お酒は二十歳になってから




「あーっ、もう無理っ! 無理ったら無理なの無理に決まってるぅ!」
 自室のテーブルの上、散らばった原稿の中に埋もれるように突っ伏し。
 大庭詠美はペンを放り投げ、だーっと涙を流しながら絶叫した。
 3月19日、昼。こみパを一週間後に控えた今現段階で。
 原稿は未だ、半分も仕上がってはいない。
 正に、絶体絶命の大ピンチである。
「ううっ、これもそれもあれもかれも全部っ、あの馬鹿が悪いんだぁっ!!」
 あの馬鹿こと某雑誌の編集長、彼は実際のところ何も悪くは無い。
 悪いのは詠美本人のスケジュール管理能力の低さなのだが、詠美にはそんなモン知ったことではなかった。プロになって商業誌に漫画を書くようになって早1年が経とうとしているのだが、詠美は相も変わらず、なのである。我侭、短気、そして短絡思考。周りが止めるのにもかかわらずに同人誌とプロの二足の草鞋を履き、周りがなんとかフォローしてくれているからこそ生き残れている事に感謝こそすれど、それを直そうと努力しない。それでも詠美を庇う人間が多いのは、良いか悪いかは別として、その純粋さこそが彼女の魅力だということなのだろう。
「うみぃぃぃっ! もう嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ〜〜〜っ!!」
 駄々っ子のように頭を嫌々と振りながら半べそかいていた時。
 机の上の電話の子機が、ルルル、と鳴り響いた。
 母は仕事に出かけているので、今、自宅には誰もいない。
 詠美は仕方が無くコタツから這い出ると、受話器を手に取った。
「はい……ぐすっ。もしもしぃ」
「なんや、泣いとるんか? なんかあったんかいな、詠美」
「あ〜っ、その声は温泉子ぱんだぁ!」
 久々に聞くその声に、詠美は驚きと喜びの声を上げた。
 電話の相手は猪名川由宇。
 詠美の最大のライバルにして、唯一無二の親友である。
「うわっ、いきなり大声で喋らへんといてっ。耳が痛いやないかいっ」
「きゃはははっ!」
「笑いごとじゃないわっ。鼓膜破れたらどないしてくれるんや、あほっ!」
「きゃうっ」
 怒鳴り返され、慌てて受話器を遠ざける詠美。
「なっ、なにすんのよぉっ! 鼓膜が破れちゃうじゃないっ!」
「はんっ、正当防衛や」
「う〜〜〜っ。温泉子パンダがあたしになんの用よっ。こっちは今、めちゃくちゃ忙しいんだからねっ!」
「忙しいって、もしかして……こみパの原稿かいな。あんた確か、今月は商業誌の方も書いとるんちゃうん?」
 そう、由宇の言うとおり。こみパの原稿が酷い有様なのは、今月前半全てを回して商業誌の原稿を書いていたからだった。なんのかんのと言いながら、作品に対しては決して手を抜かない詠美である。だからこそプロに専念すれば良いものを、よほど思い入れがあるのだろう。詠美はこみパから足を洗う気にはなれなかったし、これからも続けていくつもりだった。
「だから忙しいのっ! まだ半分も書けてないのっ! 温泉子パンダとじゃれあってる暇なんて一分たりとも無いのよっ! がるるるるっ!!」
 詠美が受話器に向かって唸り声を上げると、受話器の向こうからあからさまな溜め息が聞こえてきた。
「はぁ。相変わらず難儀なやっちゃなぁ……」
「放っといてよっ! あんたには関係無いんだからぁ!」
「あほ。愚痴聞いたからにはうちも関係者や。ああもう、こないなことなるんやったら電話なんかせえへんかったらよかったわ」
 しばし沈黙。そして再度の、大きな溜め息。
「はぁ〜〜〜っ。ま、しゃあないか。いつものことやしな」
「うみゅうっ」
「あんた。うちがいつも泊まってるホテル、知ってるやろ」
「いつもと同じなら、分かるけど」
 由宇の声が優しくなると、詠美の声は途端に勢いを無くす。
 互いに長い付き合いだ。
 互いの考えていることは、互いに良く分かる。
「ほんまはこっちも余裕ないんやけどなぁ。……ええわ、ほんなら今すぐホテルまで原稿もってきぃ。手伝ったるさかい」
「……いいの?」
「だからええっていってるやんか。ほら、あんまり時間無いんやろ。急いできい」
「うん。わかった」
「長期戦になるんやから、ジュースくらいは差し入れにもってきいや。あと、部屋の番号は308号室やから。ほな、部屋で待ってるからな」
 がちゃり。
 そして電話の途絶えた受話器を戻すと、原稿用紙と画材道具を鞄に詰め込み。
 詠美は急いで家を出たのだった。


 由宇は家業の旅館を継いで、既に現役を半分以上引退している。が、未だその腕は本物だと詠美は思う。だからこうして、大事な自分の原稿を任せることができるのだ。
「運が良かったと思いや。いつもこうして手伝える訳とちゃうんやからな」
 ペンをさばきながらの由宇の言葉はもっともだった。今回はたまたま用事ついでに早く東京入りしていただけで、あまりイベントに参加しなくなった由宇はほとんど前日入りしかしない。本当に運が良かったと詠美は心の底から思う。
「感謝してあげるわっ、ありがたく思うのねっ!」
「はいはい。減らず口叩く暇あるんやったら、さっさとペンを動かしぃ」
「ううっ、わかってるわよぉ」
 そんなこんなでホテルに缶詰しながら、黙々と作業すること丸3日。
 ようやく、完成の目途が見えてきた。
「ふぅ。このペースで行けば、なんとかなりそうやな」
 原稿の一枚一枚を丁寧にチェックしながら、由宇はその顔に、疲れながらも優しい笑みを浮かべた。
「それにしても、久々に缶詰すると肩がこるもんやなぁ。うちももう歳かいな」
「あははっ、おばちゃんおばちゃん、由宇おばちゃん♪」
「……あんたには、世の中の厳しさっちゅう奴を1から教えんといかんようやな」
「にゃっ! ふみゅぅぅん!」
「ふ〜、スッキリしたわ。ところで今日って何日や?」
 詠美の脳天に本気のチョップを食らわしてから、由宇は腕時計の日付を見た。
 今日は3月22日。こみパまで、あと4日である。この調子なら、詠美1人でもなんとかギリギリで間に合うだろう。
 そして、ふと気付いた。
「なぁ詠美。あんた、誕生日って確か3月やったやろ。3月の何日やった?」
「ん……? あっ」
「そのリアクションやと、すっかりど忘れしてたようやな」
 口を開けてぽかんとする詠美に、呆れ顔で由宇。
「あんた、今年で二十歳やろ? そない大切な誕生日、普通忘れるかいな」
「しょっ、しょっ、しょうがないじゃないっ! 今年は本気でめちゃくちゃに忙しかったんだからぁ!」
「はいはい。で、肝心の誕生日。何日やったんや?」
「……3月20日っ」
「なんや、もうとっくに過ぎてるやんか。しかも一昨日かい」
 由宇は思わず苦笑いを浮かべた。
「ちゅうことは、詠美ちゃん様は記念すべき二十歳の誕生日すらも原稿に追われてたわけやな。売れっ子は大変やねぇ」
「ううっ、ちょうむかつくぅっ! そんな言い方しなくてもいいじゃないっ!!」
「あははっ、冗談やて。そう怒らんとき」
「うぅぅぅぅっ!」
「まあ仕事で忙しかったんならしょうがないわな」
 そこまで言ってから。由宇は何かを思いついたのだろう、ぽんと手を叩いた。
「そや! せっかくやし、どないや? こみパ終わったら、あんたの誕生日祝いせえへんか?」
「え〜っ! なっ、なんか怖いこと企んでるんじゃないでしょうねっ!」
「あほかっ。うちは100パーセント善意でいってるんや。まぁ、詠美が他の……たとえば男と予定が入ってるゆうんやったら、遠慮させてもらうけどな」
「そっ、そっ、そっ……、そんな男っ、いないわよおっ!」
 顔を真っ赤にして怒鳴る詠美。
 由宇は意地の悪い笑みを浮かべ、やれやれと大げさに肩をすくめてみせる。
「そりゃそうや、誕生日忘れて原稿書いてるくらいやもんな。それにどうせあんたの事やから、当日はこみパ以外、他に何も予定入ってないんやろ?」
「ううっ。でもでも……」
「でももへちまもあるかい。だいたいな、うちんとこに押しかけて原稿手伝わせといて、今更なにを遠慮しとんねん。よっしゃ、もう決まりや。こみパがはけたら、あんたの家でうちと2人で誕生日パーティー! 決定やなっ」
「うみゅうっ。わかったわよぉ」
 そして、その日は同じベットで仲良く眠りに就く2人。
 詠美は由宇の安らかな寝顔を間近に眺め。
 照れくさそうに微笑むと、小さく呟いたのだった。
「……ありがとうね、由宇」


 そしてこみパも無事終わり。
「よっしゃ、完売やっ!」
「あのねぇ……。本作ってたんなら黙ってないで最初から言いなさいよねっ」
「あははっ、まあええやないか。お互い完売してんやし。そないなことよりも、や。今日はぱーっと盛り上がるでっ!」
 月明かり照らす夜道、意気揚々と詠美の自宅へと向かう由宇。その手には、菓子やらジュースやらで膨らんだコンビニの袋あった。
 そして詠美の部屋に入るなり、早速打ち上げが始まった。
「それでは無事こみパが終わった事と、詠美の二十歳の誕生日を祝って。かんぱ〜い!」
「かんぱ〜いっ!」
 コーラの入ったグラスで乾杯をする。テーブルに並べたとりどりの料理やお菓子を食べながら、2人は普段どおりのペースで談笑を交え、宴は盛り上がっていく。
 そして、大枚を叩いて買った大きなバースディケーキを食べ終わり。
 由宇がとっておきと取り出したのは、700mlのボトルウイスキーだった。
「せっかく二十歳になったんや。やっぱコレがないとなぁ」
「えーっ、お酒っ?! 駄目っ、あたし全然飲めないっ!」
「あほっ、酒っちゅうもんはな、最初は誰だって飲まれへん思うもんや」
 ちっちっち、と指を振り、不敵に笑う由宇。
「けどな、飲んでるうちに慣れてきて気持ちようなれるんや。何事も経験が大事っちゅうことやな」
 ジュースが注がれていた詠美のグラスをくいっと空けて、由宇はそれにウイスキーをトクトクと指2本分ついだ。そこにコーラを更に3倍ほどそそいでよくかき混ぜると、それを詠美に差し出した。
「騙されたと思って飲んでみぃ。あんたが思ってるほど不味くはあらへんから」
「ううっ……、本当?」
「嘘やったら、金輪際あんたには酒をすすめへん」
「う〜〜〜っ、わかったわよぉ」
 恐る恐るグラスを手に取り、目をつぶって少しだけ口を付けてみる。
 コーラの軽い味わいの中に混じる、多少クセのある、微かなコク。
 なるほど、これなら飲めないことも無い。
 詠美は覚悟を決めて、ぐい、と大きくグラスをあおった。
「どないや?」
「……不思議な味」
「不味いか?」
「……ん〜、不味くは無いけどぉ」
「せやろっ」
 戸惑いがちな詠美の言葉に、由宇は破顔した。
「さすがに生で飲むんはあたしでもきっついけどな、こうやってジュースで割って飲むと飲み易いやろ? さ、うちも飲もうっと」
 由宇は嬉しそうに自分のグラスにもウイスキーをつぐと、詠美と同じ割合でコークハイをつくり、それをぐ〜っとあおった。
「ぷはぁ。あ〜っ、ほんま美味いわぁ。五臓六腑に染み渡りよる。ほんま、こみパはけた後の酒は最高やねぇ!」
「由宇、なんか親父くさい」
「やかましぃ。ほら、あんたもどんどん飲み。酒はまだまだあるんやからな」
「ううっ、破滅の予感がぁ……」
 詠美は未知なる恐怖に脅えながらも、ちびちびと酒をあおる。すると不思議なことに、いつのまにかそれが美味しく感じられるようになってきた。
「もしかして、お酒って美味しいかも」
「せやろ? これであんたも大人の仲間入りやっ」
「なんか複雑だけど……、あははっ、嬉しいかも」
 そうして酒を飲むこと1時間が経ち。
 2人の話題はこみパの話題から、徐々に成人同人誌の話題になっていった。
「物語の展開上、絶対に避けて通れへん部分ってあるやないか。そこを書くか書けへんかで、ごっつい雰囲気が変わるもんやねん」
「ん〜っ。あたしもそう思う時があるなぁ。……あ、そうだ」
 酔いが回ってきた詠美はおぼつかない足取りで部屋の隅に行くと、昼間の挨拶回りで貰ったままずっと紙袋に入れっぱなしだった成人同人誌を取り出し、それをびらっと由宇に見せた。
「ねぇねぇっ、これ見てよっ。ほらほらっ、すっごいえっちぃだよぉ」
「うわっ、なんやこれ。ごっつうエロいなぁ」
 同じく酔いが回ってきた由宇はグラス片手にその同人誌をまじまじと読んで見て、赤く火照った頬を更に火照らせた。
「特に精液の描写が秀逸やねぇ。この作者、これからぐんぐん伸びるやろうなぁ」
「う〜〜〜っ、あたしもえっちぃな奴、書きたいなぁ」
 一指し指をくわえ、羨ましげにその成人同人誌を眺める詠美。由宇は意地の悪い笑みを浮かべる。
「エロい同人誌を書くんやったら、あんたもえっちぃを経験せんことにはなぁ」
「む〜っ、やっぱりそうかなぁ」
「百聞は一見にしかず、や。エロ書きたけりゃ、セックスのひとつもせんと駄目や」
「ふにゅ〜〜〜」
 由宇の言葉に、頭を垂れてしおしおとグラスをあおる詠美。
 そんな詠美がひどく可愛らしく見えて。
 由宇は無意識の内に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 イベントが無事に終わり、気が緩んでいたのだ。
 そのうえ酒が入り、自制心が効かなくなっていた。
 そこにあんなにも激しい性描写を見せられ、どうにかならない方がおかしかった。
 しかし、膨らみかけた妄想を、由宇は慌てて振り払う。

 なに考えてんねんアホっ。うちと詠美は女同士なんやで……。

 そんな由宇を知らずか、詠美は更に一冊の同人誌を持ってきた。
「それじゃあこれは? これだったらあたし、セックスしてなくても書けるかなぁ」
 それは女性同士が淫らに絡み合う、レズネタものの同人誌であった。
 詠美の行動はあくまで興味本位のものだと分かっている。しかし酔った勢いに任せ、思わずそれを熟読してしまう由宇。
 次第に喉がカラカラに渇いてきて、由宇はグラスに半分以上残っていた液体を一気に飲み干した。
 途端、身体の芯がじんっと熱くなる。
 それと平行して、思考がどんどんぼやけはじめる。

 あかん。うち、なんか変になってもおた……。

「なぁ、詠美」
 本を読み終えた由宇は、詠美の名を呼んだ。
「ん〜? なになに?」
 詠美は酒の入ったグラス片手に、無防備にじり寄ってくる。
 頬をほんのりと赤く染めて。目をしっとりと潤ませて。
 由宇はそんな詠美の両肩を掴んで。
「今からえっちぃな事、しよっか」
「誰と?」
「うちと、や」
 歯止めが利かない。
 詠美が驚く暇も与えずに。
 由宇は詠美の唇に、唇を重ねた。
 詠美の手の中のグラスが、ごとり、と床に落ちた。


 押し倒され、のしかかられる。
 控えめにだが、何度も何度も交わされる唇。
 喉元に熱い吐息を感じた。
 しかし詠美は由宇をはね退ける事ができなかった。
 逃げようと思えば逃げれたし、叫び声を上げようと思えば上げられた。
 けれど詠美は、由宇の唇に嫌悪感を抱けなかったから。
 だから、詠美は由宇のなすがままに、自分の唇を預け続けた。
「ん……」
 何度目かのキスの後、ようやく由宇は詠美から唇を離した。
「嫌やったら、いま嫌ゆうて。うち酔っ払いやから。歯止めききそうにあらへん」
 親友の欲情に潤んだ瞳に見つめられ。
 詠美は半ば放心したまま、こくり、と小さく頷いた。
「それは、かまわへんって受け取ってもええんやな」
「わかんない。でも……、嫌じゃないから。それに由宇のこと、あたし、嫌いじゃないし……」
「ごめんな。うち、なんかあんたが可愛すぎて。我慢できひんねん。えっちぃな奴やって軽蔑してもかまわへんから」
 そして、見つめ合う2人。
 どちらからともなく交わされる口づけ。
「一緒に気持ちよくなろ」
「あ……ひゃん」
 由宇はセーターの上から、詠美の柔らかな胸を優しく揉みしだいた。詠美の口から熱い吐息が零れると、それを吸い取るように、由宇は詠美の唇を塞ぐ。
「歯、開けてぇ」
「ん」
 言われるがままにおずおずと口を開くと、勢いよくねじ込まれる由宇の熱い舌。それが自分の舌を絡め取ると、詠美の思考は麻酔を打たれたように、それだけです〜っと麻痺してしまう。舌を乱暴に絡めあい、互いの唾液を流し合うどこまでも深いキス。詠美はされるがままに由宇の舌を受け入れ、由宇の唾液を飲み込んだ。それはとてもねっとりとしていて、まるで果実ジュースの様な甘美な味がした。
「ふぁ……」
「服、脱がすで」
 由宇は抵抗しない詠美のセーターをたくし上げると、ブラのホックを外し、露になった詠美の控えめな乳房に優しくキスをした。たったそれだけでも、酔って性感が高められた身体には充分な刺激だった。ぶるり、と大きく身体を震わせる詠美。由宇はそんな詠美の乳房を優しく時間を掛けて舌で舐め上げ、そして、次第につん、と立ち上がってくる可愛らしい乳首を口に含んだ。それを吸い出し、舌を絡ませ、軽く歯を立てる。
「んはっ……ああんっ。ああっ」
「なぁ。ここ、気持ちいいやろ」
「ううっ、痺れてて……、よくわかんないよぉ」
 泣きそうな声で詠美。それがあんまりにも可愛くて。由宇を更に加速させる。
「痛かったら、ちゃんと言いや」
 最初から痛くするつもりなどない。けれど由宇は詠美を思って。詠美の頬に口づけをして。詠美の身体を抱きしめ、優しく微笑んだ。
 手を乳房に残したまま、由宇の頭は詠美の腹部へと下ろされる。肋骨の辺りを舌で舐め上げ、わき腹をキスで辿る。すると詠美は由宇の頭を抱きしめ、か細い悲鳴を上げた。献身的な由宇の愛撫に、詠美は未知の快感にゆっくりと呑み込まれていく。
「ああっ、ひゃああん」
 詠美の身体がもう一度大きく震える。由宇が詠美のスカートをまくり、ショーツの上から秘裂を舌でなぞり上げたからだ。そこは既にぐっしょりと湿りを帯び、由宇の舌をあっさりと中まで受け入れた。
「詠美、あんたのここ、すごく濡れてる。ふふ、えっちぃなんやな、詠美も」
「ああっ、そんな汚いとこ舐めちゃ……、由宇っ、駄目ぇっ、あああっ」
 詠美の吐き出した粘液をたっぷりと吸い込んで、秘裂にぴったりと貼り付いたショーツ。そこからは、詠美の媚肉の形がはっきりと見て取れる。由宇はたっぷりと唾液を使い、しつこいくらいに舌でそこを愛撫する。
「ふぇぇっ、あん、ああああっ! おかっ、おかしくなっちゃうよぅ!」
 無意識に腰が浮く。詠美の秘裂から吐き出された新たなジュースがショーツから零れ太ももを伝う。由宇はそれを一滴も零すまいと、執拗に舐め上げる。
「大丈夫や。ふふっ、うちに任しときぃ」
「うみゅぅぅっ」
 詠美が十分に燃え上がったのを確認すると、由宇は自分の唾液と詠美のジュースでぐっしょりと濡れそぼったショーツを膝元まで脱がせる。そして再び詠美の股間に顔をうずめ、今度は直に詠美の秘唇に舌を伸ばした。
「ひぃん!」
 熱い舌が直に触れた刺激で、詠美の腰がびくっと弾ける。由宇はそんな詠美の腰を押さえつけると、白く濁った蜜を沸き立たせるローズピンク色の美しい花弁を指で割り開き、口全体で吸い立てた。
「ああっ、だめ、だめっ、いやぁあっ!」
 自慰では決して得られることのできないあまりの強い刺激に、頭の中が瞬時に真っ白になる。詠美はその身を激しくくねらせ由宇の頭を抱きかかえると、大きく悲鳴を上げた。
「詠美、イくんか? いいで、イって。うちの舌でイってしまいっ」
 はしたない音と共に、舌で激しく秘唇をなぞり上げられる。そして最も敏感な肉の突起に吸い付かれた瞬間、詠美の中で溜め込んでいた全てが弾け飛んだ。
「ああっ、ひゃあぁぁぁっ! いっ、ああああっ!」
 狂おしいほどの絶頂感に襲われ、詠美は全身をびくびくと波打たせる。しかし由宇は、それでも詠美の股間から顔を離さなかった。
「まだやっ、詠美っ。もっとイきぃ、ほら、ほらぁっ」
 由宇は指と舌と唇を使い、詠美の弱点を的確に攻め立てる。その手に、顔に、ねっとりと甘酸っぱいしぶきを吐きかけ。詠美は更なる高みに持ち上げられる。
「ふみゃああああっ、もう許してっ! ひゃんっ、ああああああっ!」
 詠美は声を完全に裏返して、全身を波打たせた。
 そして詠美は快楽の荒波にさらわれ、意識を失ったのだった。


 翌月のこみパで大庭詠美が出した新刊は、自身初の成人同人誌であった。
「やっぱ、何事も経験が大事だと思うわけよ」
「あのなぁ。だからっちゅうて、そのまんまネタにする奴がおるかっ、ぼけっ!」
「ふみゅうんっ! 本気で叩かなくってもいいじゃないっ!」
 あの一件以来、なんとなく続いている2人の関係。
 どうやらお互いに恋人ができるまで、続けていく模様である。
「今日はどうするの? うち、お母さんいないから大丈夫だけど」
「だからっ、公衆の面前で恥じらいっちゅうもんがないんか、あんたわっ!」
「え〜っ、でも最初に誘ってきたのはゆ……もがぁ!」
「沈めたる。なにもかもを大阪湾に沈めたる……」
「う〜〜〜っ!」
 今日もこみパは大いに賑わいをみせ。
 大庭詠美初の成人同人誌は、午後を待たずして無事完売したのであった。
 めでたしめでたし。

「大人のおもちゃっていくらくらいするのかなぁ?」
「だから黙れっていってるやろ、ぼけぇ!」