2001年2月6日執筆

オープンソース時代の到来

コンピュータの世界にオープンソースという妖怪が徘徊している。この言葉は マルクスの「共産党宣言」の冒頭の部分のパロディであるが、今まさに妖怪の ようにコンピュータの世界にオープンソースという思想が入り込んでいる。現 在、元々コミュニティーや個人の著作物であったソフトウェアだけではなく、 多くのメーカまでもが、自社のソフトウェアをオープンソースにしている。ま さしくオープンソース時代の到来と言えなくもない。

オープンソースソフトウェアとは何か

オープンソースソフトウェアとは、かつて「フリーソフトウェア」と呼ばれて いたものの一部で、ソースコードが公開されているものの新しい呼称である。

これは、元々Linuxが商用で使われ始めた頃に、フリーソフトウェアと呼ばれ ていて、「タダ(free)なものが信用出来るのか」「タダ(free)なものを金にし て良いのか」といった、`free'という語にある「無料」というニュアンスが、 商用利用の妨げになるということから、無料というニュアンスを含まない語を 使うようすることにしたのが始まりである。ただし、「フリーソフトウェア」 という言葉に出て来る`free'は、本来に「無料」という意味ではなく。あくま でも「自由」という意味である。

厳密な定義については、 http://www.opensource.gr.jp/osd-ja.htmlを見て戴くとして、ここでは 簡単に定義を要約しておく。

  1. 自由

    元となるソフトウェアだけではなく、派生したソフトウェアも同じライセンス で配布が自由でなくてはならない。

  2. 公開

    ソースコードは人間の読める形式で公開されてなくてはならない。

  3. 平等

    用途や応用分野に制限を与えてはならない。また、個人やグループに対して差 別的な制限を与えてはならない。

  4. 公正

    何らかの追加ライセンスに対する同意や、特定の条件でのみライセンスされて はならない。

オープンソースによって何が可能になるか

従来のソフトウェアとオープンソースの大きな違いは、その公開性である。こ の公開性によって、様々な可能性を作り、またビジネスの上での難しさを作っ ているのである。

ソースコードには、そのソフトウェアの全てが記述されている。つまり、ソー スコードが公開されているということは、そのソフトウェアに含まれている全 ての技術が公開されているということになる。

この結果、類似のソフトウェアへの技術の転用が可能になる。つまり、技術の 交換手段として使えるわけである。このことにより、知識の共有が可能になる。

また、情報が公開されるということは、秘密がなくなるということでもある。 そのため、秘密保持に関する努力が必要でなくなる。これは、秘密保持契約な しで、誰もが開発に参加出来るということでもある。

これは開発が元々の開発者だけではなく、それ以外の者の参加も可能にすると いうことでもある。これにより、開発の必要なコストを抑えることも不可能で はないし、元々の開発者の力量を超えたソフトウェアを作ることも可能になる。

さらにこれらのことは、「開発元」が特定の個人や会社であるということに縛 られなくて済むということでもある。万一「開発元」がなくなっても、「開発 元」はいつでもいつでも交替することが出来る。つまり、ソフトウェアの寿命 は事実上なくなるわけである。

さらに、公開ということによる安全保障が可能になる。つ まり、公開されて全てが明るみに出てしまうということで、 ソフトウェア上の「やましいこと」が排除されるのである。

オープンソースによって何が出来なくなるか

このように、オープンソースはビジネスのことはさて置き、開発にとっては非 常にメリットが大きいということはわかった。しかし、物事には表があれば裏 があり、光が当たれば陰が出来る。そこで、オープンソースによるデメリット についても、少し触れておこう。

技術的に一番大きな問題は、「秘密」を必要とするものに適用しないというこ とである。基本的にオープンソースは何でも公開が原則のものであるから、秘 密裏に何かを行うことは不可能になる。このため、「秘密」を必要とするもの は暗号化のような、今までとは違ったアプローチが必要となる。

次に大きな問題は、何事も隠すことが出来ないということである。ソースコー ドの公開によって、あらゆる「隠し事」がバレるのである。隠し事なぞしない のが一番良いのであろうが、現実的な世界ではそうも言っていられないのが実 状である。

このような技術的問題の他にもっと大きな問題がある。それは、いわゆる「独 占」ということが出来ないということである。

ソースコードの公開により、技術は全て公開される。つまり、そのソフトウェ アの技術を独占することは出来ない。また、誰でもソースコードを入手出来、 また使うことが出来るために、独占的販売は出来ない。

これはある意味、非常に大きな問題であると共に、大きな ビジネスモデルの転換を要求するということでもある。なぜ なら、従来のソフウェアビジネスは、技術や販売の権利を独 占することによって成立していたという部分が小さくない。 それが従来のソフトウェアビジネスの根本なのである。オー プンソースとは、これらの「独占」の対極になるからである。

オープンソースビジネスとは何か

前節でも書いたように、オープンソースは従来のソフトウェアビジネスとは背 反する要素が多い。そこで従来のビジネスモデルは通用しないと考える方が、 現実的な解が得られる可能性が大である。従来のビジネスモデルに何らかの手 を入れることによって、その中にオープンソースを取り込むことは、あるいは 不可能ではないかも知れないが、あまり簡単ではなさそうである。

これはつまり、ソフトウェアそのものから収益を得ることは難しいということ である。つまり、オープンソースのビジネスは、ソフトウェアを直接的に販売 するというビジネスではないということである。

オープンソースソフトウェアを販売するビジネス

世の中に有用なオープンソースソフトウェアは、文字通り星の数のようにある。 一般的に要求されるソフトウェアの多くにオープンソースなものがあると思っ てもそう大きな間違いではないし、同等な機能を持つクローズドなソフトウェ アよりも優れていることもしばしばある。

ところが、そのようなソフトウェアを誰でも入手可能であ るかと言えばそうではない。現実問題として、そのソフトウェ アが、

  • 何であるか
  • どこにあるか
  • どう使うか

ということを知ることは、あまり容易なことではない。だから、利用するとい う面から見れば、誰でも入手可能とは言えないのである。

これは、ちょうど海にいる魚のようなものを想像してもらえば良い。自分の手 で採るのであれば、マグロであろうが鯨であろうが、タダである。海の魚に値 段がついているわけではない。しかし、海にいる魚がそのまま食えるかと言え ばそうではない。また、魚を採ることは誰でも出来るようなことでもない。そ のために、漁師がいたり、流通業者がいたり、料理屋があったりするわけであ る。

この魚の例のように、オープンソースソフウェアが実際にエンドユーザが使え るようになるまでのところに、ビジネスが存在する。

世の中のコンピュータ利用が、専門家から非専門家(コンシューマ)に移るにつ れ、このようなビジネスは大きく意味を持って来る。

より進んだビジネス

別の考え方として、オープンソースソフトウェアを素材として使うという方向 がある。つまり、ソフトウェアそれ自体ではなく、それによって得られたこと をビジネスにするということである。もう少し具体的に言えば、何らかのサー ビスを行うための材料として使うということである。

社会システムはどんどん複雑になっていて、サービスへの要求は限りがない。 その結果、ソフトウェアとしては、より高度で複雑なものば要求されるのであ る。応用が高度に複雑になるにつれ、クローズドなソフトウェアを開発したり 購入するより、オープンなソフトウェアを改良したり開発したりする方が、効 率的になる。

サービスを行うには単なるソフトウェア技術を超えた部分 が少なくない。そのため、オープンソースにして技術情報や ソフトウェアを公開してしまっても、サービスを真似ること は容易ではないため、ビジネスとしては保護可能になる。

SとTとIの調和

このサービスを行うためのソフトウェアは、既に世の中にあるものであれば、 探して持って来るだけである。しかし、全てがそれでまかなえるというわけで はないことが多いので、足りないものについては、自前で開発する必要はある。 また、いかにビジネスの模倣が容易ではないと言っても、不可能だというわけ ではない。そうなると、サービス実現のためのソフトウェアは、同業者の追従 を振り切ることが出来る速度で開発され続けなければならない。

このように、いかに使えるオープンソースソフトウェアがあるからと言って、 サービスを簡単に立ち上げられるわけではない。それを支えるためには、やは りオープンソースソフトウェアを生産しなければならないし、それを継続しな ければならないのである。

また、当然のことながら、サービスを構築するには、単なるソフトウェアの開 発力だけではなく、それをまとめ上げるインテグレーション能力が必要となる。 営業が組んだサービス企画書と、それを支える技術力の両方を駆使して、構築 するだけの能力が必要となる。

かつては、優秀なソフトウェアが開発出来ることが、ビジネスの成功と直結し ていたのであるが、オープンソースの時代となった今では、単なる開発がビジ ネスの成功を約束してくれないのである。Service, Technology, Integration の調和こそが、オープンソースビジネスを成功させる鍵であると言えよう。