●ラスト・クエスト●

 これは最終話近く、ラスボスを倒し、ムロイさんが不本意ながら女性になってしまったあとの物語りです。 

by 北村K介 

 

「室井さん、俺のお嫁さんになって下さい。」

 アオシマ以外の三人は、唐突なその発言に驚いて、彼の顔を穴があくほど注視した。

 街で求めた、戦闘時にも胸元と足もとを気にしなくていい衣服に着替え、やっと戸惑い

 つつも何とか平静さを取り戻したばかりのムロイは、またしても激しい動揺に見舞われた。

「アオシマ…」

 そこはやっぱり変わらない、お馴染みの眉間の皺をくっきり寄せて、困惑するムロイの

 足元に、歩み寄ったアオシマが跪いた。

「ムロイさん」

 切ない瞳でムロイを見上げ、そっと彼の両手を自分の両手で包んだ。

 そういうことは陰でやれ!と毒づくシンジョウを、無言のオオバヤシが引きずってどこかへ

 消えた。

 

 アオシマとムロイは、横倒しになった古い神殿の石の柱に、並んで腰掛けていた。

 あたりは既に夕闇に包まれようとしている。

 アオシマのおこした焚火の火が、パチパチとはぜて、小さな火の粉を空に送った。

 どちらもなんとなく口を開きかねて、焚火の音や、遠くで吠える獣の声を黙って聴いていた。

 やがて、小さくひとつ溜息をついたムロイが、重い口を開いた。

「アオシマ」

 呼びかけられて、アオシマがムロイの方へ向き直る。

 彼の声で呼ばれる自分の名を、愛しいと感じながら。

 炎が、アオシマの顔に薄く濃く、揺らめく影を映す。

 その顔を優しく見つめて、ムロイは自らの手をその頬に沿わせた。

「逞しくなったな…もう立派な勇者の顔だ」

 少し冷たい指が、そっと傷だらけの頬をなぜた。

「ムロイさん」

 甘い切なさに耐えられなくなったアオシマが、自らに触れる優しい手を捕まえようとして、

 するりとかわされる。

 なぜ、と問うような視線を、受け止められずに、ムロイは濃い睫毛を伏せた。

「アオシマ…」

 再び呼びかけられるその声の深さに、アオシマは自分がとんでもないことしでかしそうで、

 ギュッと拳を握りしめた。

「アオシマ、私は大丈夫だ。」

 静かに綴られる言葉に、アオシマはじっと耳を傾ける。

「確かに、この身体では、色々と不自由なこともある。

 今までのように、この仕事を続けられないかもしれない。

 でも、このことが、私の本質を変えてしまう訳ではないはずだ。

 おまえは、私がこんなことになってしまったのを、心配してくれているんだろう?

 だが、私は自分の身を自分でおさめるくらいはできる人間だと、自負している。

 それくらいの、プライドはある。

 おまえは、優しい。

 優しくて、強い。

 もう誰の助けも借りずに、自らの道を切り開いて行ける、一人前の勇者だ。

 誰もが、おまえのことを好きになるだろう。

 新しい僧侶はすぐに見つか…」

「嫌だ!」

 ムロイの言葉は、顔色を変え、仁王立ちになったアオシマの咆哮に遮られた。

「何言ってんスか? いつ俺が一人でやっていける勇者になったんスか?

 ムロイさんや、オオバヤシさんや、シンジョウさん…みんながいなけりゃ、俺とっくに

 死んでたよ?

 あんたがいなけりゃ、あんなこと、やり遂げられなかったよ!

 とっくに諦めて、やさぐれて、どっかで野垂れ死んでたよ!

 あんたがいたからじゃないっスか?あんたがいるからじゃないっスか!

 なんでそんなこと言うんだよ!

 あんたがいなけりゃ、俺生きてらんないよ!」

 悲痛な表情のアオシマの瞳には、爆発する感情のせいで、うっすらと涙さえ浮かんでいた。

「ペース配分もろくろくできない俺が、戦闘中へろへろになった時、誰がホイミかけてくるっ

 ての?

 トラップに全然気付かなくて、落とし穴に真っ逆様に落っこっちゃったら、誰が叱って

 諭してくれるの?

 あんただけ、あんただけなんだよ!

 俺が勇者続けていく意味を一緒に見つけられるのは!」

 渦巻く自らの激情に、堪えきれなくなったアオシマが、ポロリ、と涙をこぼした。

 そのままうずくまり、自らの膝を抱えて顔を伏せる。

 いつのまにか訪れた紺青の闇の空へ、小さな火の粉が、キラキラと光りながら昇ってゆく。

 

 ムロイは、しばらく、動けないでいた。

 顔を伏せて、小刻みに肩を振るわす、アオシマをただ見つめていた。

 良いのだろうか。それは、許されることなのだろうか。

 自分は確かに望んでいる。この男と共にあることを。

 この男のことを、大切に思っている。

 仮にも神に身を捧げた僧侶たる身で。

 いや、もはや僧侶ではない。女となったこの身では。

 しかし。

 色々な理屈が、ムロイの頭の中でグルグルと回る。

 常識や言い訳や、その他諸々のものが。

 だが、そのどれも、ムロイが生まれて初めて感じたこの強い衝動を押さえ込むことができな

 かった。

 ムロイの手が、伸ばされる。

 いつもボサボサで、長めで鬱陶しくて、でも意外に触り心地の良い、アオシマのその頭に。

 優しく触れる、その手を感じて、アオシマが顔を上げる。

 涙の跡のある、その目尻に、笑い皺が浮かぶ。

「ムロイさん…」

 アオシマは知る。

 自分の願いが叶えられることを。

 自分を見つめる、大きな黒い瞳の中の、言葉に勝る想いに。

 

 

 「デレデレしてるんじゃないっ」

 遠目に、二人が仲良く寄り添って天を見ている姿を認めて、シンジョウが毒づいた。

 オオバヤシが、ポンポンとそんなシンジョウの肩を叩く。

 そして、焼けた肉の串を、シンジョウの方へ差し出してくれた。

 シンジョウはスン、と鼻を鳴らすと、受け取った串に噛みついた。

 オオバヤシが立ち上がる。

 遠くに見える、もう一つの焚火の灯の方に、視線を向ける。

「さあ、そろそろあの人達にも夕飯を差し上げましょうか」

 口をもぐもぐさせながら、もうそちらを見ることもせず、シンジョウが言った。

「やめとけ。どうせ、『胸がいっぱい』で食べやしないさ」

 くすりと笑ったオオバヤシは、それもそうですね、と再び腰を下ろした。

 

 地には、パチパチとはぜる暖かい光が。

 天には、キラキラと瞬く優しい光が。

 4人のパーティを見守っている。

 

 

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 許されます?許されますでしょうか?(泣)

 でも、我慢できなかったんです。

 あの設定、あのお話を見て、流しのしがない作文屋は、堪えきれなかったのです。

 ぶって下さって、結構です。というか、どうぞぶってやって下さい!

 でも、出入り禁止は、どうぞ、どうぞ平にご勘弁をー(号泣)

 


 ぶつなんてとんでもない! あんなおバカな設定からこんな素晴らしいお話を造り出して

 くださって嬉しいです〜〜♪(はぁと) あああああなんて可愛いんでしょう♪(*^o^*)/

 アオシマとムロイさんに乙女心鷲掴みされました(はぁと) シンジョウとオオバヤシさんも

 いい味出してて楽しいです〜(笑) これぞまさにハッピーエンド! 幸せですよね〜(*^o^*)

 北村さま、素敵なお話を本当にどうもありがとうございました♪ m(_ _)m

 

 

 モドル

 

 

 

 

 

 

 

 

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