写 真

 

 

 

 「ねえ室井さん。俺と一緒に写真、撮りませんか? 写真館で…ちゃんと礼服を着て。」

 リビングのテーブルでここ数年分のハガキを整理していた青島がいきなりそんなことを言い出した。 

 室井は湯気のたつマグカップをひとつ青島の前に置き、その手許のハガキを覗き込んだ。 

 新城と夏美が礼服を着て写っている結婚通知の写真ハガキだった。もう何年も前に貰ったものだ。

 青島の手許にはそういった同僚や友人知人たちからの写真入りのハガキが何枚も重ねてあった。

 青島が何を考えてそんな提案をしたのかわからないほど鈍くはない。 

 「本気か?」

 青島は真剣な眼差しで頷いた。

 「俺…室井さんと写真撮りたいんです。誰にも見せなくていいから、俺たちだけのために。 

 誕生日のプレゼントってことで…ダメですか?」 

 そういえばもうじき青島の誕生日だ。

 付き合い始めて6年。室井の購入したマンションで一緒に暮らし始めてからも長い。

 室井は柔らかく微笑んだ。

 「そうだな…非番の日を合わせて撮りに行くか」

 青島が嬉しそうに破顔した。

 

 

 

 当日、青島は室井の礼服姿に見愡れて「かっこいい」を連発し、室井を苦笑させた。

 そう言う青島も長身に礼服が良く映えて、室井は密かに惚れ直した。

 2人は青島の予約した写真館で2ポーズの写真を撮った。

 ひとつは並んで立った全身写真。もうひとつは椅子に腰掛けた室井に立った青島が寄り添う

 上半身アップの写真。

 慣れない撮影に堅くなる2人を写真館の主は手際よく上手にリラックスさせ、2人並んで

 立った写真はきりりと凛々しく、座った写真はごく自然な表情でふわりと微笑ませて撮った。

 「いい写真になりますよ」

 写真館の主はにこにこ顔でそう言った。実際、隙無く礼服を着こなした凛々しい室井と

 長身でハンサムな青島が並び立つ図はたいそう見栄えがして美しかった。

 

 

 「近くに神社があるんですけれど、ちょっとお参りして行きませんか?」

 撮影後、誕生祝いに室井が入れたレストランの予約時間までまだ間があったので、2人は

 青島の案内で写真館の裏手にある小高い丘の苔むした石段を登り小さな神社に立ち寄った。

 雑木林に囲まれた無人の神社はひっそりと古びていたが近所の人が除草や掃除をするのか

 良く手入れされていた。

 礼服姿で2人は賽銭をあげ柏手を打った。

 

 「室井さん。結婚式のまねごと、しませんか?」

 おどけた様子で青島が鞄から出したのは朱塗りの盃と日本酒のミニボトル。

 おそらく青島は初めからこのつもりで計画していたのだ。

 

 三三九度の盃を2人きりで交わす。

 まねごとと言った青島も、そして室井も、気持ちの中では決してまねごとではなかった。

 そっと、触れるだけの口付けも交わした。

 12月13日。

 結婚写真を撮って。神前で式を挙げて。レストランで2人きりのお祝をして。

 青島の誕生日が、そのまま結婚記念日となった。

 

 

 

 

 

 

 

2001年12月13日  


 青島くん、お誕生日おめでとう〜♪(*^o^*)

 モドル