ネジレバネの自然史
ネジレバネは完全変態昆虫の撚翅目(「でんしもく」、あるいは「ねんしもく」ORDER Strepsiptera)の昆虫で、世界で約600種が知られている。原始的な亜目を除いては全て昆虫の内部寄生者で、メスは成虫になってもウジ状で宿主の体内にとどまる。ネジレバネのメス成虫は頭部を宿主の体外に突き出し、頭部にある育溝と呼ばれる穴を通じてオスとの交尾、幼虫の放出を行う。ネジレバネのオス成虫は大きな触角と眼を持ち、活発に飛翔する。前翅が擬平均棍と呼ばれる器官に変化しており飛翔には大きな後翅が使われる。一齢幼虫は触角、目、脚があり活発に宿主を探す。寄生に成功すると宿主の体内で脱皮し、脚のない二齢幼虫となる。
ネジレバネ目の他の昆虫目との系統関係はほかのどのグループよりも昆虫学者を悩ませている。幼虫や成虫の形態、ゲノムまでもが極限まで寄生生活の適応に特殊化しているため、いまだ系統的な位置付けははっきりしていない。最近は撚翅目が鱗翅目、双翅目、膜翅目に近縁だとされることがあった。伝統的に撚翅目は甲虫目に最も近縁か、このグループに含まれ、ヒラタムシ上科のツツシンクイ科Lymexylidaeに近縁であると信じられてきた。オスのネジレバネは扇形の触角、大きな目、短く柔らかい鞘翅、寄生性の幼虫で一齢は三爪幼虫(triungulin)で過変態をするなど、甲虫のオオハナノミ科Rhipiphoridaeと類似点を持っている。また一方で、幼虫が痕跡的な複眼を持つことや、オスでは二齢幼虫の始めに痕跡的な翅の原基が現れる、一齢幼虫にはよく発達した11節の腹節がある、幼虫から成虫になる際に内部の器官が変化しないことからネジレバネは完全変態ではないかもしれないとの主張もあった。
最初に記載されたネジレバネXenos vesparum Rossius, 1793は膜翅目(ハチ目Hymenoptera)のヒメバチ科Ichneumonidaeに近いとされた。その後もネジレバネの属する、あるいは近縁と考えられる目には19世紀の終わりまでに蜉蝣目(カゲロウ目Ephemeroptera)、蜻蛉目(トンボ目Odonata)、膜翅目、鱗翅目(チョウ目Lepidoptera)隠翅目(ノミ目Siphonaptera)があった。
18S rDNA遺伝子の研究から撚翅目が双翅目に近縁であることが支持され、2つの目が近縁であるという仮説が提唱された(Whiting and Wheeler 1994)。それによると、胸部の節が入れ替わり、それによって平均棍が前後逆になったと考えられ、この2つのグループを合わせたものはHalteriaと命名された。しかし、Halteriaの単系統性の証拠は不十分で、5.8Sと28S rDNAの追加研究では近縁であることを示せなかった(これらの研究の結果ネジレバネが完全変態だということは確かめられた)。rDNAの高い塩基置換率が最節約法、最尤法、Bayesian法などの配列解析法に悪影響を与え、双翅目(ハエ目Diptera)と撚翅目Strepsipteraの人為的なつながりを導いたのかもしれない(いわゆるlong-branch attraction)。実際、ネジレバネの平均棍は双翅目Dipteraのものとは構造が異なる、これはこれらが平行進化であることを示唆している。シミネジレバネ科の平均棍はどのハエも持たない翅脈の痕跡を保持している、そして、平均棍の基部の感覚器の数、位置、配置、構造も2つのグループの間で違っている。最も新しい研究(Bonneton et al. 2006)では、双翅目と鱗翅目を含む長翅節に共通する特徴をネジレバネは持っておらず、支持は弱いながらも再び鞘翅目に近縁であるとされている。このような分類が混乱した状況はネジレバネ問題(Strepsiptera problem)と呼ばれている。脈翅類を含めて鞘翅目と撚翅目の類縁がどのような関係になっているのかは今後明らかになってくるだろう。
ネジレバネのオス成虫は翅があり活発に飛翔する。メス成虫は幼形成熟の蛆状で無翅、最も原始的な分類群(シミネジレバネ科Mengenillidae)以外は生涯寄主の中にとどまる。オスの成虫は8節以下の扇形の触角を持ち、眼はキイチゴのように大きく膨らんだ個眼からなり、とても動きに敏感だとされる。
ネジレバネのオスの前翅は立方体状の擬平均棍に変形しており、大きな後翅が飛翔に使われる。後翅には横方向の翅脈のみがあり(翅脈が交わることはない)、これらの翅脈もほとんど不完全である。ネジレバネの平均棍の機能はハエの平均棍によく似ており、力を感知し刺激を伝える感覚器として頭部や腹部の動きをコントロールしている。オスのネジレバネは機敏に飛翔し、ホバリングする能力さえある。ほとんどの種の記載はオスに基づいているが、これは網やマレーズトラップ(マレーゼトラップ)といった普通の方法を使って簡単に捕れ、より多くの比較可能な形質を持っているためである。オスの寿命は数時間である。
原始的なシミネジレバネ科Mengenillidaeに属する種以外ではメスは無脚で無翅、外部生殖器、触角、目、消化器系を欠く。メスは一齢幼虫として入ったあと、一生のすべてを寄主の中で過ごす。シミネジレバネ類は蛹化の直前に寄主から脱出し、その後は自由生活を送る。シミネジレバネ科のメスは短い触角、未発達な複眼、脚を持つ。他科のメスは普通寄主の腹部に入った状態で交尾し、活発な三爪幼虫を放出する。幼虫型のメスの硬化した頭部先端は寄主の背板節片の間から突き出し、フェロモンでオスを誘引する。頭胸部に開いている育溝(頭胸部にある開口部)を通じて針状あるいは鉤状の交尾器を突き刺して交接し、オスはメスを受精させる。シミネジレバネ類ではオスは自由生活をしているメスに針状の交尾器を突き刺して受精する。この場合、場所は頭部以外ならどこでもよい。ネジレバネの生殖方法は昆虫の中でもユニークである。卵巣は終齢幼虫の時期に自己分解し、卵母細胞は血体腔の中へあふれ出る。幼虫は血体腔の中で孵化し育溝の開口部を通って脱出する。メスは1000から75万の幼虫を産む。一齢幼虫は今まで知られている後生動物の中でも最も小さいサイズに属するほど小さく(約230μm)、眼、脚、多くの剛毛があり、内部捕食寄生昆虫のツチハンミョウ科Meloidaeやオオハナノミ科Rhipiphoridae、他の昆虫の三爪幼虫(triungula)と同様、活発に寄主を探す。
一齢幼虫は特徴的な長い尾状剛毛を持ち、それを使って1cmほど跳ねる。寄主を見つけてくっつくと酵素を使い外皮を貫通し体内に侵入する。この侵入方法は内部捕食寄生性昆虫が寄主の内部防衛から逃れるための独自のメカニズムに関係がある。多くの昆虫は内部寄生者を特殊な細胞からなるカプセルに閉じこめたり(昆虫は免疫システムを持たないとされる)、他の内部防衛の機構を用いて攻撃する。ネジレバネの場合、幼虫が寄主自身に“変装”していることが分かっている(Kathirithamby et al. 2003)。一齢幼虫が寄主のクチクラ層を消化して侵入すると、上皮細胞は内クチクラから分離し、上皮細胞の空間が幼虫の周りにでき、これがすっかり幼虫を包み込むのでネジレバネの幼虫は寄主に異物として認識されることを避けることができている。その後幼虫は脱皮して脚のない二齢になる。
この防御回避の様式が約600種しかいないネジレバネを7目34科の多様な寄主に寄生することを可能にしているのかもしれない。ふつう内部捕食寄生者は寄主の内部防衛機構に特殊化した防御を進化させる必要があるため、もっと狭い寄主の幅しか持たない。一方でネジレバネの個々の種は多数の属やいくつかの科をまたいで寄生することが出来るものもいる。ネジレバネの寄生は膜翅目の有剣類や同翅目(セミ科、ツノゼミ科、様々なヨコバイ亜目)に特に多くみられる。ハチを寄主とするネジレバネにはより種特異的な寄生が見られる傾向がある。ネジレバネの幼虫やメス成虫はふつう寄主の腹の中におり、メス成虫は頭部を宿主の体節の間から体外に突き出している。ネジレバネは寄主を殺さないが、去勢(ネジレバネ去勢と呼ばれる)や中性化を起こすなど、寄主の適応度を変化させる。
アシナガバチに寄生するネジレバネXenos vesparum ではネジレバネの二齢幼虫は宿主由来の細胞に包まれてはおらず(Manfredini et al. 2007)、これがハチネジレバネに見られるような種特異的な寄生の原因になっているのか、それとも宿主自身に“変装”することがメスの宿主を直翅類に移したアリネジレバネに特有の現象なのかは興味深い。
ネジレバネの多様性
ネジレバネには8つの現存する科と3つの絶滅した科がある。Protoxenidae(絶滅)、Cretostilops(絶滅)、Mengeidae(絶滅)と現存するシミネジレバネ科Mengenillidaeは明らかに最も原始的なネジレバネである。シミネジレバネ類はシミ類の捕食寄生者で、南北アメリカと南極を除く全ての大陸に生息している。その他のネジレバネはネジレバネ亜目Stylopidiaに分類される。
最も種数が多いのは、比較的最近進化した有剣蜂類に寄生するネジレバネ科Stylopidae(Xenidae含む)のネジレバネである。これに最も近縁なのはアリネジレバネ科Myrmecolacidaeである。アリネジレバネ類のオスはアリに寄生し、メスは直翅目(バッタ目Orthoptera)、蟷螂目(カマキリ目Mantodea)といった多新翅群に寄生する。このようなオスとメスで利用する寄主が全く異なるのは昆虫の中でも珍しい。最近になってようやくDNAを調べることで同種のオスとメスを一致させることが出来た。Caenocholax fenyesiのオスはDolichoderus属のアリ類に寄生し、メスはコオロギ類に寄生する。ただし、アリネジレバネ科Myrmecolacidaeでは剣弁亜目(キリギリス亜目Ensifera)に寄生する単為生殖の種も知られている。
寄主利用は全体的にみると傾向が見られる、最も原始的なファミリーは総尾目(シミ目Zygentoma)に寄生し、中間のファミリーはほとんど多新翅群(Polyneopterans)に寄生し、最も新しく進化したファミリーは膜翅目の有剣蜂類に寄生する。
ネジレバネの系統関係は以下のようである。
(Protoxenidae +(Cretostylops +(Mengeidae +(Mengenillidae +(Corioxenidae +(Bohartillidae +(Halictophagidae +(Elenchidae +(Protelencholax +(Myrmecolacidae +(Callipharixenidae +(Xenidae + Stylopidae))))))))))))
Protoxenidae Cretostylops Mengeidae
ほとんどの種が2mm以下であることもあり、全てのネジレバネの化石は琥珀化石である。Protoxenidaeはバルト琥珀(3900-5000万年前)からのProtoxenos janzeniだけが知られている。7mmを超える世界で唯一のネジレバネである。口器の構造、比較的大型であること、消化器系のキチン質の微粒子などから、Protoxenosは餌を食べていたらしいと考えられている。もしかすると古代のネジレバネはほとんどあるいは一部のものは昆虫食だったのかもしれない。Cretostylopsは今まで知られている最古のネジレバネ化石で、1億年前のビルマ琥珀からのCretostylops engeliだけが知られている。全長は1.5mm。ネジレバネの特徴となる典型的な格好をしていて、MengeaやMengenillidaeにもよく似ているが、個眼は特に大きくなく、ビロード状の縞で分割されていない、前肢の転節の腿節への融合は完全ではないなど、非常に原始的である。
MengeidaeはMengea属2種の化石が知られている。これらは現生のネジレバネに最も近縁であるとされる。
ProtoxenosとCretostylopsの大顎は頑強で基部は幅広い。一方Mengeidaeは、大顎は頑強だが基部は前2種より細くなる。現生のネジレバネでは大顎は剣状となる。これらの絶滅種の寄主はいずれも不明である。
シミネジレバネ科 Mengenillidae
13種が記載されている。メス成虫は自由生活。メスに翅はない。シミ類の捕食寄生者。
これらの原始的なシミネジレバネ亜目のネジレバネから現在のネジレバネの97%以上を占めるネジレバネ亜目が進化するときに起きた劇的な変化は有翅昆虫への寄主の切り替えとメスの終生内部寄生性の獲得である。
カメムシネジレバネ科 Corioxenidae
約40種からなる比較的小さいグループでナガカメムシ科Lygaeidae、カメムシ科Pentatomidae、ツチカメムシ科Cydonidaeなどのカメムシに寄生する。このグループの特徴は大顎が退化し、円錐形の痕跡があるだけになっていることで他科と容易に識別できる。
ボハートネジレバネ科 Bohartillidae
ボハートネジレバネは1種の現存種が知られる遺存種である。ドミニカの琥珀化石から2種見つかっている。オス以外のステージはまだ発見されていない。寄主は未知であるが、アリバチ科Mutillidaeであると考えられている。ただし、寄主がアリバチであるという明確な証拠はない。
クシヒゲネジレバネ科 Halictophagidae
クシヒゲネジレバネ以降のネジレバネはオスの腹側のふ節が全て粘着質であるため、飛んだり跳ねたりするような寄主にもオスがくっつくことが出来るようになり、より広い寄主を選択できるようになったと考えられている。
クシヒゲネジレバネは120種以上の種が記載されている。ほとんどの種はウンカ、ヨコバイ類Auchenorrhynchaに寄生するが、11種はカメムシ科のカメムシに寄生し、10種が直翅目(雑弁亜目Caelifera:ノミバッタ科Tridactylidae)に、2種がゴキブリ科に、1種が双翅目(ハエ目、ミバエ科Tephritidae、ダクス属Dacus)に寄生する。ただし、ゴキブリ科に寄生するBlattodaephagus属はオスが未知である。
最初は直翅目寄生であったものから一部で双翅目や半翅目への寄主の切り替えが起き、半翅目の特にウンカ、ヨコバイAuchenorrhyncha寄生性の種が高度に多様化したものと考えられる。
エダヒゲネジレバネ科 Elenchidae
エダヒゲネジレバネは28種が記載されている。寄主が知られている種はすべて頸吻群Auchenorrhynchaに寄生する。ウンカ科Delphacidae、ヒロズアシブトウンカ科Eurybrachyidae、アオバハゴロモ科Flatidaeが寄主として知られている。
アリネジレバネ科 Myrmecolacidae
アリネジレバネ科は108種が記載されている。オスはアリに寄生し、メスはカマキリやキリギリス亜目に寄生に寄生する。オスとメス両方の寄主が判明しているのは2種で、オス、メスどちらかでもホストが分かっている種は8種である。バルト琥珀からネジレバネのメスに寄生されたアリが見つかっていることから始新世まではアリだけに寄生するネジレバネだったと思われる。ホストの変化は4000〜5000万年前の始新世のアリ科の適応放散の間に起こったのだろう。ネジレバネの中でも最も産子数が多い種はアリネジレバネ科に含まれる。
Callipharixenidae
キンカメムシ科Scutelleridaeに寄生する2種のメスと一齢幼虫が知られている。オスが発見されないかぎりはこの科の系統関係は不明なままである。
ネジレバネ科Stylopidae Xenidae
ハチネジレバネ科とも。幼虫が寄主に便乗して巣に運ばれるのがこの2科で新しく進化した重要な特徴である。膜翅目Hymenopteraの有剣蜂類Aculeataの4科に寄生する。この4科は好花性であるのに対し、ネジレバネの寄生が知られていない残りの18科の有剣蜂類に花を訪れる種はほとんどいない。
Xenidaeは110種以上が知られている。ギングチバチ科Crabronidae、アナバチ科Sphecidae、スズメバチ科Vespidaeの寄生者。一方Stylopidaeはハナバチ類の寄生者でおよそ160種が知られている。Stylopidaeはネジレバネの中で最も多様化している科である。
参考文献
Pohl, H., Beutel, R.G., 2005. The phylogeny of Strepsiptera (Hexapoda). Cladistics 21: 328-374.
Grimaldi, D., Engel, M.S., 2005. Evolution of the Insects. Cambridge University Press, New York, pp. 399-406.
関連リンク
http://tolweb.org/Strepsiptera
Tree of Life Web Projectのネジレバネのページ。それぞれの科の説明と画像、既知種のリスト、寄主との関係などがあります。
http://www.strepsiptera.uni-rostock.de
ネジレバネ関連の論文目録と様々なネジレバネの写真があります。
2007 Jan. 24 追記 現在ホームページが見れないようです。
その他
トップの写真のスズメバチネジレバネXenos moutoniはsundogさんから頂いたものです。
ネジレバネ各種を求めています。オスの蛹がついている場合は可能ならば生きたまま、メスも生きたホストごとがベストです。標本の場合、寄主に入ったままのメスや幼虫、蛹、成虫のオスも95%以上のエタノールに漬けたDNAのとれる標本が最もありがたいですが、頂けるのであれば状態は問いません。確実に同じ種類と分かるネジレバネが複数採れ、標本にする場合、オスメス1ペアは95%以上のエタノールに漬け、2個体目以降は、メスは95%以上のエタノール標本、オスは70〜80%程度のエタノール標本にするのが最善です。採集日と採集場所、採集者名は分かるようにして下さい。採集方法、寄主、寄生率などもわかっているなら教えて下さい。採れたよ。あげるよ。という心優しい方はぜひとも連絡下さい。エタノールは95%以上と書いていますが普通は薬局で売っている無水エタノール(99%)を使っています。
スズメバチネジレバネ




ヤマトネジレバネ


ナガカメネジレバネ

クツワムシネジレバネ

クツワムシネジレバネ一齢幼虫

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