統合失調症――Schizophrenia
100人に1人がかかる脳の病気 (完成率80%)

――苦しんでいるのはあなただけではありません

統合失調症とは?

 統合失調症は脳の病気です。
 脳内の神経伝達物質のドーパミンの作用が強すぎるために生じます。
 子供の育て方によって起こるという考えは、多数の養子を対象にした研究で否定されています。育て方が悪かったと、自分や他人を責める必要は全くありません。
 心理的ストレスが原因に見えるときもありますが、それは既に病気が始めていたために失敗したと考えるべきです。
 現実を認識する能力が低下し、感情や意思に影響が出ます。対人関係も苦手となります。
 世間一般で言われているような、暴力行為が多いかについては証拠はありません。意識や知能は障害されません。
 「人格が分裂」するわけではありません。
 統合失調症は100人に1人がかかる非常にありふれた病気です。統合失調症で悩んでいる患者さんはあなただけではありません。
 数10年前ならば統合失調症というと、全く悲観的な将来を約束されたようなものでしたが、精神医学はだいぶ進歩し、多くの患者さんが社会生活を送られるようになりました。

発症頻度
 一般人口での発現率は0.85%です。世界のどの国でもほぼ同じです。男女差はありません。ただし、女性はより遅く発症し、より顕著な気分症状が見られ、より予後がよいようです。発症年齢の中央値は男性では20台の初めから半ば、女性では20代後半です。
 冬(北半球では1〜3月)出生の人に多いです。ウィルス感染が影響しているという説もあります。

遺伝
 遺伝性があるとされています。統合失調症の子が統合失調症にかかる危険率は16.4%、同胞(兄弟姉妹)では10.8%、孫では3.0%、おい・めいでは1.8%となっています。一卵性双生児の発病は60-70%。100%でないことからも、遺伝的要因だけでなく環境要因の関与も考えられます。遺伝的素因が関与するとしても、複数の遺伝子と環境因子との相互作用で発現するものと考えられます。
 統合失調症が発症するにあたって遺伝素因と生育環境、特に家庭要因(親子関係など)のどちらが主要な要因となりうるかが、養子研究法によって調べられています。それによると、遺伝素因の関与の方がはるかに大きいことが示されています。つまり、育て方が失敗したから統合失調症になった、と考えるのは間違いということです。
 体質と環境によって発病する、心筋梗塞や糖尿病のような病気と考えると良いでしょう。

病前性格
 おとなしく育てやすい子供のことが多いです。意外かもしれませんが、家庭内暴力などの行動化は少ないといわれています。控えめで安定志向です。
 統合失調症になりやすい素因を持って生まれてきた子供は、幼児期・学童期から、情報処理や注意認知の微細な障害を持っていて、また対人行動場面でも敏感で、非社交的で、学校での適応が良くない傾向が見られます。
 医師との関係は穏やかな陽性感情転移で、良好な関係が長期に渡って続くことが多いです。

原因
 「素因(脆弱性)+ストレス」仮説で説明することができます。ストレスに弱い神経系(素因)を持っている人は、思春期、青年期の発達課題を乗り越える家庭で発病してしまい、中程度に強い人はそこは乗り越えても、成人、中年期の仕事のストレスなどで発病してしまうわけです。このストレスには家族環境もあれば、社会的文化的環境のストレスもあります。
 化学的には、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが多すぎることで生じます。ドーパミンはメッセージを伝達しますが、そのバランスが崩れると奇妙なメッセージが送られてきて、感覚が変化したり、思考が混乱したりするわけです。
 脳内のドーパミンを阻害する薬を用いると、精神病症状を軽くすることができます。

生物学的異常
 最近の研究によって次のようなことがわかっています。これらのことにより、統合失調症の原因の解明が進められています。
1. 神経伝達物質の異常
 a. ドーパミン系の過剰活動(ドーパミン受容体の過敏性)
 b. グルタミン酸ニューロンの低活性
2. 精神生理的異常(情報処理障害)
 a. 眼球運動の異常
  追跡眼球運動の異常、探索眼球運動異常
 b. 事象関連電位の異常
3. 脳の形態学的異常
 a. 画像診断(MRI)でみられる異常
  側脳室の拡大、側頭葉が小さい、など
 b. 細胞病理学的異常
  海馬(側頭葉の一部)などの細胞構築の異常
4. 脳血流の異常
 a. (左)前頭葉の血流低下、など




症状

 個人によって、あるいは初期、中期、後期によって症状が異なります。代表的な症状には以下のようなものがあります。

妄想・幻覚(陽性症状)
 本来、あるべきでない感覚、思考、感情、行動の変化があります。現実とかけ離れた奇妙な考えを持つことがあります。
 脳内のドーパミン受容体の過敏性と関係が深いようです。

 周りの出来事が奇妙に恐ろしく感じられる。偶然ではなく、自分に関係があるような。暗示的。――妄想気分
 今起きていることの意味にはっと気づく。――妄想知覚
 誰かに見られている。伝播か何かで考えが他人に伝えられる。――思考伝播。見られている――注察妄想。つけてくる――追跡妄想。
 言葉の裏の意味が伝わる。
 他人が自分の知っている人のように見える――人物誤認、カプグラ症候群
 誰かが嫌がらせをする。――被害妄想
 自分は特別な人物――誇大妄想
 相手の考えが言葉になって伝わる――幻聴。抗議の電話。
 自分の行動を見て非難めいた実況中継――考想化声
 声が言い返してくるので言い合い――対話形式の幻聴
 言い合いするので――独語
 薄気味悪い笑い――空笑
 そこに実在しないものが見える――幻視
 脳が溶ける、腸が腐るなどと感じる――体感幻覚
 自分の考えや行動が誰かに操られている――させられ体験
 一貫性のある会話ができない――滅裂思考
 明瞭な実感――病識欠如
 その結果、物音に怯えるなどの不安。人目を恐れて、自閉に。
 妄想に動かされて興奮。
 不眠(昼夜逆転)

感情意欲障害(陰性症状)
 能力や意欲が失われます。以前は簡単にできた日常的なことができなくなります。
 怠けていると考えるのは正しくありません。「性格」やはたまた「根性」の問題ではありません。脳が正しく機能しないために、以前できたことができなくなっているのです。本人に責任のないことで、患者さんを責めてはいけません。
 多くは病気になって何年かたつうちに、次第に目立ってきます。

 日常のことに無関心
 感情が乏しい――感情鈍麻、平板化
 学校を休む。成績低下。身なりが悪くなる。部屋にこもる。部屋が片づかなくなる――意欲低下
 鬱病と違って、そのことを苦痛に感じ、自分を責めたりということはない。
 他人と交わらず1人でいる。

 結果として、次のような生活障害で苦しむことになります
 ・日常生活技術の不足(生活の仕方が下手)……料理ができない、機械の使い方がわからない、交通機関をうまく使えないなど、「応用力」「想像力」の障害があります。
 ・対人関係能力不足(人付き合いが下手)……対人関係に要求される微妙なニュアンスに対応できず、ストレスをためてしまいます。
 ・就労能力不足(仕事を続けられない)……持続力や体力が落ち、疲労しやすくなります。また、手順の学習障害、作業スピードの遅さがあります。

思考障害
 知的障害はありません。会話も普通に可能です。記憶も良好です。
 表面的な連想(音による連想など)で、繋がりがない――連合弛緩
 考えが止まって先に進まない――思考途絶
 考えが誰かに抜き取られる――思考奪取
 考えが頭の中に入ってくる――思考吹入
 自分で言葉を作り出す――言語新作
 滅裂思考
 言葉がごちゃごちゃにかき混ぜられる――言葉のサラダ
 器用さがなくなる

緊張症
 昏迷、拒絶症、硬直、蝋屈症、しかめ顔、尖り口、興奮、常同、反響動作

 なお、それぞれの症状が独立して現れることが多いです。
 一定の身体症状はありません。不眠、体感幻覚などが出現します。


三病型
 統合失調症は大きく3つの病型に分けられます。

妄想型統合失調症
 妄想幻覚が中心です。感情意欲思考の障害はほとんどありません。緊張病症状はありません。最も多い病型です。抗精神病薬によく反応するので治療しやすいのが特徴です。発病年齢は遅く、特に中年女性は予後良好です。

破瓜型
 感情意欲思考障害が中心です。無関心で、疎通性が乏しいのが特徴です。発症年齢は早いです。その後の社会生活のために、生活指導が重要です。

緊張型
 緊張病症状が中心です。発病は急激で短時間で消失します。現在では稀です。


時期と症状
 初期……幻覚や妄想といった異常体験が多いです。陽性症状の再発に悩まされます。治療では、薬物療法による陽性症状のコントロールに重点を置きます。
 中期……人付き合いや仕事の持続力といった精神的能力の低下が目立ってきます。再発しても陽性症状は以前より落ち着いています。社会復帰が重要な課題となります。治療では、再発防止と生活療法(トレーニングと環境調整)が大切です。
 後期……現実の世界ではなく、幻想的な空想のせかいにはいりこんでいってしまいます。孤独を好み(自閉)、何もしないことを好む(無気力、無為)ようになります。人間的な温かい深みのある感情交流ができなくなり、人格が変わってしまったかのようになります。昔は、統合失調症は全てがこの末期的状態(人格荒廃)に陥ると思われていましたが、今は治療法の進歩などでここまで至るケースは少数となっています。


統合失調症急性期の心理状態について
 患者さんはこのような心理状態にあります。

1. 前駆期
 仕事や学業で壁にぶつかっている感じで、行き詰まり感に襲われます。「このままでは駄目になってしまう」という強い焦りに襲われます。そんな自分に嫌気が差してきて、自分に自信が持てなくなり暗く悶々とした気持ちになります。そのうち、何となく周囲の人たちが自分をあざ笑い、悪口を言っているような気がし、人のしぐさが気になり出します。
 ある人は、せっぱ詰まった状況から抜け出そうとあがき、だんだん頭が異常に冴えるようになったり、頭の中で考えがぐるぐる空回りするようになったりします。こうなると次の急性期極期の状況に移行していってしまいます。
 また、ある人は、対人関係や社会生活があまりにも辛いので、引きこもり、人を避けて楽になろうとします。
 そして、ある人は、この緊迫感に耐えられずに大きな漠然とした不安に押し潰されて、自殺してしまうこともあります。
 普通、なかなか自分の病気を認めようとしませんが、早期発見、早期治療が行えるほど、回復は良好となります。

2. 急性期極期
 前駆期の異常や頭が冴える感じに引き続いて、次第に周囲の何でもないことが何か特別の意味を持つように思えて仕方がなくなります(異常意味意識)。周りの風景が、何か暗示を送っているように思えてくるのです。何か重大なことが起こる予感や不安感にとらわれます(妄想気分)。そして、周囲の出来事全てが自分に向けられているように思われ、不安感、恐怖感は最高潮に達します。
 次第に幻聴(声)もきこえ始め、その声はあたかも自分の心の中を見透かしたかのように、自分の劣等感や弱みをついてきます。患者さんは悩み続け、ある日、些細なことがきっかけで自分を「陥れた犯人」にぱっと気づきます。もちろん「声」も「犯人」も現実のものではありませんが、「いわれなき迫害」の原因・理由が「わかった」ことで、患者さんの不安感は少なくなります(妄想的解決)。
 またある人は、世界が破滅するという圧倒的な恐怖、不安の前で身動きがとれなくなってしまいます。
 この急性期極期の状態で、多くの患者さんは入院、あるいは外来受診してきます。そして治療が始まり、次のような経過を辿って治っていきます。

3. 臨界期
 この時期は急性期の転換点です。入院、あるいは外来治療開始から2〜4週間たつと、薬が効き始めて、幻覚や妄想が抑えられ、頭の中の混乱が落ち着いてきます。治療スタッフや家族が動じない存在として落ち着いて接していると、妄想世界から現実世界へと戻ってきます。この時期は、脳内はまだ不安定な状態なので、少しの刺激で急性期極期の状態に逆戻りしやすいため、注意が必要です。

4. 寛解期前期・寛解期後期
 寛解期に入ると患者さんはようやく安らぎを感じるようになります。同時に、しばしば消耗感や、疲労感、集中困難を自覚するようになります。無口になり、反応も鈍くなります。この状態が6ヶ月から1年半ほど続きます。この時期は脳の休息のために大事な時期なので、患者さんを焦らせないようにします。
 その後、少しずつ活動性が増加し、会話も増えてきます。患者さんもゆとりを感じるようになってきます。このような状態になって初めて社会復帰に取りかかれるようになります。
 入院していれば試験外泊を重ね、また院外作業療法を行うなどして、退院して社会に復帰する準備を進めます。


能力障害
 以下のような障害があるからこそ、統合失調症患者さんは単に病人というだけでなく、障害者として福祉の対象となります。
 これらの能力障害は病気の症状というよりは、病気によって脳の微細な機構が損傷したために起こった、病気の後遺症だと考えられます。そのため、ある程度はカバーできても、完全に元に戻るのは困難です。
A. 生活障害
 1. 日常生活技術の不足(生活の仕方が下手)……料理ができない、機械の使い方がわからない、交通機関をうまく使えないなど、「応用力」「想像力」の障害があります。
 2. 対人関係能力不足(人付き合いが下手)……対人関係に要求される微妙なニュアンスに対応できず、ストレスをためてしまいます。
 3.就労能力不足(仕事を続けられない)……持続力や体力が落ち、疲労しやすくなります。また、手順の学習障害、作業スピードの遅さがあります。
B. 行動パターンの問題
 1. 対人行動場面での特徴
 ・正直者で秘密を持てない。
 ・断るのが下手。
 ・融通が利かない。状況判断が悪い。
 2. 問題解決場面での特徴
 ・名目や世間体にとらわれやすい。
 ・変化にもろい。新しいことに適応するのに時間がかかる。
 ・全か無かで程々がない。中庸を取れない。
 ・些細なことと重要なこととの区別が付かない。
 ・同時に複数のことがこなせない。
 ・遠い可能性をすぐ実現しようとする。手順を踏まず段階を飛び越えて願望を実現しようとする。
 ・行動のレパートリーが少なく、同じ間違いを繰り返す。
 これらの「行動パターン」の問題は、一見「性格の問題」に見えますが、もともとからの性格ではなく、主として病気の後に生じた性格傾向、行動パターンです。この「行動パターンの問題」の背景には、「注意・認知・情報処理レベルの障害」があります。
C. 注意・認知・情報処理レベルの障害
 1. 選択的注意の障害……無視すべき刺激を無視し、必要な刺激にだけ注意を集中することができない。
 2. 比較照合過程の障害……明確な情報のみを手がかりにしてしまい、他を無視する。字義的な(文字通りの)意味にとらわれて、比喩的な意味を解せない。文脈を読み取れない。
 3. 概念形成の障害……カテゴリー化の障害。分類ができない。順位づけができない。
 4. 応用力の障害……類似の課題であっても、一から取り組まないといけない。




治療

 統合失調症は治療可能な病気です。昔は治療困難だったこの病気も近年の薬物の進歩により、大幅によくなるようになりました。糖尿病と同じで、完全に治すことはできなくても症状を抑えることができます。新しい薬の開発で将来の見通しは明るいものになっています。
 基本は薬物療法です。出来る限り入院ではなく、通院で治療を行います。
 同時に、精神療法を行うこともありますし、社会復帰のために生活療法(作業療法、レクリエーション療法、生活技能訓練、日常生活指導、リハビリテーション)も大切になってきます。
 早期発見、早期治療、社会復帰活動、再発予防が大切です。
 デイケアや作業所に通っている人も多いです。患者さんの95%以上が病院外で生活しています。

初期の治療
・良い治療関係を作る
・薬物(精神)療法により陽性症状を取る、軽減する
・再発予防
 初期には、以上が治療の柱となります。
 初期の治療で最も重要なのは薬物療法です。初期から服薬すれば、病気の進行、人格の荒廃を防ぐことができます。患者さんの苦痛を受け止めつつ、どうすれば薬を飲み続けてくれるのか、それをどう納得させるのか、いわゆる薬物精神療法という技術が必要になります。
 患者さんの苦痛を受け止めるには、精神病状態にある人の心理を知る必要があります。「君の言っている異常体験は直接にはわからない。でも、もし仮にそういう体験があれば、それは苦しいことだということは痛いほどわかる」という共感的姿勢で対応します。頭ごなしに「それは君の妄想だ」と説得しようとしたりすると、物別れに終わって、治療関係はスタートしません。
 また、初期の治療では再発が多く、その防止が重要です。

中期の治療
・再発予防
・生活療法あるいはリハビリテーション(トレーニング+環境調整)
・障害の受容
 中期では以上が治療の柱となります。
 発病から5〜10年たった中期になると、多くの患者さんは少し幻聴や妄想を持ちながらも、それにあまり振り回されることがなくなり、一応それらと距離を取って生活できるようになります。時々幻覚妄想の増強(再発)がありますが、初期に比べて軽く済むことが多くなります。
 再発を防ぐには、通院により早めに見つけること、また「生活臨床」学派の技術が有用です。
 中期になると、生活障害、能力障害が目立ってきます。関係の深い陰性症状には最近使われ始めた非定型抗精神病薬が有効とされていますが、まだまだ効果は十分とはいえません。現在、有効な方法としては、適切なトレーニングと環境調整です。トレーニング+環境調整を生活療法、あるいはリハビリテーションといいます。生活技能訓練(SST)などがあります。
 SST……精神障害者の社会復帰・社会参加を目指して、生活障害(能力障害)を改善する治療プログラムの一つです。受容的な雰囲気を持つ、グループワークの中で、例えば「友達を喫茶店に誘う」といった課題に、ロールプレイをしてやり方を身につけます。その積み重ねによって、いろいろな社会的行動(服薬自己管理、基本的会話、金銭管理、身だしなみ、食生活など)を学習します。
 環境調整としては、通うリハビリテーションの場としてデイケア、ナイトケア、作業所、援助付き雇用、授産施設などを選びます。住む場所としては、グループホーム、援護寮などの訓練施設、親との同居、ひとり暮らしなどから適切なものを選びます。
 中期にはもう一つ大きな課題があります。それは、患者さんが、自分が病人であり、障害者であることをだんだん認めていき、自分の身の丈にあった生活に、満足感を覚えるようになることです。これは人生における自己像や価値観の大転換であって簡単にはできません。患者さんは自分は病気ではない、一人前に働けると焦り、それが家族への怒りとなって暴力・反抗として向けられることもあります。逆に、家族の方が障害者であることを認められないため、焦りから患者さんにプレッシャーをかけることもよくあります。
 障害の受容のためには、まず家族がそれを受容すること、安らげる仲間のいる場所(デイケアや作業所など)を見つけることが大事です。周囲の和み、受容的な雰囲気の中で、初めて患者さん自身も障害を受容できるようになります。

末期の治療
・病院内でのよりよい適応(院内リハビリテーション、院内作業療法)
・再現実化(空想世界に住んでいる患者さんを、意味ある現実世界に参加させる)
・地域の福祉施設(再定住プログラムであるグループホーム、ケア付き住宅、ホームヘルプサービス、日中活動プログラムであるデイケア、ナイトケア、ソーシャルクラブ、たまり場など)
 以上が治療の柱となります。


薬物療法
 薬物療法の進歩により、入院が必要なほど症状の重い患者さんでも、比較的短期間の入院治療により退院できるようになりました。

抗精神病薬(精神安定剤)の効果

 統合失調症の原因として脳内のドーパミン受容体の過敏性が考えられています。抗精神病薬はドーパミン受容体を阻害することにより、正常な情報伝達を可能にします。その結果、幻覚や妄想が抑えられます。その効果は、二重盲検試験で確かめられてします。

 次のような効果があります。
 ・妄想幻覚を軽減します。
 ・興奮、不隠、焦燥感をやわらげます。
 ・単に興奮を抑えるだけではなく、認知機能を改善し、思考障害を改善します。対人交流能力が回復します。人格が病前の状態に近づきます。
 ・再発を防止します。

 薬物は特に妄想や幻覚などの陽性症状にはとても有効です。自閉傾向など陰性症状に関してはなかなか改善が難しいのが実状です。最近は、陰性症状に有効な薬物も作られています。

 デポ剤といって、1ヶ月間作用の続く薬を筋肉内に注射する方法もあります。これならばいちいち内服の必要がなく、薬を飲み忘れる人でも大丈夫です。

 耐性、依存性を示す証拠はありません。
 単剤治療が原則で、抗精神病薬の併用は通常行いません(もちろん、抗副作用薬や睡眠薬は併用します)。

薬の量と服薬期間
 急性期には比較的大量に飲みます。落ち着いてもすぐには減らさず、6ヶ月〜1年半ほどかけて少しずつ減らしていきます。その方が再発が少なくなります。その後は、再発防止のため、1日に1〜2回の薬を維持投薬します。
 初めて病気になった人は、3〜5年飲みます。3〜5年再発しなかった人はその後も再発しにくいからです。
 再発というのは、生活上のストレスが引き金になることが多いです。就職、結婚、出産など人生の大きなイベントを控えている人は、それらを乗り越えて生活が安定するまでは、薬を続けるべきでしょう。
 3年再発がなければ、毎日飲む必要はありません。2晩続けて眠れなかったり、妙に頭が冴えるとき、いつもと違うイベントが待ち構えているとき、緊張や不安を感じるときに頓服で飲むようにします。
 その後は、通院を1〜3ヶ月に1回にして、それでも安定していたら、薬がなくなったらもらいに来るようにと話をして、患者さんが自分で管理するセルフコントロールに任せます。その際には、患者さん自身の病気についての十分な理解が必要です。

副作用
 どんな薬にも副作用はつきものですが、だいたいにおいて向精神薬は安全な薬が多いです。医師から出されている量ならば、一生飲み続けても大丈夫で、大きな臓器障害は起こしません。また、頭がぼけるということもありません。

 副作用としては以下のようなものがあります。
 錐体外路症状: 
 ・パーキンソン症状……ろれつが回りにくくなる、手が震える(振戦)、体が固くなる(筋強剛)ということがあります。
 ・アカシジア……足がムズムズして落ち着かないので、じっとしていられなくなり、うろうろしたり立ったり座ったりします。
 ・ジストニア……腓返りのような筋肉の引きつれがあったり、目が上を向いたままになったり、舌が出たまま引っ込まなかったり、頭が片方に向いてしまったりします。
 ・ジスキネジア……体がねじれます
 ・アキネジア……体の動きが遅くなります
 副作用止めとして、抗コリン薬(アキネトン、アーテン、ピレチアなど)を併用します。飲み薬でおさまらない場合は、その注射を使うとおさまります。特に副作用が出やすい場合はメレリル(心毒性注意)などを使用します。
 抗コリン作用: 口渇、唾液分泌過剰、かすみ目(霧視)、便秘、排尿困難などがあります。下剤や排尿を促進する薬でおさまります。
 鎮静(眠気): 薬を飲み始めたり、量を増やしたりしたときに起こりやすくなります。一時的なものであり、慣れると自然に消えることもあります。
 無月経・乳汁漏出: プロラクチンというホルモンの血中濃度を高くする可能性のあるものがあります。
 体重増加: 非定型抗精神病薬で起こりやすいです。
 遅発性ジスキネジア: 口や舌や筋肉がが勝手に動いてしまったりすることがあります。見た目以外に苦痛はあまりありません。長期(数10年)に渡って薬を飲んでいると起こります。頻度としては多くはありませんが、一度起こるとなかなか取れません。少しずつ薬を減らしていきます。
 悪性症候群: 高熱、筋強剛があります。精神病急性期に心身共に疲労の激しい状態で大量に強い薬を使うと起こることがあります。死亡することがありますが、そのようなことは稀です。治療方法、治療薬も確立しています。
 肝機能障害: どのような薬でも見られるものです。
 日焼け: 日焼けしやすくなることがありますので、夏の外出時は日焼け止めクリームを塗ると良いでしょう。

 いろいろと副作用を挙げましたが、最新の非定型抗精神病薬では副作用が出ることは少ないです。
 統合失調症は再発しやすい病気ですので、副作用を恐れず薬を使い、副作用が出たらすぐ主治医と相談し、副作用を出してもらったり、薬を変更してもらってください。

薬物の具体的な使用方法
 精神病症状を伴う気分障害の治療に、抗うつ薬や気分安定薬の単独療法は無効。抗精神病薬との併用が有効。

 陰性症状も新しい薬物である非定型抗精神病薬(クロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン)で改善する可能性があります。

前駆期
 ドグマチール150mg-300mg。

幻覚妄想状態
 第一選択セレネース6-18mg(抗幻覚妄想+鎮静作用)、リスパダール4-8mg(効果はハロペリドールと同等、錐体外路症状は少ない)。第二選択はインプロメン、トロペロン、エミレース。鎮静作用が弱い薬物の場合で、鎮静が必要な場合はヒルナミンとの併用。錐体外路症状の予防のため、抗パーキンソン薬としてアキネトンまたはアーテン6mg。眠前にはヒルナミン5-25mg。

情動不安定、不安焦燥、不隠
 ヒルナミン(傾眠作用あり)やロドピン(傾眠作用なし)などの鎮静作用のある薬物。軽度の不隠にはセレネース9mgにヒルナミン50mg。中等度の不隠にはセレネース9-18mgにヒルナミン50mg、さらにロドピン併用。効果不十分の時には、ヒルナミン75mgやテグレトール200-300mg併用。攻撃性や拒絶性があるときは、セレネース6-9mgにニューレプチル75-150mgかテグレトール200-600mg。

精神運動興奮
 緊急の場合はセレネース静注+ヒルナミン筋注。
 緊急でなければセレネース5mg+アキネトン5mg筋注かヒルナミン25mg+ピレチア(ヒベルナ)25mg筋注。セレネース5mgをソリタT3500mlで点滴でも良い。
 緊急で治療に拒絶的な場合は、セルシン10mgまたはサイレース2mgを入眠するまで緩徐に静注。過鎮静や呼吸抑制解除にはアネキセート。
 経口投与可能ならば、セレネース+ロドピン。

緊張病性昏迷状態
 ドグマチール100mg+アキネトン5mg筋注、セレネース5mg+アキネトン5mg筋注。セレネース5mg+生食20mg静注。ワイパックス1.0、ドグマチール。ECT。

強迫症状を伴う場合
 セレネースで改善しなければ、アナフラニール30-150mg。

統合失調症後抑うつ
 ドグマチール、エミレース、クロフェクトンが有効。抗うつ薬の効果は否定的。

陰性症状
 現行の抗精神病薬には治療抵抗性。エミレース6-9mg。リスパダール2-8mg。クロフェクトン(ドグマチールより効果的)25-225mg。ドグマチール300-600mg。オーラップ1-3mg。ホーリット40-80mg。クレミン(不安・敵意などの情動面)75-225mg。デフェクトン(情動面)75-150mg。抗うつ薬は陽性症状が消退してから用いる。

体感幻覚
 オーラップ3-9mgが第一選択。皮膚寄生虫妄想にグラマリール。

睡眠障害
 通常の不眠には中間作用型のサイレース1-2mg、ユーロジン1-2mgにヒルナミン15-25mg併用。短時間型のデパス3mg、アモバン(徐波睡眠増加、陰性症状改善)7.5-15mgも。
 不眠時頓薬には短時間型のアモバン7.5mg、レンドルミン0.25、ハルシオン0.25。イソミタール0.1g-0,2gとブロバリン0,3g-0.5g(呼吸抑制が生じやすいので入院時のみ)。ベゲタミンAまたはB(フェノバルビタール含有のため呼吸抑制生じやすいので入院時のみ)。
 不安、焦燥がある場合は、ヒルナミン10-50mg。夜間の不隠にはヒルナミン25mg+ピレチア25mg筋注。

非定型抗精神病薬について
 新しい抗精神病薬である非定型抗精神病薬は、副作用をほとんど引き起こしません。錐体外路症状をほとんど引き起こさないため、副作用の治療のための抗コリン薬が必要なくなるので、抗コリン作用に悩まされることもなくなります。また、月経周期に与える影響もほとんどありません。遅発性ジスキネジアが起こるリスクも約半分になります。
 また、陽性症状の他に、陰性症状にもよく効く可能性があります。抑うつや不安によく効いたり、物事をはっきりと考えられるようになったりもします。
 再発も有意に予防します。
 もちろん、どんな薬にも副作用はあります。非定型抗精神病薬の最大の副作用は体重増加です。

・リスペリドン(リスパダール)
 長く使われてきた薬です。第一選択薬として使用可能です。陽性症状、陰性症状に対して、ハロペリドールより有効です。低用量では錐体外路系副作用がほとんど起こりません。高用量ではそのメリットが少なくなります。
・オランザピン(ジプレキサ)
 陽性症状への効果はハロペリドールと同等、陰性症状への効果はよりあります。用量が多くても錐体外路系副作用はほとんど起こりません。起立性低血圧も起こりません。1日1回就寝前投与で済みます。鎮静、体重増加が起こりやすいです。止まった月経が再開する可能性があります。
・クエチアピン(セロクエル)
 第一選択薬として使用できます。陽性症状、陰性症状への効果はハロペリドールと同等です。リスペリドンやオランザピンよりもさらに錐体外路系副作用が起こりにくくなっています。鎮静、起立性低血圧、体重増加が起こり得ます。止まった月経が再開する可能性があります。
・クロザピン
 難治性の症状に有効です。他の全ての薬が効かなかったときに切り替えるのが最も良いと考えられます。陽性症状への効果が強いです。ただし、用量に関係なく、顆粒球減少という重大な副作用が100人に1人ほど起こり得ます。定期的に血液検査が必要です。逆に止まった月経が再開する可能性もあります。日本ではまだ使えません。
・ジプラシドン
 陽性症状、陰性症状への効果はハロペリドールと同等です。鎮静が起きにくいです。また体重増加があまりありません。日本ではまだ使えません。

併用薬
・抗コリン薬
 パーキンソニズム(振戦、筋強剛、アキネジア)の治療とジストニアの予防に最も有用です。アカシジアにも有効な場合があります。抗コリン薬の副作用は口内乾燥、霧視、便秘などです。記憶障害が生じることがあります。
・βブロッカー(プロプラノロール)
 アカシジアに最も有効です。喘息、糖尿病、ある種の心疾患では避けるべきです。
・抗ヒスタミン薬
 ジストニア反応を軽減します。アカシジアにも有効なことがあります。
・ドーパミンアゴニスト
 抗パーキンソン作用があります。抗コリン薬よりも効果が劣ります。抗コリン性副作用が起こりません。
・気分安定薬
・抗うつ薬
・抗不安薬
・睡眠薬




対応

患者さんへの態度
 患者さんを忌み嫌ったり、逆に自立できない半人前の人と思って「かわいそう」と過保護になるのは、個人としての患者さんの尊厳(自己価値観)を傷つけます。
 患者さんには病的心理と同時に、正常心理の部分もあるのです。現実的な心理世界を価値あるものにすることが、非現実的な心理世界(妄想)が強まるのを防ぐでしょう。

治療者の基本的態度
 依存型に対しては、時機を失せず、具体的に(細かいことまで)、断定的に(選択させると混乱する)、反復して(固着した行動パターンを変える)、余分なことは言わない(働きかけの焦点をぼかさない)ことが大切です。




経過

統合失調症患者さんの退院基準
 1. 退院後の生活について家族の支援が得られるか、単身生活の場合は住む部屋と経済的支援が得られる。
 2. 地域で生活するための最低限の日常生活技能(食事、金銭管理、火の始末等)があるか、不足している場合には家族などの支援が得られる。
 3. 自分で服薬でき、定期的に通院できる。
 4. 再発の注意サインをモニタでき、サインが出現したときに医療スタッフに連絡できる。
 5. 現在の入院の契機となった問題(たとえば興奮や暴力、自殺企図、違法な薬物やアルコール摂取など)がほぼ解消され、地域生活における自傷他害の危険が低い。
 6. 必要な場合に訪問看護や保健婦、福祉、ホームヘルプ等の訪問を受け入れることができる。
 7. 重い身体疾患がないか、通院で治せる程度に改善している。

退院後
 維持量程度の抗精神病薬の服用を続けていれば、寛解に近い状態を保って社会生活を送ることができます。服薬を中止すると非常に再発しやすいです。一度再発すると再発準備性を獲得し、容易に再発するようになってしまうので注意が必要です。
 統合失調症は脳の病気であり、その原因は心因性ではありませんが、発病や症状の増悪には精神的要因が関係することがあります。精神的にストレスに対して脆弱になっているわけです。
 
たとえば、患者さんが退院して家族の中に戻ると、服薬を続けていても、患者のことを気にして干渉しすぎたりする家庭では、再燃(病状増悪、シュープ)率が高くなることが示されています。患者さんに対しては、のんびりしてあまり干渉せず、感情的な距離を置くようにしましょう。
 退院後服薬を中止すると、社会生活のストレスなどのために容易に再発しやすい。再発すると、その後の機能水準が低下し、社会生活への適応がさらに困難になります。服薬を続けることが大切です。服薬の継続には家族の協力がかかせません。

 現在の薬物療法では、急性症状を、寛解させ、家庭にいる限りは治癒している状態に持っていくことができます。家庭の受け入れが重要です。
 また、急性期を乗り切ると、陰性症状無気力)が前面に出てくるため、社会復帰が大切となります。陰性症状は2年程度でかなりよくなるようです。

家族の受け入れ
 統合失調症の患者さんに対しては家族の受け入れが大切です。
 ただし、感情表出(嫌悪、恨み、心配など)の高い家族(EE家族)と過ごすと再発率が上がります。また、そのような家族と週35時間以上一緒に過ごす人の再発率はさらに2倍になります。
 よって、感情をぶつけることなく暖かく見守ることが家族には望まれます。また、デイケアなどで家族以外と過ごす時間も大切です。
 回復の一過程として、家族に対する攻撃、拒絶があることもあります。時間と共に改善していきます。
 リラックスし、趣味を行うのも良いことです。

 患者さんは家族に次のように望んでいます。
 ・気持ちをわかってほしい
 ・傷つけるようなことを言ってほしくない
 ・人間として認めてほしい
 ・信じてほしい
 ・世間体を気にしないでほしい
 ・口やかましく言わないでほしい
 ・そっとしておいてほしい

 患者さんは、おとしめられる、迷う、待たされる、という状況が苦手で、それがきっかげで再発することがあります。


再発について
 薬を飲むのをやめると高率に再発します。統合失調症の初発エピソードの後に服薬をやめてしまうと、80%が1年以内に再発します。初発エピソードの患者さんは、急性エピソードが完全に回復しても、最低12ヶ月間は抗精神病薬を飲み続ける必要があります。統合失調症のエピソードを2回以上経験している場合は、通常、無期限で治療を続けます。症状がなくなっても、薬は飲み続けてください。安定していれば徐々に量を減らすことができます。
 また、症状が改善し活動レベルが高まったため、人生のストレスが増え、そのために悪化することもあります。
 再発の早期サインとして次のようなものがあります。人によって違うので、自分のサインを把握し、それらが出たときには急いで精神科医に相談しましょう。再発すると元の状態に戻りにくくなります。
 ・なかなか眠れなくなる
 ・集中力がなくなる
 ・仕事に行ったり、友達に会ったりすることができなくなる

A. 再発を誘発するストレス
 1. 非特異的ストレス
  役割過剰、疲労、複合負担、不眠、支援者の消失、自尊心の傷つき、焦り、先読み不安、心配過剰、怠薬
 2. 特異的ストレス(個人の価値観と密接に結びついたストレス)
 金銭問題、愛情問題、プライドの問題
B. 再発しやすい人しにくい人
 「能動型」(社会生活の経過の上で、現状に安住せず自分から変化と拡大をつくりだそうとする)の人はしやすい
 「受動型」(社会生活の経過の上で、現状に安住し、自分から変化を作り出そうとしない)の人はしにくい。適応状態が良いからと、周りの人が生活の枠組みを拡大すると再発することがあります。
C. 再発しやすい家族環境(highEE)
 患者に対して
 1. 批判の多い人
 2. 敵対的感情を向ける人
 3. 情緒的に巻き込まれている人(過保護、過干渉)
 ただし、この家族の傾向は患者さんを最初に発病させた原因ではありません。

 再発の初めは、薬の増量や、生活上のアドバイスをすることで切り抜けられることもあります。しかし時間がたつと、手遅れとなって、入院や大量の投薬を必要とする状態になってしまいます。また薬を飲んでいないと、再発の初期徴候から、再発の頂点に達する時間が短くなり、外来受診が間に合わなくなってしまいます。


精神病後抑うつ
 統合失調症の症状が改善した直後に、抑うつが出現することがあります。脳の化学的状態によるものかもしれませんし、症状が良くなることに対する心理的反応かもしれません。病気によって長い年月や目標が失われてしまったと感じるからかもしれません。
 特に非定型抗精神病薬では、認知の能力が改善するため、今まで見えなかった自分を取り巻く状況が見えてきて、絶望することがあります。自分がなぜ病気になったのと、実存の問題に悩み出すこともあります。それを自分のせいにしたり、親のせいにしたりします。悩む結果、自殺へと結びつくこともあります。
 抑うつ状態は薬によって起こるのではありません。それは回復への過程の一部です。時間がたったり、治療によって良くなります。
 自殺したくなったりしたら、直ちに助けを求めてください。




予後

統合失調症の予後
 ・1/4は治癒
 ・1/4は軽症の欠陥状態
 ・1/4はやや重症の欠陥状態
 ・1/4は治療困難で重篤な人格荒廃
に至ります。約半数は回復するといえます。
 初期統合失調症は必ずしも統合失調症に発展するわけではなく、初期段階に留まる例や、正常に回復する例が相当数有ると考えられます。発病からの経過時間が短い(早期発見、早期治療)ほど回復が良いです。また、晩年に軽快する可能性もあります。

 社会適応度という生活レベルの指標で見れば、15〜20年後には
 ・「自立」(自立独立した生活や主婦など家庭で普通の生活をしている)が40%(全く薬を飲まなくてもよくなっている人が半数)
 ・「半自立」(ある程度職業能力もあるが、周囲の指導を要する)が10%
で、50%の人が社会的生産活動(役割)を担えています。
 ・「家庭内」(病前の職場に復帰するまでの準備段階あるいは簡単な作業なら持続的に可能)つまりは作業所レベルの人が10%
 ・「不適応」(家庭内で保護的な生活でそれもうまくいっていない状態)及び「入院」は25%
 ・「死亡」は15%
となっています。これは1960年後に群馬大学を精神科を退院した患者さんのデータですが、共同作業所、グループホームなどの地域資源が増えた現在では、より状況が改善していると思われます。また、薬物療法とアフターケア(外来通院の継続)が広まってからは、予後が良くなってきています。今後もさらに良くなるでしょう。
 なお、他の国でも、「自立・寛解」している人が40%、治療終了できた人は20%と同じ割合です。ちなみに、先進国の患者さんの方が発展途上国の患者さんよりも経過が悪くなっています。これは社会的ストレスに関係していると考えられます。

 統合失調症の病気自体による死亡は急性致死性緊張病(極めてまれ)以外にはありませんが、精神症状に関係した死因として重要なのは自殺です。うつ病と同程度(約10%)の自殺がありますが、うつ病患者と違って統合失調症患者の自殺は理由もわからず突発的で予測困難です。特に、
 ・男性
 ・30歳以下
 ・抑うつ症状
 ・無職
 ・退院から間もないこと
以上の条件に合う人が危険性があります。自殺者の過半数は自立の見込みの高い人たちと考えられています。病気はある程度良くなったけれど、生きにくくて自殺をしてしまうという厳しい現実が窺えます。社会的サポートが充実していけば、統合失調症患者さんの自殺は減り、社会生活を送る患者さんの割合は増えていくでしょう。

 予後が良いことを示す因子として次のようなものがあります。
 ・病前の適応がよい
 ・急性の発症である
 ・発症年齢が高い
 ・女性である
 ・きっかけになる出来事があった
 ・気分の障害を伴う
 ・陽性症状の持続が短い
 ・エピソードの間欠期に機能状態がよい
 ・残遺症状が少ない
 ・脳の構造的異常がない
 ・神経学的機能が正常
 ・気分障害の家族歴がある
 ・統合失調症の家族歴がない

経過モデル
 有名なM. Bleulerによる経過様式(1972年)によると次のようになっています。
<波状経過群>
 A. 波状に経過し、治癒に至る……22%
 B. 波状に経過し、中等度ないし軽症の終末状態に至る……27%
 C. 波状に経過し、重症の終末状態に至る……9%
<単一経過群>
 D1. 慢性に中等度ないし軽症の終末状態に至る……23%
 D2. 急性に中等度ないし軽症の終末状態に至る……2%
 E1. 慢性に重症の終末状態に至る……12%
 E2. 急性に重症の終末状態に至る……1%
 つまり、約60%の人は「波状に経過」する、つまり再発・再燃を繰り返します。約75%の人が中等度ないし軽症あるいは治癒という経過を辿ります。残念ながら約20%の人は「重症の終末状態」に陥ってしまいます。

備考
 犯罪は未治療、治療中断(退薬)の際に発生することがあります。
 他人への暴力より多いのは、自傷、自殺です。恐怖によるためらいがないため、確実な手段を取るのが特徴です。予測することは不可能です。




初期統合失調症
 東大の中安先生による初期統合失調症という概念があります。
 極期症状のみを尋ねる、的はずれの質問は患者に「精神病と考えられているのではないか」という恐怖感、さらには治療者に対する不信感を引き起こします。
 病気であるとの認定が安堵感を与えます。
 治療目標
 ・顕在発症を防止します。
 ・自殺に至るまでの著しい混乱と苦悩を軽減します。
 ・初期症状を取り去ります。
 治療方法は薬物療法が第一です。精神療法を併用します。
 初期症状を取り去るのに、クロルプロマジンやハロペリドールのような従来の代表的抗精神病薬(ドーパミン受容体遮断薬)は無効とされます。フルフェナジンやスルピリドが若干有効です。ノルアドレナリン系のオキシペルチン(ホーリット)が有効です。顕在発症を防止するには、患者の耐用力ははなはだ低いものの、従来の抗精神病薬(ドーパミン受容体遮断薬)が有効です。
 精神療法は、詳細な質疑応答を通して患者が自らに生じた異常体験を対象化・言語化し、それを病気による異物として自ら切り離し、一定の距離を取ってそれに対処できるよう促します。それによって、自殺に至るまでの激しい混乱と苦悩を軽減し、顕在発症の危険性を減らします。


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