私は店の中に居た。黒と白と銀。それが店の中の全ての色だと言ってもおかしくない位に統一されている、シックな店だ。 友達から貰った目覚まし時計を、昨日、弟に壊された。私は、その時計がかなり気に入っていたのでわざわざ店を教えてもらい同じ時計を買いに来たのだ。
 「こんなとこ私1人じゃ来ないわ」
来ない、のではなく来れない、のであるが。そんな事を呟きながら私はぐるり、と店内を見渡した。
と、背中に引っ張られるような感覚があった。次の瞬間にはがしゃん、背後で何かが落ちたような音。そして、じりりりとベルの鳴るけたたましい音。
 私は恐る恐る背中を振り返った。未だに鳴り止まないベルの音。床には黒色の目覚まし時計が1つ、落ちていた。
 私は、このシックな店の静寂を破ってしまった事を深く恥じながら、こそこそとそれを拾い上げた。時計に傷が付いていなかった事は唯一の救いといえた。
 かち、とノブをoffに合わせたが、ベルは止まなかった。傍目にこそ傷はなかったものの、中はやっぱり壊れてしまっていたのだ。
 私は死ぬほど恥ずかしかったがレジに向かった。友達がくれたのと同じじゃないけど、これだって十分可愛いじゃない、と買い取らされる事を予想して自分を励ましさえしたのだ。
 私は、ベルの音がどうしようもなくて走ってレジに行った。別にもう軽蔑されようがそんな事どうでも良くなってきていた。
 叩き付けるようにして時計を置き、「すみません」と声高に言ったのに誰も答えてくれなかった。店員は誰も居なかった。私は怖くなって店内を駆け回ったが、変に静寂していてじりりりと言うベル音だけが響きわたっていた。
 むかむかと腹が立ってきて、無理矢理にカバーを外し、電池を引きちぎるようにして取った。が、私に時計はもっと大きな音でじりりりと鳴いて見せた。私がうろたえるともっともっと大きな音でじりりり、と。それはだんだん他の時計も加わって大合唱になっていった。じりりり、じりりり、じりりりりりりり。
 気が付くとベットの隣では銀色の時計が1人で黙々とあたしを起こしていた。じりりり、と。なんだ、と私はほっと安堵して、その時計に手を伸ばした。が、その手は時計に届く前に恐怖によって空間に止められてしまった。
 真っ暗な辺り。私はこんな時間に目覚ましをかけた覚えはない。
 蒼白になる私に、時計はじりりりと鳴いてみせた。
 心なしか音が大きくなった気がする……








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