NHKの著作物二次利用に対する方針

本テキストは「当世著作権事情」の参考資料にするために、筆者がNHKに対して書面で質問を行った、その「質問と答え」である。映像作家が著作権に関する理解を深め、NHKの著作物を利用する場合の参考になるだろうと、ここに紹介する。

回答の日時は「平成14年6月3日」であり、文責者は「NHKマルチメディア局著作権センター、メディア展開グループ」である。

まず、回答の全文をコメント無しに掲載する。恣意的な改変は一切行っていない。のちほど逐行的に考察しよう。

  1. 回答本文
  2. コンメンタール
    1. NHK著作物の二次利用について、どのような方針を持っているか
    2. 許諾の実際について
    3. 利用料金などについて
    4. 引用について



回答本文

  1. NHK著作物の二次利用について、どのような方針を持っているか。

    • NHKでは、視聴者からの要望に応え、NHKの放送事業の成果を広く社会に還元するために、NHK著作物の利用権を一定の条件(利用目的、利用期間、利用範囲など)の下にライセンスします。

    • NHKの番組は、NHKでの放送を目的として制作されていますので、放送以外の目的に利用する場合には、NHKだけでなく、出演者、音楽(作詞・作曲等)、CG制作、脚本家等さまざまな権利者の許諾が必要になります。
      放送以外の目的で番組を二次利用する外部事業者の方に、NHKの番組を提供するためには、こうしたNHK以外の方々の権利処理費をはじめ、当該番組の検索や複製等で経費が発生します。このため、NHKでは「受益者負担」の観点から有償での提供を原則としています。

    • 提供は以下の承認基準に照らし行っています。
      1. NHKの性格・使命を損なわないこと
      2. 番組やニュースの取材活動への支障がないこと
      3. 権利処理が可能なこと
      4. 提供先に問題がないこと(支払能力等)など

  2. 許諾の実際について

    1. 許諾対象著作物の範囲
      • 放送番組およびその映像や音声素材、ニュース原稿、番組に登場するキャラクターや音楽、NHKが制作した印刷物等を対象にしています。

    2. 申請者(個人・事業者)
      • 映画や放送番組の制作などを行う事業者(団体)に関しては、承認基準に照らし、特段制限することなく行っています。個人への提供は、放送法および関係法令上に定められたNHKの業務範囲を外れることから、原則として実施していません。

    3. 用途など(利用と公開の形態)
      • 現段階ではインターネットでの利用を認めていませんが、その他の用途には特段の制限は設けていません。ただし、過度な商業的利用等には許諾しない場合があります。

      ※ 許諾できないケースの多くは、番組素材の個別事情によるものです。例えば、外部への提供など放送以外の目的で使用することについて、当該素材に含まれている外部権利者の承諾が得られない素材等です。

  3. 申請者・用途などの違いによって、利用料金などにどのような変動があるのか、例えば、個人映像作品(コンペなどへの出品を含む)の場合と、商業的利用の場合の差異がどの程度あるのか。

    • 申請者は個人ベースで制作する
    • いわゆる「自主制作個人映像」〜ほとんど収益性はないが、各種映像フェスティバルなどへの出品や、有料上映会を開催すうることを含む〜の中で、NHK著作物を引用的に利用する場合


    • まず、個人への提供は上記の理由により提供は困難ですが、事業所(法人)への提供であれば提供の可能性があります。

      利用料金は、番組・素材により権利関係等が全く異なりますので、一概に申し上げることは困難です。ただ、目安としては、
      映画の一部にNHK映像素材を使用するケースで、NHKの権利処理だけに限ると、
      • 映像作品を自主制作し、無償で上映を行うものについては、映像使用料は 10秒まで 30,000円〜60,000円、10秒を超える毎秒 1,500〜3,600円程度です。
      • 有料の上映会を行う場合には、原則として劇場用映画(商業的利用)として考えます。(映画の採算性に関する規定はありません)この場合は上記金額の3倍程度になると思われます。
      • この映像使用料のほかに、映像検索費、コピー費がかかります。

      ※ 映像使用料および使用条件等は平成14年4月現在のものであり、今後改定される場合があります。


    • なお、「引用」についての要件は著作権法等が定めるところであり、放送事業者はこれを解釈する立場にありません。



コンメンタール


NHK著作物の二次利用について、どのような方針を持っているか

  • NHKでは、視聴者からの要望に応え、NHKの放送事業の成果を広く社会に還元するために、NHK著作物の利用権を一定の条件(利用目的、利用期間、利用範囲など)の下にライセンスします。

コメント:総論として「成果を広く社会に還元する」ことを目的として掲げているわけで、これは勿論評価できる。


  • NHKの番組は、NHKでの放送を目的として制作されていますので、放送以外の目的に利用する場合には、NHKだけでなく、出演者、音楽(作詞・作曲等)、CG制作、脚本家等さまざまな権利者の許諾が必要になります。
    放送以外の目的で番組を二次利用する外部事業者の方に、NHKの番組を提供するためには、こうしたNHK以外の方々の権利処理費をはじめ、当該番組の検索や複製等で経費が発生します。このため、NHKでは「受益者負担」の観点から有償での提供を原則としています。

コメント:ただし、映像の場合には多くの人々が関わっているのが普通である。NHKで放送された番組であっても、必ずしも「日本放送協会」という法人がそのすべての著作権を保有しているわけではない。タイトル・クレジットに名前の出る各種のパートのそれぞれの個人・法人が、それぞれに著作権を持っているのである。これが映像著作権処理の最大の問題である。

たとえば、音楽著作権ではこれはそれほど複雑ではない。著作権利者は、制作会社・メインの演奏家・作詞家・作曲家・編曲家程度であり、いわゆる「バックバンド」は慣例として「著作権の買い切り」がなされる。つまり、バックバンドはギャラと引き替えに、著作権を制作会社に譲渡する習慣があり、バックバンドの著作権が問題になることは慣例上ない。

映像著作権では、今だ二次利用に向けた業界慣習もほとんど確立していない。これが二次利用を妨げる最大の問題点である。


  • 提供は以下の承認基準に照らし行っています。
    1. NHKの性格・使命を損なわないこと
    2. 番組やニュースの取材活動への支障がないこと
    3. 権利処理が可能なこと
    4. 提供先に問題がないこと(支払能力等)など

コメント:ここで重要なのは「権利処理が可能なこと」「提供先に問題がないこと」である。2番目の「提供先に問題がないこと」は基本的に「法人」でなければならないことである。これについては後で述べる。

最大の問題は、「権利処理が可能でない」番組が実に多数に登ることである。番組の制作形態は、外部から見ている以上に複雑である。「権利処理が可能で」なくなる原因を列挙する。

  1. そもそもNHKが著作権を保有していない。たとえば、海外局の制作した番組を買い取って放送する場合なども多い。
  2. NHKがすべての著作権を保有していない。たとえば、共同制作に当るもの。この中にはたとえば「劇場中継」のようなものも含まれる:放送された映像に関してはNHKが著作権を持つにせよ、放送された「内容(劇)」に関しては、当然その劇の制作団体、劇団、俳優、劇作家の権利があり、かなり複雑なので、処理が難しいだろう。
  3. いわゆる「タレント」の出演する番組。勿論「タレント」は所属するプロダクションがその肖像権の管理を行っており、これらプロダクションにしてみれば、タレントの肖像権がプロダクションの利益と直結しているために、これらの権利処理に好意的であろうはずがない。まず無理だと考えるべきである。
  4. NHKに所属するアナウンサーが出演している番組。所属するアナウンサーの肖像権について、NHKは利用を許可しない方針である(という風に電話でNHKの担当部局に聞いた)。
  5. その他の肖像権・著作権について、その権利保有者が二次利用を拒むケースもあるだろう。一般論として、「人」が写っている映像は二次利用が難しい。

逆にどんなものが二次利用可能であるか、というとこんなものに制限されることになる。

  1. いわゆる「ニュース映像」。NHKのカメラマンが撮影した「ニュース」の映像であり、人物が写っていないか、写っている人物がおそらく肖像権を主張しないと考えられるもの(誰が誰だか判別不能な群衆シーンなど)。勿論、海外放送局から借りて放送するニュース映像はこれに含まれない。

残念ながら、他には思いつかない。実際の二次利用のケースもほとんどこれだけである。


許諾の実際について

  1. 許諾対象著作物の範囲
    • 放送番組およびその映像や音声素材、ニュース原稿、番組に登場するキャラクターや音楽、NHKが制作した印刷物等を対象にしています。

コメント:定義なので、これに関しては大したコメントはない。


  1. 申請者(個人・事業者)
    • 映画や放送番組の制作などを行う事業者(団体)に関しては、承認基準に照らし、特段制限することなく行っています。個人への提供は、放送法および関係法令上に定められたNHKの業務範囲を外れることから、原則として実施していません。

コメント:ということである。個人への提供は「法令上」できないわけだ。作家的立場からは不合理であるが、これに関しては法の改正を待つより他ない。おそらく個人の場合「支払能力」に関しての懸念から外されているのだろう。とはいえ、個人映画界では、個人映画界の有名人であるM氏が仕切っている某MJ社などに、仲介を頼むことも不可能ではなかろうが....


  1. 用途など(利用と公開の形態)
    • 現段階ではインターネットでの利用を認めていませんが、その他の用途には特段の制限は設けていません。ただし、過度な商業的利用等には許諾しない場合があります。

コメント:これについては筆者はそれほど関心があるわけではないが、そのうちに改正される可能性が非常に強いことを指摘しておく。映像のインターネット配信にどの程度の有効性があるのか、筆者は懐疑的なのだが、それでもNHK自体の「将来像」と絡んだ試行錯誤があることだろう。


※ 許諾できないケースの多くは、番組素材の個別事情によるものです。例えば、外部への提供など放送以外の目的で使用することについて、当該素材に含まれている外部権利者の承諾が得られない素材等です。

コメント:当然のことながら、これは「現実」を述べている。すでに見て来たように、映像の権利関係は大変複雑であり、1人でも二次利用に応じない場合、大概の場合は全体の二次利用が不可能になる。



利用料金などについて

.申請者・用途などの違いによって、利用料金などにどのような変動があるのか、例えば、個人映像作品(コンペなどへの出品を含む)の場合と、商業的利用の場合の差異がどの程度あるのか。

  • まず、個人への提供は上記の理由により提供は困難ですが、事業所(法人)への提供であれば提供の可能性があります。

    利用料金は、番組・素材により権利関係等が全く異なりますので、一概に申し上げることは困難です。ただ、目安としては、
    映画の一部にNHK映像素材を使用するケースで、NHKの権利処理だけに限ると、
    • 映像作品を自主制作し、無償で上映を行うものについては、映像使用料は 10秒まで 30,000円〜60,000円、10秒を超える毎秒 1,500〜3,600円程度です。
    • 有料の上映会を行う場合には、原則として劇場用映画(商業的利用)として考えます。(映画の採算性に関する規定はありません)この場合は上記金額の3倍程度になると思われます。
    • この映像使用料のほかに、映像検索費、コピー費がかかります。

コメント:無償の場合でも、個人で負担することを考えると大変高額である。JASRACを介した音楽著作権の二次利用と比較すると、約2ケタ(JASRAC千円単位〜NHK十万円単位)違う。また、JASRACの「上映使用料」は、公開されるホールの規模・徴収する入場料などとの間で、詳細に定められた表によって課金される制度になっている。

つまりJASRACは「一般利用者による、音楽著作物の正当なルールに従った二次利用を奨める」ことを目的にして利用料金体系を設定しているのに対し、NHKの利用料金の設定は以下の前提に基づいている。

  1. NHK映像著作物を二次利用する利用者は、商業的な劇映画を制作する映画会社か、
  2. あるいは企業の広報ビデオなどを制作する業者か、
  3. それとも民放などのNHK以外の放送局である。

このカテゴリーに収まらない映像制作者に関しては、全く考慮されていないのである。個人映画界の立場から見れば、禁止的な利用料金規定であるとしか言いようがない。


※ 映像使用料および使用条件等は平成14年4月現在のものであり、今後改定される場合があります。

コメント:おそらく改正される可能性が高いのは、インターネットにおける二次利用に関して、明示的な規定がなされるものではなかろうか。


引用について

  • なお、「引用」についての要件は著作権法等が定めるところであり、放送事業者はこれを解釈する立場にありません。

コメント:これはその通りである。著作権法における「引用」は、いくつかの基準のもとに、正当な利用であるとなされている。それについて、NHK自体が判断を下すべき問題であるとは言えない。参考のために、「正当な引用」の基準を列挙しよう。

  1. その引用が正当な慣行に合致すること
  2. 引用の目的上正当なな範囲であること
  3. 明白に引用部分が自分の作品から区別できること
  4. 引用元(原作者)を明示すること

つまり、我々の活動自体が、引用を正当なものにすることのできる「正当な引用の慣行」を作り上げていくのである。だから、筆者の個人的見解としては、そのような「慣行を形成するような」立派な引用をしていくべきではなかろうか。



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