「ねもどさんよ、こんだいっしょにつぼほりいかねか?」
ひょろりとしたその男にそう誘われたのはもう15年以上も前だ。きのこ取りや釣りや山菜取りや自然薯掘りなどに長け、手先も器用な、ある意味私にとってこの土地の師匠のような人物である。ひょろりとしてはいるがバネのきいた身体をしていて、いつも油にまみれた作業服を着ていたその男から聞いた話をこれからしよう。
「え?なんですって?」
私はおもわず聞き返す。
「壷掘りだよ、壷掘り。ほれ、弥生とか縄文とかの」
「はぁ、発掘ですか?」
「んにゃぁ、とんでもねぇ、ちんけぇあなぁ掘るだけだぁ。秋口になっとぉ、くさぁ枯れて歩きやすくなっぺ、秋の夜長っち言うべ、したら夜中に壷掘りやるんだ」
「夜中に、ですか?」
「んだぁ、壷掘りっちゅうのわぁ、まぁ 良く言えば 趣味だけんど、つまりは人んちの畑や庭先掘る盗掘だぁな」ちょっと待てよ、盗掘だぞ盗掘。駆け出しの大学職員をしていた私は「公務員は盗掘はできないから」と話だけ聞くことにした。まぁ、公務員でなくても盗掘はいかんのだがしいて言えば断るためのより良い口実だ。
話はこうだ。壷掘りはだいたい一人か二人で行なう。昼間のうちの日当たりのよい土地をみつけて当たりを付けて置く。まず、全体の地形を見る。水がほど遠くないところにあり、日当たりの良い平らな、またはゆるい南斜面で排水の良い土地を見つける。
「あのへんにはあっぺな」
「んだな、まず、あっぺな」
「....考古学者なんてのは、たまたま工事して遺跡がでっと全部土どけっちまうべ?おれらはそうたことしねぇから」
本番の手順は次のようなものだ。
「こうやって20センチ間隔ぐれぇでぇ刺して歩くんだ。すっと、昔だかぁ竪穴式住居だっぺ、まず触んのは昔の地面でそこよりすこし深いとこが堅くなってんのが判んだ」
昼間のうちに目をつけておいた目ぼしい場所に深夜に穴掘り道具を持って赴く。まずは、径は約2ミリ、長さ2メートルほどの鋼線を担いでビヨンビヨンとさせながら歩き回る。ここぞという場所のここぞという場所に着たら担いだ鋼線を鉛直よりは少し傾けて地面に突き刺しては抜き、突き刺しては抜き、後ずさりをしていく。鋼線を探針として使うのだ。
「んで、上の方は今まで土が積もったとこだっぺ、柔らけぇんだ」
つまり踏み固められて堅くなった古代の土間を探すというわけだ。男によれば出入り口の向きも決まっているという。そして柱の穴か中央に位置する炉が見つかればあと少しなのだと言う。
「だいたい壷があんのは炉の近くか、そうでなければ竪穴式のこうなった陰んとこだ」
と言って男は大きな三角形を描くように両手を動かし、その底辺の両の角のところを空を切って強調した。
「家のはじっこっていうのはぁ、こぅぅ、おぉばぁーはんぐしてっぺぇ。んだからまっすぐ突き刺すと、いっぺん堅くなってまたすっと抜けてそれからまた堅くなっぺ、そんで判る。で、入り口は大概南って決まってっから、この辺で炉がこのへんなら家の大きさはこのくれぇだから、このへんにあるってわかっちまう」
そして炉の周辺と今様に申せば食品庫か食器収納といえるコーナーに探針を集中する。
「コツンと当たるんだ。したらぁ、こうやっていろんな向きからコツコツ探っと、ああ、これはこんくれぇの大きさだなぁ、どういうふうに口が空いてどういうふうに転がってんなぁと判んだ」
両の拳でさも鋼線を握っているかのように動かしながら円すいを逆にしたように地中の目標を探る姿をした。
「したらまぁっすぐにこんくらいの穴ぁ掘るんだ」
と、3、40センチほどの円を両手で作って上下に動かして透明な筒を作って見せた。夜中にガスランプか懐中電灯を灯し、周りから見えないように配光に注意しながらの緊張する作業にはいる。
「つぼの上からまぁっすぐ掘っちまう。だいたいの場合は壷は上からの圧力で潰れてるもんなんだ。んで、周りを掘ったら自転車のゴムの荷ヒモあっぺな、あれでぐるぐる巻きにして持ち上げんだ、自転車の荷ヒモが一番いい」
と、今度は男は丁度信管の生きている地雷でも掘り上げて捧げ持つような慎重な仕草をした。口のはじっこにくわえたタバコの灰がぼそりと作業服のヒザの上に落ちたのを大ざっぱに2、3度払うと男は続けた。
「一つ掘っとほれ次だぁってだぁっと駆けて行くんだ。判んだよ、一つあると次の家がどの辺で、そのどのあたりに壷があっか。」
周囲の開け具合などの環境でその場所がどのぐらいの世帯数を養えたかを測ることで昔の集落の規模も推定できてしまうんだそうである。いやはや見上げたものだ。
夜がしらじらと明けだすと仕事は終わる。いや終わらなければならないのだ。
「そしたら、使ってた軍手とかコーラのカンカンとかみんな穴さぁ放り込んでぇ、あな埋めてさっさとけえってきちまうんだ、見つかったら元も子もねぇべ」翌日、荷ヒモでぐるぐる巻きにされた獲物は井戸端に運ばれて一片たりとも無くさない細心さで歯ブラシを使って丁寧に洗われる。
「あとはセメダイン・コンクリメント使ってくっつけるだけだぁ。ほれ、考古学の資料なんかは石膏使って無いところ作ってるべ?こっちは全部ひとかたまりでとってくっから、セメダインでいいんだ」
合点のいく説明である。そしてこの繋ぎあわせていく瞬間瞬間が壷掘りの最も楽しい作業だという。それはそうだ、深夜にびくびくしながら彫り上げた成果たる古代の壷がいよいよその全貌を現わすのだから。
仕上げた壷は鴨居の上に棚をつくって飾っておくのだそうである。なんとまぁ秘められたご趣味であろうか。
「...そう言えば、この辺はだいたい掘りつくしちまってなぁ...」
4本目のタバコに火をつけて、煙を吐き出しながら作業服の痩せた男は再び語りはじめた。なにか思い出したのか、目が笑っている。
「友達とクルマでぇ走ってっ時ぃ、お寺の下の方でぇ、南斜面で日当たりが良くって開けてて、水場も近くてここなら出っぺなっていういい場所あったんだよ」
その場所は私も知っている。この辺りから間2つほど町を隔てた閑静な場所で周りは森に囲まれている所だ。
「人目にもつかねぇし、こんだ掘っぺって言ったんだよ」
ふうッと煙を吐き出す。
「んで、2人で真夜中に掘りに行ったっぺな、んで、探ったら...」
と探針で探る仕草をし声の調子を一段落し、低い声で続けた。
「...コツコツいぃぃぃ音がすんだよ。やっぱり狙った通りだぁ、こりゃかなり焼きが堅いから縄文、弥生じゃねぇなあ、土師かなぁ、お、こんくらいの大きさだなあ...」
聞くような仕振りで探針を繰る姿の後、タバコを挟んだ右の手に左手を加えて直径15センチくらいのトリの巣のような形を作って捧げる様にして見せた。
「おお、これ潰れてねぇなぁ、口はこっち向いてんなぁ、こりゃいいのが掘れそうだなぁ、ひょっとすっと釉かかってっかもしんねぇなぁ、だとすっと高く売れんなぁってやってたんだよ」
一段と低いつぶやく声で言うと、探針で逆円すい型に探る例の仕草をする。
「して夜中、男2人、やっぱ後ろめてぇからビクビクしながら掘ってたっぺな、2時とか3時とかに」
「したらぁ..........」
「.........................しゃれこうべ出て来ちまってなぁ....」
「うわぁ〜っ!!て2人でなって逃げてけぇって来たどな」
両の手を頭の上で振り回して迫真の再現演技をする男のタバコを挟んだ右手から灰が降る。
「うちさけえって明るくなるまで布団被ってブルブル震えてたどな。んで、しばぁらく経って線香あげに行ったんだぁ」
話のオチに唖然とする私の前で、痩せた男はかぶった灰を払いながらからからと笑った。
後日、訪れたおりにコレクションを拝見したいと私は申し出た。あいかわらずタバコをくゆらしながら作業服の男は屈託なく答えた。
「こないだおっき目の地震あったっぺな、あれでおっこっちて割れちまったからみんなかっぽっちまたぁ」
いつもこの男には唖然とさせられることばかりだった。