何だろう、いつも夢に出てくる人がいる。
誰かの名を口ずさむけど僕には聞こえない。
誰かの顔を思い出そうとするけど僕には分らない。
貴方は誰ですか?
僕に何を求めているんです?
分からない…
「……。」
頬杖をつき呆然と外を見上げる。
外は晴天。鳥の囀りが響く。
だけど、僕の頭の中は同じ事だけ再生されてる。
誰?夢の人は僕のことを知っている。
僕もその人を………知っていた。
でも思い出そうとしても思い出せない。
いつも僕に声かけてくるくせに意味の不明な事ばかり言って。
貴方は誰ですか?僕なんですか?それとも僕の知らない誰か?
分からないんです。教えてください。
いつものように家事こなし一段落し向える3時。
悟浄は今日も街で恐らくナンパしているのだろう。
僕と情事を重ね目覚める事にはあの人はいない。
…こんなに愛しているのに。
誰かさんはナンパが命。
どれだけ嫉妬していると思っているのやら。
でも決して口には出さない。
夢の人は「それ」をやめろという。
何をそんなに僕に拘るのか。
僕としては良い迷惑としかいいようがない。
夢の人、夢の…。果たしてそうか?
それにしても…幾ら家の中とは言えどなんて暖かいんだろう…。
こう…春麗らかでは転寝してしまう。
日頃の疲れも手伝ってか眠りこける。
意識を手放した瞬間、あの人が現れる。
よく分からない言葉だが、今日はどことなく違う…。
――け…………んれ…ん…。
”…貴方は?「ケンレン」とは誰のことを…?”
――愛していた……誰よりも…深く…深く…。
”…、貴方は…誰なんですか。…愛していたからといって僕に何の関係が…。”
――僕は…貴方であって貴方ではない…。今の僕はただの…思念。
”可笑しな人ですね。僕が貴方?誰がそんな事信じると思っているんです。”
――信じなくても構わない…。けれど…あの人は欲している。貴方からの愛を…。
”あの…話の意図が全然、見えてこないんですが。”
――いつか分かる。僕が抱いた感情と共に…。
”???”
僕に語りかける人影が除々に明かになる。彼の手に触れそうになった瞬間、
桜が舞い落ちる。夢の中の僕は巨大な樹木を見上げ涙し誰かを求めてる。
でも…何故涙するのか理由が分からない。何がこんなに悲しいんだろう?
何が…何が…「ワカラナイ」。塞ぎ込みそうになる。
一体、なんだというのか。
別の場所から何か聞こえてくる声に招かれ、目を恐る恐る開く。
「おい!八戒!!!」
「…ご…じょ…う?」
大分、魘されていたのか、体中に汗かいてる。
目の前の友人は随分、心配気味。
どうしたんでしょうね、この人は。
ナンパに飽きて帰ってきたんでしょうか。
僕とは恋人なわけでもないし…嫉妬してるなんて言えませんね。
「すっげ−、魘されてたからつい起しちまったわ。わりぃ。」
「いえ…恐らく…疲れてただけです。それより悟浄、いつもより帰りが早いんですね。」
少し厭味いってみた。本当はこんなこといいたいわけじゃない。
気持ちを誤魔化す為に隠れ蓑を着てるだけ。
中々言い出せなくて…辛くもあるんです。
貴方に分かりますか?この辛さが。
「まー、たまには八戒に付き合おう思って♪」
「はぁ…」
あぁ、この人はまた僕のご機嫌を取ろうとしているな。
半ば呆れ顔で見つめてみると…彼の目元が潤んでる。
今度は泣き落としのつもりでしょうか。
「お前さー、最近、変な夢みてねぇ?」
「夢…?例えば?」
突発的なことをいわれ気が動転しそうになる。
何だろう。
「…例えば、うりふたつの奴に会って好きだって言え〜って言われたりする夢。」
?どう言う事でしょう。うりふたつということは悟浄も僕と同じような夢を見てる?
呼吸を整え彼を見据え困惑そうな表情を浮かべてみせる。…彼は僕に真顔をむけ…返答を望んでる。こんな彼はじめてみた…。
「これまた奇妙な夢をみたものですね。うり、ふたつ…ですか。」
「そう、うりふたつ。ま、明日くわしく話すわ。」
軽く頷き僕はまた眠りに入る。
ノンレム睡眠を向える頃、決まって僕そっくりの人が声をかけてくる。
いつもと同じ言葉を繰り返しながら。だが、心なしか最近は僕に何も言ってこない。
ただ、みてるだけ。僕は声をかけるけど、答えてくれない。どうしたというのか。
言いたいだけいってこの仕打ちか。顔がそっくりなだけに怒る気にもなれず脱力する。
”いい加減、教えてくれません?流石の僕も堪忍袋の尾が切れますよ?”
――500年前に戻りたい…。あの人と愛し合った時間を…取り戻したい…。
”では取り戻せばいいでしょう!!”
――もう、叶わぬ夢…。だが、貴方なら…可能だ。
”…僕ならって…”
――素直になりなさい。愛しているあの人を逃さぬように…。
”………素直…に…ですか。”
――僕も捲簾に想いを伝えなければならない…。後悔せぬように。
”…貴方の名は?”
――僕は…天蓬…貴方は貴方、僕は僕…。生きなさい。
”…天蓬…さん…”
薄々、彼の正体に気づきつつ意識を取り戻す。深夜なのかまだ夜は開けていない。
悟浄と目があうが彼は寝ているらしく寝息を立てている。
「悟浄…。」
擦り寄り彼の手にキスを落す。僕の…大事な友人。それでいて……愛しい人。
なくしたくない。花喃の時と同様に。僕は彼とはじめてあったあの時
から…ずっと惹かれ気づいた時は愛していた。さも、何かの宿命のように。
始めはただの軽い奴だとばかり思っていたけれど…本当は男気があつく妙に子供っぽい。そんな彼が可愛くて…構って欲しくて。欲求が増えていけば行くほど自分を「嫌な奴」だと思うようになった。
そんな僕を嘲笑うかのように彼は街で女性を口説きたまに僕を見る。
何かを問いかけるように。彼は何を言ってほしいのだろう?
嫉妬でもしてほしいのか?分からないんですよ。言葉でいわないと、ね。
「悟浄…愛しています…僕は貴方がいれば…それでいい…。」
切なげに呟く僕なりの言葉。貴方に伝わりますか?僕なりの…気持ちが。
「……俺だってそぉよ?」
タヌキ寝入りしていたのか、悟浄はあっけらかんとした表情で僕を抱き締める。
「…俺だって…って。」
「だ〜か〜ら!俺もお前がまじ好きで愛してるわけ!以上っ!!」
呆然…。なんとも悟浄らしい言葉。…好き、愛してる。
在り来たりなメッセージだけど僕にとっては宝物のような…一言。
素直に嬉しいと感じる自分も愛しくて彼にキスしながら頬を撫でる。
「きもちー…。はっかーい…どこにも行くなよ…」
「僕がいるべき場所は貴方の傍でしょう?…悟浄。」
彼の布団に潜りこみ腕枕しながら笑いかける。
「ったりめぇだ〜…Zzzzzz」
「天蓬さん…貴方は素直になれましたか?僕は…彼に打ち明けた。貴方は…?」
――貴方と同じ事とでもいっておきましょう。僕らは…同じ魂に…囚われているのかもしれませんね。
「貴方…何故…夢ではなく現実の世界に?」
――最後なので今日くらい思念を具像化してみました。
「…今日くらいって…あ…僕と貴方は同じ物だったんですね。今なら分かる気がします。」
――そう、早く気づいて欲しかった…そろそろ、戻ります。ありがとう、猪八戒…。
「僕は何もしていません。」
桜が舞い落ち夢の住民は消えた。
僕の一部だったのだろうか。
何故、夢に出てきたのか分からない。
もしかすると、悟浄も同じ夢を見ているのかもしれない。
森羅万象…、呼び合う魂という事だろうか。
夢の中の旅人がいう通り囚われているのかもしれないな。彼…悟浄に。
…こんなに愛している貴方を…奪わせない。
今度は僕が貴方を…捕えてあげる…。
悟浄…愛しています。誰よりも…貴方には僕しか触れさせない。
永遠に繰り返される情事を重ねましょう?
貴方が僕しかみれないように。
ねえ?悟浄…。
FIN |