[何でも一日入門]喜連川・児童養護施設の“職員”/栃木
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◇人懐っこい子どもたち−−みんな家族のよう、愛情を求める一面も
学生時代に母校の都立高校で教育実習を経験してから、なんとなく子どもは苦手という意識が抜けないでいた。その意識から脱すべく、主に親から虐待を受けたために「家庭から離れて過ごすのが望ましい」と児童相談所に通告された子どもを引き取り養育している喜連川町の児童養護施設「養徳園」(福田雅章園長)にお邪魔して、「1日職員」として働いてみた。【塙和也】
宇都宮市から車で約1時間半ほどの喜連川町に「養徳園」はある。午後2時半ごろ、山の中腹にある施設の駐車場に車を止めると、既にグラウンドでは子どもたちがサッカーやバスケットなどのボール遊びに夢中になっていた。
グラウンドを抜けて玄関から施設に入ると、いきなり「何しに来たの?」「カメラだ! 早く写して!」と数人の子どもが飛びついてきた。驚いたことに子どもたちはとても人懐っこい。抱きつく子どもを振り切りながら、なんとか事務室にたどり着き、園長の福田雅章先生(42)にあいさつをした。福田園長によると、初対面の人に警戒心がないのが施設の子の特徴で、愛情に飢え自分に興味を持ってもらいたいのだという。
とにかく、養護施設は初めてだったので何をすべきか尋ねると、「とにかく話を聞いてあげることが仕事です」と告げられた。
しばらくは、子どもたちをデジカメで撮ってあげたり、勉強部屋で学校の話を聞いたりして時間を過ごした。特にデジカメの画像を見せるのは好評で、「ここどこ?」「すげえ」などと声を上げて喜んでいた。園内の子どもたちは笑顔がいっぱいで、とても明るく話していてとても楽しいのだが、会話の途中で突然、「お父さんが、お母さんをこう殴っていたの」「お母さんが外国に帰っちゃった」などと口にするのには驚いた。そのたびに「そうなんだ」などとうなずいていたが、心中ではかなり動揺していた。
午後4時ごろ、ちょうど帰宅してきた中学生の男の子2人としばらく一緒に遊ぶことにした。園内を散策しながら、部活や進学のことなどを話した後、中学生が宿舎にしているという離れに向かった。1人の男の子が、私が首から掛けていた携帯電話に気付き、「お願いだから、その電話を貸してよ」と手を伸ばして頼んできた。
理由を聞くと、離れた母とどうしても話をしたいという。何度断っても数分後には、思い出したように携帯を貸せと要求してくるので、とうとう電話を渡してしまった。男の子はさっそく自宅に電話をかけ、「お母さん久しぶり、元気? 手紙がまだ届かないよ」とうれしそうに話していた。私たち外部の人には明るく振る舞っていても、やはりさみしいのだなと気付かされた瞬間だった。電話の後、男の子は「ここも楽しいけど、やはり家でお母さんたちと一緒にいたい。でも、家が今は大変なことになっていて、家出しちゃうかもしれない。だから相談所の先生が『ここに残りなさい』という理由はわかる」と本心を明かしてくれた。
午後6時からは夕食。養徳園の児童と先生が全員集まって連絡事項を伝えたり、顔色を見て体調が良好かを確かめる。この日は高校生の女の子の誕生日だったので、食堂の最前列のテーブルにケーキが運ばれ、施設のみんなで本当の家族のようにお祝いをした。
食事中、実習に来ていた国際医療福祉大学3年の穴沢優弥さん(21)は「実習に来る前は、特殊な家庭事情のある子どもなので、身構えていた部分もありましたが、みんなこんなに明るく伸び伸びと生活しているのには驚きました。大学の教室での講義と現実は全然違いますね」と話していた。
食事を終えると、お世話になった職員や先生にお礼を言い、施設を後にした。日中に一緒に遊んだ子どもたちが「もう帰るの?」「また必ず来るんでしょ?」と最後まで言ってくれたのが印象に残った。
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■入門を終えて■
◇思い出に残る笑顔
入門後、思い出に残ったのは子どもたちの明るい笑顔だったが、福田園長の「1日では、養護施設のことは理解できない」という言葉の通り、それはほんの一面だったのかもしれない。不況や児童虐待防止法の施行により、養護施設の子どもは急激に増えている。福田園長は「県は厚生労働省とは独自に、児童福祉に補助金を支出するようになりました。けど、本当に子どもの利益を尊重するならば、親や家庭の問題を指導・解決することが大事になるんですよね」と話していた。勉強になる入門であった。
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◇社会福祉法人「養徳園」
1957年創立の児童養護施設で「児童の権利擁護と健全育成をめざして」がモットー。現在は、家庭で虐待を受けた子どもを主に受け入れ、2歳から17歳までの子ども約40人が暮らし、高校卒業後の就職の支援も行っている。保育士、調理員、セラピスト、児童指導員など約20人が働いており、社会福祉士や保育士の資格を得るための実習生を年間約40人受け入れている。運営費の95%は県と国からの委託費。問い合わせは養徳園電話028・686・2239。
2003.10.9 毎日新聞