劣情の果てにあるモノ




 闇。
 響き渡る、淫らな歌声。
 織姫の顔は涙と涎に醜く歪み、その両足は打ち付けられる男の腰をしっかりと抱え込んでいる。一糸纏わぬ火照った肌のそこかしろには白い精液がどろりと跡を残し、その為か、窓一つ無いこの狭く薄暗い部屋の中には、噎せ返るほどの性臭が立ち込めていた。
「いやぁっ、駄目っ、いっく、あっ、はぁぁぁぁっ!!」
 身体の奥を深深と突き上げられ、織姫は絶叫と共に、何度もその細い肢体を激しく震わせた。もはや織姫には、強制的に襲い来る快楽に抵抗するだけの意志は無い。幾度も繰り返し投薬された薬によって、そして永続的に続く陵辱によって。ただ繋がれた両手の鎖をジャラジャラと鳴らし、その全身を以って快楽を表現するだけの、そんな哀れな人形へと成り果ててしまっていた。
「またいきやがったのか? けっ、随分と淫乱になったもんだな」
「貴族とは言え、所詮は牝犬って事だ」
「ちげぇねえ」
 薄汚れたベッドの上で、上気した肌を震わせながらひきつった様に荒い息を吐く織姫を見下ろし。織姫を囲んだ3人の男達は、それぞれに厭らしい笑みを浮かべた。
「で、もう1人の方はどうなんだ」
「ああ、あのガキか? あいつは相変わらずさ。ホント無駄だって判んねえのかねぇ。どんなに我慢したって、助けなんて絶対きやしねぇってのによ」
「なんなら薬の量を増やしたらどうだ? せっかく大量にせしめて来たんだ」
「馬鹿かお前は。壊しちまうと叱られちまうだろうが。それにせっかくの上玉なんだ、なにがなんでもうまく躾てやるさ」
 部屋の壁に打ち付けられた鎖を手首に架せられたレニは、そんな3人の会話を聞きながら、朦朧とする意識の中を漫然と漂っていた。
 この部屋に監禁されたから、果たして何日が過ぎたのだろうか。そんな事も判らなくなるほどに、男達は執拗に織姫を、そして自分を責め立てた。自分とは違い特殊訓練されていない織姫が、薬と陵辱がもたらす強制的な快楽に屈するのは早かった。しかしレニは薬に対抗する手段を持っていた為に、男達に薬物を投薬され、そして執拗に犯されても、辛うじて理性を、意識を保っていられた。
 しかし、それも限界に近かった。屈してしまえ。快楽に抗うな。心の奥底からどす黒い欲望が沸き上がるのを、もはや喉元に止められないところまで来てしまっていた。織姫が激しく犯されているのを眺めていたレニの身体は小刻みに震え、その目は欲情の為に赤く潤んでいた。そしてきつく閉じられた股間からは、はしたない液体が太股を伝い零れ落ち、それは床に欲情という名の小さな水溜まりを作るほどだった。
 だから男達が自分に近づいてきた時、レニは激しい恐怖を、そして僅かな期待を憶えたのだ。自分はこれからどうなってしまうのか判らない。感情をコントロールする事もできない。そして、もうこれ以上我慢することも出来そうに無い。
 そうだ、ボクも織姫の様に気持ち良くなりたいんだ……。
「なぁ、いい加減素直になりなよ。ただ俺達に協力してくれるだけでいいんだ。それだけで、お前をイかしてやることができるんだぜ。あいつの様にな」
 髭面の男はレニの顎を掴むと、
「なぁ織姫、お前からもレニに言ってやれよ。一緒に気持ち良くなろうってよ!」
「いつまでもイってるんじゃねえよ! こっちに来やがれ!」
「うぁ……もっと…もっとして」
 手首の鎖を外された織姫は、男に無理矢理引きずられレニの目の前へと連れてこられる。その表情は恐怖ではなく劣情に赤く染まり、以前の凛とした、あの織姫の面影はどこにも無かった。彼女はもう壊れていたのだ。どこまでも淫乱に。
「ねぇ、足りないのよ。もっと入れて、もっと掻き回して……」
「心配するな。こいつをイかせてやったら、また何度でもぶち込んでやるよ」
 ニヤニヤと笑いながら、男は織姫の身体をレニへと押し付けた。
「本当? レニをイかせたら、私もイかせてくれる?」
「ああ、たっぷりとな」
 織姫は男の言葉に嬉々として頷くと、レニの子供の様な無垢な肢体へ手を伸ばした。レニはその様をぼんやりと眺めながら、確固たる期待を胸に、熱い息を吐き出したのだった……。


 クリスマスに行われた特別公演が無事終わり、その日の夜、帝劇を上げた舞台の打ち上げが盛大に行われた。
 それと共に、16歳になった自らの誕生日を祝ってくれた大切な仲間達。
 この世に生れ、今を生きる事の喜びに満ち溢れた、それはどこまでも暖かな宴だった。
 そしてそれは、レニ・ミルヒシュトラーセにとって。初めての体験でもあった。
 人間という一個性を徹底的に無視し、ただ強力な戦闘兵を育て上げるために計られた、祖国ドイツでのグィックストゥーム計画。その被験者として、レニは9歳まであらゆる感情を抑制され、ただの精密なる戦闘兵器として育てられてきたのだ。そう、喜怒哀楽を持たず、生ある喜びすらも持たず。どこまでも冷徹で冷血な兵器として。
 もし帝国歌劇団に入隊する事が無ければ、レニの人生は、きっとどこまでも悲惨な結末を辿っていただろう。だからレニは感謝していた。この花組で知り合えた大切な仲間たちに。そして何よりも、自分を窮地の淵から救ってくれた花組の隊長、大神一郎に。
 楽しい時が過ぎ去るのは本当にあっと言う間で。
 華やいだ宴も、いつしか終わりを迎える頃。
 レニは一人、テラスから、帝都の美しい夜景を眺めていた。
 黒鬼会、叛乱軍、そしてその首謀者である京極慶吾を討ち滅ぼし、帝都には確かな平和が訪れた。大規模なクーデターがもたらした爪痕は決して浅くはなかった。しかし帝都は徐々にだが確実に復興の兆しを見せはじめ、そんな活気に溢れた人々の生命が放つ輝かしい光が、満天の星空の下、帝都を暖かく彩っている。
 美しい景色だ。レニは素直に思った。
 日本に訪れた当初、景色を美しいと感じる事など絶対に有り得ないと思っていた。レニはテラスに寄りかかると目を細めた。果たして自分は、この美しい街に相応しい人間になる事ができるのであろうか。そして、もし何が大事が起こった時。この街を。花組を。そして隊長を守る事ができるのだろうか……。
「そんな所で上着も羽織らないで。風邪をひいてしまうわよ、レニ」
 声の主は、同じ時期に花組へ入隊したイタリアの赤い貴族、ソレッタ・織姫だった。鮮やかな真紅のドレス、そして琥珀色をした液体の注がれたワイングラスを片手にレニの隣に立つと、織姫もレニと同じように、テラスから帝都の街並みを見下ろした。
「奇麗な景色……。レニもそう思うでしょう?」
 織姫が問い掛けると、レニは街を見下ろしたまま小さく頷いた。
「ああ。奇麗だと思う」
「私、日本の事が好きになれそう。最初は大嫌いだったのよ。この帝国歌劇団も、隊長さんもね。でも、今は違うわ」
 そして織姫は軽くグラスを煽り、柔らかな笑顔を浮かべた。
「今は、この日本もこの帝国歌劇団も、わたしの大事な一部。レニ。あなたと一緒なの」
「ああ。ボクも織姫と一緒だ」
 微かな笑みと共に、レニは小さく頷いたのだった。
 そう、大切な仲間達。そして、大切な場所を守る為に。
 京極が八鬼門封魔陣によって蘇らせた武蔵に立ち向かい。
 復活を遂げ、更に強大になって襲い掛かってきた敵達を討ち滅ぼし。
 そして、巨大魔操機兵「新皇」との最後の戦いに勝利した花組。
 全ての戦いを終え、隊長である大神一郎は一人巴里へと旅立っていったが、帝都は確かに平和になった筈であった。
 それなのに。
 どうして。
 どうして、こんな事になってしまったのだろうか。


 織姫は口元に妖艶な笑みを浮かべ、レニの小さな身体に覆い被さった。
「レニ、一緒に気持ち良くなりましょう」
「だめだ……だめぇ」
「ん……」
 嫌々と弱々しく首を振るレニの唇に自分の唇を重ねる。そして舌を強引に絡めさせながら冷たい床に力ずくで押し倒すと、織姫はその手を硬く閉じられたレニの秘部へと滑り込ませた。
「ああっ、やめてっ。織姫、だめだよ」
「口じゃあ嫌って言っている割に、レニのここ、凄く濡れているわよ」
「うんんっ!」
「ほらぁ、とってもねばねばしてる」
 指にねっとりと絡みついたレニの熱い粘液。それを舌でべろりと舐め上げ、織姫は妖艶な笑みを浮かべた。
「ふふ。レニもとってもエッチなのね。ねぇ、我慢しているんでしょう」
「だめっ。織姫、正気に戻って……ひああっ!」
「素直になりましょう。そして一緒にいかせてもらうの。とっても気持ち良いんだから」
 そこは既に熱く潤いを帯びていて、織姫の指を容易く飲み込んでしまう。心の奥底で、確かに待ち望んでいた愛撫。レニは織姫の下で身体を大きく反らし、歯を食いしばった。このままでは挫けてしまう。快感に屈してしまう。けれど理性がどれだけ警鐘を鳴らしたところで、焦らされきった身体は全くいうことを聞いてくれない。
「ほら、素直になりましょうよ。気持ち良いんでしょう」
「織姫っ、駄目だよ。もうボク駄目になっちゃうよ……」
「ふふ。駄目になってしまえばいいのよ」
 織姫の愛撫は執拗で、無理に快感を押さえ込んでいたレニにとって正に拷問だった。レニは嬌声を喉の奥に押し殺し。身体を震わせながら、股間から這い上がってくる凶悪な快楽に抗おうとした。しかし織姫の指がレニの一番敏感な場所に触れると、もう駄目だった。
「あっ!」
「こんなに腫れ上がって。触って欲しいって言っているわ。そうなのでしょう、レニ」
「ちが、あひっ!」
「ほらほらっ、イッちゃいなさいっ」
「んっ、んあっ、あああああ!!」
 クリトリスを乱暴に抓まれ、レニは堪らず大きな声で鳴いた。目を一杯に見開き、開かれた口からだらしなく涎を垂らし。息を詰まらせ身体を何度も何度も大きく震わせてから、ようやくレニは荒い息を吐き出した。そうやって堪えれば堪えるほどに。全身を突き抜けていく絶頂の甘い感覚が、思考を麻痺させていく。
「イッたの、レニ。イッたんでしょう?」
「ああ……」
 赤く潤んだ瞳に見つめられ。レニは暫く俯いていたが、やがて小さく頷いた。
 諦めてしまえ。
 快楽に溺れてしまえ。
 そうすれば、楽になれるのだ。
「おっし、約束だ。くれてやるよ」
 にやにや笑いながら男が近づいて来ると、織姫は腰を持ち上げると、まるで盛りのついた犬のように男に向かって腰を振った。
「ああっ、早くちょうだい! もう堪らないの! 我慢できないっ。入れてっ、めちゃくちゃに犯してっ!」
「よし、ご褒美だ。遠慮なく味わいな」
「あひゃああっ、気持ちいいっ! もっと、もっと!」
 男の逞しい一物に貫かれ、織姫は恥も外部も無く嬌声を振り撒いた。
 そんな織姫を、レニはじっと眺めていた。
 劣情に、瞳を潤ませて。


 シロが居なくなったという知らせを聞いた時、レニは次回公演の練習の最中だった。
「昨日から誰も見ていないのよ。ほんと、どこに行っちゃったのかしら」
 そして休憩時間、楽屋裏で溜息混じりに呟いたのは織姫だった。今週のシロの散歩当番は織姫であったのだ。しかし、肝心のシロがどこにも居ない。織姫は首輪を所在無さげに弄びながら呟く。
「もしかして、勝手に外に飛び出しちゃったのかしら」
「その可能性はあるね」
 レニはタオルで汗を拭いながら、織姫の呟きに相槌をうった。
「最近稽古が忙しかったから、散歩も飛び飛びになっていたからね。我慢できずに勝手に出て行ったのかもしれない」
「しょうがないわねぇ。それじゃ、これからちょっと周りを探しに行ってくるわ」
「ボクも手伝うよ」
「ありがとう。それじゃあ行きましょうか」
 そして2人は帝劇の外へと出た。昼食時、人で溢れ返る活気ある街並みの中、見渡す限り白い犬らしき姿はどこにも無い。2人はいつもの散歩コースを探すことにし、近所の神社へと足を運んだ。
「シロ、どこにいるの? シロー」
 ほとんど人気の無い閑散とした社の境内に織姫の声が響き渡る。しかしシロが飛び出してくることは無かった。それから1時間、神社に当たりをつけ探し回ったが、結局シロは見つからなかった。
「本当、どこに行ってしまったのかしら」
「今晩でも、みんなに相談しよう」
 そして、2人が帝劇へ戻ろうとした時。
 境内にいた一人の小柄な男が、織姫に声を掛けてきた。
「先程から気になっていたんだが。もしかしてお嬢ちゃん達、子犬をお探しかい」
 その30くらいの茶色いスーツを着た男は妙に痩せ細っていて、杖を手に2人に近寄ってきた。どうやら足が不自由なようだった。織姫は男の言葉を受けて、レニの顔を見た。レニは頷くと、男に尋ねた。
「その子犬は白いですか?」
「ああ、白いな」
「どこで見かけたか、教えていただけませんか」
 レニの言葉に、男は人懐っこい笑みを浮かべた。
「いいだろう、ついて来なさい」
 そして男はひょこひょこと歩き始めた。その後を追う2人。男はどうやら社の外れにある、古びた小屋へと向かっているらしい。
「また、こんなに遠くまで。まったくあの子ったら……」
 織姫は男の後を歩きながら苦い笑みを浮かべた。レニも笑う。
「犬は知能が高い動物だからね。ボク達を驚かせようと思っているんだよ、きっと」
「ええ、そうに違いないわ。ほんと、見つけたらおしおきしないとね。今晩のご飯、抜いてやろうかしら」
「あはは、それはかわいそうだよ」
「ここだ。この小屋の側で見かけたんだ」
 その古い小屋には、レニも織姫も、一度だけだがシロの散歩中に足を運んだ事があった。だから2人は、男の言葉に疑いを持つことをしなかったのだ。
「この辺りだ。この辺りで子犬を見かけたんだ」
「ありがとうおじ様。じゃあわたしはこっち側を探すわ。レニは向こうを探してみて」
「了解」
 男の言葉に、レニと織姫は早速辺りを散策することにした。
 雑草の生い茂る林の中を、織姫はシロの名前を呼びながら探し続ける。
 しかし、小屋の周りには何の気配も無い。
 暫く、5分ほど探してから、一旦レニに合流しようとした時だった。
 不意に背後に、気配を感じたのだ。
 きっとレニか男だろうと思って振り返ろうとしたとき、思わぬ怪力に羽交い絞めされた。同時に布か何かで口が押さえつけられる。
「んーっ、んーっ!!」
 抱きすくめられるという激しい嫌悪感。思い切り悲鳴を上げるが、強烈な力に押さえつけられくぐもった声しか出ない。暫くすると、織姫の意識は白いもやに包まれ、意識を失った。布に薬が染込まれていたのである。
「織姫っ!」
 異常を感じ取ったレニが現場に駆けつけると、そこにはぐったりと気を失った織姫を抱えた巨漢の男と、ここまで道案内をしてくれた痩身の男が下品な笑みを浮かべてこちらこ眺めていた。
「織姫に何をしたんだ!」
「ちょっと眠ってもらったまでさ」
 痩身の男はくっくっくっと喉がつっかえたような笑い声を上げた。
「まさかこんな所でこんな上玉に巡り合えるとはな。今日は運が良い」
「何せ帝劇のトップスターだ。兄貴たちの喜ぶ顔が浮かんでくるぜ」
「織姫を放せ!」
「威勢が良いな。しかしそれもここまでだ」
 巨漢の腕が、織姫の喉下に伸びる。
「ほんの少し力を入れれば……どうなると思う?」
「くっ……」
「おい、そこを動くなよ」
 痩身の男はレニに近づくと、たっぷりと薬品を染み付けた布をレニの口元へと押し当てた。息を止めて抵抗するレニ。しかしそれも長くは続かない。
「く……」
 意識が白い靄に包まれていく。そして、ついにレニは意識を失った。


 レニにはSEXの経験など無かった。
 しかし、興味が無いわけではなかった。
 目前で繰り広げられる常識を逸脱した饗宴。
 織姫は既に人間としての、帝劇メンバーとしてのプライドを粉々に砕かれ、男達に貫かれては歓喜の声を上げている。
 そのいやらしい声が聞こえてくる度に、レニの半身は疼いた。
 無論、投与された大量の薬が原因である。通常の二倍近くの薬を飲まされたレニ。理性という名の鎖は既にぼろぼろに侵食され、もはや千切れる寸前だった。
「そら、そろそろ素直になれよ」
 男が近寄ってきた。レニはその男の顔を、焦点が合わない瞳で見上げた。
「気持ち良くなりたいんだろう?」
 頷けば全てが終わる。
 終わるのだ。
 この悪夢も、この疼きも。
 頷いてしまえ。
 そうすれば、楽になれる……。
「どうなんだ、気持ち良くなりたくは無いのか?」
 男の言葉には、嘲りが含まれていた。
 こくん。
 レニは、小さく頷いた。
 頷いてしまった。

 もう、後には戻れない。

「ようし、ようやく素直になったな。それじゃあ可愛がってやるよ」
 男はレニに圧し掛かってきた。強引に小柄のレニを組み敷くと、まだまだ未発達の乳房を舌で嘗め回した。それだけでレニは大きく身体を振るわせた。
「ガキのくせに、感度は上々だな」
「おい、無茶をするなよな。壊してしまっちゃあ兄貴に合わせる顔が無いぞ」
「分かってるって」
 男は他の男の言葉にぞんざいに答えると、レニの乳房を再度嘗め回した。そして唾液で怪しくてかる乳首を口に含み、それを舌先でコロコロと転がす。
「ああっ」
「どうだ、気持ち良いだろう? 気持ち良かったら、はいって言いやがれ」
「……はい」
「ようし」
 満足げに頷いた男は、乳房を弄びながら空いた手をレニの秘部へと持っていった。そこは既にぐしょぐしょに濡れそぼり、男の手を今か今かと待ち望んでいるようだった。
「さすがに兄貴の作る薬だけはあるな。触りもしねえのに本気汁でべたべたじゃねぇか」
 そう言って、男は乱暴にレニのヴァギナを親指の端で擦り上げた。
「んぁっ!」
「ほら、見ろよ。白くてべたべたして濁ってやがる。これはな、お前が本気で感じているって証拠なんだよ」
「ああ……」
 レニは陶然と男の指先を眺めた。白く粘ついた粘液。男はそれをレニの口元に持っていく。
「舐めて見やがれ」
「……うん」
 舌を突き出して舐めてみると、奇妙な味が口内に広がった。
 更に頭がおかしくなる。
「はやく……」
 無意識に口をついた言葉。男は歪んだ笑みで頷いた。
「おお、これだけ濡れていりゃ痛くも無いだろう」
 レニを仰向けにすると、男はそそり立った一物を一気に挿入した。
「んああああっ!」
 確かに痛くは無かったが、それ以上の激しい快感が脳髄を貫いた。
 身体がガクガクと震える。視界が赤く、白く、はじけ飛んだ。
 レニは挿入された時点で気をやってしまったのだ。
「おお、狭くって熱くってきゅうきゅうと締め付けやがる。こいつは名器だぜ」
 満足げな男の言葉と共に、しかしレニはそれどころでは無かった。
 初めて味わう強烈な絶頂感に、半分ほど意識を失っていたのである。
 しかし男が腰を使い始めると意識が強引に覚醒され、レニは半狂乱になって喘ぎ声を上げた。
「ああっ、駄目! もう駄目っ!」
 二度目の絶頂もあっという間だった。レニは小さな身体をピンと伸ばすと、口からだらだら涎をたらし、相手に男の身体に必死に抱きついた。
 もう耐えなくていい。
 そして、逃げる必要もない。
 遠ざかっていく意識の中。レニはどこか安堵しつつ、そう確信したのだった。


「シロが居なくなった?」
 楽屋の中で。マリアは台本をテーブルに置くと、レニに問いかけた。
「うん。朝からどこにもいないんだ……」
「ちょっと、レニ、あなた大丈夫? 顔色が悪いみたいだけど……」
「大丈夫だよ。ちょっと風邪を引いただけ」
「だから、一緒に探しに来て欲しいの」
 織姫もどこか様子がおかしかった。どこか夢を見る表情で。言動もふらふらとしていて、普段毅然としている織姫とは全く違っている。
「あなたたち、昼間シロを探しに行ってから、ちょっと様子が変よ」
「気のせいですよー」
 織姫はそう言うと、マリアの首に両腕を回し垂れかかった。
「ねぇ、一緒に探しに行きましょうよ」
「それは、構わないけど……」
 まさかそれが自分を罠に陥れるための口実だとは、流石のマリアも見抜けなかった。

 シロの死体は既に小屋の脇に埋められていた。
 そう、まだ、悪夢は終わらない。