97年1月20日執筆

確実なサポート


前口上

今回から「Linuxを普及させるにはどうすれば良いか」という話について書い てみる。「普及させるとなぜ良いか」については、他でも言って来たことであ るので、多くを語ろうとは思わないが、ごく簡単に言えば、「仲間が増えると いいことがある」とだけ思ってもらっていれば十分だ。

創刊号では、「これからLinuxの発展の鍵は商用製品の取り込みである」とい う話をした。しかし、単にそれだけで全てがOKというものでもない。もちろん それはそれとして重要ではあるが、もう少し広い目で見てみれば、「みんなが Linuxを使いたいと思う」動機を作るためにはどうすれば良いかという話であ る。

敵を知り...

世界で一番のシェアを持っているPC用のOSは何か。それがWindows95であろう ことは、特別な調査をするまでもなくわかることである。だから、まず Windows95がなぜそのようなシェアを持っているかを考えるのが良いだろう。

ただし、この時「ゲイツは商売が上手い」だという類の話は、ちょっと除いて おく。技術的にどうこうという話も、またの機会ということにしておく。つま り、ここで話題にしようとしていることは、「みんなで頑張ればどうにかなる こと」である。

サポートの必要性

Linuxに限らず、free softwareを業務で使おうと思う時に一番問題となるのが、 「メーカによるサポートがない」ということである。つまり、「困った時に誰 を頼って良いかわからない」ということである。

もちろん、これはInternetの使える環境の人なら、それなりのnewsgroupで聞 くとか、mailing listで聞くことも出来るし、いわゆる「パソツー」な人も、 それなりに質問するなり、勉強するなりの場はあるので、そういった人にとっ てはサポートは「なくてもあるようなもの」である。

しかし、いわゆるコンピュータ人口とネットワーク人口を比較すれば、コンピュー タ人口の方が多い。また、会社などでは「なくてもあるようなもの」と言われ ても安心出来ないものである。さらには、し、人によっては「本や雑誌で Linuxのことは知ったけど、質問したり教えてもらう場を知らない」という人 は少なくない。つまり、そのような人々にとっては、普通のfree softwareと 同じように、サポートがないのである。つまり、あくまでも自助努力を要求す るシステムとなっているのである。

確かにLinuxは他のfree softwareと違って、文書も大量にあるし、本屋で入手 出来る本も少なくはない。これらをちゃんと読めば、たいていの問題は解決す ることは確かである。しかし、自助努力を要求していることは同じことである。

free softwareにサポートを期待する方が間違っているというのは、確かに正 論である。しかし、その正論を通すとなると、自力で問題解決が出来ない人は、 問題解決が出来ないということ同じであるし、それでは一般に普及させるのは 困難である。ツールとしてLinuxを使いたい人に自助努力を期待しても、限度 がある。コンピュータの専門家や、それを志す学生が「サポートがないので使 えません」と言うなら、「甘ったれるな!」と言ってしまっても良いかも知れ ないが、非専門家には無理な相談である。

従来、free softwareは、「だったら使うな」という結論になったものである。 しかし普及を考えるなら、やはり何らかのサポートが必要である。別に甘やか そうと言うのではない。Linuxを使うことそれ自体が目的ではない人々が、安 心してLinuxを使える環境を作ろうというのである。

これは何も無料でやらなくてはならないというものではないし、Linuxの全て についてしなくてはならないということではない。有償でサポートするコンサ ル業だとか、WWW server構築だけをサポートするだとか、そういったものでも 良い。サポート情報の多さから言えば、下手なSVR4のサポートよりは、ずっと 楽だと思う。

どんなサポートが必要か

Linux関係の情報が流れているnewsgroupとかBBSとかMLとかを見ていると、そ こをまるで「サポート窓口」であるかのような勘違いをしている人々がいる。 それらは「タコ以前の奴」と思われているようであるが、反面、その人々が何 を言っているかを見れば、「みんなは何を求めているか」がわかる。

そのような目で流れて来る「甘ちゃん」達の言っていることを見ると、やはり 一番多いのは、

××にインストールが出来ない

といった類である。つまり、動かす以前のところでつまづいている人が多いの である。そうなると考えられるのは、

といった類のことが出来ればかなりの部分解決出来るであろうと思われる。ま た、そのような直接的な解決の他に、

といったものもあると良い。MS得意の「designed for」という奴である。実績 のあるハードウェアに、「degigned for Linux」といったシールでも貼るよう にしたら、買う時の目安となると思われる。

他によく見掛けるのが、

○○が動きません。

といった類の質問である。この場合、「○○」の部分には、インストールした パッケージのオリジナルのコマンドであることは少なく、多くの場合は自分で どこかから持って来たものであることが多い。また、オリジナルに含まれたも のであっても、複雑な設定を必要とするものは、この手の質問がされることが ある。

まぁとにかく、質問のほとんどは、OSないしは、アプリが動かないというもの がほとんどなのである。前者はここで書いたように、色々と組織的なサポート が可能なようである。

どうサポートするか

わかっている人はわかっていると思うが、問題のほとんど、つまり質問のほと んどは、既に誰かがつまづき、解決をして来たもの。つまりはFAQである。 「FAQならFAQLを見れば良いではないか」という正論は確かにある。Linux界は FAQの類を整理することが進んでいるから、きっちりFAQLを読むことによって、 ほとんどの問題が解決するのは事実である。しかし、いかんせん、Linux関係 のFAQLは数が多い。これくらい多くなると「FAQLには目を通すのが当然でしょ う?」と皮肉ることも、なかなか難しい。全読しろということは、ちょっと酷 であるような分量だからだ。

別の見方をすれば、FAQLをちゃんと読んでおけば、何も「偉い人」でなくても、 質問に答えることが出来るのである。だから、FAQLさえちゃんと整理しておけ ば、即席の「Linuxコンサルタント」が作れるのである。FAQLに目を通して、 どこに何が書いてあるかをだいたいわかるようになるということは、基本的に 誰でも出来ることである(実際、「FAQLくらい目を通せ!」と言って、それを 要求して来たのである)。だから、サポートが必要なことの大部分の問題を解 決をする程度のことなら、誰にでも出来ることなのである。

確かに、今まで全く誰もやったことがないこととか、誰も悩んだことのないよ うな問題がないわけではない。そのような問題もどんどん解決がつけば、それ は素晴しいことである。しかし、そんな「高得点」を狙わなくても、「そこそ こ」の打率を求めておけば、現実的な問題は解決するのである。だから、「偉 い人」に頼ったり期待したりする前に、誰でも出来る程度のサポートを、誰も がやっていれば、より多くの人が幸せになれるだろうし、「偉い人」も他のもっ と難しいことに専念出来る。

newsgroupやBBSでは、FAQを質問すると、「それはFAQであるので、FAQLをまず 読んでから質問しなさい」的な発言をする人がいる。確かに自分で調べること が出来ればそれは素晴しいことである。しかし、それを全員に期待するのは無 理だ。だから、そうであるなら、「それはFAQだ」といった情報量の少ないこ とを書く暇に、FAQLを調べて答えを書いてやる方が親切と言うものである。

また、このようなサポートが「ボランティア」だと思うと、FAQを質問する奴 はうっとおしいだけである。しかし、これが「ビジネス」だと思えば、楽して 質問に答えれるFAQを質問する奴は「いいカモ」である。だからこそ、私が 「有償でサポートするところが出来たら良い」と言い続けているのである。有 償なら、どんなくだらない質問でも「やる気」になれるからだ。

とは言え...

ここでいくつかのサポートの需要と、その解決について書いたのであるが、そ れらよりももっと必要とされる類のサポートがある。それは、「何か問題があっ た時に怒鳴り込む先となる」ことである。つまり、「最後の落し前」をつける 対象になるということである。特に企業相手のサポートでは、これが一番重要 なことであったりする。つまり、企業は直接のサポートの他に、「責任の所在」 となるものを求めるのである。

実はメーカ製ソフトのメーササポートというのは、あまり信用出来るものでは ない。私の経験からも、質問したらその回答が返って来るまでに数ヶ月待たさ れることもザラであったし、解決しなかった問題も少なくない。Linuxの場合 はそうではない。たいてい回答を得るのは即日であるし、余程無理なことを要 求したのでなければ、解決しない問題はまずない。だから、本来の意味でのサ ポートは、実はLinuxの方がずっと良かったりするのである。それでもなお、 企業導入が難しいのは、「責任の所在がはきりしない」からなのである。だか ら、この辺のことをクリア出来る方法を考えるなら、企業に入れることも可能 になる。企業で使われるようになれば、社会的にも認知されたOSとなるので、 より普及に転みがつくはずである。

このような「落し前をつける」ということは、さすがにボランティアベースで は無理である。やはり有償サポートの出現を期待することとなる。


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