Dead Heart(8)
タダイマ…。彼の言葉。どういう意味だろう。村人達がいうように、戻ってきたと言うことか。私のところに戻ってきたという事なのだろうか。彼の意図がつかめない。ソラリス一の頭脳派といわれたこの私さえ頭を悩ます。フェイは私を嘲笑うかのように軽く会釈し、村人達に挨拶回りを始めた。暫くかかるであろう、彼の行動。その間に私は往診をすませ、フェイを待つこと数分。私は彼と再会した場所、古井戸の前に立ち昼間ダンが座っていた場所に腰を下ろす。数時間前、この場所で彼は笑って話していた。4年前の私には何度、笑わせようとしても笑わなかったくせに。少しだけダンに嫉妬していた。…たかが10代の子供にもジェラシーを感じる己。…まだ、フェイを私のモノと思っているのか。…溜息つき夜空を見上げた瞬間、彼が急ぎ足で私の方に走ってきた。月の光に照らされるフェイ。…神秘的な彼の姿に見惚れつつ優しく笑みを浮かべる。
「フェイ…おかえりなさい。」
「た、ただいま。はぁ。はぁ。待っててくれたんだな…良かったぁ!なぁ、先生、酒場にいかないか?ここじゃ、寒いだろ?」
「クスクス、そうですね。長話もここでは出来ませんから。…それにしても貴方の口から酒場という言葉を耳にするとは驚きです。」
「なんだよぅ!それ!俺だって、大人になったんだっ!それじゃ、行こう♪」
腕をつかまれ酒場に行くと彼は席を陣取り、冷酒2本いきおいよく運ばれてきた。どうやらフェイが予め頼んでいたらしい。酒が運ばれるなり、直ぐ彼は口に含みのみはじめた。まるで、御水を飲むかのように。数年前までは酒に弱かった人がこうも普通に冷酒を呷るとは。変われば変わるものだ。私も一口、二口と呷りフェイと久し振りの時を過ごす。これまで何をしていたのか、何故、今頃になって帰ってきたのか。聞きたいことは山済みだったが。単刀直入に一つだけ尋ねて見る。“もう、吹っ切れましたか?”っと。フェイは一瞬、驚いた表情を浮かべ“勿論”との返答してきた。ホッとしたような、安堵の吐気を漏らす私を尻目に突然、交されるキス。してやられた、という言葉はこういうことかもしれない。などと、能天気なことを脳裏に浮かばせながら口元に手を当てて見る。一昔前は、当然のように交し合ったキス。4年もしてないというだけで、こうも胸が高鳴るものか。一体、どういうつもりでしたのか。疑問のまま、酒場を後にする。
「これから、どうするのです?ラハンで店でも開くのですか?」
唐突に本題を出し、フェイの様子を見てみる。相変わらず意地悪な己に嫌悪しつつも、反応を待つ。
「…どうしようかなぁ…働く場所がないって言ったら先生、雇ってくれる?三食昼寝つきで。しかも夜の相手つきでさ!俺、薬の知識それなりにあるんだぜ!」
いきなり、何ということをいうのやら。本当に大胆になったというか、これがあのフェイか。数年前と比較する自分。私はどちらの彼が好きなのだろう。私の後ろを引っ付き、甘えてくる彼を可愛いと思い守りたいと願った。今は違うのか。まぁ、今も昔も変わらないのは天真爛漫な性格と笑顔のみ。それにしても、薬の知識があるというのは歳柄たすかる。
医学全般、得意といえば得意なのだがどうも薬草に関しては苦手な部分がある。ソラリスにいた頃は、薬が予め用意されており薬草など見向きもしなかった。どうやら、そのツケが回ってきたらしい。今はもうソラリスという大国はない。薬は己で調合しなければならず、患者に行き届くまで時間がかかる始末。フェイが薬師であるなら、好都合だ。
「薬師、ですか。悪い話ではありませんね。良いでしょう、私の家にいらっしゃい。」
「……、いいのか?冗談で言ったのに。…ありがとう。実は…行く所も勤め先も…なくてさ。最初っから、先生の所に潜り込むつもりだったんだ♪」
「貴方らしいですねぇ。今日はもう、疲れたでしょう?貴方が留守している間に私の料理の腕…かなり上達したのですよ♪楽しみにしていてくださいね♪」
「あ、あははは。楽しみに、か。次の日、腹痛で転げさせないでくれよ?」
「…分かってますって(汗)」
フェイは過去と変わらぬ話し方で私に擦り寄ってくる…。彼の荷物を持ち私と彼は私の自宅へと戻り、4年という空白を埋めるかのように彼を求めた。彼に抗う時間を許さぬ間もないほど、キスを交し抱き締め私を愛しているか尋ね続ける。…まるで、己は子供。そう、この数年の間…この家で随分、1人の時間を強いられた。その原因を作ったフェイに情をぶつける。憎しみにも似たこの感情を。
「唐突だな、先生…いや、シタン…。俺がいなくて…辛かったんだな…不謹慎かもしれないけど…嬉しい…もう、俺のこと…忘れてると思ってたから…」
ヒトの気もしらないで、平気で残酷な事をいう彼。“私がどれだけ、貴方の帰りを待ち侘びていたか…恐らく知らないのでしょうね…”内心、心で囁き彼の下半身を弄り蜜が滴ったのを見計らい自身を入れ、彼を抱き抱える。苦しそうに息を切らし涙ぐんだ瞳で見るフェイ…艶めかわしい…
「アッ…んん…シタ…ン…ぅ…俺…シタンから…離れたこと…後悔…して、ない…よ…アァ…んぅ…」
「…後悔などさせませんよ…私と貴方の気持ちを汚させない為にも、ね…」
彼の中を熱い蜜で狂わせ、私だけの刻印を刻み込んでいく。フェイの柔らかい肉が私を高みへと登らせ又、彼自身も果てさす。互いに息を切らせ見詰め合いキスを交す。彼が顔を赤らめ、私にキスを強請る。私の可愛いフェイ。4年という月日のブランクを一つも感じさせない彼。…少しばかり、拗ねたくなる。私と離れた空白の時間…どれほど寂しかったのか、彼には伝わっているのだろうか。己の感情を悟られぬようその日、彼と私は同じベッドで眠りフェイを抱き締めたまま朝を迎えた。…目を覚ましても彼は私の腕の中にいる…。夢でも幻でもない。薄っすらと涙を浮かべ彼の躰を抱き締める。暖かい…。
「ふぁあ〜〜、ん…おはよう…。あ、あれ?随分あたたかいな〜って思ってたら…シタン…抱き締めててくれたんだ?ありがとう…安心する…すっごく…」
背中に手を回し私にすがり付いてくフェイ。私は彼の背中をさすり力強く抱き寄せてやる。
「今日から…仕事、だろ?俺も手伝うよ。助手くらい出きるんだぜ、俺にだっさ♪…さてっと、朝御飯つくってくる。シタンは寝てて。」
「フェイ…」
まだ、覚えていたのか…、「先生」と名前の使い分け。あれから、数年…立ったのに。ヒトリ、ベッドで黄昏ること数十分後、彼の威勢の良い声が飛び私は台所へと向う。
「シタン〜♪できたから、早く食べよぅーー!!」
人が黄昏ていると言うのに、この子は。溜息を軽くつき、台所へ行くと色取り取りの料理が並べられていた。テーブル左から「お手製フランスパン」・「野菜の冷製スープ」・「スコッチエッグ」・「マカロニサラダ」の順で並べられいかにも美味しいよ、という香りを放っている。何年振りだろう…こうまともに朝食らしい朝食を目にしたのは。
「なーに見てるんだよぅ、冷めちゃうだろ?たべようよ〜!」
フェイの突然の声に驚き、席につく。彼が作る食事…以前はどちらかといえば、上手ではなかったような気がするが。スープを一口、口に含んで見る。………美味しい。料理の腕は期待できそうだ。後は、助手としてどれほど薬に詳しいか、だ。今日から1週間、研修期間として見定めてみる、か。久し振りにとる食事に舌をうならせ、その日、開院した早々、患者が押し寄せてきた。余りの多さに頭を抱えている最中、フェイの知識は事の他、役立ちラハン村の患者に多くの薬を提供できるようになった。私が診療し病状を伝えるだけで彼は器用に薬をブレンドしその患者に1番あった薬を作り出す。…一体、どうすればいとも容易く作れるのやら。フェイには素質でもあったのだろうか。…ふと頭をかしげつつ、診察を続け夕方。全ての患者を診終え彼のいれてくれたお茶を飲む。
「ん、これは玉露ですねぇ、こんな高い物…どこで手に入れたのです?」
「メイソンさんから貰った。ここに帰る前、アヴェに寄ってきたんだ〜」
「そう、ですか。へぇ…私よりも先に、ねぇ…」
少し悪めいた言葉で彼を虐めて見る。彼の困った顔。…変わらない。昔の通りの無邪気な一面…
「相変わらず意地悪だな…シタン。あのね…俺…ラハンに帰る途中、数回ほど男達に誘われて一緒に酒を飲んだり…話したんだ…でも…やっぱり、シタンじゃないと駄目だ…男達を話す度…シタンの顔ばかりちらついて…愛してるって嫌でも実感しちゃうん、だ…どうしてくれるんだよ。俺…シタン以外を愛せなくなっちゃったじゃないか…」
「おや、随分、気づくのに時間がかかったのですね。」
「うっ…だ、だって…俺…シタン以外の人に抱かれる度、罪悪感が攻めぎあって…申し訳ないって気持ちで一杯になって…あの頃はそれしか頭に回らなかったんだ…でもさ、別れた後、マルーに偶然であって…医学書かしてもらって…それで…自分の道、捜して…だから…」
何と、この子は…私に対し、そんな感情を抱いていたというのか。罪悪感など持たないように…愛の言葉を何度も囁いたというのに。やはり…心をわって話さなければ分からない事もある。…そういうことか。ヒトとして当たり前のことが、私にはどうも理解できないらしい。所詮、ヒト。…感情など読むことの出来ない生物。…それに気づくのに、少しばかり回り道をしてしまった…自嘲しながらも、彼の背を撫でキスの雨を降らす。純粋に彼が愛しい。必要としている。それだけでは、ダメという事なのだろうか。
「では、これからどうするか…貴方はその答えを導き出したのですか?」
「…マルーに医学書もらった時に決めたよ、薬師…になってシタンの役に立とうって…好きな人と同じ道を歩いて…力になれるようになろうって、さ。今はとりあえず、一通りの知識は身につけたつもりだぜ。」
「でしょうね、今日の貴方…患者さんに大好評でしたよ。少しばかり、焼いてしまいました。みっともないですね、嫉妬などと…」
一瞬、フェイが驚いた顔をするが、それは瞬時に微笑みと変わり私にキスをしてくる。一体、何なのか…
「嬉しいな〜〜先生、冷静なお医者様のくせに焼餅なんて焼けたんだ?」
「……………馬鹿にしないで下さい…」
何をいっているんだ、この子は。…どれ程、汚した者達に憤りを覚え狂いそうになったか、この子は何も知らないというのか…。私が嫉妬を露にした時、泣きじゃくったのは一体どこの誰だ。ヒトの気も知らないで…なんという小悪魔。
「シタン…俺、本当に戻ってきても良いのか?…俺、あんなに汚されて…傷つけたのに…」
「…私に悪いと思うのなら今度こそ私の側に大人しくいなさい。…もう、どこにも行くんじゃありませんよ?……再び離れた暁には、貴方を殺しますからね。」
「それって一般では脅迫っていうんだよな?…ハハ、シタンがいうのって…何だか、プロポーズみたいだなぁ〜〜♪」
「おや、みたいではなくて。その通りなのですが。」
言葉を告げた直後、フェイは真っ赤に顔を染め俯いた。今度は何をいうつもりなのか。彼の思考を読むので必死になっている私。…笑えてしまう。
「……俺、離れないから……シタンを離さない!俺、全ての面で強くなる為に髪きって勉強に励んだんだ。…それもこれも、シタン…の所に帰りたかったから…だから…」
…………。イジらしい事をいう子。私の我慢の限界…きれてしまった。…天が授けて下さった…この子を…私、以外、誰にも…見せたくない。
さあ…貴方の…目を潰し、足を貫き脊髄を傷つけ私から逃げられないようにしてあげますよ。ああ…笑いが込上げてくる…
それとも、貴方が天使だというのなら…羽を引き千切り傷を踏み付け体を鎖で雁字搦めにして差し上げましょうか。そして、骸のようになった貴方をこの手に抱く。…それはそれで、楽しそうだ。まぁ、そうなるかそうならないかは、フェイ次第ですよ。
「それは男冥利につきますね…」
「あ!その目!信じてないだろう!…証拠みせてあげる…」
……?フェイの意味深な言葉に首を傾げ何をするのか注目してみると、彼は己の腕を果物ナイフで事細かに切り刻み腕を折って見せた。…彼がいう証拠とは、私のためなら何でもできる。傷つくのは怖くないということなのだろうか。…全く、だからこの子は…。
「貴方、仮にも薬師なのでしょう?こんな事、しては駄目ですよ!…ああ、貴方の白くて綺麗な肌に血が…」
フェイの腕から滴る真紅の雫を舐め彼の表情を見てみる。…ああ、痛そうに顔を歪めて…これでは可愛い顔が台無しだ。そして、いつもの決り文句のご登場。
「ごめんなさい…もうしないから…俺を嫌いにならないで…」
ああ、数年たってもこういう部分は変わっていないのか。呆れ半分、喜び数倍。私の狂気をいとも簡単に跳ね除けてしまった。だが先程の思想は曲げない。貴方がいつ、離れるか分かりませんから。そして、いつ…壊れるかも、ね。
「ねえ、シタン…アヴェで買ってきたものがあるんだけど。見てくれる?」
「??何でしょう?」
「じゃ〜ん!!」
彼が医療カバンから取り出したもの…それは同じ型をしたデザインリング…。フェイの行動が読めない…。まさか、男同士で婚礼でもする気か。
「あの…もしやそれは…マリッジリング、ですか?」
「あ、ばれた?俺達、結婚は出来ないけど夫婦には変わりないだろ?…だから、俺がシタンを縛る…いわばこれ…俺の…手錠だよ…」
悪知恵…しばらくみぬ間に随分、身についたものだ。…当面は狂気をしまい込むとしよう。フェイのいう…手錠がどれ程の物か見せてもらう為に・・・貴方が死を迎えるその日まで…。
<言い訳>
長らくUPしないですいません。・・・・・・・なんだか、ただの甘々EDで怒ってる皆さん、ごめんなさいっ!(・_<ゞ−☆