開戦! 綾香 対 セリオ




「あぁ! ・・・ん、ふ、ぅ・・・、ぅ」

湿度。淫臭。シーツの白と、激しい、バックからの快楽。
のしかかられて、思い切り引き上げられて、また、のしかかられる。
延々身体を愛された後だったから、一度目でもう、駄目だった。
二度目で早や、キてしまった。三度目、絶対に無理だった。

「ぅあ! あぁあ!! ひ、浩之、こ、こんな、も、もぉ・・・っ!!」

あられも無く、あたしは喚く。貫かれるその衝撃が、余りにも重い。
ベッドの上、あたしの、汗にまみれた上体と、淫液にまみれた下半身。
熱くて、乾いて、溺れそうで、気が遠くなる。閃光が間近に連続する。

「何だ、もうへばったのかよ、綾香。だけど俺が勝った以上、約束は約束だぜ」

冷たく言って、強くあたしの身体が揺さぶられる。迸る嬌声。自分でも恥かしすぎる声。
勝負に負けたのは本当だ。でもそれは負けると分かりきっていた勝負。

「ほら、ぐったりしないで、何時もみたいにシャンとしろよ」

意地悪く言いながら、浩之があたしの腰を掴んで引き上げる。
だけど、浩之が冷たく振舞うのは当然なのだ。
これは賭の代償に行なわれている行為なのだから、勝利者には当然、王侯的権限が与えられている。
一方の敗者には当然、桎梏の義務が課せられている。
あたしだって、今まで勝った後、浩之をサンドバッグ扱いしたんだし・・・。

「ん、んん!! で、でも、でも・・・、ぉ」

脳が弾ける。何度目か、数え切れない回数、あたしの頭の中で白光が瞬いた。
何処を見ているのかも分からなくなってしまったあたしの瞳。
泳いで、ぐらぐらと視界が揺らめく。
こんなに息苦しいのに伝わってくる浩之の熱気。貫いているもの。
それらがどうしてもまだ、あたしの身体を更に高いところへ連れて行ってしまう。

「ん、ぁ・・・、また、き、きた・・・っ」

襲ってくる戦慄。ゾクゾクと背筋を駆け上がってくるもの。
あたしは必死になって唇を噛み締め、歯を食いしばり、飛んで行かない様にする。
油断してしまったら白光の中に吸い込まれてしまいそうだ。
身体中を固くして、眼をぎゅっと瞑る。薄皮一枚隔ててあたしの背中を何かが駆け上っていく。

「く、・・・ぅ、・・・っ!」

イってる。イっている! 波浪、無重力、首から上を吹き飛ばされる感じ。
波が引かない。あたしがイっているのを知っているのに、浩之がアレを引いては貫いてくる。

「ぁ・・・、ゆ、許して・・・、も、もう」

一通り波が去って、硬直が解けると共に、あたしは全身をベッドの上に突っ伏した。
もうこれ以上されたら、気が狂ってしまいそうで堪えられなかった。

「お、おいおい、綾香・・・。そりゃないだろ? 今日は幾らでも、って・・・」

不満爆発、そんな感じで浩之が言う。
でも浩之だって悪いんだ。ホントに手加減してくれないんだから。

あたしは意識を沈みこませていく。責任を転嫁して、眠りへと一直線。
後はどうぞ御勝手に・・・。
心の中で呟きながら、あたしは何時の間にか、寝入ってしまっていた。





あたし、来栖川綾香は自分で言うのも何だけど百戦百勝の常勝者である。
格闘を筆頭に、勝負と付く事には何から何まで負けた事が無い、と言っても良い。
あたしは闘いが好きなのだ。好きだからとことん遣る。勝利の美酒が最高の御褒美だ。
だから、藤田浩之と付き合い始めてからのあたしも、矢張り勝負に明け暮れている。
とは言え、彼と出会い、知り合ってからと言うもの、
無差別な闘いを控えてしまっているあたしの対手は殆どその浩之で、
其処で必要なのが勝負に際して馴れ合ってしまわない為の賭なのだ。
報酬は明快で、勝利に拠ってあたしを禁欲を、浩之は肉欲を得る。
これなら浩之も全開でマジになるし、そうでなければあたしだって面白くない。
あたしは勝利の美酒を求めて。浩之は・・・、あたしを一晩自由にする権利を求めて。
まぁ変な関係かも知れないけど、あたしはあたしなりに満足だ。

ところが・・・。あたしは浩之相手に勝ちすぎてしまったらしい。
何しろサテライトサービスを有するセリオがバックに付いているのだから、
どんな勝負でも名コーチの元、特訓すれば浩之には負けない。
連勝を伸ばし続けるあたしに業を煮やした浩之が、何としても勝とうとして申し込んできた闘い。
あたしはその挑戦状の内容に、かなり愕然とした。

昨日の事だ。求められたのは、『○ッ○○勝負』!! 浩之の煩悩丸出しの種目。
参ったら負け、参らせたら勝ち。或いは失神も決着のうち。如何にも浩之が好きそうな。
その挑戦は、しかもあたしに取って、とんでもなく不利なものだった。

(だって・・・、あたし、ベッドの中じゃ)

兎に角闘いにならないのだ。無力なのだ。それを知っての浩之の挑戦である。
あたしは已む無く、今回だけは勝負を逃げる積りだったのだが・・・、
あたしの盟友、時として鬼コーチ、なセリオが、それを決して許さなかった。
引き摺られる様にして早速始められたセリオとの厳しい修練。
しかし、それは実は、セリオの個人的な趣味に基づく特訓だったのだ!

何と男性特有のアレまで準備していたセリオは、
口実さえ得られれば何でも良かったのに違い無い。
かくして昨晩、特訓、と言うか一方的にセリオに弄ばれた挙句、
今日は浩之との勝負にも完敗して、一晩自由にされてしまったあたしなのだ。





『まぁったく。久し振りの綾香だった、ってのに・・・』

そんな事を言われながら目覚めた朝。散々不平をぶつけられたあたしは、
結局身体を洗う最中どころか食事を作って、それを食べる間も可愛がられ続けて、今。
玄関で、折角直した服をまた乱れさせられてしまっている。

「ね、・・・ん、ねぇ。こんなところでまで・・・」

(駄目よ)。其処までは言わせて貰えなかった。浩之の唇に、あたしの唇が塞がれてしまったからだ。
直ぐに浩之の右手があたしのシャツのボタンを幾つか外して、滑り込んでくる。
もう片方、左手が、ジーンズのホックを外して引き下ろしに掛かる。

こんな事もあろうかと、あたしはブルーのストライプが入った開襟シャツに、
濃藍のジーンズと言うひどく単純な服装を選んできてあった。
これなら乱されてしまっても簡単に直せるからなんだけど、少し消極的かも知れない。

「ん、ふ・・・」

シャツの中に入り込んできた掌が、スルスルとあたしの胸に至って、やんわり揉み始める。
ジーンズを下げた指先が潜ってきて、ツンツン、パンティに溝を作っていく。
起きてからずっと同じ事をしているのに、まだ飽きない浩之。それはあたしも同じなのだけど。

ネチ、ニチ、口の中で絡み合っている舌と舌が、甘美だ。
痺れてきてしまう、脱力させられてしまう、逆らえない感覚。

(どうしよう、またベッドまで連れていかれちゃったら・・・)

あり得る事だった。まだ浩之は全然満足していない。
ブラのホックが外されてしまう。弛んで、自由になった両方の胸が、楽になる。
其処はもうとっくに予感に漲っていたから、ブラがきつくて仕方無かったのだ。
でも下の方は、まだどんどん苦しみを増している。溝を上下になぞられて、もどかしい。

「あん、ね、浩之・・・」

「ん? 帰るんじゃなかったのかよ、綾香?」

今日の浩之も、意地が悪い。昨日の続き、そんな雰囲気。
あたしは観念して、握っていた、外へと続く扉のノブを離そうとしたのだが・・・、

「失礼致します」

ノブは向こう側から不意に捻られて、あたしの手は勝手にクルリと回転した。そして聞き慣れた声。

「!?」

浩之が驚いている。当然だろう。鍵は掛かっていたのだから。
なのにあっさりと開けられてしまう人物。検索すれば、聞こえた声と、一致する。

「セリオ!?」

「はい。御迎えの御時間となっても御姿が見えないので、参りました」

扉は開け放たれている。セリオが立っているから外からは見え難いだろうが、この態勢。
あたしは唇を奪われていたし、開襟シャツには背中越しにも明らかな乱れ。
そして半分脱がされてしまって、ヒップまで見えかけているジーンズ。
外にもし通行人がいたら・・・? あたしは慌てて浩之を突き放すと、瞬時に服装の乱れを直した。

「ブラジャーが外れたままですが・・・」

「これはいいの! 後で直すから!」

物凄いタイミングで現れたセリオと共に、あたしは藤田邸を後にした。
かなり不完全燃焼の別れ方に、浩之が顔を引き吊らせていたのが印象的だ。

(次のデートは、・・・スゴイかも)

妙な考え事をしている間に、車は程無くあたしの家に到着した。
セリオと一緒に自室へ戻る。着替えて、そして直ぐにお風呂、の予定だったのだが、
部屋を後にしようとするあたしの前に、セリオがいきなり立ちはだかった。本能的な危機感。
此処はあたしの寝室で、あたしの背中はベッド。押し倒されたら大惨事だ。

「な、何? セリオ・・・」

「ハイ。お話があります、綾香さん」

淡々と言っている様で、其処には読み難い感情の起伏があった。
セリオがこれまで、余り見せた事の無い表情だ。

(・・・怒ってる? もしかして)

あたしはセリオの珍しい感情の発露に、身の危険も忘れて立ち竦んでしまった。

「綾香さん、私は残念です。昨日の醜態、あれは如何なものでしょう」

「・・・へ?」

「とぼけても駄目です。一昨日あれ程特訓したのに、あっさりと降参とは」

(ま、また覗いてたのね・・・セリオ)

サテライトサービスを駆使して、セリオがあたしの日常を屡々覗いている事は知っていた。
どうやら、セリオは昨日の恥かしい行為の最中も、あたしの事を覗いていたらしい。
これは由々しき問題である。何とかして止めさせなくてはいけない。

「良いですか、綾香さん。昨晩、不足していたのはズバリ、持久力です!」

「・・・はぁ」

やたら力の入っているセリオを眺めながら、あたしは気の無い相槌を打った。
そして疑念。まさかまた『特訓』と称して迫ってくるのでは・・・?

「この欠点を克服するには特訓しか無いでしょう!」

(や、やっぱり・・・)

これは危険な展開である。先日、あたしは散々、この手でセリオに弄ばれてしまったのだ。
あたしは慌ててセリオの眼前に右の掌を広げてストップをかけると、逆提案を試みた。

「待った! セリオ! その前に提案があるわ」

「・・・? なんでしょう」

「セリオ、取り敢えず勝負! お題は色事! 賭はセリオの覗き権!!」

「覗きでは無いのですが・・・」

「いいから! どう? あたしが負けた時の代償は浩之と同じ!」

詰まりあたしに勝った時はあたしを一晩の間、好きなだけ自由にしなさいと言う事だ。
恐らくこれならセリオは嫌とは言わない筈である。
何しろセリオはあたしのベッドでの能力を舐めて掛かっていて、
この勝負、闘う前から勝利を確信しているのは間違い無いからだ。
だが、あたしには考えてみれば、セリオ以外にも大参謀が付いてくれているのである。

「ふ・・・。良いのですか? 綾香さん」

「勿論。勝負は一時間後!」

セリオが了承して、ベッドとセリオに挟まれていたあたしは漸く解放された。
別れ際、不敵な笑みを浮かべたセリオにあたしもまた笑みを返す。
あたしは秘策を思いついてしまったのだ。簡単には敗退しない。
インターバルは僅か一時間。あたしは急いで自室を後にして、隣のフロアへ向かった。





トントン。ノックの音である。此処はあたしの部屋から少し離れてはいるが隣室だ。
中には姉さんが居る筈なのに、少し強めにドアを叩いたにも関わらず、反応は全然無い。

(いてくれないとどうしようもないんだけど・・・)

「姉さん、まさかいないの・・・?」

『います。あいてますから、どうぞ』

微妙な空気振動が伝わってきた。紛う事無き姉さんの声だ。
あたしは言われたままにドアを開けた。

(・・・と)

相変わらずの姉さんの部屋である。暗い、しかし不思議な光源を有する、蒼い部屋。
一室には中央に魔方陣が何時もの様に描かれてあって、姉さんは此処から様々な事を実現させるのだ。

「ね、ねぇ、姉さん。実は、・・・え、!?」

『知っています』

また微妙な空気振動。姉さんは確かに、知っている、と言った。
ひょっとして、既にあたしの御願いはお見通しなのだろうか。

「し、知っているって・・・?」

『セリオさんとの事でしょう? それならば、良いものを用意してあります』

話の展開が随分と早い。頭に浮かぶ小さな疑惑。

(まさか・・・、姉さんも、覗いているんじゃ)

「そ、それで、良いものって?」

『・・・・・・』

問いには答えず、姉さんは胸の前で手を組み合わせると、僅かに顔を俯かせた。
小さな呟きが始まる。常人には理解出来ない何かが行なわれている。
目を瞑り、念じ、祈る姉さんの姿は、素人目には神秘的、と映った。

『・・・!、!』

強い調子。高らかに詠う。そして眩い発光現象があたしの目の前で起こって、
瞼の向こう、光が去ったのを確認してから目を開けると、室内には何時もの蒼暗さが戻っていた。

『セリオさんも女性。ならば、弱点はそれしかありません』

「え、『それ』・・・?」

言われて自分の身体を見回してみる。何処も異常は無い、と思った途端、
ジーンズの前に、我慢し難い窮屈感と、むず痒さが。

「・・・え!? こ、これ・・・」

股間の、デニムを盛り上げているもの。はちきれそうな感覚。
今にも何かが飛び出してきそうな、とてつもなく不安な感じ。

「ね、姉さん・・・まさかこれ」

コクコクと、姉さんは頷いた。あたしはとんでもないものを生やされてしまった!
愕然としているあたしの側に、姉さんはとことこと遣って来て、肩にぽん、と手を置いた。

『の!』

「『の!』じゃないわよ、姉さん・・・」

脱力した隙。くるりと振り向かされたあたしは背中を押され、姉さんの部屋から追い出された。
あたしの抗議など、聞く気も無い様子だ。最後、姉さんは自分の左手をつんつんして、
あたしに時計を見ろ、と促した。成る程、約束の時間が間も無く訪れようとしている。

(やっぱり覗いてたのね、姉さん・・・)

水晶玉か何かにあたしの部屋は映っているのだろうか。
背中から姉さんが、扉の閉め際に一言残す。

『・・・それはセリオさんでもきっと乱れます。触れただけでも凄い筈です』

恐らく本当の事なのだろう。姉さんの魔法は本物だ。
その効果は驚く程なのだろうが、あたしはそれ以上に姉さんの鳥渡破廉恥な台詞に驚きを感じつつ、
セリオとの決戦の場所、自分の部屋へ、歩き始めた。
と、アレが中で擦れて、あたしの歩き方は自然と内股になってしまう。

(な、なんか、セリオと言うよりは、あたしの弱点、と言う感じなんですけど・・・)

あたしの部屋までの数十メートルを何時もの何倍も掛けて歩くと、
部屋の前には既にセリオが待ち構えていた。研究室用の白いレオタードを身に着けている。

(早くも臨戦態勢、と言う訳ね・・・)

そのセリオの闘いに臨む武道家の気配に、あたしの気もまた集まり始める。
一メートル足らずの間隙で対峙して、あたしもセリオも身じろがない。
轟と音をさせて、あたしたちを包む様に水流が巻き上がっている、そんな感じだ。

「特訓の成果は御座いましたか?」

「ま、まぁね。・・・セリオ、負けないわよ」

成果は確かにあった。不安だが、最初から劣勢に立たされている勝負なのだ。
それを思えば、姉さんの与えてくれた魔法のアレがある現状は、かなり勝機を見出し得る。
あたしはセリオと視線を交錯させたまま、身をよかした彼女の横、扉のノブを掴んだ。

「・・・え?」

だがその時、いきなり背後からセリオが襲い掛かってきたのだ。
イヤ、本当のあたしなら、其処であっさりと後れを取るなどは考えられなかった。
事実あたしは襲い掛かられる瞬間も、常在戦場の気で臨んでいたのだ。
セリオの気配から、既に決戦が始まっている事は承知していた。
なのに、反応しようとした時、擦れてしまったアレが、あたしの動きを鈍いものにさせていた。

「ふふ・・・、油断ですか? らしくない」

「ち、ちが・・・」

お腹に手が廻される。腕の下から通された手で、胸の辺りのボタンを外しに掛かる。
両の脚があたしの脚に絡められて、瞬時に捕獲されてしまっていた。
チロリ、耳朶を掠めたセリオの唇が、あたしの顔をしかめさせる。
包み込まれる、そんな全身の感覚に心臓が鳴って、何よりアレが、びくりと弾んだ。

「あ・・・、う、嘘!?」

まだ大きくなる。とっくに突っ張っている股間が更に膨らんで、
なのに痛みどころか快感がもたらされる。嫌な予感がしてセリオを振り解こうとしたのに、
ボタンを外し、隙間を作った手が胸を触って、シャツをたくし上げた手に腹筋を撫でられて、
腿に腿をスリスリとされると、あたしの力は勢いを失った。

「ふふ、離しませんよ」

「きゃ、ふ・・・っ!」

今が勝負時、そんな気迫。セリオが此処ぞとばかりに舌先を耳の中に入れてきて、
情けない声が出てしまう。ふるり、快感電流に震わされたあたしの身体。
もう力は殆ど抜けて、掴んでいたノブからも、手が落ちていく。

「セリオ、此処廊下なのに・・・、んっ、ん・・・っ」

抗議しようとしたあたしの唇がセリオに塞がれて、言葉が分断された。
ネチネチ、絡み合う舌と舌。ブラももうずらされて、やんわりと掌に触れられている。
ぷつ、と音がして、ジーンズのホックが外された。

「んん・・・っ、は、セリオ、其処は・・・」

「芹香様でしょう、これを付けて下さったのは・・・」

ホックの次はファスナー。下ろされる。チリチリと、縦に焼かれていくあたしのアレ。
視線を下に遣ると、緩められたジーンズからアレが先端を覗かせていた。
それは充血して、今にも弾けてしまいそうなカオをしている。

「・・・ほら、触ってしまいますよ」

言うが早いか、セリオが指先をパンティからはみ出している先端部に這わせていく。

「・・・ん! んん!!」

つつ、となぞられて、あたしの身体が強張った。痺れに冒されて、動きが益々扼される。
パンティをめくり落とされ、アレが全容を現した。少し小さめの、細めの、だけど見慣れた形。
その脈打つモノが、セリオの指先に、上から下までなぞられまくる。

「く、ぅ・・・、セリ、セリオぉ・・・」

「もう出ちゃいそうですよ? ふふ、降参されては如何です?」

力無く、あたしは首を横に振った。反撃も出来ずにギブアップなんて、あたしには出来ない。
下腹部に力を込めて、あたしは必死に抵抗を試みた。
しかしその力は、込めた先からセリオの指先に吸い取られていってしまう。

「ほら、綾香さん。私の指があと二回往復したら限界ですよ。
お嬢様ともあろうお方が廊下で射精するんですか?」

言いながらもセリオの指の動きは止まらない。先端から下へ、ゆっくりゆっくり降りていく。
セリオの言う通りに違いなかった。指に線を引かれているだけなのに、
苦しそうに脈打つアレの中を、何かがジワリと昇っていくのが分かる。

(そ、そうだ、此処、廊下なんだ・・・!)

誰が来るとも分からない場所。メイドさんだっているし、執事もいる。
ここは彼ら、彼女らが自由に立ち入る事の出来るスペースなのだ。
もしかしたら、既に誰かがこの饗宴に気付いて、廊下の曲がり角から覗いているかも知れない。
あたしのレーダーは気配を察知していないが、
こんなにとろけてしまっていては、察知出来なくとも不思議は無い。

(こ、こんなの生やしているところを見られたら・・・)

今だってあたしのアレは垂れ出る透明な液体にコーティングされてしまっているのだ。
その上、ネバネバとした液体を射精するところまで見られてしまったら。
あたしは決断した。降参するのだ。セリオの指が一往復を終えて、また下がっていく。
根元まで撫でて、上へ帰ってきたら、あたしの我慢も限界に達してしまう。その前に。

「セ、セリオ! 分かったから、こう・・・、んむっ!?」

また塞がれた。唇と唇とが合わせられ、ヌルリ、舌先が滑り込んでくる。
それは忽ちあたしの舌を探し当てて、ネッチリと絡め始める。
振り解こうとしても、あたしの力はもう殆ど残っていなくて、
セリオの唇は離れてくれない。指があたしのアレの根元に到達した。
折り返す。上へと滑り始める。ザワザワ、ざわめきがあたしの腰に起こっている。

(ん! セリオ! んん・・・っ!)

迫ってくる感じがあって、あたしの心が追い詰められる。
と、不意にセリオの指が、アレから離れていった。
あたしを追い詰め掛けていた快楽が不意に遠退いていく。
ふと気付くと、セリオが何時の間にか、あたしの前面に廻っていた。

(セリオ・・・?)

武士の情け。そんな言葉が思い浮かんだ。
廊下でイかされちゃうのだけは、許してくれるのかも知れない。
そう思った、直後。

(ふ、ぅあ!? ・・・手が、手が・・・っ!?)

セリオの手が、あたしのアレを、五指全部を使い、掌までも使って、包み込んだのだ。
根元から握られた。ビクビク、新たな刺激に脈動が激しさを増す。
そして、掌が握ったままで、上へと滑る。・・・しごかれている!

(ぁ、だ、駄目、・・・っ!!)

キュッ、とセリオの掌が先端までをしごき上げた瞬間、あたしの身体が硬直した。
爪先立ちになって、まるでアレを突き出す様に、腰を前へのめらせる。
セリオに蹂躙されている口腔に、出せない声をくぐもらせて、
あたしは脳を満たす白光に呑み込まれるまま、身を任せてしまった。

ブ、ぴ・・・!!

溜めに溜められたものが遂に噴出する際の、激しい音。
あたしの頭の中の何もかもを無に消し去ってしまう麻痺感覚が、腰から全身へ、さっと広がる。
ビク、ビク、何度も震えて、その度精液を噴き出させて、漸く止まる。
あたしはやっと、性感の奔流から解放された。

(ぅ、・・・ん)

それでもまだ、アレ一杯に、じんわりと痺れが残っている。
其処だけではなかった。腰にも、胸にも、首にも、感覚の無くなっていく感覚が、存在している。
何も考えられない、ぼうっとしてしまう頭。
セリオが貌を離していって、あたしは小刻みな息遣いで冷たく感ぜられる空気を吸った。

「・・・ぁ、は、・・・」

「出してしまわれましたね。廊下で・・・」

セリオの声が届く。恥ずかしい事を指摘されて、あたしは身じろいだ。
強制的に射精に導かれたとは言え、絶頂の瞬間、何もかも忘れてしまっていたのは事実なのだ。

「ほら、こんなに沢山、綾香さんがお出しになったのですよ」

見れば、セリオのレオタードのお腹の辺りが、べっとりとしたものに汚されていた。
一番高いところで胸の下くらい、低いところで下腹部くらいの広さで、
縦に幾つもの汚れを作っている。真白い生地に、薄黄色く、それは目立っていた。

(・・・あたしの、精液・・・)

呆然と見入ってしまう。セリオが一歩前に出る。また、手を下の方に伸ばした。

「・・・っ! んぁ!!」

「なのに、まだこんなに硬いなんて・・・」

セリオが言う。その言葉があたしの脳に染みてくる。
アレを握り、上下に擦られて、益々敏感になったところへの愛撫に、あたしの抵抗は、皆無だ。
セリオがあたしに代わってノブを握ると、扉を開けた。室内への道が拓ける。

「ん、・・・ぁ、ちょっと、セリオ・・・っ!」

クイ、と、あたしの身体が引っ張られる。それも、アレで引かれているのだ。
有無を言わさない感覚に、あたしはセリオの意のままに連れられる。
自室へ入った。リビングを通り抜けて寝室に入る。
そのままベッドの側へ真っ直ぐ進むと、不意にセリオからベッドに倒れ込んで、
いきなり強く引かれたあたしは逆らえないままにセリオの上へ飛び込んでしまった。

「ん、こら・・・っ」

ドサリ、重たい音がする。
あたしは慌てて手を前に衝いて、セリオの上に覆い被さった。

「ふふ。まだ勝負は終わってませんよ? 綾香さん」

言われて気付く。そういえば先程の言葉は口を塞がれたせいでセリオには聞こえていないのだ。

(そうか! じゃ、まだ・・・!!)

勝機はある。諦めてはいけない。
アレを捕獲されたままセリオの上になっているあたしは、
気を取り直してセリオの掌から逃れようと腰を引いた。

「く、ぅん・・・」

だがぬめりを帯びているアレはセリオの手の中で少し動いただけで、
逆にあたしが快楽電流に打ちのめされる。セリオが握る掌に力を加えた。

「んんっ、・・・そ、それ、駄目っ!!」

したく無いのに、あたしの腰が前後してしまう。
しかもセリオの手が、リズムを合わせてあたしをしごく。

「駄目、ダメぇ・・・っ!、!!」

叫んだ。ゾクリ、背筋を冒していく波浪。じんわりとしたものがあたしの腰に集まって、そして。

びゅ! ぴゅく・・・!!

「あん、ん、ま、また・・・ぁ」

放物線を描きながら、白濁したあたしの体液が、セリオのレオタードを叩いていく。
二度目なのに全然濃さを失っていないそれは、穢された純白を更にどぎつく汚す。

「・・・ん、二度目、ですね・・・」

あたしさえ驚くくらいに淫靡な表情を浮かべているセリオが、目の前にいた。
空いている方の手でお腹のあたしの精液を伸ばし、染み込ませている。
その一方で、右手はまだあたしのアレを握っている。離してなんて、くれない。
それどころかニッチリと音をさせて、その掌は蠢いているのだ。
暇を与えられない快楽責めに、あたしの腰がひくひくと前後してしまっている。

「・・・ぁ、は」
(まだ、元気・・・)

見れば、セリオの掌の中で、アレはまだまだ最初の頃と変わらず大きいままだ。
嫌な予感が、あたしの頭の中を過った。若しかして、これは、小さくならない?

「でも、芹香様の魔法、流石です・・・」

まだねっとりとお腹の上であたしのを練り伸ばしながら、セリオがふと呟いた。

「こうして綾香さんのに触れているだけで、痺れてきますから・・・」

セリオの表情には益々淫靡さが加わって、瞳はとろりとし始めている。
姉さんの魔法は、肉体の多少の差異くらい、乗り越えてしまうのだろうか・・・?
いや、対セリオの、特別な代物なのかも知れない。姉さんが用意していたものなのだから。

(と、言う事は・・・)

逆転は可能!? そんな希望。何しろ触っているだけで、あのセリオがメロメロなりかけているのだ。
もしも挿れてしまえたら。セリオに為す術が無くなる可能性だって、ある筈だ。

「でも、綾香さん」

好機とみたあたしに、セリオが話し掛ける。その言葉は幾分上擦っているものの、まだ冷静だ。

「何? セリオ、・・・って!?」

「ふふ、お気付きになりました?」

気付かない訳が無い。先程まで純白と白濁にまみれていたセリオのお腹が、不気味に盛り上がっている。
レオタードの下、くっきりとした陰影。それは余りにも見慣れた、あたしのアレと同じモノだ。

「気付くも気付かないも・・・」

「残念ながら、綾香さん。確かに芹香様のペニスは優秀です。が、挿入出来なければ?」

セリオがあたしのアレをあやしながら、問い掛けてくる。
ひっきり無い快楽電流が、あたしの身体を蝕んでいる。腰の動きを止めるなんて、出来る訳が無い。
あたしはセリオの掌を使ってオナニーしてしまっている自分を再認識しながら、
セリオの問い掛けを頭の中で反芻した。あたしの実情など見抜き切っている、そんな言い様。

(そ、そうよ! 挿れられなかったら・・・!?)

ハッとする。考えるまでも無く解る事。
一番最初、アレを身に付けた時に頭に閃いた嫌な予感が、的中してしまった感じ。
思い至ったあたしの表情を察知して、セリオが続けた。

「そう。どんなに凄くても、挿れられなければ単なる弱点なんですよ、綾香さん」

「ひ、きゃっ・・!?」

一際強く、セリオが握る。下から上へと、あたしの身体を押し上げる。
腰の抜ける快楽に、あたしの身体はセリオの為すがままだ。
浮き上がったあたしの下に、セリオが素早く潜り込む。
力の入っていない二本の脚は開かされて、潜り抜けられて、
あたしはあっさりと、セリオにバックを取られていた。

「く、・・・」

セリオの言っている事は本当だ。姉さんのアレがどれだけのモノかは兎に角、
あたしは今、握られているだけでどうする事も出来ないのだから。

「ほら、三度目、出ちゃいそうですよ?」

後ろに廻ったセリオに激しくしごかれる。腰どころか、全身全部が痺れさせられる。
あたしは両手でギュッとシーツを握って、貌を突っ伏すしか、出来なかった。
一息一息、唇の僅かな隙間を衝いて、吐息が漏れ出ていく。熱い、熱い吐息。
セリオの掌の中で、アレが益々強く脈打っている。

「せ、セリオ、止め・・・っ!」

それだけ、息も絶え絶えに言って、あたしはどうにか背後へ首を捻る。
言葉だけで無く表情でも訴えようとしたのだ。
もう、ギブアップしてしまおうと決めて、同時。

「・・・っ!?」

セリオを見たあたしは息を呑んだ。純白だったレオタードの股間が、片側に寄せられている。
其処から勢い良く、こぼれ出ている凶悪なモノ。

「いきますよ? 綾香さん」

握られたままで、余った手に腰を固定される。狙いを定められる。

・・・ヌッ

「うぁ、ぁあ、ぁはっ!?」

あたしのアソコがいきなりに抉られた。漲ったモノを、しかし呆気無く、受け入れる。
ビチョビチョに濡れそぼっていたあたしの其処に、抵抗なんてある筈も無かった。

「んんっ、っ!」

それまで放って置かれていたから、伝わってくるのは凄まじい悦楽。
あたしの感覚の全てを浚い尽くしながら、それは腰奥から背筋を越えて、あたしの脳に襲い掛かる。
身体中快楽に痺れさせられて、一個の物体としか感じられないくらい、あたしが溺れる。

ブピ、ブピ、音がした。三度目の射精をしてしまったのだ。それでもまだセリオがしごく。
二つの鋭敏で淫らなところからの刺激が混ざり合い、重なり合って、あたしは硬直した。
間断無く、ゾクゾクと浚っていく快楽の細波ばかりがはっきりと知覚出来る。

「ぁ、は・・・」

もう、四つん這いでいる事も、不可能だった。
力の抜けてしまった両の腕は崩れて、あたしの身体はベッドの上に沈み込む。
セリオがやっとアレから手を離してくれていた。だが代わりにガッチリと腰を掴まれてしまう。

ぼう、と訳の分からなくなった全身。お腹の下に敷かれた硬く、熱すぎるものが、まだ脈打っている。
それがベッドとお腹とに挟まれる感覚が気持ち良くて、あたしは自然、身体を揺り動かした。
と、後ろから衝き入れているセリオのアレとあたしの膣が擦れて、余計に快楽が沸き上がってくる。

「ふふ・・・。まだ、みたいですね」

そんなあたしの恥態を眺め降ろしながら、セリオが言う。
心無しか、セリオの声にも漸く高揚感が感じられた。
それに、あたしの中で脈打っているセリオのアレが、一回り大きくなった様な。

(セ、セリオも・・・!?)

セリオも、射精してしまいそうになっている。それも、あたしの膣で!

同時、奇妙な、期待感みたいなものが、あたしの身体を駆け抜けていった。
ざわめきが全身に起こる。あっと言う間に、あたしのアレも、膨らみ始める。
ゾクリ、首筋に堪え難いものが、蝟集した。

「ん! セ! セリオ、・・・っ!!」

「あ、綾香さ、ん、・・・っ」

ブ、ッ・・・!

爆ぜる。音が重なる。言い得様の無いものに脳が染められていく。
ともすれば意識が細暗い孔の中へ抜け落ちてしまいそうで、
そんなあたしを、後ろに引き付けていくセリオの両手と、
体内へ注がれる灼熱が、逃がさず、掴まえている。

「ぅ、・・・ぁは、・・・っ」

凄まじい絶頂感。それが少しずつ少しずつ引いていって、五感が戻ってくる。
体内にあるセリオのも、ベッドとの間に挟まっているあたしのも、まだ、まだ、硬い。
だけど、あたしの全身は、力らしきものを全て失っていた。
意識が保たれているのが不思議な気がする。

「は、・・・ぁ、・・・」
(もう駄目なのに・・・、あたしの、まだぴくぴくしてる・・・)

違う。ひくひくしているのは、あたしのだけじゃなかった。
セリオのアレも、あたしの膣、熱く硬く、脈動している。

「さて・・・、それじゃ綾香さん。そろそろ勝敗を、決しましょうか」

(・・・え?)

勝敗? 決する? 一瞬何の事か判らなくて、思考は霞む。
それからハッと、気が付いた。

(そ、そうだ! あたしまだ、降参してな・・・っ)

「ん、ぁあ!! ち、ちょっと、セリ、オ・・・っ!」

あたしが思い出したのを見計らったかの様に、セリオが動き出す。
膣の中、セリオの大きなモノが、奥底から浅口へと、ズルリ、こそぎ始める。
その身体の軸心を持って行かれる感覚に、あたしの言葉が途切れた。

「何ですか? 綾香さん」

言いながら、腰を引いていく。先端の張り出したところに、あたしが擦られる。
ゾクゾクとしたものにまた満たされていって、感覚という感覚が鈍くなる。
知っているのだ。セリオはあたしが何を言いたいのか。

「だ、だから、こ、こう・・・っ! ん、くっ!」

粘々とした水音が迸って、あたしが仰け反る。
激しく奥々まで突き入れられて、言葉など、紡げない。
それでも必死に言ってしまおうとするあたしは、
セリオの激しさを増す一方の腰使いに、どんどん、浚われていく。

「んぁ! ぁ、ちょ、くふっ! と、止まって・・・、っ! っ!」

広がっていく白光に、あたしの視界が次第、満たされていく。
其処は浩之に何度も連れて行かれて、すっかり馴染んでしまった、意識の外の世界だ。
考えてみれば失神は降参と同じなのだから、あたしはただ、昇って行けばいい。

(光が広がる・・・)

身体中が麻痺して、あたしは唯一、粘音と、肉音だけを認識していた。
そして目の前の眩光と、浮遊感。

(じゃね、セリオ)

心の中で呟いて、あたしは全てをあるがままに任せた。
・・・その瞬間。

「・・・、ぇ、ええ!?」

物凄い落下感覚と共に、あたしは現実世界に引き戻されていた。
音さえ立ててしまった様な気がする。ベッドの上に、あたしは相変わらず俯せになっていた。

「・・・ふふ」

笑い声が背中から聞こえる。セリオのものだ。
そして、あたしは全身に充満している満たされないもどかしさに気付いた。

「・・・な、なに、これ?」

戸惑いを隠さないあたしに、背中越しの声が降り懸かる。

「示唆して置いた筈ですよ、綾香さん。持久力の特訓が必要だと」

(・・・?)

その声は冷厳で、しかし、淫蕩に熱い。ヒップに突き入れたアレはそのままに、
セリオが前傾して、あたしの背中にしなだれ掛かってきた。その囁きは、レオタード越しの、
やたらぬめったセリオの肌の柔らかさとは似ても似つかない冷笑を含んでいた。

「・・・だから、失神など、許しません」

クス、と笑んだ、そんなイントネーションを残して、セリオの唇が遠退く。
そしてあたしが某か一言でも発する前に、セリオはその細腰を、遣い始めた。





「・・・ぅ」

明かりの灯されている室内。ベッドの上。此処はあたしの寝室だ。
どうやらすっかりと陽の暮れてしまったらしい室内は、仄暗い。
あたしは天井を見上げていた。四肢は何処かに放り投げられている。力が入らないのだ。

憶えていた。あたしは散々、暇無くセリオにいたぶられて、遂に、やっと、失神出来たのだ。
気付いて下半身の気配を窺ってみると、例の魔法に拠る物体は消滅しているらしかった。
と、部屋の扉が開かれて、一人、入ってくる。セリオだった。

「お目覚めですか? 綾香さん」

「・・・・・・ん。ま、まぁ・・・」

何か言おうとしても気怠くて、あたしは言葉らしい言葉は口にしなかった。
セリオが真っ直ぐベッドの横に来て、手を衝き、あたしの貌を覗き込む。
熱い視線だ。それはあたしの淫戯に溺れた、惚け切った表情を、つぶさに観察している。
瞳は程無く逸れて、セリオが貌を上げた。音をさせて、ベッドの上に乗ってくる。
そしてセリオは動けないあたしの上に四つん這いになって被さった。

「セ、セリオ・・・?」

貌と貌が、近い。それも少しずつ間隔を縮めている。
キスされるのかと思ったら、ふと方向を歪めて、あたしの耳元が唇にくすぐられた。

「・・・ん、な、何・・・?」

本当なら抵抗しなければならないのだが、あたしの身体にその力は無い。
あたしは僅かに首を捻って逃れようとして、そんな動作は無駄だった。
セリオの唇が簡単に付いてきて、あたしの耳介に舌を這わしていく。

「こ、こら・・・」

拒絶を言葉にしてみても、その吐息が熱くて、自分自身驚かされる。
耳朶から耳孔へ舌が滑り込んでいって、言葉が断たれる。
ひく、ひく、身体を蠢かしてしまったあたしを確認しながら、セリオが言った。

「ふふ・・・。駄目ですよ綾香さん、抵抗したら。これは勝負の代償なんですから・・・」

(・・・え)

言われて理解する。あたしは確かに、さっきの勝負で遂に『降参』は口に出来なかった。
そしてやっと失神して、目覚めたのがつい今程だ。
だから、これからセリオが遣ろうとしているのは、勝者の当然の行為。

「そ、そんな、直ぐなん、て・・・っ!?」

セリオの唇が、あたしの唇を捉える。そうして大した抗議も出来ないままに、
あたしは再びあの茫洋とした熱狂の世界へと、連れられて行ってしまった。