曇りの日は気分も晴れない、なんてのはセンチメンタルぶった人間がとりあえず言っておく言葉だ、そう思っていた。でも確かに曇りの日は憂鬱でだるい気分が抜けない。悔しいけどその言葉通りなんだ。

「うわやっべ降ってきた!」

ぽつぽつ、と6月のまだ冷たい雨が頬をかすめる。湿気でじめじめして生温かった空気が冷えて次第に肌寒くなってくる。

「降水確率10%っつってたから傘持ってこなかったんだけど!!」
「最近天気予報外れまくりだよね」
「ま、予想なんてほとんどは外れるもんなんだよ」
「じゃあ天気予報の意味ないじゃん」

とりあえず屋根のある場所に避難して、突然の雨に慌てる人々をぼーっとしながら見ていた。濡れるのは嫌だし走るのは面倒だから、雨がやむまでここにいるしかない。時間が遅くなっても雨が降り続いていたら、それはそのときに考えればいいことだ。

「なぁ、あの子」
「好みか?」
「なんで雨降ってんのにあんなゆっくり歩いてんだろな」
「気違い?」
「失恋したんじゃん?」
「ドラマじゃあるまいし」
「でもそんなオーラ漂ってるよな」
「たしかにな」

その子は少し下を向いてゆっくりゆっくり歩いていた。駅や家に向かっているんだろうけど、目的もなくふらふらしているように見えた。別にその子が失恋したって確定しているわけでもないのについそういう目で見てしまい、暗かった気分が更に暗くなったような気がした。やがてその子は見えなくなった。雨音を聞きながら通り行く人々を観察する、無意味な時間が流れた。