渇望(3)

まだやおいなし(滝汗)

BACK

 

銀色の髪を靡かせ風に揺られる親友の兄、恋人「シグルド・ハーコート」。
足音1つたてず彼に近付き笑って見せる。

「シグルドさん…死んで?」
「フェイ君!?今までどこに…うぁっ!!」

瞬時に彼の鳩尾を連打し空中へと踊らせる。
なんて容易いんだろう…。油断していたとはいえど、
こんなに簡単にすきをつかれるシグルドさん。
これで本当にバルトが守れるのか?
……バカらしい。まだあんな親友の事を思っているのか、俺は。
イドと同様、修羅の道を歩む。そう決めたはずなのに。

「がはぁ…っ…フェイ君…み…んな、君が戻るのを…まってい…た…」
「何を今更、いってる?俺は皆なんてどうでもいい。」

目を見開く彼を俺は見境もなく殴り気功を加え俗に言う瀕死へと導く。
それでもシグルドと呼ばれる男は立ち上がり俺の肩を…掴み離さない。

「やめ…ろ…ヒュウガ…が…かなし…む…」
「うるさいなぁ。皆、大嫌いって…いってるだろ!?」

とどめを刺そうとしたとき、背後からあの人が…現れた。
3年間、ずっと傍にいて…愛をとき、偉そうに俺にまとわりつくあいつ。

「フェイ……何故…貴方、何を吹き込まれたんです…。」
「…誰でもいいよ。今度は先生が相手?」

表情を変えることなく睨みつけ蹴りをいれようとしたその時、彼に…腕を掴まれ
抱き寄せられた。

…またいつものパターンか。あんたはいつもそうだ。内心、呟かれる言葉に耳を傾け
ながら突き飛ばそうとするがシタンの力強い腕がそれを許さない。

「…最近、貴方の様子がおかしいと思ったらこういう事ですか。…イドなんでしょう?貴方に声をかけステージから引きずりおろそうとしている者は。」
「……イドが、怖いんだろう。本当は。だから皆して俺を見下して無視して…一人にして!!許さない…死んでよ…!!」

感情に身をまかせ愛しい人にぶつける。こんな俺…本当は嫌いだ。
でも、皆がいけないんだ。皆が!!

「…フェイ。私達は彼…要するにイドを刺激しないよう距離を置いただけです。別に…貴方を嫌った訳ではない…」
「五月蝿い…五月蝿いっ!!!」

もう、何も聞きたくないよ…。こんなの嫌だ。
イド…どうすればいい?こんなの嫌なんだよぉ…。

『全てを否定しろ。そして、お前を壊せ。…もう一度、お前自身を壊せ。…この俺のようにな。』

――壊す?でも…どうやって…。

『決まっている。廃人だ、廃人。俺もお前も所詮、同じ穴の貉。逃げられないのさ、血の宿命からはな。さ…お前の心を壊せ…』

「…フェイ?まさか…っ!?…彼の言う分を…聞いてはいけない…フェイ!!」

抱き締める腕にさらに力を込める反面、心なしか体が震えていた。
笑わせてくれるよな、俺が散々、苦しんだのに。
…何が、イドを刺激しないように、だ。
結局、先生ってイドが好きなんじゃないか。
俺じゃなくて…さ。復讐してあげる。

「ねえ…先生…3年間、随分、幸せだったよ。…先生と出会わなきゃ…ずっと、何も知らなくて世界がこんなに広い事すら分からなったんだろうな。俺ね…愛してたんだよ…先生を。」

「これからも傍にいます…2度と、貴方に淋しい想いをさせない…ですから…負けないでください…もう一人の貴方に。」

――ごめん…楽になりたいんだ…終わらせるよ、俺を。

一筋の涙を零し、己の腕に気功をため胸を幾度も突いた。
シグルドさんと先生の驚愕した顔。
これで本望だ、ユグドラシルは壊せなかったけど2人は
苦しめた。最高の形で。

――どう?愛する者が傷つき死んでいく…。悲しい?

迸る血…。
壊れるって…気持ちいいね…。

――先生…バイ…バイ…。

 

NEXT

BACK