こんなに星がきれい
 今君は何処にいるんだろ

 光を失った“星”がもういくつか在る。いつもは瞬きを失う前に眠ってしまうのに。“星”を眺めていたのが長い証だ。
 ここでは星をつなげる線なら判別(わか)る。例えその形が意味を成さなくとも。
 どうして古代人はあの形を見て、ハクチョウだのオオクマだのと思ったのだろう。大体どうしてあの星たちをセットにして見、形を想像(おも)ったのだろう。ここでは同じ大きさ、同じ輝きの星も、空では小さく、見付けるのが困難な程のものさえ在るというのに。
 唯一、空できちんと星座の全ての星を見付け、線で結べるのはオリオン座くらいだろう。――それにしたってあのたった7個の星が棍棒を振りかざした大男にはどうしたって見えないが。――そのオリオン座もここでは三連のうち二つが瞬きを失ってしまっていて、見付けるのに時間がかかった。
 立ち上がってぱちんとスイッチを押す。“星”の全ては輝きを失った。辺りが電気の光であふれて、今まで“星”があったところには、くすんだ薄緑の押しピンがただ刺さって居るだけ。
 子供の頃、星座表を見ながら、ここで良いの?と、何度も父の方を振り返りながら、ひとつひとつ押しピンを壁に刺し込んだのだ。
 このくすんだ緑の押しピンが、どうして光り輝く“星”に変わるのかがとても不思議だった。そして何故、本物の星のように朝には消えてしまうのかも。
 確かに蛍のように不思議に光って、部屋を“夜空”に変えていたはずだった“星”は、眠りこけ、目覚めたら居ない。緑色のピンは貼り付いているのに。
 その時の淋しさと云ったら。その時の喪失感と云ったら。
 ――もう今は居ない。思い出ばかりは貼り付いているのに。
 反吐が出る想いだ。子供の頃のおさがりのようなニオイも。最早、思い出なんて陳腐な言葉で片づけてしまわれそうな“星”たちも。
 リビングにのろのろと出て行く。本物の星を見るために。
 戻った方が良い?この身体に染みついた柔らかな匂いまでを失う前に。
 彼処なら星が見えるよ。それが偽りに根差したものであっても。
 彼処なら星が見えるんだよ。
 カーテンさえも引いていない窓から、暗い暗い夜空がぽっかりと浮かんでいる。
 ささやかな雨のニオイが身体の芯を激しくついた。

 だってきっと星は見えない
 だってきっと君は見えない。








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