにしゅんとすると、少年は勢い良く首を横に振った。
「じゃ、何でしゃべってくれないの??」
ひょっとして、スゴイ無口な人?そう言いかけてやめた。扉の向こうから、大きな声が聞こえたから。
「不二ー!」
良く通る声が聞こえると、不二とよばれる少年は顔をぱっと明るくさせた。
そのまま良く通る声の持ち主が重い扉を開けて、菊丸と不二の前に立った。中学生にしては背の高い、黒ぶち眼鏡の良く似合った男だった。
「まったく、どこへでも勝手に行くなといっただろう?」
不二を甘くしかりつけると、不二は舌を出して肩をすくめた。そして菊丸の方を見て、男に目配せをした。男が菊丸を見る。そして、ああそうか、となにやら理解して話し始めた。
「すまんな。こいつは口が聞けんのだ。何も話さないから驚いただろう。だが根はいい奴なんだ。誤解しないでやってくれ。名前は不二周助という。ちなみに俺は手塚だ」
「は?」
口が聞けないって、しゃべれないって事だよね?
菊丸が思いもよらぬ展開に目を丸くすると、不二は苦笑して菊丸の学ランのすそを引っ張った。
「・・・・・・・・・・」
なにか伝えたいらしいが、菊丸には解からなかった。
「宜しく。と言っている」
混乱していると、手塚がよこで通訳してくれた。
「あと、またここに来てもいいか、と言っている」
「あっ・・・・うん!また来てよ!あそぼ!!」
菊丸がにっこり笑って言うと、不二は嬉しそうに頷いた。それをみて菊丸も嬉しくなった。
「・・・・・・・・・」
不二が手塚のすそを引っ張ると、手塚は無言で頷いて歩き始めた。会話なくとも意思疎通が成立している。そんな感じだった。
「・・・・・・・・・」
手塚が重い扉を開けて、不二に出るように即すと、不二は菊丸に向けて笑って手を振った。
『またね』
そう云ってるように見えた。
二人が屋上から出て行った後、菊丸はねっころがって空を見上げた。さっき不二がしていたように、黙って空を見つめてみた。
遠くで予鈴が聞こえたが、五時間目に出る気は失せていた。
「不二周助か。あいつ、しゃべれないんだ・・・・」
全然気が付かなかった。無口なだけかと思った。だってずっと笑ってたから。
しゃべれないのに答えをせかしたりしてわるかったかな。
罪悪感が菊丸を襲う。
それと同時に、手塚と言う少年を思い出した。
言葉がなくとも、通じる関係。
「俺もあんなふーになれるかな・・・・」
誰にともなく呟いた。
→
モドル
→
ススム
23:45 01/05/04
よくわからない話第一弾。
不二先輩は喋れない設定です。