彼女が格闘技をやめた理由 B面
どこだかも判らない薄暗い部屋の中。白く乱れたベッドの上に、制服を脱がされた綾香が一糸まとわぬ姿のまま横たわっている。かるく日に焼けたきめ細かくも美しい健康的な肌は、自らの手で導いた激しい快楽の余韻でうっすらピンクに染まり、いつもは流れるような彼女の長い黒髪も乱れに乱れて、その一部は霧のような汗を噴いた肢体に淫らに張り付いている。
「うんん…」
強烈なエクスタシーが去ると、徐々に意識が戻ってくる。
男が秘部に塗りつけた淫薬の効き目は、激しいオナニーの果てに綾香が絶頂を極めた後も一向におさまる気配はなかった。それどころか絶頂感の波が引くにつれて、秘唇の奥の奥が痛いほどに疼きはじめる。部屋に立ち込めたアーモンドの香りも相まって、綾香の頭の中は、まるで白桃色の霧がかかったようになっていた。
「さぁーて。お嬢様もたっぷりと気分を出してくれた事だし、そろそろ御対面と行くか」
男はニヤ付いた表情を浮かべたまま、部屋の端の冷蔵庫の上に乗せられていた黒い携帯電話を手に取った。
「ああ、俺だ。準備OKだ、とっとと入ってきな」
ピ。
そして男が携帯電話を元あった場所に戻すと同時に。
(嘘、もう一人いるの・・・・・・)
霞んだ綾香の視界に、新しい男の姿が写ったのである。
それは黒髪で長身だが妙にやせ細っていて、顔面から迫り出したかの様な大きな目をキョロキョロさせている男だった。変質者。露骨な表現だが、それが無理なく当て嵌められる。
それと同時に、綾香はぼんやりとした思考の中で、なんとなくだが確信を抱いていた事があった。
それは、
(あたしはこの男を知っている・・・・・・)
「おいっ。ちょっと薬がきついんじゃないか?」
黒髪の男は、アーモンドの香いが立ち込める部屋に足を踏み入れた途端、大きく眉を顰めた。
「僕は、綾香をトリップさせてくれなんて頼んでいないぞ」
「大丈夫だ。少々残るがイッちまう程じゃあねえ。なぁ、お嬢様」
男は口を開けてまだ激しく息を吐いたままの綾香の赤い唇を、自らの唇で強引に塞いだ。
「あん…っ」
口を吸われた瞬間、理性は懸命に抵抗しようと試みるのだが、身体があっさりと男の蹂躙を許してしまい綾香は愕然とした。しかも無意識のうちに鼻にかかった甘い声を出し、自らも舌先を差し出して男の舌を受け入れてしまう。
(ダメ……変よ。あたしこんな、どうして……)
そして熱い唾液と共に舌を絡めあうと、綾香の理性は更に霞みを増していく。これ以上は危険だと頭の奥で激しく警鐘が鳴らされていても、綾香は男の舌から逃げることが出来なかった。それどころか自ずと舌先を絡め合い、未知なる快感に自ら溺れそうになるのを止められない。
男の両手の掌が、綾香の美しく引き締まった双胸を包み込むようにし、そのまま円をかくように大きく揉みしだく。ただそれだけで、綾香は切なげな声で喘ぎはじめた。
「どうだい、お嬢様。薬のお陰で随分と気持ちよさそうじゃねぇか」
「あんっ! いやぁ…」
ピン、と既にしこり切った乳首を指で弾かれて、綾香は全身をブルリと震わせながら、力なくその細い首を振る。その甘い快感に思考が更に溶けていくのを、もはやどうすることもできなかった。
「なるほど、あの綾香を・・・・・・。これは噂に聞いていた以上だ」
黒髪の男はそんな綾香の痴態を眺めながら、余程感心したらしい。ただでさえ大きな目を更に見開き、口元をだらしなく綻ばせた。
「流石だ。あなたの名前には嘘偽りは無い。認めるよ」
「ビジネスだからな。見合った金を取った以上、見合った仕事をするさ」
「ひぃ・・・」
鎖骨からうなじまでをねっとりと舐め上げられて、綾香は身悶えた。
「けど、恋人にゃあこんなひでぇ事はしねえ」
男はニヤリと笑い、黒髪の男は口元を歪めてから肩を竦めた。
「それは、信じられない」
「ビジネスとプライベートは完全に切り離す、それがプロってもんだ。これも良い機会だ、あんたもそれくらいは憶えておきな」
「んっ・・・あん」
と、綾香から身体を離す。ベッドに突っ伏した綾香は、その勢いで敏感に尖った乳首がシーツに擦られ、小さな喘ぎ声を漏らすと共に身体を竦めた。
「ところで、だ。肝心の支払いなんだが」
「金はたった今、これで口座に降込ませてもらったよ」
と、ポケットの中の携帯端末を叩く。
「予想よりも手際が良かったんで、チップを弾んでおいた。プラス1万$だ」
「オーケィ。それじゃあ後始末は任せてくれ。あんたはお嬢様と好きなようにやればいい」
椅子に掛けておいた黒い皮ジャケットを羽織ると、男は分厚いサングラスを身に付けて、ベッドの上で荒い息を吐く綾香を振り返る事も無く部屋を出ていく。
「ああ、そうだ」
男は玄関の扉に手を掛けた所で、一度だけ振り返った。
「いちいち言っておくが、くれぐれも時間には遅れないようにしなよ。時間にルーズな奴の背中を守るのはちょいとばかし苦手なんだ」
男が部屋を出ていったのを確認するや否、黒髪の男はおもむろに衣服を脱ぎ捨てた。外見通りの、ひょろりとした体躯が露になる。特にスポーツをやっている訳ではないらしく、目立った筋肉が一つも見当たらない。当然と言うか喧嘩も弱そうだった。普段の綾香なら、手を抜いた一撃でも簡単に倒す事ができたであろう。
しかし綾香は、その男の裸体に勝利を確信するどころか、恐怖に息を呑んだ。
そう、男の股間にそびえ立ったモノに。
そして霞んだ思考の奥底で、むず痒い衝動が走った事に。
(ああ、あんな大きいモノが・・・・・・)
「さぁて、・・・・・・綾香。僕を憶えているかい?」
「いやっ!」
「逃げるなよ。ほら、気持ち良い事をして欲しくないのか?」
「ああっ、やめ・・・・・・ひん!」
男はベッドの上で力無く抵抗する綾香に馬乗りになると、足を強引に開かせて綾香の股間に顔を埋めた。男の荒い鼻息が、余韻に腫れたままのクリトリスに掛かり、綾香は甲高い悲鳴を上げる。
「なんだよ。まだ僕が何もしていないのに、もう濃い奴でネトネトじゃないか。いつも気取っていたくせに、綾香はこんなにも淫乱だったのかい?」
「ちっ、ちがあああっ!」
ぞろり、と舌でスリットを舐め上げられ、綾香は思わず男の頭を両手で押さえ込んでいた。
「違う? そうか、綾香は淫乱じゃないんだ。なら、この穴の中からネットリと垂れてくるモノは一体なんなんだい。それにほら、此処も、テラテラと真っ赤に腫れ上がってる」
「あ・・・ああんっ!」
男の長い指が綾香の中を乱暴に掻き回すと、綾香はその身体を大きく仰け反らせて嬌声を上げた。理性が、思考が、激しい快楽を前にいとも簡単に弾け飛ぶ。綾香は更なる快楽を求め、無意識の内に男の指に幾度も腰を押し付けた。
(ああっ、もっと掻き回して・・・・・・もっと気持ち良くして!)
「なんだよ。指じゃあ物足りないのかい?」
「あ・・・やぁ」
ニヤニヤと笑いながら男が綾香の中から指を引き抜くと、白い体液がドロリと糸を引いた。綾香は絶頂まで後一歩の所で行為を中断され、熱く深い溜め息を吐く。
「さて、と。残った時間も少ないからね。てっとり早く仕上げさせて貰うよ」
綾香のスリットが濃い蜜によって充分に溶けきっているのを確かめて、男はゆっくりと、そのとろける果実にいきり立った自分の肉棒を近づけた。
「あ、…やっ…、それだけは駄目……っ」
肉の凶器の先端が花芯に触れた瞬間、綾香に残されていた最後の理性が僅かな抵抗を試みた。しかし部屋に立ち込めた甘い香りに思考を麻痺させられ、媚薬に秘部を犯され、そして激しい絶頂を極めさせられた体は、もはや自分のものではないようだ。
(嘘よ……あたしは期待しているの? ……でも……でも……っ!)
「じゃあ、そろそろ行くよっ」
その言葉に、綾香は思わず身体を硬くした。しかし男は一気に腰を進めなかった。眉間にしわを寄せ、自らが送る強制的な快楽に必死に耐える彼女の表情を楽しみながら、ゆっくりとした動作で綾香の入り口を往復する。そうやって細かい律動を繰り返しながら、ひと突きごとに、徐々に奥へと己の塊を進めていく。
綾香の中は年頃の娘らしくかなり窮屈ではあったが、充分に受け入れ準備が整っている熱く蕩けた粘膜が、甘く男のモノを包みこむ。
「……やめてっ、ああっ! いやぁっ、怖いっ!」
長らく離れていた肉棒の猛烈な圧迫感、に綾香は涙を流し悲鳴を上げた。
「綾香の上品なお口にはちょっと大きすぎるかもしれないけど、すぐに馴れるよ。すぐにね」
男は口元に歪な笑みを浮かべながら下半身をゆっくりと動かし、綾香の熟れ切っていない青い膣肉を徐々に犯していく。そうやって何度も貫かれる度に、綾香の艶がかった美しい黒髪が乱れ、肌に浮かんだ大粒の汗が飛び散る。
「うぁっ……ダメっ、もうダメっ!」
泣き声を上げて綾香は許しを乞う。恐かった。このままでは頭がおかしくなりそうだった。熱く満たされた膣内から生れた強烈な快楽のうねりが全神経に迸り、綾香に残された僅かな理性すらも徐々に侵食していく。
「許してっ、お願いよぅ……あたし、変になっちゃうぅっ!」
男は暫くその風情を楽しんでから、
「なら、変になれよっ!」
と、今度は一気に根元まで埋め込んだ。
「ひいっ!」
子宮を激しく突き上げられた衝撃に、綾香の息が一瞬詰まる。
「ほら、綾香の1番奥まで入ったよ。どうだい?」
「…ううっ」
劣情に頬を濡らし泣きじゃくる綾香の首に腕を回して、男は本格的な抽送を開始した。大きなストロークで肉柱を繰り出しながら、うっすら桜色に火照った美貌を舐めまわす。両の乳房を思うままに激しく揉みしだき、腰から尻にかけての微妙なラインを愛撫していく。
「いやあ…、あ…、…ああっ…」
既に敏感になっている粘膜を太い肉棒でこすり上げられると、綾香は圧迫感と恐怖に恐れ慄く間もなく、その強引な快楽に悶え、あられもない喘ぎ声を上げるしかなかった。
縦に横に深く浅く、そして緩急をつけながら。ときおり激しく子宮を突き上げて、綾香が悩ましげに眉を顰めるのを楽しげに眺めながら。男は全く休む事無く、容赦なく綾香の本能を貪り続ける。
(ああっ、怖いけど……でも気持ちいい……っ! 駄目っ、あたしこんな男に感じてる……感じてるのっ!)
「さすが来栖川のお嬢様だね。以って生まれたものが違う。こっちの締りも最高だよ、綾香」
荒い呼吸を綾香の顔面に吹きかけながら、卑劣な言葉を囁く。しかし綾香は男の言葉など全く耳に入っていなかった。既にオナニーからの第ニ波目の激しいオルガムスが綾香の脳裏に閃光を轟かせ、それどころではなかったのである。
「ぅあっ、イクっ! ああっ……イッちゃうわっ!」
「おっと」
綾香の腰がはしたない程に激しくうねりを帯び始めると、男は腰の動きを急に止めてしまった。あともう少しで絶頂を極めることが出来たであろう綾香は、我を忘れて男の股間に腰を押し付けようとするが、男の腕によってそれすら阻まれてしまう。
(いやっ、どうして……!)
「なんだい。天下の来栖川財閥のお嬢様が、そんなにモノ欲しそうな顔をしちゃ駄目だろ」
熱い吐息を吐出しながら、欲情に潤みきった目で見上げられて、男は唇の端を吊り上げた。その言葉に我に返った綾香は、羞恥に顔を真っ赤に染め上げ唇をかみ締める。
「そんなんじゃ……ないわ」
「へぇ。じゃあ抜いてもいいんだ?」
「……ぁっ」
男が腰を引こうとすると、綾香は無意識の内に自分の両足を男の腰に巻きつけていた。
(あぁっ、あたしはなんて事を……!)
「相変わらず素直じゃないね」
男は、はっ、と鼻で笑い、
「まあいいよ。そこまでされたんだ、動いてあげても構わない。ただし、僕に向っておねだりの言葉を言えたらね」
そして男が強要した言葉は、僅かに残された綾香の理性とプライドを、快楽と屈辱に塗れさせるに相応しいものだった。綾香は羞恥に目を潤ませて、弱々しく首を横に振った。
「そんな事……。言えるわけないじゃないっ」
「じゃあ我慢することだ。僕は平気なんだ、このままずっと動かなくてね」
「んぁ!」
男は腰を綾香の中に深く沈めたまま、綾香の体中を舐めまわし始めた。唇を塞がれ、口内を執拗になぶってから、耳たぶ、首筋、鎖骨へと丹念に唾液の跡を残していく。
「…ぅあ……ぅああっ!」
綾香の腰が小刻みに痙攣し出したのを確認してから、今度はその美しく尖った乳首を集中的に攻撃する。そして綾香の小豆色の膨らみが男の唾液に塗れ、淫靡な光を放つようになった時。綾香の腰は大きく震えを帯び、その美貌は押さえきれない欲情の為に淫らに歪み、娼婦さながらのねっとりとした色気を放つようになっていた。
「ああっ、もう・・・・・・っ、駄目! 我慢できないっ!」
限界だった。何もかも捨ててさえ、この先の快楽が欲しかった。綾香は涙さえ流しながら、男の胸に抱きついて叫んだ。
「動いてよっ、ねぇっ! 欲しいのっ、もう我慢できないのよっ!」
「じゃあおねだりしてって言ってるだろう? ほら、言ったら動いてあげるからさ」
「あん!」
乳首を甘噛みされて、綾香は鼻がかった甘い声でそれに答える。
「綾香の……」
もう迷っている余裕など無かった。子宮が痛いくらいに疼いている、頭がおかしくなりそうだ。あと一分もじらされたら、本当に気が狂っていたかもしれない。
「綾香の淫らなオマ○コを、貴方のチ○ポで滅茶苦茶にして下さいっ! いっぱいイカせて下さいっ!!」
綾香は声を震わせながら、遂に一線を越える言葉を口にしたのだった。
(ああ・・・もう・・・どうなってもいいわ・・・・・・)
「はははっ、そうこなくっちゃね。ほら、気持ち良くしてあげるから、四つんばいになってお尻をこっちに向けて」
男に命じられるまま、綾香はのろのろ起き上がると、交尾をせがむ獣そのもののポーズと取った。
「自分の手であそこを広げて。思いっきりね」
「っ・・・・・・」
震える両手で尻肉を掴み、なんとか左右に広げる。自然と顔はシーツに埋まり、尻を高々と突き上げる事になる。太股に滴る淫らな体液を感じながら、綾香はこの先に待ち受ける快楽を想像し、身体をブルリと震わせた。
「本当に綾香はしたないお嬢様だ。モノ欲しそうにダラダラと涎を垂らしているよ」
ぱんっ!
「ひぃっ!」
突然尻を思い切り叩かれ、綾香の身体に電流が走る。それと同時に媚肉が大きくわななき、男はそんな綾香に満足したのか歪な笑みを浮かべ、一突きに綾香の中を奥まで刺し貫いた。
「うぁぁぁぁぁっ!」
不完全燃焼のまま燻り続けていた淫欲が、その一突きに瞬時に燃え上がり、綾香の脳を焼き尽くした。だらしなく開かれた口からは大量の涎が吹き出し、白いシーツに淫靡な染みを作り上げる。美しい曲線を描く背筋が限界まで大きく伸び上がり、汗に汚れた黒い髪が部屋の中に大きく舞散った。
「おいおい、入れただけで逝っちゃったのか? 仕方が無いなぁ」
男は綾香の腰をしっかりと固定したまま、男根を媚肉がきゅうきゅうと締め付けてくる快感に暫く身を任せた。そしてたっぷりと時を置いてから、綾香が大きく体を震わせて脱力すると同時に、ゆっくりとピストン運動を開始する。
「ううっ、うああっ、あああっ」
くぐもった喘ぎ声が、綾香が顔を埋めるシーツに染み込んでいく。男は淫らにうねる綾香の背中に覆い被さると、髪と乳房とを掴んで綾香の上体を強引に引きずり起こした。そして脅えた小猫のように難度も首を振る綾香の肢体を強引に抱き寄せ、両手を使い綾香の両の乳房をきつく揉み解す。その間も、腰の動きは止めはしない。
暫くすると、綾香の脇腹が細かく痙攣しはじめる。くぐもった喘ぎ声は徐々にせっぱ詰まった悲鳴へと代わり、劣情に潤んだ瞳は視点を定めないまま頻りに宙を泳ぐ。そうやって絶頂が近づいてきた事を全身を使って男にアピールする綾香に、男は腰の動きを更に早くする事で答える。
「ああっ、駄目! もう駄目なのっ、駄目なのよっ!」
「ああ、望み通り派手にいかしてやるさ。それっ!」
「ひゃ! あああああっ!」
激しく叩き付けられる度に結合部からは淫液が飛び散り、綾香は無我夢中で頭を掻き毟った。いつしか男の手は乳房から赤く濡れそぼったクリトリスへと伸び、そうなるともう、綾香は大きなオルガムスの波に成す術も無くさらわれるしか術は無かった。
「無理矢理犯されてイクのかこの淫乱がっ! ほらっ、とっととイキたいんならイケっちまえよ!」
「ああっ、許してっ! うあ、ああっ、来るのっ、来ちゃうのぉぉっ!」
全身がドロリと蕩けてしまいそうな甘美なエクスタシーに襲われ、綾香はぶるぶる激しく、身体を淫らにくねらた。そして声の出せる限り、大きな声で泣き叫んだ。
「うぁぁぁぁんっ!!」
「くっ、僕もいくぞ! ほらっ、受け止めろっ!!」
「ひぃ、熱ぅっ! ああああっ!!」
男の熱い精液を子宮に受け止めた綾香は大きく目を見開かせ、連続した絶頂へと放り出される。背骨が折れてしまうかというくらいに身体を反り返らせ、暫くぶるぶると大きく体を震わせた後、まるで糸が切れた人形の様に、力無くベットに崩れ落ちた。
その余韻が冷め終わらない内に、ゆっくりと意識が遠退いていく。
「ああ・・・」
そして男に唇を奪われた瞬間、綾香の意識は闇の中へと沈んでいったのだった。
気付いた時、部屋には綾香1人が取り残されていた。
まだ霞む思考。じんわりと熱が残り、腫れたかの様に重い下半身。
何故自由の身になる事ができたのか。そんな疑問など、もはやどうでもよかった。とにかく早く家に帰りたかった。そして熱いシャワーを浴びたかった。この部屋にバスルームがある事は判っていたが、いつ男達が戻ってくるかもわからない今、それを使う気になれる筈も無かった。
ともすれば零れ落ちそうになる涙を必死に堪え、綾香は部屋の隅に乱雑に置かれていた自分の衣服に素早く袖を通すと、一度も振り返る事無く、その部屋を後にしたのだった。家に戻ると大勢の人間に詰め寄られたが、綾香はただ、平然と「別に。友達の家で遊んできただけだから」と、笑顔で答えた。発信機の事が在る以上、なにかしらのトラブルに巻き込まれたと言う事実は誰の目にも明白であったが、それでも綾香は自分がレイプされたと言う事実に関して、決して口を開かなかった。ただ姉の心配そうな目に、ぎこちのない笑みを浮かべただけで。
それから数日間は、何も無い平穏な日々だった。しかし綾香には確固たる予感があった。そう。あのままで終わる筈が無い、と。
そしてその予感は的中する。下校中に鳴らされた携帯電話。声の主は、あの黒い髪の男だった。
「僕の事、思い出してくれたかい」
「ええ」
アメリカに留学中、綾香に核闘技を教え、そして綾香に負けた男。
薬にでも走ったのか。当時の精悍とした印象はかけらも無かったので、とっさに思い出す事はできなかった。しかし電話越しにその声を聞き、はっきりと確信を持つ。
「あの時の復讐って訳? 見損なったわ」
「ああ、見損なってくれて結構だよ。でも、君も偉そうな事は言えないんじゃないか?」
「っ・・・」
「どうしたの、来栖川さん」
「ごめん。ちょっと急用が出来ちゃった。悪いけど先に帰っておいて」
隣を歩くスクールメイツに苦笑いを浮かべ別れを告げると、綾香は1人、人目の付かなそうな路地へと入る。
「・・・・・・早く用件を言いなさいよ」
「そうだな。まずは、これを聞いて見てくれ」
そして電話から聞こえてきたのは、綾香自身のあられもない嬌声だった。綾香は目を閉じ、唇をかみ締めた。やはりそういう事だったのだ。でなければ、ああも簡単に解放される筈が無い。
「どうだい。なかなか良く撮れているだろう。まぁ電話だからね、この乱れきった綾香の映像まで伝えられないのが残念だけど」
「一体、何が目的なのよ!」
耳を塞ぎ、その場にうずくまりたかった。そんな綾香の悲痛な叫び声に、男は淡々と答える。
「エクストリームを含む全ての核闘技らの引退。これがまず1つ目だ」
「そんなっ!」
「2つ目は俺の奴隷になる事。最後に、時が来れば俺と結婚する事。どうだい?」
「あなた馬鹿?! そんなふざけた事、できる訳ないじゃない!」
「出来なければ、このビデオをネットで流すだけだ。そうすれば、なぁ、綾香。どうなるか判るだろう?」
「ああ・・・・っ」
頭の中が深い闇に覆われ、何も考えられない。大きく見開かれた瞳から零れ落ちた大粒の涙は、静かにゆっくりと、アスファルトに大きな染みを作る。 「おかしな事だけは考えるなよ。こっちには万が一の為の用意が五万とあるんだ。いいか、まずは今晩だ。もう一度あのマンションに来い。もちろん発信機を外してな」
男の声に、綾香は頷く事も首を振る事もできない。
これからこの身に降り掛かるであろう淫らな予感に、ただ身体を震わせるしかなかった。