2003年07月09日・概念「百科事典を棒に刻む」・77点


村上春樹の最高傑作「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」に出てくる、
「百科事典棒」の話を紹介。

「百科事典棒というのはどこかの科学者が考えた理論の遊びです。百科事典を楊枝一本に刻みこめるという説のことですな。どうするかわかりますか?」

「わかりませんね」

「簡単です。情報を、つまり百科事典の文章をですな、全部数字に置き換かえます。
 ひとつひとつの文字を二桁の数字にするんです。Aは01、Bは02、という具合です。
 00はブランク、同じように句点や読点も数字化します。
 そしてそれを並べたいちばん前に小数点を置きます。
 するととてつもなく長い小数点以下の数字が並びます。0.1732000631・・・という具合ですな。
 次にその数字にぴたり符合した楊枝のポイントに刻みめを入れる。つまり0.50000000・・・に相応する部分は楊枝のちょうどまん中、0.3333・・・なら前から三分の一のポイントです。
 意味はおわかりになりますな?」

「わかります」

「そうすればどんな長い情報でも楊枝のひとつのポイントに刻みこめてしまうのです。
 もちろんこれはあくまで理論上のことであって、現実にはそんなことは無理です。そこまで細かいポイントを刻みこむことは今の技術ではできません。(中略)
 中に詰められた情報量は楊枝の長さと関係ありません。(中略)
 問題はソフトウェアにあるのです。ハードウェアには何の関係もありません。
 それが楊枝であろうが二百メートルの長さの木材であろうがあるいは赤道であろうが、何の関係もないのです」


77点。

出典は村上春樹「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(下)、新潮社、昭和63年、p125。


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