感覚麻痺

lucifel作


何気なく流れる時間。ジープに揺られ辿り着いた、萎びた街。
普段通り宿を手配させ部屋割を決める様、紫暗の瞳で毒舌保父に指示する。
此最近…妙に、悟空と同室になるケースが多い。
今日一日位、静かに過ごしたいのだが。果たして己の密な願いは、
聞き入れられるか…。横目で八戒を見遣り、煙草を口に運ぶと…
やがて意外な問いが浴びせられた。

――今日も昨日と同様で宜しいですよね?三蔵。

『……?…普段、通りだと!?…』

思わず口に咥えていた物を、吹き出しそうになる。
また、こいつと…か!?冗談じゃない…。
舌打ちを宙に刻み、悟浄の冷やかしを受ける前にやむを得なく承諾した。
此で下手に否定的な態度を取ると、後で何を言われるか判った物ではない。
深々と息を吐き、我が身の不運を呪う。まさか三日三晩…此、金色を纏う青年と過ごす
羽目になろうとは…。まぁ、悟浄でないだけ、まだマシか…。

 人が苛立っていると隣にいた相手の、空腹音が鳴り響いた。
そして飛び出た言葉といえば…。既に日常化したあの台詞。
『さんぞー…腹へった〜』だ。チッ……。
気の抜けた声が飽きもせずに、
幾度も幾度も耳につきやがる。己の口から出る物は、溜息しかなく
またしても苛々する。堪えきれなくなった自分は無意識にハリセンを召還し、
悟空に炸裂させやむなく食堂に赴いた。
結局は此男の想い通りに事は運ぶ。仕方なく静かに席につきはしたが、
恒例の馬鹿二人の浅ましい食事やり取りが目につく。
顔がつい引き攣り眉を潜めては、煩いと怒鳴り散らした。
偶には静かに飯くらい、取らせろと内で呟いてみる。あくまでも心の中。
誰にも打ち明けることはしない。其の模様を静かに見守っていた隣人が、
にこやかに制しはしたが後味は必ずしも良いといえない。
全くと言って良い程の変化のない毎日。個人的には、嫌ではない。寧ろ…安心している。

一連の騒動にも似た食事は終わりを告げ、本日…割り振られた部屋で落ち着く。
だが、自分の神経は休まる事はない。何せ同室の男に騒ぎ立てられるから。
己の神経はピリピリするばかり。そうかと思えば旅の疲れからか、
夜が更ける少し前に眠ってしまった。…煩い奴だ…。
彼の華奢な躰の何処に、あんなに騒ぐ力がある…?
だてに『全身胃袋猿』の異名は、抱えていないと言う事か…?
…いつ見ても…馬鹿面して寝てやがる。……悟空…。
ベッドに横たわり身を縮めると、良く彼を覗き込んで見た。
こうして眺めて見ると、とてもじゃないが…実年齢518歳には見えない。
…軽く右手で彼の頬に触れては、撫でてみるが起きる気配はない。
彼は自分に取ってどんな存在だ?唯の従者?それとも、ペット?
否、いずれも異なる。確かに此男は煩く騒ぎ立てるが…。
逆に大人しくされたら、それこそ気色悪い。自分はこの慌ただしく騒動しい生活において、
感覚が麻痺してしまったのだろうか。いずれにせよ、此男が気に掛かる。
唯…彼と同じ空間を共有しているだけなのに、可笑しな物だ。
床に片膝を着き両手で悟空の頬を包み込むと、艶を宿すその唇に誘われるが侭…
そっと重ねてみた。寝ぼけているのか、身を捩る彼。その様が妙に愛らしい…。
普段は煩いだけの存在なのに、何故こうも異なる?
先程、触れた感触を思い返し、己の中で次から次へと新な欲が、
芽生えている事に気付く。駄目だ…。傍にいると頭が…イカレル。
也以上、煩悩を持て余したくない。額に手を軽く当て、吐き出す深い息。

――………。俺は…何を望んでいる?

「ん…、三蔵?」

…チッ…、起きやがったか…。

「寝ろ。静かで良い。」

むずがる子供を突き放しはするが、腕を掴まれ離してもらえそうにない。
何だ?…まさか、先程の行為に気付かれたか。金色の瞳が己を蠱惑し、
言葉を無くさせた。そんな自分を尻目に悟空は腕を伸ばし、
身を乗り出すと己の胸元に縋り付いて来る。
温かな彼の人肌が…直かに伝い心臓が…鼓動が…痛い程、早まり動揺を隠せずにいる。
たちが悪い…。何だか…漸く、理解出来てきた気がする。
自分がどういう感情を、此男に抱いているのか……。でも認めたくない。

「三蔵?…俺…」

「黙ってろ…」

不安を色濃く描いた彼の顔。一旦…華奢な躰を引き剥がし、
悟空の隣に身を移すと幼子を宥めるかの如く、抱擁した。
その瞬間に湧く驚きの声。こんな物、聞くに足らない。
俺が抱き締めたいと…望んだから、こうした迄の事。
最初こそ身を強張らせていたが、落ち着いたのか動きが治まり背に手を絡めて来た。
互いの体温が交じり、居心地を良くする。自分は決して、本心を明かす事はしない。
だが……、こうして唇を重ねる事は出来る。想いは言葉だけに、反映される物では無い。

「……ん…、ずるいよ…三蔵…」

「何がだ」

――だってさぁ。好きって…ぜーんぜん、言ってくんねぇだもん。

……。こいつは何をいきなり言うんだ。
自分は容易にそんな事を口に出来ない人間だと、良く知っている筈なのに。
目の前の青年は頬を膨らまし、拗ねてみせる。
そんなに言わせたいのか、此子供は。言うのはかなり照れ臭いのだが。
動作だけでは満足しない悟空に、最終的には折れ…
一生に一度か二度の単語を紡ぎ始めた。

「一度しか言わねぇぞ…。」

「うん…。」

二人、各自の瞳を魅入りながら語られる…精一杯の想い。

「俺はお前に惚れている。」

「三蔵……。俺も…」

双方、意思を確認しあい改めて想い知らされる。自分達が遠回りしてきた事を。
否…もしかすると、己は気付かないフリをしていただけかも…しれない。
余りにも直ぐ傍に居すぎる所為か、相手の必要性を見失っていた。
だからか、悟空と共に過ごす時…落ち着かなかったのは。

「俺、八戒に頼んだんだ。ずっと三蔵と一緒の部屋が良いって…」

「それでか…。もうそんな事をする必要は無い。」

 そう、互いの気持ちが通じ合った今、同室になる事を望んでいるのは…自分の方なのだから。
己の真意を理解し兼ねているのか、不思議そうな顔をする悟空。

 忘れかけていた欲が騒ぎ出し、気付けば彼を組み敷き衣服を剥がしていた。
当然、動揺を示す相手を尻目に唇を奪い、舌を含ませながら咥内を犯す。
幾度も絡み合う舌先。口だけでは納めきれぬ雫は顎を伝い、淫靡に悟空を彩る。
益々、深まる愛欲。充分にキスを堪能すると、胸元に唇を落とし
彼の雄に触れては先端のみ、軽く舐め刺激する。悟空の吐息と艶声に満足したのか、
根元をきつく吸い上げ花芯を指で弾いた。そして漏れる愛しい者の嬌声…。

「ゃ…ぁ、あ…さ、んぞぉ…」

「嫌だというわりに、此様は何だ。」

 悟空の羞恥を煽りながら、口全体で茎を吸い続け…後孔に指二本を突き
入れては内壁を摺り、確実に快楽を与え限界を導き出す。
可愛らしい鳴き声に自分の中の何かが目覚めた。悟空を愛しているのに、
壊したい衝動に駆られるのだ。己は狂ったのだろうか。
欲を放ちたがる彼に対し戒めだと言わんばかりに、一切の刺激を止める。

「どうして欲しいのか、言ってみろ」

「そ、んな事…言えな…ッ!!…うぁっ…!!」

 言うのが早いか悟空の抗議の声が先か、秘蕾から指を引き抜き
代わりに己の雄を宛い、一気に埋め彼の反応を楽しむ。

「お前は淫乱だな…」

「ち、が…!…ぁあぁっ!!」

 小刻みに突けば甘い声…。いきり立つ様な律動を奏でると、悲鳴にも似た声が耳につく。
彼の内部で締め付けられながらも徐々に欲が膨らみ、容赦無く迫る絶頂。

「悟、空…」

「三蔵…俺、も、う……」

両者、体液が交じるのではと感じさせる程、最奥や内壁を摺り口には
出せぬ迄の熱を生れ全ての感覚を凌駕していく…。

「こういう時は素直か。」

「うぁ、あ゛!!」

叫ぶようにして…、同時に吐き出した白濁。情事を終えると躯の負担を考慮し、
ゆっくり抜き悟空を抱き締めた。華奢な肢体を震わせながらも、己にしがみつく彼。
自分がよもやこんなに愛しいと思う存在が出来ようとは。少々、意外ではある。
何気ない一日になる筈だった今日という日。だが也からは微妙に変化していくだろう。
明日もその翌日も……。此旅が続く限り。否、仮に終えても…此関係は終わらせない。

「何、黙り込んでんだよ。気持ち悪ィじゃん」

「…チッ…。お前に見惚れただけだ。」

吐き捨てる様な言動。だがその言葉の奥に秘めた真意は、決して見せてやらない。
もう寝ろと目を閉じ背を向けては眠りに着こうとするのだが、背に何やら温もりを感じる。
薄っらと瞳を開くと、悟空が縋り付いているのが彼の手の感覚で理解出来た。
すぐ傍に自分が居るのに、寂しいとでもいうのだろうか?
寝返りを打ち腕で包み込んだその刹那、悟空が浮かべたの笑み。
それに安堵したのか、睡魔に身を委ねた。
翌朝……疲労からか二人揃って寝過ごすとも知らずに。



管理人コーナー
超久々に書いた39小説です。相変わらずしょぼい(しくしく…。)
悟空と三蔵って結構、傍にいるのでどんな感じなのかなと
想像しながら書いてみました。何時も馬鹿猿…って呼ばれて
内心、それで悟空は喜んでいたりして(笑)