室井さんは腐れ縁だと言って。

 それから一人一人を見つめて目許を和ませた。

 「………君たちともな」

 すみれさんがまっ先にぷっと吹き出した。

 真下が泣き笑いのような顔をしている。

 雪乃さんも嬉しそうに笑った。

 すみれさんの綺麗な瞳が室井さんをじっと見つめた。

 「確かにそうよね。室井さんと私たちって、ホント腐れ縁あるもんね」

 ふっくらした紅い唇をニッと笑みの形に変え。

 「室井さん。ニンジン嫌いなら残していいし、いつだって代わりに私が

 食べてあげる。……だから、絶対、偉くなって上まで行ってちょうだいよ」

 ビシッと指を立て、半ば軽口に紛らわせたそれは俺たちみんなの本気の願い。

 「そうだな…努力しよう」

 穏やかに微笑む室井さん。

 その決心がゆるぎないものであることは俺が一番良く知っている。

 「よし。じゃあ御褒美の前払いにこれは私が食べてあげるわね」

 すみれさんは俺の皿から室井さんのニンジンをすくい取ると大きな口を開けて

 ぱくりと一口で食べてしまった。

 すみれさん……。

 「ん、美味し♪」

 みんなはどっと笑ったけれど。

 俺は笑えなかった。

 

 

 

 室井さんがとても優しい目ですみれさんを見ていたので。

 

 

 

 この胸の痛みが何なのか。

 

 

 

 ……カンガエナイヨウニシタ。

 

 

 

 

 オワリ

 《モドル》                             2000/10/28