2003年03月27日・研究「N手マシン」・100点


研究で悩んでいる学生に、いつも言ってしまう話。

人工知能研究の重要な分野に、チェスのプログラムがあります。
少しでも強いプログラムを作るために、みんなが日々、しのぎを削っています。

で。

ある人が、チェスの新しいプログラムを提案したのです。名づけて「N手マシン」。
どういうアイデアかって?
「N手先まで、すべての手をしらみつぶしに調べる」
たとえば最初に指せる手が20通りで、その手に対する手も20通りあるなら、
400手すべて調べるのが2手マシンです。

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・・・・・・・

馬鹿か! と思いませんか?
そんなの、めっちゃ弱いに決まっています。

見込みのありそうな手だけを深く読むから、強いプログラムができるのです。
Nがすこし大きくなれば、あっという間に調べる数が大きくなってしまいます。
ですがその研究者は、ここから先の主張がうまかったのです。

「私の研究目的は、強いプログラムをつくることではありません」
ええっ?

「私のプログラムは簡単なので、誰にでも理解できますし、すぐに作れますね?」
確かに。

「またこのプログラムの強さは、ただ1つのパラメータ、つまりNだけに依存しますね?」
そうですね。

「そしてNが大きくなるにつれて、単調に強くなっていきますね?」
そのとおりですね。

「またNが無限大になれば、それは最強のプログラムですね?」
そうでしょうな。

「ですから私のプログラムを、他のプログラムの強さの評価に使っていただきたいのです」


「たとえばあるプログラムXがあり、その強さを絶対値で評価したいとき、それが8手マシンに勝ち9手マシンに負けたのなら、プログラムXの強さは8から9の間なのです。このアイデアで、理論的には、どんな複雑で強力なプログラムでも、強さをただ1つの値で表すことができるのです」

お見事!

この研究はアイデアだけでも十分に面白いので、実際にN手マシンを作る必要さえありません。

いい研究は、コツコツ努力しなければ成し遂げられない、というものではない。
斬新な視点さえあれば、作ったもの自体はくだらなくても、いや、作品を作っていなくたって、研究として成立するのだ。

ということを教えられた話でした。

100点。


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