イタチゴッコ[シグルドSIDE]
朝、何時も通りに起床した。目覚し時計に起こされるよりも、十分早い目覚め。 少々…眠い気もするが次に寝ると、二度寝をし寝過ごしてしまう。言葉を悪く すればただの寝坊…。それだけは何としても免れたかった。自分はバルトの副官。 ようは階級はクルー達よりも当然、上…。つまり己は…彼らの模範となら なければならないのだ。未だ寝ぼけ眼な目蓋を擦り、視界をはっきりさせると机に 何やら紙切れなるものが置いてある。そこには見慣れた文字が短文ながら記されていた。 余りにも短絡な文章で気が抜けるが、自分が気づかなかった所…朝早く起きて ここに来たのだろう。全く…子供らしいというか、歳相応でないというか。 自然と笑みは濁っていた。だが…彼の行動を想うと可愛くてつい、笑ってしまう。 否、バルト自身はさぞ真剣なのだろうが。自分が1週間程、だんまりを決めた 程度でこの様だ。本当に単純な男。不適に笑み『夜、愛でようか』等と考え 取りあえずは洗面所を目指す。顔を洗わずに皆の前に顔を晒すのは副官として あるまじき事。水道前。蛇口を捻り冷水が流れると、軽く顔を歪めた。 季節は今、冬。それが朝となればかなり零下な訳で。軽度の貧血を催しジッと その場に立ち尽くしていると、己と同様に起きてきた人物によって更に血の気がひいた。 「おはようございます、シグルド殿…う!?プッ!あ、あははははは!!如何された!?そのお顔!!」 「?おはようございます、メイソン卿。私の顔に何か…」 白髪の老人に出くわすなり笑われてしまった。……何だ? ハッと何かがよぎり慌てて鏡を見遣ると、そこに映し出された顔に 『やっぱり、そうか』と落胆した。それと略同時に青筋が立つ。 己の視界に映った物…。それは顔全体に書かれた…幼稚な落書きの数々。 しかも駄目押しは如何にも『嘘』だと思わせる旧友の名前。 最初こそ…状況が掴めずにいたが…徐々に理解してくると、怒り が込み上げて来る。珍しく反省しているのかと思えば…、 この仕打ちは何だ。内心、メラメラと怒りの炎を滾らせどう してくれようかと考える。するとある一つの答えに辿り着いた。 ようはストライキすれば良いのだ。そうすればバルトは血相変えて 謝罪しにくる筈。けれど今回という今回は頭に来た。それだけでは 済まさない。己の思惑が顔に出たかメイソンは意外なほどに慄いている。 前者から洗剤の数々を受け取り、死に物狂いで洗浄した。朝、凍る 様に冷たい水。今はそんな物を気にかけている暇はない。 全て落とし元通りの状態に戻すと、軽く会釈をし彼と別れた。 そして己が向かうは、バルトの部屋。さぁ、主に与えよう。 それはそれは楽しく淫らな…報復を。 |
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