その名はCウィルス





5

「ん・・・・・・」
「声を押し殺しちゃ駄目よ。あなたの声、たっぷりと聞かせて欲しいから」
「・・・・・・はい」
 自慰の経験こそはあった。女神である以上に女である、だから性欲もある。しかしベルダンディーにとっての性とは、愛情があってこそのモノであった。だから好きな異性の事を想い自慰に耽ることはあっても、こうして強制されて行為に及んだ事など一度も無かった。
 しかし朝から激しい疼きを覚えていた身体はどこまでも正直で、ベルダンディーのぎこちない愛撫をあっさりと受け入れた。触りもしないうちからクレヴァスからは白く濁った愛液が流れ落ち、それから僅か数分の愛撫で、ベルダンディーの指はねっとりと淫靡な光を放ち始める。
「んんっ」
「可愛らしい声ね。うふふ、あたしも感じちゃうわ」
 白い指が踊る度に、ベルダンディーは可愛らしい喘ぎ声を上げる。羞恥と快感から彼女の白い肌は赤く染め上げられ、その様はどこまでも淫靡であり、そしてどこまでも美しかった。女神が乱れるその様を、ヒルドは思わず見とれそうになる。
「指を入れてみて。初めてじゃないんでしょう?」
「はい・・・・・・んっ!」
「一本じゃ物足りないでしょ。ほら、2本入れるのよ」
「あっ!」
 ヒルドの言葉通り、ベルダンディーはその美しい2本の指をクレヴァスに差し込んだ。十分に濡れて解れていたそこは、思いの外あっさりと2本の指を加え込む。ベルダンディーはきつく眉を寄せ暫くじっとしていたが、やがてゆっくりと指を動かせ始めた。すると指とラヴィアの隙間から愛液が零れ出し、畳の上に白い染みを作り出す。
「んっ、んっ、ああっ」
「ベルちゃんって結構淫乱なのね。こんなに濡らして、それにはしたない声を上げて・・・・・・」
 無論、それが自らの策略の為だと知りながら。ヒルドはベルダンディーの顔にゆっくり身体を近づけると、
「口を開いて舌を出して。ああ、手は止めちゃ駄目よ。イクまで続けなさい」
 突き出された震える舌に、自らの舌を絡めた。そして丹念にベルダンディーの舌を嘗め尽くすと、舌を巻き込みながら唇を塞ぐ。開かれた口内を陵辱されている間もベルダンディーは指を動かす手を止めず、次第にその動きは加速されていく。
「ん・・・・・・っ」
「あら、もういくの?」
 舌が大きく震えたのを絶頂の前兆だと感じ取ったヒルドは、唇を舌で舐め上げ淫らな笑みを浮かべた。ベルダンディーは微かに頷き、恥ずかしそうに目を背ける。指の動きに伴い、くちゃくちゃ、とはしたない音が居間に響き渡り、それがベルダンディーの背徳感を更に増長させていく。
「いくのなら、いくと言いなさいよ」
「は・・・い・・・・・・っ!」
 大きく身体が波打つ。吐き出す息がこれまで以上に荒くなる。きつく眉根を寄せ、身体を折りたたむように丸め、ベルダンディーはエクスタシーへの階段を勢いよく駆け上がっていく。
「あ・・・駄目っ、いく・・・・・・いきま・・・すっ!」
 小さくこもるように叫んだその瞬間、ベルダンディーは背中を大きく仰け反らせ、ビクンっと肢体を何度も震わせた。強烈なアクメ。それは未だかつて味わったことの無い、どこまでも深い、溺れてしまいそうな快楽だった。瞬く間に思考が弾け飛び、真っ白になる。そして徐々に鮮明になる意識の中。螢一の笑顔が脳裏を掠め、ベルダンディーは大粒の涙を零した。
「螢一さん・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
 涙で頬を濡らし。ベルダンディーは自らで身体を抱き締め小さく呟いた。
「人間の男に恋する女神、か・・・・・・。ふふ、さぞかし辛いのでしょうね」
「辛くなどありません」
 素肌をさらし、絶頂を強制させられたとは思えないほどの毅然とした態度。声を張り上げ、ベルダンディーは凛として答えた。
「私は螢一さんと出会えて幸せでした。そしてこれからも幸せであり続けたいと願います」
「ふぅん・・・・・・。あなた、強いわね。そう、そういう所があたしは大嫌いだった」
「ん・・・・・・」
 再度交わされる濃厚な口付け。ベルダンディーは拒否する事無く、ヒルドの舌を向かい入れた。お互いが舌を絡ませあい、溢れた唾液がベルダンディーの口の端から零れ落ちる。
「ならいいわ。一時でも忘れさせてあげる、彼の事を」
 ヒルドは瞬時にして自分の服を脱ぎ去ると、股間にそびえ立つ肉塊をベルダンディーの口元に付き付けた。それはどこまでもグロテスクな代物で、自ら意思を持っているのだろうか。ぐにゃりぐにゃり、とした気味の悪い動きが否応無く魔のモノであることを感じさせた。思わず目を背け、唇を噛み締めるベルダンディー。ヒルドは口元に淫らな笑みを浮かべると、
「さぁベルちゃん、四つん這いになるのよ。そしてお尻を向けなさい」
 どこまでも屈辱的な要求。しかしベルダンディーは従うしかない。悲壮な表情のまま、言われた通り、ヒルドに向かって尻を突き出す格好を取る。
「あら、期待しているの? あなたの此処から、エッチなジュースがどんどん垂れてきているわよ」
「・・・・・・ん」
 弱々しく首を横に振るベルダンディー。 「それじゃあこれはあたしの法術のせいだとでも言うの? なら、それは違う。あなたは期待しているのよ。あたしに貫かれ、快感によがる自分の姿をね」
 そう、ヒルドの言葉通りだった。ベルダンディーの中に、押さえきれない欲望の渦が心を満たしつつあったのだ。だからベルダンディーは涙を零しながら、何度も首を横に振った。浅ましい自分の身体を、そしてこれから自らを襲うであろう恐怖を拒絶するために。
「スクルドちゃんはバージンだから遠慮したけど、ベルちゃんは大丈夫みたいだから。だから、遠慮なくいくわよ」
「ああっ!」
 ヒルドはベルダンディーのクレヴァスに肉塊を押し当てると、それを一気に根元まで貫いた。朝からずっと疼いていた子宮を思い切り突き上げられた衝撃に、大きく身体を反らしてベルダンディーはあられもない嬌声を上げる。しかし悪夢は、まだ始まったばかりだった。ベルダンディーの熱い肉壁に反応するように、肉塊が大きくうねり、熱い液体を放出し始めたのだ。
「この子はね、雌の体内に入ると媚薬を分泌するようにできているの。人間の女の子だったら気が狂う程に凶悪な奴をね。まぁ、ベルちゃんなら大丈夫だと思うけど」
「うぁぁっ、ああ・・・・・・駄目ぇ!」
 膣が燃えるように熱くなり、なんとか保っていた理性が冷たい炎で瞬時に焼き尽くされる。そしてヒルドの容赦の無い突き上げが始まると、ベルダンディーは瞬時にエクスタシーの荒波にさらわれ、全身を大きくしならせた。
「いっ・・・ああっ、いっく・・・・・・!」
「あらあら、もういっちゃったの? あはは、まだまだこれからよぉ。ほらほらっ」
「ひぃっ、ああっ、あああああっ!」
 壊されていく。女神としての自分、そして女としての自分を。ヒルドの容赦ない陵辱はベルダンディーの理性を瞬時に瓦解させてしまった。
「もう駄目です・・・・・・あっ、また・・・きちゃう・・・・・・」
「いいわよっ、ほらっ、ほらぁ 何度でもいきなさい」
「んっ・・・、んあっ、あああああっ!!」
「あはははっ。ベルちゃん、あなた最高よ」
 激しく腰を打ちつけながら、ヒルドは自らの腰に渦巻く快感に浸っていた。さすがは天界が誇る1級神である、最高の抱き心地だ。
 そしてベルダンディーが数度の絶頂を極めた時、遂にその瞬間は訪れた。
「ふふふっ、そろそろ出すわよっ。一番奥で受け止めなさいっ」
「ああっ、中で出すのはだけは許して!」
 首を何度も振り涙を零しながら必死に訴える。しかしヒルドは頷かなかった。
「だーめっ。ほらほらっ、出すわよっ! くっ、あああっ!」
「いやぁ、あついっ、駄目っ、ああっ、あひゃああっ!!」
 身体の一番奥に灼熱の液体を浴びせられたベルダンディーは、一際大きな声を上げて、最後にして最大のオルガムスを迎えた。そう、それは正に、地獄の業火そのモノであった。
「はぁ、気持ちよかったわぁ。あなたも良かったでしょう?」
 笑顔のヒルドの問いに、しかしベルダンディーは言葉を返すことはできなかった。ヒルドの肉塊が抜けると同時に、ゆっくりと畳の上に崩れ落ちる。はぁ、はぁと荒い息を吐きながら、ベルダンディーは時折身体をぶるり、と大きく震わせた。

 ウルドが森里家の玄関まで空間移動で辿り付いた時。
 そこには、意外な人物が待ち受けていた。
「あら。お久しぶりね、ウルドさん」
「あんた・・・・・・どうして此処に」
「ちょっと気になることがありましてね。けれど、電話しても誰にも繋がらない。気になってきてみたら」
 そしてペイオースが法術を唱えると、森里家全体に魔族が施したと思われる結界が現れた。
「このプログラムは・・・・・・」
「そう、高位結界が張られていたのです。それも魔族の。ねぇウルドさん、これは一体どういうことなのですか? ベルダンディーはどうしたんです?」
「・・・・・・ねぇ、ペイオース。あんた今日の朝、あたしと電話で話したりした?」
「いいえ、知りませんわ」
「なるほどね」
 つまり、朝の電話は自分とスクルドを離す為に仕掛けられた罠と言うことだ。
 ウルドは唇を噛み、目前に広がる強大な結界を睨み据えた。
「ペイオース、手伝ってちょうだい。結界を破るわ」
「けれど、これだけ強大な魔陣結界を破るのは・・・・・・」
 そこまで言ってから、ようやくペイオースは気付いた。
「そうですわ、あなたの持つ力なら」
「ええ。ある程度なら中和することも可能よ」
 いかし、事は思っていたよりも容易だった。何故ならウルドが結界に触れると、瞬時にして結界は消滅してしまったのである。
「これは・・・・・・」
 驚くペイオース。ウルドは肩をすくめ、言った。
「ようは入って来いって事でしょ、きっと」


6

 波動を追い、辿り付いた先は居間だった。
「ここにいるわ。ベルダンディー、スクルド、それに・・・・・・」
「大魔界長ヒルド、ですね」
「いくわよっ。爆雷降臨っ!!」
 砕け散った扉を潜り抜け、そしてウルドはそこで繰り広げられる様相に声を失った。
「あらぁ、ウルドちゃんじゃないの。遅かったわねぇ」
 出迎えたのは、無邪気な笑顔のヒルド。そして、部屋の中央で取付かれたように身体を絡ませあうベルダンディーとスクルドの姿。地獄の快楽に堕ちた、甘い喘ぎ声。
「なっ・・・・・・」
 ペイオースは思わず目を背けた。普段の2人を知っているだけに、その姿はあまりにも凄惨だったのだ。
「ヒルドっ! あなたなんて事を!」
「あらぁ、これはあたしが強制させているんじゃないのよ。スクルドちゃんが、気持ち良くして欲しいってベルちゃんにせがむもんだから。ねぇ、ベルちゃん?」
 悔しそうな、しかしどこか陶酔した表情でベルダンディーは小さく頷き、弱々しく首を振った。そして、スクルドと熱いキスを交し合う。最愛の妹達が淫らに肢体を絡ませあう姿は、ウルドには耐え難いものだった。
「2人に何をしたのっ!」
「さぁ、何をしたでしょう。正解者には、あたしの熱いキスをプレゼント♪」
「ふざけないでっ!」
 激昂するウルドの隣で、ペイオースは苦々しく言った。
「今朝方、この近辺で妙な波動を捉えたの。なんらかのウィルスだと思う。きっとそれが原因よ」
「そう・・・・・・ヒルド。あなた、媚薬を撒いたのね」
「正解よ。さっすがあたしの娘ね。話がよくわかるじゃない」
 パチパチパチ、と手を叩き、そしてヒルドは口元に妖艶な笑みを浮かべた。
「なんてったってあたし特製の媚薬よ。これね、Cウィルスって言うの。好きなモノを食べたり飲んだり感じたり・・・・・・つまり愛情を感じるとね、それがキーになるの。そう、例えば」
 ポン、とヒルドの手に一升瓶が現れる。
「ウルドちゃんがこれを飲んだりしたらね。ほら、これ飲んでウルドちゃんも混ざりましょ。とっても気持ちいいわよ?」
「ふざけないでって言ってるでしょ! 第一、何が目的でこんな事をっ!」
「あらぁ。そんなの決まってるじゃない」
 あはは、とヒルドは声を上げて笑った。
「あたしは魔族よ、シェア拡大の為に決まっているじゃない? そして、ウルドちゃんをこっちに連れ戻すために、ね」
「まだそんな事を言っているの?! あたしは魔族に付く気なんて、これっぽっちも無いんだから!!」
「あ、そ。でも・・・・・・まぁいいわ。別に急いでいる訳じゃないしね」
 どこまでも楽しげなヒルドを睨みつけるウルド。その時、ベルダンディーとスクルドの悲鳴が響き渡る。どうやら互いに気をやったらしい。ウルドはきつく目を閉じた。
「さっさと解毒剤を渡しなさい。1級神2人相手に、その小さな身体で勝てると思えるほど馬鹿じゃないでしょう」
 その声は、激しい怒りに震えていた。ヒルドは、んー、と天井を見上げてから、
「そうねぇ・・・・・・、渡してもいいけど。でも、ただじゃ嫌よ」
 そしてヒルドは一升瓶の口を開けると、それを軽くあおった。その液体を飲み込まずに口に含んだまま、
「あたしとキスしてちょうだい。それで解毒剤をあげるわ」
「なっ・・・・・・!」
「嫌ならいいのよ。でも、可哀想にねぇ。このまま放っておいたら、ベルちゃん、どんどん辛くなると思うんだけど・・・・・・」
「・・・・・・判ったわよ。でも、約束よ。解毒剤の事」
「ええっ、神様に誓うわ!」
「ああもう・・・・・・」
 そしてウルドは母親とキスを交わした。流し込まれる液体を、仕方がなく飲み込む。瞬時に熱いうねりが全身を侵す。これがヒルドの媚薬の力・・・・・・。理性が灼熱の業火に炙られ、たまらなくなり崩れ落ちるウルド。その様を無表情に眺めてから、ヒルドは手の中に青い液体の入ったアンプルを出現させると、ペイオースに向かってにっこりと笑顔を浮かべた。
「はい、これが約束の解毒剤よ。これを部屋に撒いたら、あとたったの一時間で薬の効果は消えてなくなるわ」
 そしてアンプルをペイオースに手渡すと、ヒルドは唇の端を吊り上げ、
「でも、あと一時間は。この淫らな宴わ終わらないって訳」
「あなたって人は・・・・・・」
「せいぜい協力してあげなさい。神族として、恥じない程度にね」
 そして、ヒルドは瞬時にしてその姿を消した。後に残されたペイオースは大きく息を吐くと、アンプルを割り、中に入っている青い液体を部屋に撒き散らした。そして、未だに絡み合いつづけるスクルドとベルダンディーを、そして崩れ落ち身体を震わせたままのウルドを見る。
「ウルドさん。我慢は良くなくってよ」
「ごめん、ペイオース。あたし、もう駄目みたい」
 肩をすくめ、苦い笑みを浮かべるペイオース。
 そして2人は唇を寄せ合い、舌を絡めた熱い口付けを交わした。
 それが2人の宴の始まりであり、終わりの序曲となった。

「あの・・・・・・よろしいのですか、ヒルド様」
 雑居ビルの地下。どこか投げやりな表情を浮かべつつも見るも鮮やかな手捌きで筐体を操るヒルドに、マーラは恐る恐ると言った体で声を掛けた。
「んー、なにが?」
「なにがって・・・・・・」
 なにもかにもない。女神達をあそこまで追い込んでいたのに、どうしてみすみす逃がすようなことをしたのか。それがマーラーには理解できなかったのだ。
「ベルダンディー達の事ですよ。シェア拡大の為には、あの機会に封印してしまうべきではなかったのでは?」
「そうねー」
「そうねー、って・・・・・・そんな、適当な」
 思わず絶句するマーラー。それから暫くの間、ヒルドは無言で筐体と向かい合っていたが、ゲームをコンプリートすると大きく息を吐いた。
「これ、ほんっとにバランスの悪いゲームね。あたしの趣味じゃないわ」
「はぁ・・・・・・」
「今すぐにもっと面白いゲームを探してきなさい。そうね、明日までに。これは命令よ」
「はっ、はいっ!」
 引きつった笑顔を浮かべて慌てて姿を消すマーラーを見送ってから。ヒルドはやれやれと肩をすくめるのであった。
「ホント、いいバランスじゃない。だから暫くは楽しませてもらうわよ。ねぇ?」