歯 車
接触者フェイの対存在である私は結ばれるべき、運命にある。それなのに彼は、この私を、愛してくれなかった。神にプログラムされいるのに。何故、彼とこんな食い違いが生じるのか。それは、きっとあの男がいるせい。彼の隣に何時もいる、あの男。フェイは彼を愛しているといった。この私に抱く気持ちは違うと、告げられた瞬間、湧いたもの。それは、殺意。…愛している故、抱くのか。それは、きっと違う。私は、彼を憎んでいる。…ゾハルとシンクロした瞬間、接触者と対存在は誕生した。そして彼が抱いた母への回帰願望。その結果…私が生まれ、ゾハルに母がインプットされた。…私は…接触者の為に生を受け、愛してきたのに。彼は私を、拒んだ。許せない…彼をあの男に渡すくらいなら、私が子の手でフェイを殺してやる。そして…この私も。
全ての運命を断ち切るために、挑んだ最終戦。幾つもの死闘を延じながら、辛くも勝利を得た。その翌朝、一時的に雪原アジトに戻っていたフェイ達は旧シェバトの長「ゼファー」に、報告終えると其々の故郷・居場所に戻るべくその身支度を始める。彼等の殆どの荷物はユグドラシルに詰まれた侭。その為フェイ達は各自の部屋に戻り、自分の荷物を整理しなければならなかった。といっても実際は、仲間内の女性陣の方が忙しそうだ。まあ、当然のことだろう。女と言えば、多くの衣服や化粧品が付き物。どこで揃えたのかと聞きたくなる程、その数は凄まじい。今まで何処に収納していたのか。それさえも、不思議に思えてくる。2:1の割合で衣服の量が勝っていた。整理するのは、相当の時間を要するだろう。それとうってかわって男性陣。彼等は荷物と呼べる物は、それといって殆どなく只々時間を持て余している。フェイは暇潰しにとシタンの部屋に立ち寄ってみる。そして、彼の部屋を覗いてみた。すると彼は数冊の書籍を、紐で一纏めにしている最中だ。シタンの手際が良すぎて、ついつい見惚れてしまう。ずっと見て入たい気もしたがこの侭、覗く訳にもいかずフェイは部屋に足を踏み入れた。
「ああ。フェイですか。やっときましたね…先程から私の事を見てたでしょう。」
「う、うん。だってさ、俺…荷物…整理することないし…暇だったから…えっと…あの…」
「何、困った顔してるんです。まるで、私が悪人みたいじゃないですか。」
「!
ご、ごめん…困らせたり、邪魔するつもりは全然なかったんだ。本当だよ。」
「…誰も謝れなんて、一言も言ってませんよ?」
シタンは手に持っていた本と紐を離し、フェイの前に立つと彼はビクっと震えた。怒られると思っているのか。
「フェイ…」
蕩けそうな声で彼の名を呟き、フェイの頬を両手で包んだ。只それだけの事なのに。彼の顔はまるで、頬紅をつけた様に紅い。そうかと思うと困った顔をしながら、シタンから目を逸らして見せた。ちょっとした彼の仕草。とても、18歳とは思えない。人格を統合して大分、大人になった物の…やはりフェイはフェイだ。シタンにとってそれが、何より嬉しかった。長い間、抱いていた…統合したらエリィの元にいくのではなかっと。だが、彼は…私の知るフェイ…そのまま。つい、頬から手を離し抱き締める。彼を抱く腕に力がこもる。
「シタン…は、恥ずかしいんだけど…」
「おや、そんな…可愛いこと、言うのはこの口…ですか?」
シタンは頬を包んだ侭、フェイの唇に深く口付た。深い深い口付け。時を忘れシタンとフェイは、互いの唇を求め合った。
「もう…せ、整理するんだろ?俺も手伝うから、早くしよ!」
「では、続きはその後ですね。」
「馬鹿…何、言ってるんだよ…」
再び2人は、荷物の整理を開始する。シタンの所有している書籍を半分、片付けた頃エリィが訪ねた。
「あの…シタン先生、フェイを借りても良いですか?ちょっと、重い荷物を整理するのに…手間取っちゃって…今マリアと、困ってるんです。」
「…それは大変ですね。フェイ、ここはもう良いですから…行ってもかまいませんよ?」
「うん…ありがと…俺、行って来る。じゃ…エリィ、行こう…」
フェイは両者に気遣い、答えた。大抵…彼は人に、頼まれたら嫌とは言えない性格。相手がエリィともなれば、当然であろう。何しろ、結ばれるべき相手だったのだから。
「…ありがとう…フェイ。」
エリィとフェイは、シタンの部屋から出ると彼女の部屋に向う。部屋にいるはずのマリアがいない。不審がっているフェイに対し、エリィはドアをロックした。
「フェイ…貴方…ラハンに戻るんですってね。先生と一緒に暮らす為に…」
「え?…ああ…」
「私は貴方の為に、存在しているのに…許さない!」
彼女はビリー愛用の銃を両手に持ち、フェイに向けた。
「フフ。これね。ビリーに貰ったの。護身用の銃なんですって。でも、一端に人を殺せるそうよ。試してみましょうか…」
「やめろ、エリィ!エリィ!!」
「…シタン先生に貴方を渡すくらいなら、私が殺してあげる!!」
1つの銃声が、鳴り響く。ユグドラシル中にいた仲間達が、彼女の部屋に集まるが。部屋はロックされており入れない。一刻を争うかもしれない状況。何が起こったのか、理解できずフェイと彼女に声をかけてみる。そうこうしている間に、もう1つ銃声が木霊した。
「おい、これって銃声だよな?」
バルトがビリーに、問いかける。
「うん。まさか…この音…僕がエリィさんにあげた護身用の銃!?」
「あぁあ!?護身用!?ビリーそんなもん、やったのかよ!?」
「だって仕方ないでしょ!エリィさんが、自分の身を守りたいっていうんだから!」
「…あいつなら護身用なんて、必要ないんじゃないか?」
冗談混じりで呟く、バルト。ビリーは呆れ顔を浮かばせている。
「知らないよ!でも、何で…部屋の中から…?」
「…とにかく、シグルドにマスターキーを貰うしか、方法がないようですね。」
バルトとビリーの長い押し問答。それを遮る様に、バルトに送れること5分シタン駆け付け口を挟む。
「そうだな。…俺がシグの所いってくる!先生はここにいてくれ。もしかしたら…怪我人が出るかもしれないからな。」
「…分ってます…早めにお願いしますね、若君。」
シタンは今すぐにでも部屋に入りたい気持ちを押さえ、エリィとフェイに声をかける。しかし、2人とも何の答も戻さない。部屋から聞こえたのは、確かに銃声だった。恐らく、彼女がもっていたのは銃で間違いないだろう。当たり所が悪いと、死に至る。急がなければ。
「エリィさん!フェイさん!お願いです!返事をして下さい!…馬鹿な事はやめて!」
マリアの必死の叫び。フェイと彼女に届いているのだろうか。シタンは依然、エリィがミァンとして覚醒した時の事を思い出していた。メルカバーにて彼女が起こした発砲事件。…あの時と同様に、フェイが撃たれているかもしれない。そう思うだけで、シタンはエリィに強い憎しみを抱く。が、彼女の気持ちも分かるだけに…何にも言えない。今日だって、本当はエリィの荷物の手伝いなどさせたくなかった。しかし…。彼女は恋敵であると、同じに仲間でもある。矛盾…只それだけが、広がって行く。募る苛立ちと不安。それらの感情が頂点に達する頃、バルトはマスターキーを持って帰ってきた。
「先生!すまねぇ、遅れちまった!これが、鍵だ!早く、フェイとエリィを!」
「分かってます…」
マスタキーはカードキータイプで出来ている為、速攻で開ける事が可能になっている。もしもの時の為に用意した、担架と医療器具。準備はこれで、整った。後は鍵をセンサーに通し、開くのを待つまで。果たして、どうなっているのか。ドアの開く音がしたのと同じに香る、錆び付いた香。この匂いは…血液。部屋の中にはまず医者であるシタンとビリーそしてマリアが、第一陣として足を踏み入れた。そこにあったもの。それはベッドに凭れるようにして、倒れているフェイとエリィの姿だった。
「フェイ!エリィ!!」
彼らの生命反応を急いで確かめてみる。フェイは銃で足と腹部を打ち抜かれ、苦しんでいた。一方、加害者のエリィは意識不明の重体。シタンとビリーは急いでフェイに駆け寄り、己の特殊能力「小波」・「癒しの光」を放つ。傷口が浅い為、直ぐに傷が塞がれた。数秒後フェイの意識が戻り、ここで何があったのか一部始終、報告させた。彼の説明によると彼女はフェイを部屋に通した後、彼を殺そうとしたというのだ。その為、彼は銃を取り上げ思い留まるよう説得したのだが、エリィは彼から銃を取り返し自らの意志で自殺した。そう言うのだ。彼女の歪んだ愛。その情がエリィの命を奪ったのだろうか。時の真相は、彼のみぞ知る。何時もは怪我人でにぎわう医務室も今日ばかりは、彼女の治療で独り締め状態だ。
「先生…エリィ、助かるのか?」
「さあ、まだ…なんとも。…ですが、彼女は強い人です。心配いりません。」
フェイは安心したのか、シタンに微笑を返し自分の部屋に戻って行った。そうして、迎える午前2時。雪原アジトの宿舎に戻っていたフェイは、こっそりと部屋を抜け出した。そう、彼女のいるユグドラシルの医務室へ向う為に。昼間の事件を感じさせない、静まり返る室内。精密機械と生命維持装置を、つけられたエリィ。闇は彼女独特の栗毛色の髪を、黒く染める。彼女のベッドに寄ろうとした時、フェイの後方から声がした。
「フェイ…どうしました…?」
「あ、うん。ちょっと、エリィの容態が気になってね。」
「本当に、それだけですか?貴方の瞳は、別の事を訴えていますよ…例えば、憎悪とか殺意とか。」
「お、俺は…」
「私が思うに、貴方…彼女が邪魔なんでしょう?」
「……」
「図星のようですね。先程、貴方が部屋に入ってきた時、殺気を感じたんですよ。それで、もしやっと思いましてね。」
「…隠しても無駄ってわけだ…」
「フェイ。私は別に、とめたりはしませんよ。この侭だと彼女は確実に、廃人になるでしょう…エリィはまだ若い。廃人になるのは…酷だ。彼女を殺しますか?…どうするんです?」
「俺は…エリィを楽にしてやりたい…今まで運命に縛られてたけど…今度、生まれ変わる時は…互いに自分の人生を歩みたい。そろそろ、自由にしてやっても良いんじゃないかって…そう思う。勝手な考えかもしれないけど…俺はエリィを…」
「…分かりました。それでは、私も共犯者になりましょう。エリィを手にかける者…同士という事で。」
「共犯者…いいかもね。この機械についているスイッチ切れば、良いんだよな?」
「ええ。そうですよ…同時に切りましょう…いいですね?」
「うん…」
2人同時に生命維持装置のスイッチを切り、彼女の呼吸を停止させた。数秒もしないうちに、心音と脈がなくなりエリィはその生を終えた。何一つ、苦しむことなく。安かな顔で永眠する彼女。誰よりも、その表情は美しく眩かった。もし再び生まれる時は、別々の人生を歩む事だろう。神のくだらない夢などに惑わされる事なく、自分だけの人生を。そして、2人は別々の道を歩いて行く。確かに、フェイが降した決断は間違っているのかもしれない。現に悪意がなかったといえば、嘘になる。彼女がいるおかげで随分、苦しんだのも事実。でも…これで全て終わる、もう邪魔する者は何もない。結果的にこれで、良かったんだ。フェイにとっても、彼女にとっても。後悔していない。ゾハルがなき今、自分が再び転生できるのか分からない。もし…生まれ変わる事が、できたとしたら再びシタンには逢いたい。そして今と同様…恋に落ち幸せになりたい。やっと、掴んだ自分の人生。有り余った時間を、この人の為に費やす。明朝、彼女を弔った後、2人は自分達だけの理想郷へともどっていった。
<言い訳>
きり番小説として、書いたものです。…もう少し、小説勉強しないとな〜と感じてしまいました。
エリィごめんなさい〜粗末な扱いして。 (T^T)