haruo iwaki



 わたしの住んでいる地域は大阪西成釜ケ崎(愛隣地区)ですが、このところの不況でほぼ二万人の日雇い建設労働者が仕事にあぶれ、どうしょうもない状態になっています。

 どうしてこんなに日雇い失業者が出たかというと、建設業というのは受注の変動が激しいわけです。そのため建設会社は常時、一定の労働力を抱えていることができません。とくに大手建設会社は正社員だけでいいのですから。
 受注の変動に合わせて労働力を確保するために国策として発生したのが日雇い労働者の市場であったわけです。
 しかしバルブ崩壊とともに建設業は軒並み赤字を出し、倒産続出、結果、日雇いたちが巷に放置されたわけです。
 国にとってはもはや用済みの余計者です。
 さらには政府の政策もあって、いわゆる3K市場には、外国人労働者が安い賃金で参入してきており、失業した建設日雇い労働者なんかを雇う零細企業はありません。

 以上の理由により仕事がないから、まず食えない!
 かといって国が仕事を見つけてくれるわけではない。食わしてくれるわけではない。そこで日雇いの人たちはどうしたか!?

 路上でさまざまなものを売り出したのです。
 十年ほど前でしたが、まず、たった一人のひとがやり始めた。
 偶然、わたしはその現場を目撃した貴重な男なんです。
 最初はそうとは知らないで、道ばたに長靴と百円ライターと傘が落ちていると思った。
 しかしよく見ると、そこから少し離れたところに日雇いの人がしゃがんでいる。
 シートも敷かないで道路に直に置いているからわからなかったが、それはその人がタコが自分の足を食うみたいに唯一残った自分の持ち物を売りに出している姿でした。とうとうここまできたかとわたしは思ったものです。
 しかし、これが発端となって、大阪人らしいたくましさで日雇いの人たちが生きるために動きはじめた。
 どこかで拾ってきたり安く仕入れたものを路上で売り始めたのです。
 いまや、釜ケ崎日雇いセンター周辺における路上は土・日になれば大阪近隣の人たちが電車や車で集り、のべ数万人が押しかける大市場です。
 仕事にあぶれた日雇いの人たちは国の援助をあてにせず、もと鉄筋工の人やもとダンプ運転手やときにはホームレスの人たちなどが、さまざまなものを売って、しぶとく食いしのぐ元気でたくましい失業者の楽園になりました。
 ところが! 
 二週間前から大阪府警がこの市を前面的に封鎖してしまったのです。
 すべての露天を撤去し、すべての日雇いやホームレスが出している中、小規模の、それこそ拾ってきた文庫本数冊を道で売る者まで排除し、これらの人たちの食うすべを奪ってしまったのです。
 数万人のひとたちが訪れていた市は、いまや誰一人通らない無人の道路です。

 これまで黙っていた警察はどうして大規模に介入してきたのでしょうか。
 これだけ大きな市(いち)ができると必ず異分子が混じってきます。
 もともと日雇いやホームレスの人たち中心の市だったのですが、暴力団対策法以後、まず食い詰めたヤクザたちが裏ビデオや裏DVDを売り始め、つぎに中国人や韓国人たちが違法コピーのハンドバッグや時計をこの市にまぎれてこっそり売り出した。
 二、三年ほど前からです。
 ところが市の性格上、警察が大目に見ているのをいいことにヤクザや韓国人たちは図にのってきました。
 市(いち)の主要な路上をすべて占拠し、裏ビデオやDVDを販売する露天は60店舗(暴力団三団体20数組)に至り、違法コピーを販売する韓国人グループも市のほぼ主要な道路の半分を占拠し、その数もうなぎのぼりでした。
 この状況だけを見て、まず『週刊新潮』が一ヶ月ほど前に報道し、次に読売系テレビが、二週間ほど前にテレビで報道しました。
 テレビでは機動隊による全面撤去の有様も映されていますので、これはマスコミ・警察が連携して一体になった行動でした。
 でも、マスコミがまったく見落としているのが、この市で確かに暴力団や韓国人がのさばっている感があるけども、場所的には80パーセントがやはり日雇いやホームレスの人たちの食いつなぎの場であったということです。
 そういう人たちをも、ついでに弾圧してしまった。
 一番大事な点を考慮せず「ホームレスや日雇いなんか」という態度にしかみえない態度で虫けらのように「ついで」に「消毒」してしまった。
 違法DVDやコピー商品だけを排除するのが目的なら、業者を逮捕すればいい。
 それをしないで市を廃止したのは、いったいどんな理由があるのか。
 いまはまだわかりません。

 ここでかろうじて食いつないでいた人たちはいったいどうなるのか。 だれも助けてくれない。だれもニュースにしてくれないし、政治も政治家もだれも目を向けてくれません。
 国がたすけてくれないから自力でなんとか食おうと、頑張りはじめた人たちの市を、違法コピー狩りを口実に弾圧する。
 こういうことがまかり通っている身近な日本の政治状況がある。
 わたしはむづかしいことはわからない。ただ、わたしはこういう事態への世の中の対処の仕方、放置の仕方、弱者を意味もなく弾圧する政治のあり方を、みなさんに知ってもらいたいと願います。