一団地の総合的設計制度及び連担建築物設計制度の運用指針
第1 運用に当たっての基本的な考え方
1 建築計画の内容、敷地の周囲の土地利用の状況、都市施設の整備の状況等から第3の
認定準則又は第4の技術的基準によることが必ずしも適切でないと認められる場合にあっ
ては、これらの趣旨に従い、総合的な判断に基づき運用すること。
2 建築基準法(以下「法」という。)第86条第1項又は第2項の規定による認定に当
たっては、申請者が当該認定に係る区域内の他の土地の所有権又は借地権を有する者(以
下「他の土地の所有者等」という。)の同意を得ていることを、また、法第86条の2第
1項の規定による認定に当たっては、申請者が他の土地の所有者等に対し、当該申請に係
る建築物の計画に関する説明のために講じた措置を確認すること。この場合、これらの認
定により、当該認定に係る区域内の複数建築物が一体的なものとして容積率制限等が適用
されること、また、今後当該認定に係る区域内で建替え等を行う場合にあっては別途認定
が必要となることを、申請者に対し説明するとともに、申請者が他の土地の所有者等に対
しその旨の説明を行ったことを確認すること。
また、取引の安全性の確保等の観点から、これらの認定を受けている旨が台帳に記載さ
れることとされているほか、宅地建物取引業法における重要事項説明の対象等への追加が
されている。
なお、これらの認定に係る事務と直接関係するものではないが、将来の土地取引の場面
などにおいても想定されるトラブルを未然に防止するため、土地所有者等の当事者間で結
ばれた約束について、建築協定、民事上の契約、登記が積極的に行われることが望ましい。
3 認定をしたときは、遅滞なく、対象区域等を公告するとともに、当該対象区域等を表
示した図書を特定行政庁の事務所等に備えて一般の縦覧に供さなけれぼならないとされてい
るので、必要な図書の整備を行うこと。
4 既に法第86条第6項の規定により公告されている他の対象区域を含む区域について、
法第86条第1項又は第2項の規定による認定の申請を新たに行う場合は、既に認定を受
けている他の公告対象区域の全部を含むものに限られること。
5 法第86条の5第2項の規定による認定の取消しの際には、当該取消しにより、違法
な建築物が発現しないようにすること。
6 法第86条第1項及び第2項並びに第86条の2第1項の規定の適用に当たっては、
密集住宅市街地整備促進事業、優良建築物等整備事業、認定再開発事業、特定民間再開発
事業、事業用地適正化計画認定制度等市街地環境の整備改善を総合的に図るための事業に
対する助成制度及び税制上の特例制度並びに住宅金融公庫等の再開発関係融資等の関係融
資制度を併せて活用することが有効であるので、民間の開発事業者等に対してこれらの諸
制度についても併せて周知させるよう努めること。
また、地区計画制度の適用及び壁面線の指定が有効な場合には、その適切な活用を図ら
れたい。
7 市街地の整備改善に資するため、必要に応じ、法第59条の2に基づくいわゆる総合
設計制度についても、併せて適用を行うことが可能であること。
8 法第40条又は第43条第2項の規定に基づく条例その他の条例等で一建築物一敷地
の原則を前提とした規制等を行っているものについては、一団地の総合的設計制度又は連
担建築物設計制度の適用を受けた建築物に対し条例上の特例を措置する等本制度の趣旨に
鑑みた適切な見直しを行うこと。
9 認定の事務の執行に当たり、迅速な処理に努めること。
第2 適用範囲
第3の認定準則及び第4の技術的基準は、法第86条第1項若しくは第2項又は法第86
条の2第1項の規定による認定(以下「認定」という。)について適用する。
第3 認定準則
1 認定に係る区域の面積又は建築物の用途、規模若しくは構造等にかかわらず、適用の
対象となるものであること。
2 法第86条第1項の規定による認定(一団地の総合的設計制度の適用)に係る建築物
は、協調的な建築計画のもと、原則として同時期に建築されるものであること。ただし、
同条第4項又は第5項に規定する工区区分を行う場合における同条第1項の規定による認
定については、この限りではない。なお、一団地の総合的設計制度は、複数の街区にわた
るものも適用の対象となり得るものであること。
3 法第86条第2項の規定による認定(連担建築物設計制度の適用)に係る建築物の敷
地は相互に連接するものであること。この場合、当該認定に係る各建築物の敷地は、避難
及び通行の安全性の確保等の観点から、必要な幅員の通路の設置が可能となるような長さ
で接するものであること。
4 認定に係る建築計画は、建築基準法施行規則第10条の17に規定する総合的見地か
らする設計の基準をもとに第3の技術的基準に基づき、安全上、防火上及び衛生上の観点
から審査されるものであること。
5 認定を受けた区域内にある複数建築物は同一敷地内にあるものとみなされ、当該区域
全体に対して一般の建築規制が適用されることとなるため、当該区域外との関係においては、
道路斜線制限、隣地斜線制限及び日影規制がより実効的に適用されるものであること。
第4 技術的基準
1 対象区域内における規制の適用
(1)建築物と道路に関する審査
認定に係る区域(以下「対象区域」という。)内においては、接道義務規定(法第4
3条)について、複数建築物が一体として適用されるため、個々の敷地ごとに接道す
る必要がなくなることに鑑み、避難及び通行の安全性の確保の観点から、対象区域内
の各建築物の用途、規模、位置及び構造並びに各建築物から前面道路に至るまでの距
離等を勘案し、当該各建築物から前面道路に通じる十分な幅員を有する通路が設けら
れていること。
「十分な幅員」とは4メートル以上を原則とするが、認定が一建築物のみならず複
数建築物の位置及び構造を確定するものであることから、建築物が小規模な場合、防
火上の措置がなされている構造である場合など、避難及び通行の安全性が確保可能な
場合にあっては、この限りでない。この場合、法第43条第1項ただし書の規定によ
る許可における考え方との整合性をもって判断すること。また、発生交通量の大きい
建築物、大規模な建築物など、用途又は規模の特殊性を持つ建築物に対して、法第4
3条第2項の規定に基づく条例等により建築物と道路との関係等について制限を行っ
ている場合にあっては、当該制限との整合性をもって判断すること。
前面道路幅員容積率制限が、対象区域が接する最大幅員の道路を基準にして適用さ
れることとなることに鑑み、対象区域内の動線処理が円滑に行われる幅員及び配置で
あること。
(2)延焼防止等防火上の審査
対象区域内においては、法第23条、第62条第2項及び第64条に規定する延焼
のおそれのある部分が、対象区域内の建築物相互間の場合には、隣地境界線からの距
離によらず実際の外壁間の距離に応じて適用されることとなるため、この場合におい
てこれらの条項による制限に適合するものであること。
認定を受けた建築物は、外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に防火戸等一定の
防火性能を有する防火設備を設けない場合にあっても、主要構造部を耐火構造又は準
耐火構造等とした建築物については、耐火建築物等とみなす特例が措置されている(法
第86条の4)ことから、当該特例を適用する場合においては、開口部を対面させな
いなどの建築計画上の配慮がなされたものであること。
(3)採光、通風等の審査
対象区域内においては、容積率制限(法第52条)及び建ぺい牽制限(法第53条
第1項及び第2項)についても、複数建築物が一体として適用され、個々の敷地ごと
には適用されないこととなること、また、隣地斜線制限及び北側斜線制限(法第56
条第1項)が適用されないこととなることに鑑み、市街地の衛生環境、特に採光、通
風等について、個別に審査すること。
対象区域内の各建築物の各部分の高さに応じ、各建築物間に適切な距離が確保され
ているなど、採光、通風上有効な空地等が設けられているものであること。なお、空
地等が確保されていることにより斜線制限の特例を設けているものとして、総合設計
制度、住宅地高度利用地区計画又は再開発地区計画の特例許可があることに鑑み、審
査にあたっては、「総合設計許可準則」(昭和61年12月27日付け建設省住徴発第
93号建設省住宅局長通達)における隣地斜線制限の緩和の考え方などを参考とする
こと。
認定を受けた建築物に対する採光規定(法第28条)の適用における有効面積の算
定(建築基準法施行令(以下「令」という。)第20条)については、隣地境界線から
の距離に代えて相対する建築物からの距離によって算定されることとなるため、この
場合において当該規定による制限に適合するものであること。
(4)日影の審査
対象区域内では、日影規制(法第56条の2)についても、個々の敷地ごとには適
用されないこととなることに鑑み、日影規制の対象となる区域内に建築する中高層建
築物を対象とし、当該建築物が、対象区域内の他の建築物の居住の用に供する部分に
対して、当該建築する建築物が存する区域における法第56条の2の規定による制限
を勘案し、これと同程度に日影となる部分を生じさせることのないものであること。
中高層建築物とは、法別表第四(ろ)欄に掲げるものとすること。
日影時間については、同表(に)欄上段に掲げる時間を参考とし、地域の特性に対
応して適切に運用すること。
「居住の用に供する部分」については、当該部分が当該建築する建築物に係る同表
(い)欄の各号に掲げる地域又は区域に対応する同表(は)欄の各項に掲げる平均地
盤面からの高さより低い場合においては、同項に掲げる平均地盤面から高さの部分を
対象とすること。なお、建築する建築物と他の建築物との土地の高低差が大きい場合
は、実際の状況を勘案して高さを定めること。
また、当該中高層建築物と対象区域内の他の建築物の居住の用に供する部分との水
平距離の関係については、例えば、当該中高層建築物の敷地境界線から当該居住の用
に供する部分までの水平距離が5メートル未満の場合にあっては、敷地境界線から5
メートルの部分を対象として審査することで足りるものとするなど、地域の特性に応
じて適切に運用すること。
さらに、居住の用に供する部分であっても開口部を有しないものに対しては、日影
を生じさせることを妨げないものとするなど、建築計画に応じて適切に運用すること。
(5)その他
用途規制(法第48条)は、法第86条第1項に規定する特例対象規定とされてい
ないため、個々の敷地ごとに適用されるものであるが、認定を受けた建築物に附属す
る自動車車庫については、敷地ごとの上限規模が制限されている場合であっても、こ
れを超える規模のものを一定の範囲内でまとめて設置することが可能となる特例が措
置されていることに鑑み、当該附属自動車車庫の位置が、対象区域が接する道路又は
対象区域内の通路及び空地との関係において、安全上、防火上及び衛生上の観点から
適切に配置されているものであること。
建ぺい率制限におけるいわゆる角地の特例(法第53条第3項第2号)の適用につ
いては、同項か法第86条第1項に規定する特例対象規定とされていないため、対象
区域全体が角地として扱われるものではないこと。
対象区域が、容積率制限又は建ぺい率制限が異なる二以上の区域にわたる場合は、
一敷地の場合と同様に加重平均を行うこととされているが、制限の厳しい区域に建築
物をまとめて建築する場合については、都市計画上の位置付けが異なる地域にわたる
計画となることから、市街地の環境上支障がない計画であることに留意して判断する
こと。
2 対象区域外に対する規制の適用
(1)法第86条第1項の規定による認定を複数の街区に適用する場合において、単独の
街区のみに当該規定を適用する場合の限度を超えた容積率となる建築計画を含むもの
については、周辺の市街地の環境上支障がない場合について認めるものであること。
(2)道路斜線制限又は隣地斜線制限(法第56条)は、通常、最大でも他の敷地境界線
に達するところまでを適用範囲とし、他の敷地に対してはその規制は適用されないこ
ととなるが、認定された場合には、複数建築物が同一敷地内にあるものとみなされる
ことから、これらの制限は適用距離内において敷地境界線を超えて適用されるもので
あること。なお、令第132条の特例は、建築物の前面道路が二以上あるという空間
特性に対応した特例であることに鑑み、対象区域全体が二以上の道路に面しているこ
とのみをもって、対象区域全体として同条の特例が適用されるものではないこと。
(3)日影規制は、複数建築物全体が一体のものとして規制が適用されることから、いわ
ゆる複合日影に対応した建築計画であること。
なお、当該規制の適用に当たっては、対象区域における複数建築物全体に係る平均
地盤面からの高さが基準となるが、当該対象区域に高低差がある場合には、周辺に与
える実際の影響を考慮の上、法第56条の2第1項ただし書の規定による許可の適切
な運用を図ること。
3 標示
原則として、対象区域内の通路内等適当な位置に、対象区域を示した上で、各建築物が
認定を受けたものである旨を標示するものとする。この場合、必要に応じ、当該通路の位
置を明らかにした配置図を付すものとする。