Last updated Sep.04,2003
PROLOGUE 6

AM12:00 中洲

「カラン、コロン」

夜はカラフルなネオンの景観が素晴らしい博多最大の歓楽地、中洲を望む 那珂川に下駄の音が響く。
男は天神から国体通りを東に歩を進め、ちょうど那珂川にかかる橋を渡っ たところである。
男の風体はこの時代にそぐわない…いや、むしろ新鮮であった。久留米絣 だろうか、紺色の甚平を粋に着こなし、もちろん素足に下駄である。
200年以上前の幕末、薩摩に名を轟かせたヒーローの容姿を彷彿とさせた。 名は坂崎という。

「ルルルル…」

軽やかな和音が坂崎の耳に届いた。坂崎は足を止め、懐から取り出した スティールブルーの携帯電話の着信メッセージを確認した。すばやく、意外と しなやかな人差指でフックアップボタンを押し、左耳にあてた。

「もしもし、僕だけど…」

「あぁ、江本君…」

東京に住むハーフの友人 Cool April 江本からの電話であった。

「うん。早速だけど、知ってる?」

「なにを?」

「公式大会の告知。今日13:00からナゴヤであるみたい。」

「……」

坂崎は無言だった。

「どうしたの?」

「いや、なんでもない…久しぶりで…」

坂崎は右手で細い銀ブチの眼鏡に手をやりながら、戦略が頭を 駆け巡っていることに気付き、軽い興奮を覚えた。

「じゃ、会場で合おうね。」

江本は、坂崎が参加しないことなど、まったく考えていない様子 だった。

「ああ」

「じゃ、切るね…」

江本が電話を切ったにも関わらず、坂崎は耳に携帯電話を押しあてた ままであった。3回目のビジートーンが丁度鳴り終わるや、坂崎は 携帯電話のフックダウンボタンを左手の親指で押し、その身を翻し、 駆け出していた。

「カラッ!カラッ!カラッ!」

那珂川に甲高い下駄の音が響いた。


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