私の視点 東京都多摩児童相談所長 佐柳 忠晴
児童虐待 抜け穴だらけの「防止法」
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 「児童虐待の防止等に関する法律」が施行されてから8カ月経過した。一部にはこの法律を過大に評価して、児童相談所が児童の保護に、いまだ「及び腰」だと批判する向きもある。しかし、私は新法の実効性に強い疑問を持っている。そこで、2年後の新法見直しに向け、現行法制の課題等について意見を述べたい。
 第1に、児童福祉法28条は、家裁の審判で被虐待児を施設入所できる旨を定めている。しかし、これは一時保護等で児童相談所が子供の身柄を確保していることが前提である。親元で監禁状態の被虐待児の場合、親に拒否されれば強制的に親子分離する手段はない。仮に子供を施設入所させたとしても、親権者が強制的に施設から連れ去ることも実際に可能である。一方、虐待など親権を濫用する親に対し児童相談所長は、親権喪失宣告の請求をすることができる。ただ、家裁の審判には6カ月ないし1年の長期間を要し、急を要する児童虐待ケースへの即応性に欠ける。
 虐待を防止するためにはこの「親権の壁」を克服しなければならない。そのためには、親権のうち身上監護権(監護教育権等)を分離し、家裁の審判による身上監護権の停止と児童相談所長への付与制度の創設、併せて子供の緊急保護を可能にする保全処分の明文化などの立法的解決が必要である。
 第2に、児童相談所には立ち入り調査権が与えられている。児童虐待のおそれがあるとき、居宅内に立ち入って調査等をすることができる。しかし、施錠など保護者の強力な拒否にあったときは、緊急事態の場合を除き、実力で突破して立ち入り調査を行うことはできない。児童相談所の要請により、警察官が同行した場合も同様である。現実には、人身保護法を適用して、被虐待児の安全確認と保護を図らざるを得ないこともある。
 立法論として、立ち入り調査は、裁判所の発行する令状に基づいて行うべきだと考える。令状があれば、たとえ保護者の拒否にあったとしても、社会通念上相当と認められる範囲で、鍵の破壊等による強制的な立ち入りが可能となる。一時保護も確実に実行し得る。
 第3に、児童相談所長は虐待などで必要があるときは、保護者の同意がなくても、子供を一時保護することができる。このような強力な権限が与えられているゆえに、激昂(げきこう)した親による児童相談所職員への脅迫行為が行われる場合も少なくない。時には、警察官が出動するほど危険な事態に至る場合もある。
 この一時保護についても保護者が不同意であれば、緊急の場合を除き、原則として令状に基づいて行うよう法改正するべきである。裁判所の決定であれば、児童相談所に対する保護者の反発や憎悪も緩和し、事後の保護者との協調的な対応も期待できよう。
 児童虐待の背景には、未成熟などの親の要因、貧困などの家庭の要因、育てにくいなど子の要因が重層している。子供を「社会の子」と認識し、暮らしの安定、親を孤立させないこと、精神疾患の親の育児援助など、虐待を引き起こさない養育環境の整備こそ、抜本的な児童虐待防止対策であることは言うまでもない。

2001.7.16 朝日新聞