Little Angel
ソラリスの一件で、シタンに告げられた言葉。自分がソラリス守護天使であり、天帝カインの蜜命を受け、フェイを監視してきたという事。真実を語る最中、彼の辛そうな顔。心にズキンと、痛みが走る。でも、これ以上フェイに隠し事をしたくない。嘘をつきたくない。だから、全てを告げる。そんなシタンの想いを知らぬ、フェイは彼の顔を信じられぬ想いで只々、見つめていた。
(嘘だ、嘘だ。シタンがソラリス守護天使だなんて…俺の傍にずっといたのは…蜜命を受けたから…なの?そんな事って…!)
フェイの胸中に巡る、複雑な想い。この気持ちをどう処理して良いのか、分からなくて。あの告白の翌日から、彼を避け始めた。皆にもはっきり分かる程、明確に。だけど彼の顔を見るのが辛くて、どうしても避けてしまう。シタンを傷つけている事くらい、分かってる。でも…
そんな日々が1週間、経過した頃2人はユグドラシルのエレベータ近くの廊下で、ばったりと出くわし少しだけ会話を交す。
だが心なしか、何処となく堅苦しい。
「フェイ…あの、話があるんですが。」
「ごめん。約束があるから。」
「私を、信じて貰えないんですか?フェイ…」
「そうじゃないよ…本当に、約束があるんだ。じゃあ、またね。“先生”」
シタンの名ではなく、代名詞を使うフェイ。それが、何を指すのか。
シタンには、分っている。先生は、仲間として呼ぶ時。シタンと呼ぶ時は、恋人として接する時。そう決めた2人のルール。先程、フェイは“先生”と言った。というとは、“もう恋人としては接さない。”そう、いっているも同然。シタンは苦汁を飲まされる想いで、目を瞑った。その場にいるのが苦しくて、フェイは廊下を走りそそくさとギアドックに向かってしまった。シタンは一人きりの廊下で目を研ぎ澄ませ一言、口にする。「フェイ…逃がしませんよ。」っと。一方、話を中断する感じで、ギアドックに来たフェイはギアのメンテナンスを手伝う為、ヴェルトールの近くにいたクルーの元に赴く。
「おう、来てくれたか。すまないな。で、今日は動体の部品が破損していないか、確めてくれ。」
「ああ。いいよ、別にする…事ないし。で、頭部分から確めればいいのか?」
「まあな。ほら、機材だ。いつも通り、之で動体を叩いて、変な音がしたら言ってくれ。」
「分かった。」
クルーに言われた通り、ヴェルトールの動体を叩き部品が大丈夫なのか確めて行く。その作業中にも、想う事は一つ。シタンの事ばかり。
(シタンが俺の傍にいたのは…俺を監視してたから、だったんだ。もし…そうなら、あの時の言葉も、あの行動も…全て嘘?ねえ、そうなの?…シタン。)
暫く、気を取られていたのか、ボーとしていた。それが災いし、フェイはヴェルトールの手部分から、足を滑らせてしまう。
コンクリート上の地面に向い、落ちて行く。手部分から地面まで、数シャール。この侭、転落したら確実に死ぬ。
そんな非情時を迎えても、尚想う事は只一つ。シタン・ウヅキの事だけ。
(…今、死んだら…シタン、悲しんでくれるかな…俺を…抱き締めてくれるかな…)
その刹那。何かが、視界に飛び込んだ。
「フェイ!」
シタンの声がする。次の瞬間、フェイはシタンの腕の中に包まれ、保護された。
どうやら、守護天使の能力の一部、“飛翔”を利用したらしい。
この能力は、天使独特の羽とエーテルを融合し通常の人よりも、数倍の張力を発揮出来るという物である。
シタンは周囲のクルーに怪しまれぬよう、フェイを保護した。
「大丈夫ですか?フェイ…立てますか?」
「あ?ああ。」
シタンから離れ、数メートルの距離を取り再び会話を始める。
「…助けてくれて…有難う。でも、何で?もう、監視しなくても良い筈なのに…」
フェイの何気ない言葉に、シタンは一瞬、その表情を曇らせ話す。
「確かに、そうですね。」
「じゃあ、何で助けたりするんだよ?…俺を、監視するだけじゃ、飽き足らないのか?」
「…私は、そんな気は毛頭ありませんよ。フェイ。…確かに私はこの3年間、貴方をずっと監視して来ました。現に貴方と出会った当時、私は貴方を殺すつもりでいましたし。でも、貴方…いえフェイと接して行くうちに、誤算が生じてしまったんです。」
「誤…算?」
「ええ。それは…愛してはいけない人を、愛してしまった事です。貴方には、愛さなければならない、片翼がいる。そして、私には妻子がある。愛してはいけなかったのに…それでも、私は貴方を愛してます…」
「…信じても、良いの?」
縋るような、瞳。涙を浮かべている。本人は、気付いているだろうか。その瞳に、シタンが弱いという事を。
「信じろといっても、信じてもらえないでしょうが。これは、私の本心です。…この1週間…貴方に避けられて辛かった。…狂うかと、想いましたよ。」
「シタン、ごめんなさい。俺…怖かったんだ…シタンと過ごした日々が、全て否定されたみたいで!だから、だから!」
「貴方をそこまで、苦しめていたなんて…私もまだまだですね。」
「俺の方こそ。」
2人は目を合わせ、キスを交す。シタンの体温、フェイの温もり…口内で行われる、キス。
濃厚な中にも互いに、愛を感じられた。シタンの胸に顔を蹲らせ、フェイはいう。
「…例えシタンがソラリス守護天使で、俺の監視者でも構わない。俺はそんな肩書きより、シタンが大切だから。」
フェイ…彼の口から発せられる。やっと心通じた、恋人にシタンは固く硬く、抱き締め寄せる。そして、愛しく囁いた。
「私は永遠に、貴方だけを守り、貴方だけを愛します。ねえ、フェイ…私と…再び、共に生きてくれますか?」
「勿論!」
何時もの純粋な微笑で、シタンの問いに答えた。2人は再び、唇を重ねる。今度のは、軽く触り程度だが、心が満たされ至福の一時を共有しあった。
「フェイ…貴方こそが、私の片翼…いかなる事があろうとも、離しませんよ。」
「俺、離れないよ…どんな事があっても、ずっとシタンの傍にいる…」
2人は人が聞いたら照れるような台詞を、軽々と言い放つ。ここがギアドッグだという事を、忘れているのか。一人のクルーが嘆息し、漸く現場所に気付く。フェイは赤面し、クルー達から顔を背けた。シタンはというと、上機嫌でフェイを背後から抱き締める。この後、ギアドックにいるクルー達は、シタンとフェイの惚気を命一杯、見せ付けられる事になる。
散々、惚気た後、シタンの部屋に2人はいた。
「フェイ…愛してますよ…」
フェイの髪留めを取り、服を脱がせるとシタンは愛しそうに唇を奪う。そして、胸に口を移動させ愛の印を体に刻み込んで行く。まるで、“私だけの宝物”といわんばかりに。
「はぁ…ああ」
甘い感覚がフェイに、押し寄せる。体中にある快楽ポイントを、シタンは刺激していく。
その都度、彼は喘ぎ妖艶な表情を浮かばせ、身をビクンと強張らせる。彼の行動一つ一つが、シタンを悦ばせた。
体内の血液が、沸騰するみたいな錯覚に陥る程、体が火照る。限界が近いのか、全身を振るわせる、フェイ。
「あっ、あっ!シタ…ン…もう、もう!」
「卑らしい子ですね。何です?はっきり、仰い。何を望んでいるんですか?フェイ。」
「やぁあん!シタ…ン、俺の中に…入れて…」
「良い子ですね、フェイ…良いですよ、一つになりましょう…」
4つんばえの体勢で、シタンは自分の物を入れる。上下運動に付け加え、左右にも動かしてみた。
その結果、シタンの思惑通り…フェイは善がりに善がる。
「んんっ!シ…タ…ン…!も…う…駄目ェ!」
「では、いかせて挙げましょう…か。」
「嫌だ、一緒にいき…たい…」
「フェイ…」
2人は互いに悶え、腰を自然と動かし快感を求め、シタンとフェイは同時に果てる。
その晩2人は、一緒のベッドに眠り朝を共にした。
後日、人の目を気にせず惚気てばかりいるこの2人に、仲間一同…どう対処して良い物か分らなかったと言う。
FIN
<言い訳>
1000ヒットの御祝いとして、ちさとさんに送った小説です。甘々系というリクエストだったので、こういう感じに仕上げました。これで、良かったのかな〜