最低賃金のあるのは「労働者」だけ

増田のこれがちょっと周囲で話題に。

そのイラストにおよそ10時間以上の作業がかかるなら、最低賃金の(概念)にひっかかるよ。

自分で自分を雇用する場合も、極論を言えば最低賃金の概念は発生するし(だれも訴えないから公にならないだけで)

かつ、相手が未成年ならば 社会常識を勉強している最中で自立する概念に乏しい未成年者=契約に対して不十分な知識しか持たない者を不当に搾取している疑いあり。

各方面に聞いてみたり、調べた限りでは、これはかなり勘違いに近い。

まず、最低賃金制度とは何かを調べてみる。

【最低賃金制度とは】

これはまぁ、一般の理解の通り、「労働賃金の最低限」を決める制度。守らないと最低賃金は払わなきゃいけないし、罰金もあるよってこと。

じゃあ、「労働者」って何だってことを調べる。我々の直感的には「労働契約を結んだ人」だけど、こういったものには「みなし」とゆーものがあるので、「労働契約書」とか書いてなくても、労働契約があったとみなされる状態にあれば、労働契約が存在しているのと同じだ。その範囲については、

【最低賃金の適用される労働者の範囲】

ということで、正規非正規を問わず、適用は「都道府県内の事業場で働くすべての労働者」ってことだけど、よっぽど雇用側に強い社労士や弁護士がつかない限りは、在宅であろうとノマドであろうと、適用されるはず。むしろ、それは「労働の実態」の方が問題になるので、制度を調べるより運用を調べた方がいい。

最低賃金には例外があって、早い話が「働きが悪い奴」は適用されないことになっているのだけど、それは「許可」が必要。いきなり、「おめーは稼げないから給料安いんだよ」とかは出来ない。

制度については、厚労省のページに詳しく出てる。

最低賃金制度の概要

さて、ではこれがどうなっているか実務の方。労働関係のキーワードでぐぐれば、社労士の作っているページがいっぱいひっかかる。

労働基準法 労働者 定義

上位に出て来るので、一番細かく書いてあるのを参照すると、

労働基準法の適用労働者

労働基準法では、

労基法第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業または事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

とのこと。これだけ見ると、在宅やノマドは含まれなさそうに見えるのだけど、

労働者性の判断基準

とゆーのがあって、

  1. 労働提供の形態が指揮監督下の労働であること
    1. 仕事の以来、業務従事の指示等に対し諾否の自由があるかどうか
    2. 業務遂行上の指揮監督の有無
  2. 報酬が労務の対価として支払われていること
    1. 報酬の性格が使用者の指揮監督の下に一定時間労働を提供していることの対価と判断されるかどうか
  3. 判断を補強する材料
    1. 事業者性の有無
    2. 専属性の程度

とゆーことになっていて、労働契約書が存在していなくても、これらを元に判断される。2番目がわかりにくいと思うけど、これは「労働することそれ自体」に対しての報酬かどうかと言うこと。事業場にいて働いているように見えれば、何の成果もなくても給料が出るとゆータテマエになっていれば、それは「労務の対価」とゆーことになる。対する語は「成果の対価」だと言えばわかるかな。

件の増田で問題にしているケースは、「サイトでマッチングして、1枚いくらでイラストを描いてもらう」とゆー場合だと思うけど、ここにおそらくは「雇用契約」は存在しないし、雇用契約が存在するとみなせる材料にも乏しい。

たとえばここで、「うちから定期的に仕事出してあげるから、うちの専属になってよ。月○円あげるから」的な話があれば、それは雇用契約が存在されるとみなされる。でも、描いてもらって、1枚いくらで金払う限りでは、単なる請負契約に過ぎないので、労働者性があったと言うには難しい。

あるいは、「このイラスト描くのに×時間かかったので、○円下さい」みたいな話が通れば、それは労働者性がある。

また、受注した人のFacebookやTwitterをチェックしていて、「そんなことやってる暇があったら、早くうちのイラスト上げて下さいよ」的なことを伝えていれば、「指揮監視」があったとみなされて、労働者性があるとゆーことになるかも知れない。連載の執筆者をホテルに缶詰にして… ってのは、場合によっては労働者ってことになるかも知れない[要出典]

とゆーことで、元増田の書いていることは、たとえば「仕事場」みたいなところを提供して、そこで指揮監督(とみなせること)をしたりとか、「やってる間は他の仕事しないでね」とゆー縛りをしたりとかとゆー、労働者性があるとみなせるような状態であれば正しいということにもなる。だから、書いた人は、よほどのシッタカがさもわかったようなことを書いているか、自分の知っている事例がたまたま労働者性が高い環境であったかだ。

もっとも、「自分で自分を雇用する場合」に関して言えば、明確に間違い。まず、「自分で自分を雇用する場合」は、多くの場合法人個人を問わず少なくとも形式的には本人が「代表」であるはずだから、そもそも「労働者」ではないからね。

PS.

ちなみに、「労働者」の定義は、法律や場面によっていろいろなので、それぞれの法律の定義や監督に従わなきゃいけない。だいたいのところ同じなので、普通の理解では同じでいいのだけどね。「労働」に関係のある法律は、

などがある。