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どこまでも どこまでも続くように
思えて仕方がない 知らない路
地図にさえない路を歩くには
あなたはあまりに大人になりすぎて

傷ついて 傷つけてここまで来たの
がむしゃらに歩んできたのね ここまで
でも見て,あなたが歩いてきた道を
あなたが記してきた道しるべを頼りに

ここに辿り着く 誰かが見える

  まだ見ぬ路だから 遠いもの
  遠過ぎて遠過ぎて途方に暮れて
  でももしこの路を引き帰すなら
  きっとたやすいこと 歩くのも歩き続けるのも
  あなたが選ぶことよ

あの夕日をこの手にと 信じた日は遠く
あの朝日をこの胸にと 信じた日は遠く
もう何も 残っていないと呟く声ね
あなたはあまりに大人になりすぎて

泣くことも 笑うことも忘れ果てて
がむしゃらに歩んできたのね,ここまで
でも涙を流しても歩けるわ
泣きながらでも 歩いてゆけるのよ

沈んだ日はまた 必ず昇る

  そうして繰り返されるばかりの時の中でも
  忘れないで思い出して決して忘れないで
  信じたことは無駄じゃなかった
  この路は,あなたが作ったものなのよ,ほら
  風に萌黄が揺れる

  擦り切れた靴底は紅く染まり
  歩き続けるにはあまりに傷んで
  ねぇその紅い染みが描いた花が,ほら
  今風に揺れるよ 誰かの頬を撫でるよ
  あなたの花びらが ほら

  今 花びらが 揺れる


19990413
2004.5.18 Tue.

雨が空から堕ちて来る
雨が、雨が、堕ちて来る
もう三日も着っぱなしの上着を濡らして
その下の薄汚れた肌を凍らせる
傘をささずに歩くのは、よっぽど可笑しく見えるらしい
ちらちらと振り返っては通り過ぎる視線の重さで
猫背がいっそう丸くなる
それでも傘などさしたくはない
もともと持っては出なかった
所詮ヒトがヒトにできることなど数知れていて
片手でおさまる程度のもンで、
それは分かっていたけれど
とうの昔に思い知ってはいたけれど、
それでも縋っていた
何に
……それも切れた
誰かとの 緒
飛んだ先に何を見た?
何が見えた?
何が見たかった?
応えはもう決して届かないけれど
私には聴こえないけれど
でも
耳を澄ましていたい
せめて耳を澄まして澄まして澄まして、そして
聴こえないと知っていても、いつか何処かで
聴こえるかもしれない声を
待っていたい
飛んだそのときに緒は切れたかもしれない
でも、
私は、私は切らずにその緒を
持ち続けて、手繰り続けて、
ここに在よう
いつかその緒の先が
見えるかもしれない、その日まで

…そう心に刻んだコトは
いったい何時のことだったのか 狂った時計では巻き戻しもきかない
でも そんなことを思っている私自身
ついこの前まで忘れていました、多分
どうして思い出したのでしょう?
何で思い出したのでしょう?
それもよく分からないのですけれど

そう、昔々、この村の
あの辺りにまだ川が流れていて
そこにひとぉつ 橋が
掛かっていた

私は耐えられるかしら、このバランスに
そうしてあなたはバランスを崩してゆく私を見守り続けられるかしら

また繰り返すのかもしれないという恐怖が離れない、まだ生々しすぎて
もう二度とあんなこと厭だから、耐えられないから、
繰り返したくないから、迷う
そうしていくうちに、だんだんいろんな物事が
今の私を囲んでいるモノたちが遠のいていって、意識が朦朧としてきてしまって、
考えがバラバラに意識がバラバラになっていってしまう
どうしたらいいのだろう
去年のことが走馬灯のように私の周りを回る
でも、あまりに勢いがつき過ぎてやがて、
それも壊れて火の海になる
その中でもう一度考えてみようと思うけれど、
言葉が切れて切れて、紡げなくなる

そして、
また私は裏切るんじゃないかと、私は私に思ってる
あなた耐えられる? やっていける?
私があなたさえ見分けがつかなくなった世界で
それでも一緒にいられるかしら?
それでも?
答えなんか何処にも無い
問いばかりが 溢れてゆく

あぁ、耳を澄ませば
夜の向こう 微かに軋む音がする
惑い揺れるシーソーが風に軋む乾いた音が

19971230
2004.5.18 Tue.

写真は、誰でも撮ろうと思えば撮れる。でも、私は、凍り付くしかなかった、沈黙し続けるしかなかった、忘れ去られた誰か、何かであったなら、それを撮る。それ以外には、私は興味が持てない。所詮は踏みつけられるだけのもの、踏みつけられ続け、悲鳴も呟きも掻き消され、黙り込むことしかできなくなったモノたち、それ以外、私には共有できない。
まだじわじわと膨らみ続けている。血液の固まりはそれでも紅く、決して黒ではない。
固まりきったそれがたとえ黒くどす黒く見えたとしても、かつてそれは紅かったことを、私は忘れない。

19980129
2004.5.18 Tue.

何か
聴こえる

聴こえない

聴こえる

聴こえない


声が
遮られる
ガラスを隔てて
世界が

そこに在って、

ガラスの向うの時計が
コツ コツ コツ


動いてゆく

私の腕時計は
長針も
短針も

何処かに置き忘れた
まま

今は何時?

聴こえる

聴こえない

聴こえ ない
言葉
コトバ
ことば




声に出さなければ
伝わらない
声に出しても
伝わらない
声に出せば
せめて鼓膜を振動させることはできるけど
声をださなければ
それさえも叶わない

喉に詰まった
石に
右手に握った鑿を
振り下ろして
振り下ろして
振り下ろして

みるけれど

ぺしゃんこになった声帯が
泣きべそをかいてこちらを見上げた

もう、声も出ないよ
と、
そう云いたげに
じっと

見つめていた

言葉
コトバ
ことば

届かない もう





わたしの

乳房は
髪は
指は
肌は

汚れていて
いくら洗っても落ちなくて、それは

だから
切り刻んだ左腕は
いつまでたってもそのままで

人の眼は
ちょっといじわるで
他人のことになると
やけにいじわるになって

道端にたとえば
小指ほどの石ころが落ちていたって
ちっとも気づいたり
振り向いたりなんて
しないくせに

ヒトのこととなると
眼は残酷なほど よく映し出すらしくて

ガラスケースの中のチーズを
猫が狙っている

それがガラスケースの向うだと
気づいているのだか
いないのだか

猫の眼が
じっと 狙っている






それは晴れた日で
空を見上げたら 雲一つなくて
高く高く高く 高く
果てを知らない蒼が
一面に広がっていて

それは雨の日で
色とりどりの傘が 道を埋めていた
傘をささないのは誰かというように
すれ違う人すれ違う人みんな
視線だけ 叩き付けて

すれ違う
通りすがる
行き違う
生きているうちに何度
あるんだろう

手のひらを広げてみたら
少し汗ばんでいて

霧雨はその姿も残さず
形も残さずに 手のひらを
濡らしてゆく
ばかりで

それは晴れた日で
それは雨の日で

横断歩道の向こう側から
誰かの呼ぶ声がした

それは晴れた日で
それは雨の日で

両手を 空に
思い切り広げた 日 で






声を出さなくても伝わるよ

呟くような手紙を受け取った


天気予報は晴れ
街は色とりどりの傘が忙しく行き交う


声 は
伝わる
伝わらない
伝わる
伝わらない

…多分、どちらも
そうなんだろう

私の手紙は
返事は
白紙のまま
同じ白い封筒に入れて
出そうか
それとも
このまま


雨粒が窓をうつ
パツパツと 音を立てて


天気予報は晴れ
街は色とりどりに傘が咲いて


見下ろす街は
色とりどりに傘の花が咲いて






性犯罪が増えています
夜道の一人歩きは気を付けましょう
そっけないポスターが
電柱に張りついて
ひらひらと裾が風に舞う


ニュース番組は、さもいまいましそうに
今日もこんな事件がありました

非難めいた声色でもって伝える
テレビドラマは それでも訴える勇気を

美しい女優を使って強姦シーンを流す


垂れ流される情報は
いつでも垂れ流されっぱなし
右の耳から左の耳へ
血色の滴が通り過ぎる


立入禁止
赤い地に白抜きの文字が大きく
描かれた看板は
鉄条網に磔にされ
今日も独り 磔にされ


性犯罪が増えています
夜道の一人歩きは気を付けましょう
そんなポスターが何枚あろうと、
今日も誰かが声にならない悲鳴を上げる









この街の
何処かで
最期の夢は
海に溶けること
この骨も肉も血もみんな
みんな
みんな
みんな

すっかり海に
溶けてしまう こと

蝋燭の幽かな炎が
窓の隙間から流れ込む風に
ゆらゆらと揺れる
外は 雨

今日から明日へ
明日から今日へ
時間が過ぎてゆく
決められた時間
従う時計

忘れられた時計が
埃をうっすらかぶったまま
北側の壁に 掛かっている

私の夢は
海に溶けること
切り刻んでも切り刻んでもそれでも
息の根を止めることのできなかった
このカラダのすべてを
溶かしてしまうこと

それには、
海という場所しか
私には
見当たらない






片づけましょう
ほったらかしのこの部屋を
いつからほったらかしていたのか
もう覚えてもいないけど

いつの間にやら埃があちこち
薄く積もって 積もって薄く
猫が足元にじゃれついて
思うようには進まない

片づけましょう、この部屋を
何十冊にもたまった雑記帖も
何十、何百通にもたまった手紙の山も
もう必要ないのだから
もう何の必要もないのだから

これはいつだったか
海で拾ったただの石
裏に日付が書いてある
思い出せないその日にち
それでも石には書いてある

これはいつぞか届いた手紙
嘘ばかりついてごめんねと、
もうこれでおしまいにするからと
それから一度も手紙は来ずに

片づけましょう、この部屋を
すっかりきれいに片づけて
明日は海に出掛けましょう
荷物はそうね、
どうしても聴きたい曲を幾つか
それだけ持って、出掛けましょう
もう二度と戻らない
部屋の窓を、しっかり閉めて
鍵は郵便箱の中に
コトリ と落として出掛けましょう





時が満ち
潮が騒ぐ
新月の夜は
潮がざわめく

何処へ行った?
あの子は何処へ?
昨日笑ってた
笑って云った
「しばらく旅にでも出掛けてこようかと思って」

それじゃあね、と
笑って手を振った 街中で
あの子の背中はすぐに見えなくなった
雑踏にかき消されるように

時が満ち
潮が騒ぐ
新月の夜は

何処へ行った?
あの子は何処へ?
行く先を示す道標など
見当たるわけもなく
ただぼんやりと
三叉路で 立ち尽くす

時が満ち
潮が騒ぐ
新月の夜は
潮がざわめく

時が満ち
潮が騒ぐ
溶け出した海の
輪郭は 何処へ






昔のことです
遠い遠い 昔のことです
誰かが呼んだ 名前を呼んだ
私に向かって
誰かの名前を

人違いかと首をかしげ
そのまま歩いてゆこうとするのを
追いかけてきて 呼びかける
私ではない 誰かの名前を

あなたはだあれ?
私はあなたの誰かじゃないわ
あなたはだあれ?
私の名前は

私の名前は

云おうとして 声が詰まった
私の名前は
何処へいった?
私の名前が
見当たらない

誰かの名前で呼びかける
誰かが私を呼び止めて
追いかけてまで 引き止めて
それでも私の名前じゃない
それは私と違う人

じゃああなたのお名前は?

こたえが こたえが見当たらず
私は途方にくれるばかり

名前が 名前が 何処へやら
帰ってこない ままなのです







別に

頼んだわけじゃない
頼んでなんかいやしない
何も望んで
生まれてきたわけじゃない

そう口に出したときに
どう貶され蹴飛ばされようと
知ったこっちゃない
だって本当だもの
誰が何と言おうと

生きたいかどうかはまた
別の問題で
生きているかどうかはまた
違う問いで

私はただ
ここにこうして生まれたのは
自分の意志じゃない
そう云っただけ

あんたが何を言おうと
知ったことじゃない

そんなこと

産み堕とされちまった
その先に
自分がどう
時間を刻んでゆくのか
それを卑しんだときはじめて
どうこう云われることも分かるけど






石になりたい
何も云わない石になりたい
声をもたない樹になりたい
黙ってそこに立つ、立ち続ける樹になりたい

耳と眼と…いや、
耳だけでいい、持ち物は
口も声もいらない
そこに芽生え、
生き残るもの、死に絶えるもの、
その中に立って、
ただ黙って立って、
年月をその身にみずから刻み込み
ただそれだけで
充分な

石になりたい
何も云わない石になりたい
樹になりたい
声をもたない樹に
そして
ただそこに立ち続ける
そうして死ぬ時がおとずれればそれを
ただ受け止めたい

19980603
2004.5.18 Tue.

歩いてゆく やがて
行き止まりと知っていて
歩いてゆく
途中で右でも左にでも
曲がればまた
何か変わるかもしれない
けれど,この爪先は
真っ直ぐに
真っ直ぐに向いて

硝子越し 緑の
輪郭はけぶり
木漏れ陽が遊んでいる
やがて樹々が 傾く頃

融けて
融け出して
ゆく
この輪郭も やがて
融けて
融け出してゆくの
わたしという輪郭も
この陽光のように


しゃがみこんだ川縁
映り込む影は
一瞬も定かではない
ゆらゆらり ゆらり
つながらない線

向こう岸へ渡ってみようか
歩いて それとも 泳いで
今,ここからは見えない
何も見えないけど
このまま行き止まりにゆきつくだけなら
いっそ

11月の水は冷たい
誘うように水面が揺れる
漣が 波紋を描いて

融けて
融け出して
ゆく
この輪郭も やがて
融けて
融け出してゆくの
わたしという輪郭も
この波紋のように

水に融けて
亡骸は 融けるままに
誰にも知られずに
還えれる 場所へ

融けてゆこう 何もかも
定かなものはいらない
流れて 流れてゆこう
このまま 私が
還えれる場所がある なら

私にまだ
その場所がある なら

1998/07/29



別にいいの
そんなこと いいの
分かっていて 選んだこと
ただちょっと 言ってみたかっただけ

においが 残ってる
部屋に どうしても
窓を開けて
風に目を閉じて
それでも 覚えてるの
一瞬で消えてしまえばいいのに!

伸ばした指先に
触れるものが何もない夜だから
思い出してばかり
思い出して

行き先は知ってた
地図を見なくても
手のひらに描いてあった
行き止まりという道が

それなのに歩きはじめた
歩くことをやめなかった
戻る気もしなかった
行き着ける場所まで

ねぇ,

見つけてよ
私が立っている場所
今見つけて
あなたが私を
これが最後でいい
最後にしよう,もう
充分だもの
充分,歩いたよね,ふたり

青い鳥は飛んでいった
空に融けて 遠く遠く
海が待ってるの
ここが 行き止まりだよって

だから,

見つけて
私が立っている場所
今 見つけて
あなたが私を
これで最後にしよう
もう充分歩いたよね,

見つけて
今私が立っている場所
見つけてよ 最後に 
あなたが私を
そして
もう,これで充分だって
言って,あなたの声で
私も言うから
そう,もう充分,
充分歩いたよね,ふたり
って

1998/07/29



鏡の向こうにいる
私が もう一人
喋り続けてる 私の代わりに

何が言いたいの?
何を言いたいの?
聴いてるじゃない,私
ここでこうして,耳を澄まして

でも,
あなたの声が聴こえないのよ
だって鏡が遮るから
私の耳には届かないのよ
いくら あなたが
もう一人の私でも

やめて やめて,やめて!!
そんなことしても 何も変わらない
あなたと私の場所を
入れ替えることなんて出来ない

もしあなたがそのまま拳を振り下ろして
この鏡を割っても
私はこのまま
あなたがいなくなるだけよ
飛び散った破片の幾つもに
あなたが ちりぢりになる だけ

あなたのこと 好きよ
だって もう一人の私だもの
もし 逆さまになってたら
あなただって 同じように思ったでしょ?

……non !!

あなたは狙ってるのね
そしていつか私の場所を

狙い続けてるんでしょ?

鏡のこちらと向こう
向き合って 向き合ってふたり
それでも在るのは一人きり
どちらが影?
どちらが

狙ってる,ほら,
黒猫の眼が光ってる
あなたが狙ってるのは
ほんの一瞬の隙
私の,

鏡の向こうとこちら
決して融け合うことはなく
だからあなたは狙い続ける
私の場所を
この場所を
あなたが私と入れ代わって

現実に 生きる ために

1998/07/29



夢を見ました
幸せな夢だと思います
多分
幸せだったと思います
もう覚えていないけれど

私の脚が折れて
右手も折れて
やがては左手も折れて
ただの塊みたいに路上に転がって
気づいたら 石ころと並んで座ってた

幾組もの家族が通り過ぎてゆく
石ころと私との前を
幾人もの足音と
後ろ姿と
影が

ふと見れば,折れた私の手も脚も
そのゆき過ぎてゆく群れの中にいるじゃないか
身軽になった手脚は嬉々として
スキップしながら,小踊りしながら

やがて人込みに紛れて見えなくなった
石ころと私は,置き去りのまま

夢から覚めて見回してみれば
私の脚も手も 折れてもいなければ
そのままそこにあったけれど
一度折れて私から去っていった
あの手は 脚は 何処へいったんだろう
行方は知れぬまま 夢は覚め,
行く先を示すものは 何処にも残ってはいない
私はもう一度 眺めてみる
今 この手は この脚は
一体誰のものなんだろう

1998/07/29



家族の食卓は
ちゃんと椅子があって
座る場所もきちんと決まっていて
今日の料理にはこのお皿
出す順番もすべて狂い無く

さぁ食べましょう
食卓は すっかり華やいで
新しくおろしたテーブルクロスを汚さないようにね
スープも温かいうちにどうぞ

サラダをかみ砕く音
スープをすする音
時折コップに手を伸ばし
冷たい水が喉を落ちる音

それだけ?

静かに 静かに 静かぁに
食卓はただ食べるという行為のため
家族が集まって食べる行為をするために在るの
そこで他の何を 交わす必要もありません

食事が済んだら後片付け
きれいにきちんと済ませましょう
片づけるにも順番があるの
洗うのも 仕舞うのもすべて
すべて すべて

順番通りにしましょうね
家族の食卓には規則があるの
それを破ったら家族じゃないわ
家族は規則を守るもの
守れないなら 出て行きなさい
あなたの椅子は もうないわ

1998/07/29



お母さんは体が弱いから
お母さんを大事にしなさい
お父さんは仕事が大変なんだから
余計な心配はかけちゃいけません
それが子供の役目です
ちゃんと果たさなくちゃいけません

権利なんてものはないのです
子供の義務を果たしなさい
いい子でいることが一番大事
よそのうちの人からも誉められなくちゃ
どこそこさんのお宅のお子さんは
とてもお利口でおとなしくて羨ましいわぁ
井戸端会議でそう言ってもらえるように
服装も仕種も挨拶も
きちんと きちんとしましょうね

それが子供の義務なんです。
それが子供の役目なんです。

勉強が嫌いなの?
あら,そうなの。でも。
あなたが嫌いでも関係ないの
勉強はちゃんとしなくちゃいけません
成績もちゃんととらなくちゃ
遊びたいって?
そう,じゃぁちゃんと勉強してからね
そうでなきゃそんなことしてる時間はないんです

その眼は何?
そんな目つきをするもんじゃありません。
子供はね,
素直でいい子じゃなくちゃいけないんです。
それが子供の役目です。

1998/07/29



私は
甘えん坊なんだよ,
本当はとっても寂しがりやだし,
本当はもっと いろんなこと喋りたいし
聴いてだって欲しいのよ
笑えるならもっともっと笑っていたいし,
いつだってそうしていたいのよ
でも,
寂しくて,甘えたくて,話も聴いて欲しくって
聴いてくれるヒトはいなくて
だから,
笑いたくない時でも,
一生懸命笑おうとしてるんだけど
それが小憎たらしいっていわれても
私,一生懸命なんだけど,

しょうがないのかな

いい子,いい子,いい子でいなさい
それが父さん母さんの口癖で
私は毎日聴いている
毎日何回も何回も
だから,
黙って“いい子”を演じてみるの
続けるのって大変なのよ
結構しんどかったりするのよ

お母さんは大変じゃなかった?
お父さんも,大変じゃなかったの?
別に,なんともなかった?
私は結構しんどいよ
いい子,いい子…
しているうちに,
何がいい子か分からなくなっちゃった
お母さんの望む子
お父さんの望む子
って,ねぇ,
同じなの?
だって言うこと違う時あるじゃない
お父さん,お母さんの言うことって

ねぇ,
お父さんお母さんの言う「いい子」って
どんなん?
私はどうしたら,お父さんお母さん両方の
「いい子」になれるの?
お父さんお母さんに,
私だって,笑っていい子だねって言ってほしいよ

19980729
2004.5.18 Tue.

真夜中の冷蔵庫
オレンジがかったあかりで充満している
しんと静まり返った冷蔵庫に耳を澄ますと
じっと耳を澄ますと
聞こえてくる 聞こえてくる
ぷつぷつ
ぷつぷつ と
何の音
何の音
発酵してゆく誰かの音が
ぷつぷつ
ぷつぷつ と
徐々に耳の内奥に 垂れ込んでくる

冷気はやがて冷気ではなくなり
部屋の温度と冷蔵庫とは
境がなくなり

境界線など何処へいったのやら
真夜中の冷蔵庫の前で
何を見つめるでもなく
両眼は何をうつすわけでもなく

真夜中の冷蔵庫
気が付けば 朝になる

1998/08/04



お気に入りの硝子のコップを
思い切り投げつけた
音がしたのだろう
割れる音が
粉々に割れる音が
けれど 残っていない
音は消えた

残ったのは
砕け散った破片だけで
砕け散った破片はあちこちに散らばり
思い思いの場所へと飛び散り

私の手から投げつけられた硝子のコップは
もうその姿に戻らない

1998/08/04




言葉が消えてゆく
コトバがコトバじゃなくなってゆく
聴覚に異常は在りません
いたって普通でしょう
偉そうなお医者さんがいくらそういったって
消えてゆくものは消えてゆくんだ
あんたには分からなくても

ウレシイという感情は
カナシイという感情は
ムナシイという感情は
やがてコトバだけ一人歩きしはじめ
私から離れてゆく
私はふと立ち止まり
今この胸の中にうずくまる誰かは
一体誰だろうと首をかしげる
ウレシイだったかしら
カナシイだったかしら
ムナシイだったのかしら
よく 思い出せない

つながらない糸を
いくらつなげようとしたって
それは無理なことで
ちぎれたコトバの糸を
どう紡ごうとしたって
紡げないものは紡げない

1998/08/04



刺さったガラスの破片が
紅く紅く染まってゆく
水色の波紋が
手のひらの中で泳ぐ

ひらひら と
きらきらと泳ぐ
硝子の破片が
明かりもない手のひらの中で

1998/08/04



夕立ち あっという間もなく立ち込めた雲は
わんわん泣いて
わんわん泣いて
きっと私が今朝早起きして
ベランダに干してきた洗濯物を
今頃すっかりびしょびしょにしているんだろう

どうしてそんなにいっぱいの
涙を溜めていたんだろう
どくどくどくどく溢れてくる
涙はとてもあたたかくて

出掛けた喫茶店の窓から眺める
アスファルトは濡れて すっかり濡れて
でも夕立ちは
もう涙を枯らしたのだろうか
気づいたら 止んでいる

これで全部吐き出したならいいけれど
これで全部吐き出したならいいけれど

涙を流すのも 疲れるよね
少し眠った方がいいよ…

洗濯物はもう一度
今夜洗い直そうね
だから明日は晴れますように
あなたの心も 晴れますように

1998/08/04



たとえばの噺だけど
明日ここからいなくなってもいいよって言われたら
どうする?
それとも
明日ここからいなくなるよって言われたら
どうする?

遠い遠い 遠くのどこかへ
流れてゆく雲のように 流れてゆきたい

たとえば今夜
私が死んだら
ふたりの猫たちのご飯は
誰が用意してくれるんだろう
おなかを空かせたふたりの猫は
死んだ私の周りで
ご飯をせがんで幾日も過ごすのだろうか
それとも誰か見つけてくれて
ふたりにご飯をあげてくれるだろうか

それが心配で
それだけが心配だから
私はまた今夜も
まだ死ねないなぁと思うのです

ふたりの猫は知ってか知らずか
私の代わりに布団の上で
丸くなって眠っています

19980804
2004.5.18 Tue.

さらさらと
さらさらと
雨が舞う
空を舞う
舞い下りる場所を
知ってか知らずか
踊り続ける
踊り続ける

枯れ枝にかかった錆びたりぼんが
濡れてはらり ようやく帰るよ

すれ違う傘の合間ぬって歩けば
頬に肩に髪に
雨の指先が触れる
半透明の滴が囁く声
今 聴こえる…

  何処にいっていたの
  何処にいっていたの
  ずっと待ってた
  ずっと待ってた
  変わらずにここで
  こうしてずっと



舞い踊る雨粒が
頬に肩に髪にじゃれる
まぶた閉じて空に手を伸ばせば
遠い記憶の向こう 笑い声 響き始める

水溜まりはEの音
枝葉のささやきはFの音
そして
舞い踊る雨粒は Aの音

奏で 奏で続けてた
今も弾き続けてるよ
もう擦り切れそうな
けれどけして消えない旋律
いつか 溶け合う音たち

  ちゃんと聴こえてる
  今聴こえてくるよ
  この耳の奥
  音が 溢れてゆく

  待ってた
  ずっと待ってた
  その指先
  ここでずっと
  ねぇ,その
  指先で 頬に触れて
  指先で 肩に触れて
  指先で 髪に触れて
  指先で 音に溶かして

  ねぇ,
  ちゃんといたでしょう
  ここにいたでしょう
  約束は守るもの
  約束は守るもの
  たとえいつか凍える石でも
  信じて抱きしめて
  暖め続けるの


いくつもの音に迷い
いくつもの夜に迷い
いくつもの雨に迷い
そうして待ち続けた
日付のない約束を


    見てごらん
    東の空の向こう
    もう雲が割れて
    やがて雨もあがる
    一瞬だったね
    一瞬だった
    けど

  待ってるから
  変わらずに耳を澄まして
  その指先だけ
  その音だけを
  待ってる
  見えなくて聞こえなくて触れられなくて
  そんな夜を朝を幾つ越えて
  待ってる

 日付のない約束
 この緒の行方

       今 雨があがるよ…

19980929
2004.5.18 Tue.

誰もが荷物
幾つも抱え込み
背負って 歩いてる

誰か一人だけ 重いわけじゃなく
誰か一人だけ 軽いわけじゃなく

その人が抱えられる分と
ちょうどつりあいがとれますように
とれていますように

公園のシーソーは必ず
どちらかに揺れて
だから
片側だけが重たくて
シーソーがしなうようなら

シーソーから降りよう 一度
荷物は置きっぱなしでいい
しばらくの間だもの
そして
誰かを呼んで
名前を呼んで
二人分 三人分の体重でなら
軽々と 上がるかもしれない
シーソーの向こう側
そして荷物は
空へ放るのよ 蒼に溶かすのよ

でも

呼べる名前が思い浮かばなかった時には
ここに在るから
私 ここに在るから
振り向けば 大丈夫
それだけで わかる
そしたらふたりで シーソーに乗ろう
重たすぎる荷物もきっと
空へ 還るよ

振り向くだけ
それで わかるから
ここに在るよ
それを 忘れないで













すべて夢と 思えばいい
いつか叶うかもしれないし 叶わないかもしれない
そんな 夢 と 思えばいい

人には身分相応の荷物があって
それはそのひとにしか背負えない
脚が折れようと 腕が折れようと
そんなことにかかわらず
荷物は背負わなければならぬもの
そして倒れるまで
歩き続けてゆくもの

倒れて とうとう倒れて
その時
歩いて来た道に 一輪でも花が咲いていたなら
それを 倖せ
と 呼ぼう

もう眼も耳も遠のき
かすみゆく意識の中で
それでもたった一輪
一輪でもそこに 咲いている花が見えたなら
聴こえたなら
きっと微笑えめる
微笑んで 眠りに沈んでゆける
だから

歩き続けよう
たとえ荷物が増えすぎて
この脚が折れ
この腕が折れ
やがて倒れ果てる だけ でも

生まれて来てしまったことは
誰れの罪でもない
ましてやおまえの罪ではない
だから
罪を背負って歩くのではなく
最果ての倖のために
歩き続けるのだと
最果ての地に
たった一輪であろうと
花を咲かせるためにおまえは
歩いてゆくのだと

そう 信じて

誰もがきっと
一つや二つ
何かの種を持って 生まれ 堕ちる
掌の中 そっとのぞいてごらん
堅い堅い皮に包り
凍えぬよう 凍りつかぬよう
息づいている種が そこに
在るから

その種を いつか
おまえが撒いてゆくのだよ

倒れ果て おまえが朽ちて
土に還る頃
その花は実をつけ
その種はまた 新たな土に芽吹き
花を 咲かせるだろう
倖せという 花 を

おまえの歩いて来た道はやがて
花で埋まる
誰かの涙を乾かすほどの
花で いっぱいになる

そう信じて
そのために 歩き続けて

19981004
2004.5.18 Tue.

やがて
あの橙色も薄れ
濃紺の闇が辺りを包むよ

ただ
倖せになりたかった
倖せになろうと 思った
ずっとずっと
帰ることができる
場所 を
探し続けてた

ふとそんな言葉を漏らせば
私だってそうよと まだあんたは餓鬼だねぇと
笑われるばかりで
確かにそうだと苦笑しつつも
いつのまにか 言わなくなった
誰もがそうであり,同時に
誰もかれもがそうじゃないことを知った頃

言葉は言葉としてそこに在り
それはそれぞれに人それぞれに異なるものなのだと
知るまでに時間がかかった
でももう今は分かる
歩いてゆく道が違うように
歩いてきた道が違うように
言葉も
それぞれに育まれ 根を張った場所が違う

違っていてもそれは
鼓膜には 視覚には
同様に 同義語に
映るばかり

これで終わりにしようと思ったことが
何度 幾度あったろう
それでもやっぱり

まだ大丈夫だ

思い直し 靴の紐結び直し
歩き続けてきた
生まれたからには
ここに存在してしまったからには
歩き続けなければ

ただ それだけを想い,

それをいまさら否定するつもりはない
そうじゃないなんて 言うつもりはない
でも
選び取る権利も
まだ 残っているはず
こんな私にも

この川の流れに
託した疵は今頃
何処へ流れ溶けていったろう
沈み込み沈み込み
何処の海に 眠っているのだろう
待っていてね
もうすぐ行くから
私が 行くから

嘘なんて大嫌いだった
誤魔化しも大嫌いだった
慰めも同情も要らない
そんなものクソ喰らえ

けど

もう充分だ
人が生きるために必要な嘘と
死ぬために必要な嘘と
多分きっと
ひとつくらい 許される

多分きっと

19981005
2004.5.18 Tue.

「言の葉の雨に」


言の葉の雨に降られ
砂丘がその砂紋を失ってゆくよ
言の葉の雨に降られ
傘を持たぬ君の髪が濡れてゆくよ
 幾つもの丘を越えて
 幾つもの谷を越えて
 言の葉の雨に降られながらそれでも
 行き着ける先は何処なのか
 誰も教えてはくれない
  けれど
言の葉の雨に降られ
君はまたひとつ 傷を刻み込む
言の葉の雨に降られ
君はまたひとつ 傷の重さを知る

言の葉の雨に降られ
堤防がその姿を崩してゆくよ
言の葉の雨に降られ
靴も擦り切れた君の足が濡れてゆくよ
 幾つもの道に迷い
 幾つもの標に惑い
 言の葉の雨になぶられながらそれでも
 行き着ける先は何処なのか
 何も誰も応えてはくれない
  けれど
言の葉の雨に降られ 君は
微かな震えを聴く
言の葉の雨に降られ 君は
消え入らんばかりの微かな震えを その耳で聴く

 幾つもの笑みに惑い
 幾つもの嘲りに迷い
 言の葉の雨になぶられ続けながらそれでも
 歩き続ける君の行く先は何処なのか
 誰も何も教えてはくれない
  けれど

    その耳は
    その両目は
    もう居場所さえ伝えることのできない誰かの震えを
    伝え聴く、君の
    その耳が
    その両目だけが
    その震えを 抱きしめるよ

言の葉の雨に降られ
君の足跡も定かには遺らない
言の葉の雨に降られ
それでも君のその傷痕を頼りに
声を
潰された声を再び
振り絞ろうとする鳥が一羽

君へ向けて 今 翔び立つ

言の葉の雨に降られ
君の足跡も定かには遺らない
言の葉の雨に降られ
それでも
君の傷が紡ぐ糸だけを頼りに
声を
殺された声を再び
振り絞ろうとする鳥が、今







「冬の旋律」


水面一面 枯葉に埋もれ
凍りかけたプールの縁づたい

裸足の両足を爪先立たせて立つ
あの子が見えるよ

飛び込めば水鏡の向こう
底を知らない冬が横たわる

  一瞬の水飛沫に
  戦慄いて飛び立つ鳥が、今

やがて水底まで凍りつくその前に
冬を見たかったの?

夥しい枯葉たちはちりぢりに砕け
波紋とともに泳いでゆくよ

鎮まりかえる季節に
秒針だけが その痕を刻む

  今さら空を振り仰いでみても もはや
  弾かれるように飛び立った鳥の影さえ見えず

 誰れの耳にも届かなかった
 鳥一羽の羽ばたきよりも儚く消えた
 音の 譜面は白紙のまま
 今、
 水面を滑るように
 沈みゆく光の糸が
 のびてゆくよ、まっすぐに

やがて水底まで凍りつくその前に
冬を見たかったの?

  一瞬の水飛沫に
  戦慄いて飛び立つ鳥が、今

19981007
2004.5.18 Tue.

昨日は遠足だった。でも、前日になって参加をとりやめた。
というのも、先日お友達の家に日曜日に遊びに行った折、そのお友達のお父さんを見ていて、彼女は自分のお父さんを思い出してしまったらしい。普段なら、「もう帰ろう」と言っても絶対聞き入れない彼女が、「うん、早くおうちに帰ろう」と言った。
あの出来事を経なかったら、私は、娘と親子遠足に参加していただろう。でも。
その出来事を経て、私は考えざるを得なかった。
そうしていっぱい考えた結果、今年は見送ることにした。
その代償といっては何だけれども、今日、娘に「秘密の場所にお出かけだよ〜」と言って、前から興味のあった場所へ出掛けてみた。
彼女は、私の予想以上の喜びようで、なんだか私が照れくさくなってしまうくらいに喜んではしゃいで遊んでいた。
結局何時間くらいそうしていたんだろう。時間切れぎりぎりまで遊んでいたんじゃなかろうか。すっかりおなかをすかせた彼女は、おいなりさんをたくさん食べた。
そして、家に戻ってからごろごろしながらテレビを見ていた彼女は、いつのまにかすやすや。あぎゃー、こんな時間に寝入ったら真夜中が怖いよ、と、私は一瞬恐怖したのだけれど。
今日はもう、そのままにしておくことにする。
真夜中目を覚ましてぐずられたりしても、今日はいいや。
彼女があれだけはしゃいで声を上げて笑うのを、久しぶりに聞いた気がした。
そのくらい、彼女が今日を楽しんでくれたことが、私には何より嬉しい。

娘よ、そんな素敵な一日を私に与えてくれて、ありがとう。
2004.5.23 Sun.

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