今日は…

 

2月といえば…バレンタインデー…
好きな男性の為にチョコを送る日。
とても、神聖な日。

…俺も…あげなきゃ。手作り…チョコ…

―えっと…シタンは何を好むんだろう…ブランデー?それとも、抹茶かな?―
分からないな…問題は気持ちだよな!…心がこもってれば…喜んでくれる…

2月に突入してからと言うもの、シタンに勘付かれないようチョコを作り始めた。ラハンにいた頃は、バレンタインデーという風習を一切、知らなかった。フェイがそのイベントを知ったのは、ユグドラシルに搭乗してからの事。チュチュから小耳に挟んだのだ。好きな人にチョコをプレゼントする…どうやって、作るんだろう。バルトに付き合ってもらおうかな。とある街に渋るバルトを連れ回し、フェイは本を掻き集める。材料はメイソン郷に分けてもらいもした。色々な準備をするうち、13日を迎えていた。

明日だ…作らなきゃ…

「メイソンさん!材料…ある?ちょっと、ここ…借りたいんだけど!」
前日、夜中に現れたフェイに驚きはするが、メイソンは快く答えてくれる。
「フェイ殿、勿論、用意しております。ガンルームはこの時間、誰も来ますまい…ご自由に使ってくだされ。」
「ありがとう…」
ラッキーと内心呟きながらも、材料を片手にチョコを作り始める。作り方は本の通りにすればいいはず。

「えっと…チョコを刻んで…それから〜〜」

鼻歌混じりで包丁を片手に持ちチョコを刻むフェイ。見る人が見たら、微笑ましい状況だろう。少し離れた所からメイソンは彼を見守っていた。まず、ないとおもうが、こんな時間に小火でも起されたら面倒だ。フェイがチョコを作る姿は実に微笑ましい。可愛らしいというか、それこそ女の子みたいな…メイソンから笑顔が絶えることはなかった。そうこうしているうちにフェイは一連の作業をすませ、型をくりぬきはじめた。型は勿論、ハート型。自分でも己がこんなに、器用とは思いもしなかった。自分の意外な才能に感謝しながら、その夜、チョコレートは完成した。

2月14日の明朝。ガンルームにてチョコ渡しが進んでいた。バルトはシグルドに。ビリーはジェサイアへ。意外なカップリングにフェイは驚いた表情を浮かべながら、シタンの元へと急いだ。彼は大抵、医務室にいる。急ぎ足で向うが…女医しかいない…。少し残念そうな顔をしながらも、彼の部屋にいってみる。そこにも、いない。どうしたんだろう。不安がよぎる。何かあったのかな?…折角のバレンタインデーなのに…泣きそうになる。泣いちゃだめだ。泣いちゃ…シタン、どうしていないの?今日は特別な日だって…しってるくせに。俺を避けてるのかな…ここんとこ、ずっと…会ってなかったし。俺に飽きたのかな…もし…そうだとしたら?…嫌だよ…シタン。別に束縛するつもりはない。でも…今日は…。ユグドラシルの廊下をとぼとぼ歩きながら、捜していた人物とバタリと出会う。
「フェイ?……何かあったんですか?…俯きながら…歩くなんて…危ないじゃないですか…」
「あ…ごめん…だって…シタン、どこにもいないんだもん!今日、バレンタインデーなのにさ…はい…チョコ…あ、あの…俺、これから、用があるから部屋に戻るね。じゃ!」
自分の告げたいことを全て話しフェイはシタンの言葉をよそに、廊下を走りさっていった。只一人残されたシタンは首をかしげる。
「フェイ?!」

最低だ。言いたい事だけいって逃げるなんて。用があるなんて、嘘。俺と話したり側にいることで、シタンを縛りたくなかった。だから…逃げた。……最低だ。いつも、彼は側にいてくれるのに。年に1回のイベントに振りまわされて…一人だけ舞い上がって…馬鹿みたいだ…俺。

己の部屋で自己嫌悪に苛まれるフェイ。布団のシーツに全身を包み、ベッド下に縋って涙した。既に時計の秒針は夕方をさしている。聖なるバレンタインデーもあと、もう少しで終わる。
「はぁ…俺…女でもないのに…チョコなんか作って…馬鹿みたい…馬鹿みたい…」
シーツを一段と強く握り、俯く。そんな折、ドアの開く音がする。シタン!顔をあげたと同時にバサッとシーツの落ちる音。気付けば唇は塞がれていた。
「フェイ…バレンタインデー・チョコレート…嬉しかったですよ…まさか、貴方が私に作ってくれるとは…夢にも思いませんでしたから。…それで、今日は…なるべく皆さんのいる所は足を運ばぬようにしていたんです……貴方も貴方で毎日、忙しそうでしたし。」
「そう…だったんだ…良かった…俺、嫌われてたわけじゃないんだね…」
弱々しく抱き縋る彼。シタンは微笑み優しく触れるだけのキスをする。漸くフェイが笑った頃、彼に囁いた。
「フェイ…貴方を嫌う理由があるはずないでしょう?」
「良かった…だって、俺…いつも…シタンを縛ってるから…邪魔になってるんじゃないかって…怖かったんだ…」
「貴方の鎖なら喜んで、繋がれますよ…まぁ…そうなる前に私が鎖で動けなくするかもしれませんが。」
小悪魔みたいな笑顔で、シタンはフェイに言う。
「俺も…シタンの鎖なら…嬉しいよ…」
「良いんですか?そんなこと言って…私は少々、小悪かもしれませんよ?」
シタンはフェイを、試すように問う。彼もまた、速答した。“いいよ”と。
「では…明日…1日。貴方を私の鎖に繋がせてもらいます。…まずは、1日だけ。明日は…寝る暇なんてありませんからね?」
フェイは自分の発言を少々、後悔しながらもこの小悪魔に微笑みかけた。今日は、セイント・バレンタインデー。好きな男性にチョコレートをあげる日。その聖なる日の余韻は、明日も続く。フェイは後日、シタンが起すであろう行動に苦笑する。恋人の腕の中で愛する人と、過ごせる幸せに喜びを噛み締めた。

 

<言い訳>

バレンタインデーと気付き、急いでUPしました。そのせいか、文体…めっちゃ、変です。御目汚し…になりそうな予感。ごめんなさい。

 

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