Live Doll(後編)
イグニスエリアから南方に位置する、旧エルル。当時8歳の死神により崩壊させられ、終焉を迎えた国。その名残を残す物は、今では分断されし島々だけ。そんな辺鄙な土地にトーラは、母家を構え生活していた。「ナノテクノロジー」を日々、研究する為に。普段通り彼は、書物を読み漁り研究していると、玄関の開く音がする。トーラは急な来客に、訝しみながら部屋から出た。するとそこにはフェイを両手で抱き抱え、立ち尽くすシタンがいる。
「シタン殿その手に抱かれている若者…確か「フェイ」でしたな?いや、この歳になると、物忘れが酷くてのう。ホッ、ホッ、ホッ。」
「トーラ師、今はそんな冗談を言っている場合ではありません!」
「すまん…相変わらず、シタン殿には冗談が通じんのう。ところでわしは、御主の師匠でもなんでも、ないぞ?見ての通り、只の老いぼれ爺じゃ。師扱いされる覚えはないがのう。」
「そうですか…分りました。それでは…トーラ先生。…フェイの事なんですが。」
「おや。その若者が、どうかなされたか?」
「ええ。先日、彼は…敵に攫われ、ドライブを注入されました。どうもそのドライブは、人格を破壊する物らしいのです。現に今のフェイは…何にも、反応を示しません。それこそ、本当に死んでしまったかのように…」
シタンの報告に、トーラは息を飲む。まさか、そんな事が現実に可能なのか。トーラはフェイの手足を、軽く叩き刺激を与える。そして、彼の反応を待った。だが、微動タリしない。瞳孔が動いたり、瞬きした形跡もなし。トーラはシタンの言葉が、嘘で無い事を悟るとリアクター前に立った。シタンもそれに同行し、彼の指示と返答を待つ。トーラは細かい設定を駆使し、人格修復に向けて着々と作業を進めた。その後、シタンに返答する。
「確かに…シタン殿の言う通り、精神面にも異常を来しているようじゃ。出来る限りの事は…してみよう。」
「お願いします、トーラ先生。」
「じゃが、人格修復ともなると、相当の時間を費やす。その上、必ずしも修復するとも限らんし。…それでも、良いんじゃな?」
「構いません。フェイの笑顔を再び、見られるのなら…私は彼が目覚めるまで、待ちます。」
「…うむ。」
トーラはシタンに最終確認を取ると、フェイの衣服を脱がせ瞳を閉じてやり、リアクターに入れた。彼の体は、グリーンの溶液に浸され人格修正プログラムが本格的に始まる。リアクターの中で、眠るフェイ。これでもう、大丈夫。でも…本当に?シタンの心に、芽生える不安。だが、彼は一切顔には出さない。どんなに苦しくても、悲しくても笑顔でいる。幼少の頃母から、教えてもらった処世術。何が起っても、笑い続ける。だけど…今回ばかりは、無理かもしれない。フェイが…この状態では。
(フェイ…早く貴方の笑顔を、見せて下さい…でないと私は…)
切ない思いを馳せ、シタンはフェイを見つめる。来る日も来る日も、同じ事の繰り返し…
あれから、5ヶ月。漸くリアクターは、修復完了の合図を鳴らす。トーラは彼に設置した装置を取り外し、フェイを外界に出す準備に取り掛かった。そして、最後の合図。ピッ、ピッ。これで、完璧に修復完了した筈。リアクターが開かれ、彼が出てくる。果たして、どんな反応を示すのか。シタンとトーラが、見守る中フェイはその姿を露にする。が、彼は己の瞳を2,3回瞬きすると、その場に脱力し倒れてしまった。
―フェイ!どうして、こんな…?―
―シタン殿、落ち付かれよ…彼なら、心配いらん。只…長い事、修復作業を受けていたせいか、体力が一時的に損失されたんじゃ。―
トーラはシタンに切り返すと、彼は隣部屋に閉じ篭ってしまった。その途中。「その若者の事、頼みましたぞ。シタン殿。」と微かに聞こえる。シタンは目を大きく見開き、トーラの姿を確認するが。既に彼の姿はあらず。シタンは広いリビングルームに、一人残される形となる。気紛れなシェバト賢者に苦笑いをし、フェイの眠るベッドに赴く。彼のベッドの直ぐ傍にある椅子に腰を降した。
早く、起きてください。
早く、貴方の笑顔を見せて下さい。
早く、私に貴方の声を聞かせてください。
―そう願うのは、罪ですか?私の我侭ですか?…フェイ…
何度も心内で、質問を繰り返した。何回も。
「フェイ…貴方は今、何処にいるんです?」
シタンの口から自然と、洩れる言葉。例え体が存在しても、彼の心はどこにあるのか。シタンは寝た侭のフェイの体を起こし、抱き締めてみた。もしかしたら、目覚めるのではないかと、僅かな期待を仄かに偲ばせながら。彼の耳元で、名前を呼び唇を重ねてみる。だが当然、彼からの反応はなく、自分の唇を偲び難く離すしかなかった。再びベッドにフェイを寝かせようとした時、彼の体が微かに震えている。
「…フェイ?」
「ん…」
「フェイ…フェイ!?」
「…ここは…ど…こ?」
シタンに顔を向け“何も分らない”そんな表情を、フェイは浮かばせ見ている。
「…ここは…トーラ先生の自宅ですよ。」
「トーラ…先生?え…?その人は、誰ですか?…分らないですけど。」
彼に似つかわしくない敬語。シタンは内心、戸惑いながらも彼の問いに答えた。
「え?ああ、すいません。トーラ先生は世間で言う、「科学者」と呼ばれる方です。」
「そうですか…そう言えば、貴方は?」
「ああ、これは申し送れました。私は、シタン・ウヅキと言います。…宜しく…お願いします…フェイ。」
「フェイ?それが僕の名前なのですか?…シタンさん…」
「…? 貴方…まさか、自分の事も…分らないんですか?」
「はい。だから、教えてほしいんです。僕の全てを。」
(やれやれ。これは、かなり重傷ですね…まあ、これでも、喜ぶべきなんでしょうが。)
フェイの再起と同時に起った、記憶喪失。この2つの現実。嬉しいのか、悲しいのか分らない。が、それでも、かまわない。彼が彼ならば。
「まあまあ、そんなに焦らなくとも…ゆっくり、教えてあげますよ、フェイ。…さあ、我々の居場所に帰りましょう。おおっと!その前にトーラ先生に、お礼を言わなくては、ね?」
シタンは己の手をポンと叩き、人をからかったような笑顔で語る。
「クス。面白い方ですね、シタンさんは。」
彼の仕草が滑稽だったのか、フェイはプッと吹き出し笑っている。已然の彼とは、全く違った微笑み。何処か、大人っぽくて…それでいて、儚くて。そんな彼に、少しだけ寂しさを感じた。シタンは気を取り直しトーラにお礼を述べると、ユグドラシルに帰還する。実に5ヶ月ぶりだ。
「フェイ、呱々がバルト一味の率いる戦艦「ユグドラシル」です。」
「…バルト…一味…。何でしょう。どこか、懐かしさを感じます。」
そう切り返すと彼は…もの珍しそうに辺りを見渡している。
(本当に何もかも、忘れてしまったんですね…)
この場所に5ヶ月以上…寝起きを共にしたのに。彼は全くと言って良い程、覚えていない。それが、何処となく辛い。
「どう…なさいました?」
「いえ、何でも。…さあ、ガンルームに行きましょう。其処には、貴方の帰りを待ち望んでいる方々が首を長くして、待っていますよ。」
「はい。」
ガンルームのドアが開くと同時に仲間全員の歓声がフェイを包む。だが肝心の彼は何故、皆が喜んでいるのか、誰が誰なのかさえ分らない。
「フェイ!お前、元に戻ったんだな!全く、心配させんなよ!」
このボイスは、紛れもなく戦艦の艦長バルトロメイ・ファティマの物だ。しかし今のフェイには、それも分らない。
「あ、あの…貴方は…?」
「まさか…お前、本当に俺達の事忘れちゃったのかよ!?ったく。友達がいのない奴だなぁ。」
「す、すいません…僕は…」
只々、戸惑う事しかしない彼。そんな友人に虚しさを感じながらも、バルトは5ヶ月前と変わらぬ態度でフェイに接した。
「って、本気にすんなよ!俺の名は、バルトだ。バルトロメイ・ファティマ!今度は、忘れんなよ!」
「バルト…さんですか。良い名前、ですね。」
「はぁ?良い名前だぁあ!?や、止めろよ!気持ち悪りぃ!それと“バルトさん”じゃなくてバルトで良い。」
「はい。分りました。…バルト。」
「よ、よし!じゃあ、早速だけどよう。こんば…」
オッホン。バルトの後ろ際から、シグルドの嘆息が耳元に響く。彼の片手には、重々しい本の束。それを横目に、ユグドラシル艦長を見据えている。シグルドの険しい瞳、バルトは彼が何を言おうとしているのか直感で感じ取った。
(げっ!シグ…俺が、フェイに酒飲ませようとしてる事…気付いてたのか!)
恐るべき、副官の勘。ここは逃げるが、勝ち。
「と、とにかく…お前が帰ってきて、嬉しいぜ。じゃ、じゃあな。」
バルトはフェイに挨拶しガンルームを出て行くが、シグルドも直ぐにその後を追った。5ヶ月前までは、当たり前のこの風景。一見、笑いを誘うシーンだが、フェイは状況が掴めず呆気に捕られた。そんなチームリーダに仲間一同は空虚な思いを巡らし彼に話しかけられずにいたが、只一人エリィだけは違っていた。彼女はフェイの体を気遣った後、仲間達の自己紹介を行ったのだ。彼女のこの行動により、フェイは除々に皆とも会話できるようになった。フェイはこの時から、エリィと行動を共にするようになった。食事や会話をする時も。やはりこの2人の間には、運命の残酷な鎖が纏わりついているのか。
(皮肉なものですね…記憶がないというだけで、こんなに立場が変わろうとは。…エリィ…貴方が…憎い…)
闇に潜む感情をセーブしながらシタンは、フェイを影ながら見守った。そうして1週間、2週間と過ぎていく。その間フェイとエリィは、常に寄り添っていた。まるでわざと、シタンの嫉妬心を煽るかのように。そして今日も、地獄のような1日の始まり。ガンルームで朝食を取った後、暫し休憩時間が取られる。そのさいにも、あの2人は一緒だ。シタンはカウンター席に座り、2人を見守った。そしてその問題のカップルは、カウンター席から斜め横の場所で立ち話をしていた。シタンは、小耳をすませ会話を聞いてみる。
「ねえ、フェイ…貴方…先生のこと、1人の人間としてどう思ってる?」
「…何で…そんな事…聞くんですか?」
「だって、私といる時…何時も先生の事ばかり気にしているんですもの。…まさかとは思うけど…先生の事が…好きなの?」
「ぼ…僕は…!」
「まあ、いいわ。行きましょう。呱々には、野次馬がいるみたいだから。」
「…はい。」
2人は甲板を目掛け、ガンルームから退出していった。それにしても。先程、彼女がいった台詞。まさかエリィの口から、そんな発言を聞くとは思いも寄らなかった。
(フェイが…私の事を?)
ああ。心が締め付けられる。…人を愛す事が、こんなに苦しい事なんて。シタンの想いを嘲笑うかのように、その頃フェイは甲板広場にてエリィとキスを交していた。何故、そうしたのか分らない。独りで入たくない、誰かに傍にいてほしい。だから、彼女を利用した。エリィが恥ずかしげもなく、服を脱ぎ捨て様とした時フェイは、きっぱり彼女を拒んだ。そうしなければならない、そんな気がした。
「エリィさん、貴方の気持ちは嬉しいけど…僕はそれ以上の感情を、持ち合わせていません。」
「そんな…フェイ!今わたしと、キスしたじゃない!…貴方やっぱり、先生が好きなのね!?フェイ、そうなでしょ!」
「…今の僕には、分りません。でも、これだけは分る。僕は…貴方を、愛していない。」
そう告げられた後エリィは彼に失望をしたのか、皆に何の理由も言わずニサンに戻っていった。彼女が突然起こした、行動。フェイは彼女に懺悔の気持ちで一杯だったが、不思議と後悔してはいなかった。自分の愛した人は、別にいる。毎晩、夢に出てくるあの人。自分にとって、愛しい人と言う事は分っている。何故なら、こんなにも魂が揺さぶられるのだから。だけど、思い出す事が出来ない。少しでも思い出したくて、夜を待たずに眠りに付く。夢…あやふやで、限りなく無限の世界。ああ。今日もあの人が僕の名を呼び、手をむけてくる。でも、顔も分らない。あの人は…誰だろう。きっと、僕にとって命よりも大事な人だ。ああ。その人の声が聞きたい。『貴方は…誰?』そう尋ね、目を覚ます。そして気が付くと、不信感だけが残ってる。夢で出くわす相手が誰なのか、分らない。…それでも、逢いたい…
(どうかしてる…僕、変なのかな…)
深呼吸をし、ベッドから出るとブリッジに向った。何かを、思い出せるかもしれない。そう願いながら。ブリッジには、バルトとシグルドのペアがいた。フェイは軽く挨拶をすると、本日午後の予定を聞き出す。
―午後のスケジュールは、ウェルスの回収作業を完了させる事。―
世界に散ばったソイレント・システム。施設がユグドラシル下方に見えてきた。早速、着陸を果たすとソイレント・システム内の死霊を回収し始める。死霊を格納するのは、ユグドラシル内のギアドック。そこなら膨大な死体であろうが、収納可能だ。午前中は仲間内でチームを結成し、死霊を回収する。チームは予め、シグルドが編成していた。バルトが決めると、どうしても偏ってしまう。それなら、副官であるシグルドが決めた方が良い。そう皆が、判断したのだ。こうして、決められたチームは3組。まず始めに、落ち付きのないバルトは、ビリーとリコと。少し意地っ張りなエメラダは、チュチュとマリアと。そして、当然のことながら、フェイはシタンといった具合に決定した。文句いう暇も無く、回収作業に徹する。旧ソラリスが残した組織「ソイレント・システム」。そこにはリミッタ解除により、最終形態化した「ヒト」や血と肉に飢えたウェルスが群がっていた。苦しみから解き放たれる為、人間を食う。一見、異常な事態。だが、この者たちにしてみれば生きる為に必死なだけ。誰にも、責める事はできない。バルト達はチーム事に、分れ辺りに転がっているウェルスの遺体回収を開始した。室内ということもあり、ギアを使う事ができない。その為、手作業で回収作業を進めなければならない。その結果、思ったより手間取り時間を費やしてしまった。黙々と回収作業をしていたシタンとフェイは漸く、残り一体と言う所まできていた。…しかし。残り一体の死霊には未だ息があったらしく、悶えている。次の瞬間、不意に息を吹き替えした死霊。人の血肉を欲し、フェイの背後に忍び寄る。…爪を大きく上げ、奇声を発っした。彼が危ない。…刀を出す暇もなさそうだ。この侭では…フェイが傷ついてしまう。今度こそ、彼を守って見せる。死霊が爪を振り翳した瞬間、シタンは身を投げ出した。
「危ない!」
フェイの耳の片隅にそう届くと、不意に誰かが自分に多い被る。一方、ウェルスはシタンの背を大きく切り裂いた後、動かない。取りあえずは、危機回避というべきか。シタンは安堵したらしく、フェイに声をかけた。
「…大丈夫でしたか?…フェイ。」
「シ、シタンさん!?」
「怪我はしてませんね。良かった…」
シタンの背から容赦なく、流れ落ちる血流。フェイの顔色がみるみるうちに、険しくなる。
「シタンさん。何で…僕を庇ったりなんか!」
「…貴方を、守りたかったんです。何時も…フェイ、貴方を苦しませてばかりだから…」
「何を言ってるんですか?分らない…そんな事、言われても僕には分らない!」
フェイはシタンの言葉に動揺し、頭を抱えた。
「フェイ…」
シタンは低い声で彼の名前を発し、些か寂しそうだ。そんな折、背後から気配を感じる。…この死臭漂う感じは、ウェルス。先程、力尽きて死んだとばかり思ってたのに。そのウェルスは苦しそうに呻き、見境なく攻めてくる。
「フェイ!私が食い止めますから、貴方は逃げなさい!」
シタンは彼を守る為、ウェルスの肩を切り裂き時間を稼ぐ。だが、肝心のフェイは一向に動こうとせず、その場に立ち尽くしていた。
「早く、行きなさい!」
シタンの叫び声にフェイは何処か、懐かしさを感じていた。ああ、この噎せ返る血の匂い。確かに、見に覚えのあるこの香。どこだっただろう。この匂い…そう…愛しい人の血。でも、誰の?フェイが思い出そうとすればする程、頭に痛みが生じてくる。
「ああ。あ…あ…」
…思い出したい。夢に出てくる、あの人との絆を取り戻す為。その想いが更なる、激痛へと誘う。
「ああ。思い出した…い…あ、貴方は…誰…うわぁああー!」
フェイは極限の痛みに耐えられなくなり、頭を押さえながらその場に屈した。
「フェイ!?」
ウェルスと対戦中に、聞こえた彼の苦しそうな声。思わず後方にいるフェイに、目が行ってしまう。その間、スキができたのかウェルスは、シタンの手首を攻撃した。死霊の思わぬ攻撃。シタンは己の愛刀を、落し倒れこんでしまった。シタンと刀の間は、約100m。体中が、疼く。特に背中と手首が…痛む。この状態では、例え刀を手にしても反撃できぬだろう。もう、戦えない…シタンが諦めかけたその時、フェイの声が響き渡った。
「シタン!離れて!!」
「…フェイ!?」
フェイはウェルスの首を目指し、蹴り上げる。その結果、死霊は大きく吹っ飛び、動きを停止した。フェイはウェルスの生命反応を確め、絶命した事を確認した。除々に呼吸を整え、落ち付くとシタンの元に駆け付けた。
「フェイ…貴方、記憶が?」
「ああ…思い出したよ、全て。」
思わず、シタンは抱き締めていた。やっと、やっと逢えた…本当のフェイ。この5ヶ月と2週間の空白を、埋めるかのようにフェイを力強く抱き締める。
「ちょっと待って!シタン、酷い傷じゃないか!早く、手当てしないと!」
「ああ、この程度の傷は、掠り傷ですよ…」
「そんな訳ないだろ!…待ってて、今…直すから。」
フェイはシタンをゆっくり地べたに、座らせ己の両手をシタンの負傷部分にあてた。彼の身体から、気が巡らされ両手に集中される。そしてフェイから暖かな気が放出され始めると、除々に傷口が塞がれていく。数秒後、痛みが消え傷口が完璧に消え失せた。
「フェイ、有難う御座います。もう、大丈夫ですよ。」
「シタン…ごめんね。俺がもっとしっかりしていれば、こんな傷…負わずに済んだのに。」
「気にする事はありません。…恋人を守るのは、当然の行為です。」
「恋人っか。俺にそんな資格あるのかな…?」
「どうしました?フェイ…カールに抱かれた事、気にしているんですか?」
「…シタン、知ってたのか…」
「ええ。あの戦艦で貴方を発見した時、微かに貴方の体のある部分から血の香がしました。その匂いで、大体の事は分りましたよ。カールと貴方の間に何があったのかを。ですが、貴方を責めるつもりはありません。ましてや、貴方は被害者なんですよ…」
「でも、シタン…それだけじゃないんだ。俺…記憶失ってる時、エリィとキスした。1人になるのが怖くて、エリィを利用したんだ。俺、最低だよね。」
「いいえ。孤独を恐れ、他人を利用する。それは誰にでもある事です。人は元来…1人では生きていけません。だからこそ、人を求めるんです。…フェイ。もう少し…悪い子になっても良いんですよ?」
「俺…充分、悪い子だよ?今だって、シタンに抱いてほしいって…体が…疼いてる。」
「おやおや。それは、いけませんね。きちんと、直して差し上げないと。」
シタンはフェイを押し倒し、彼の唇を入念に犯すと次に肌を撫で始めた。そして胸元を舌で、絡め彼を焦らす。息を切らし、喘ぐフェイ。シタンは氷雪のような微笑を浮かべフェイの股を、大きく開くと彼の局部を手先で弄くり始めた。抓ったり、揉んだりして彼を快楽の世界へと誘導して行く。
「ひっ!」
「フェイ…もっと、乱れても良いんですよ?」
彼は軽く微笑むと局部を手で摘み、それを自分の口の中に入れた。その後、摩擦を加えてみる。フェイがあっという間に果てると、シタンは己の物を彼の秘所に埋め互いを求めた。2人が1つになる時、凄まじい快楽が生まれる。
「ああ!い、いっ…ちゃう!ああん!!」
「良い表情してますよ…フェイ…」
幾度か愛し合った後、予め配られていた無線を手に取りバルト達を呼んだ。その後、合流する。はや、半年近く離れていた親友・仲間の面々。彼等の喜ぶ顔を、目の当りにしたフェイは少し照れ笑いをした。当然の事ながら、その晩祝宴がもようされ、時は流れる様に過ぎた。そして、迎えた明くる日。フェイ達一行は全てのウェルスを焼き払った後、海に散骨した。始めキスレブの海沿いにある丘に埋葬する予定だったが、ビリーが出した「母なる海に帰してはどうか。」という発案に皆は賛同しこの度、この形で弔った。フェイ達は浜辺に立ち、骨壷を開けると一斉にウェルスを海にまいた。風に吹く度、彼等は海に飲まれて行く。その様子をシタンと、フェイは見守った。全て撒き終えると、フェイは彼にそっと尋ねる。
「シタン…今度生まれてくる時はあのウェルス達…皆、幸せになれるよね?」
まるで自分に言い聞かせるかのように、囁く彼。シタンはフェイの肩に手を回しに答を返す。
「ええ…この世に神という者が実在していれば。必ず…。」
「…それなら…大丈夫だ。」
フェイはシタンの手を丁寧に払うと、彼の瞳を凝視した。
「え…?」
「だって、神様はここにいる。…俺にとっての神様って、シタンだもん。」
「私が…貴方の神…様?」
「うん。だからね、あのウェルス達だって…きっと、幸せになれるよ。」
「私は神では、ありません…只のちっぽけな…人間ですよ。」
シタンは顔を少し、赤らめながら呟いた。
「例えそうだとしても、シタンは…俺の神様だよ…」
フェイは嬉しそうに囁くと柄にもなく照れているシタンに、嘗てない最高の笑顔を捧げた。
FIN
<言い訳>
長々と文が続いてしまった。当初の目的とは、ずれているような気がするよう。ああ。(バタリ)