2000年01月07日


2000年1月7日(18日目)

 久しぶりに夢を見た。
 僕はゴルフをしている。球を打つと、視点が球になって芝生をバウンドする。
 1ホール目はホールインワン。2ホール目もイーグル。
 ところが3ホール目で砂に捕まってしまい、2回、3回、といくら打ってもバンカーの外に出せないところで目が覚めた。

 だけど・・・眠い。
昨日寝たのが夜の1時。めちゃくちゃ眠い。

どうせ特に行きたいところはないんだし…
 「ここは思いきって、午前中はずっと寝てしまったらどうだろう?」

ベッドの中で考えれば考えるほど、これは名案に思えた。
 「寝ぼけた頭でシアトルをかけずりまわって嫌な印象を残すぐらいなら、
もう3時間寝て、すっきりした頭で目覚めよう。午後は土産物屋でも、のんびりまわろう。そうだ、そうしよう」

僕は歯を磨きトイレに行ってから、再び床についた。
目をつぶって15分ほどウトウトした。
その時、不意にひらめいた。

 エスプレッソだ!

 Tully'sで、苦いエスプレッソを飲もう! そうすれば眠気も吹っ飛ぶだろう…。
 考えただけで、頭の芯が苦くなってくるようだった。

僕はそそくさと着替え、朝7時半にYHを出た。結果的に、これは吉と出た。
航空博物館で「タッチダウン」を聞けたのだから。でもそれは、もう少しあとの話だ。

Turry'sに入り、エスプレッソを注文。

僕の列の前には若い黒人男性。若い白人女性の店員と楽しそうに話をしていて、
パチンと右手どうしを合わせて挨拶した。たぶん恋人同士なのだろう。

 僕は小さなカップを持って、窓際のスツール席で苦い苦いエスプレッソをすする。

その時バスが通りかかり、バス正面を真横から見ることができた。
バス正面に鉄の装置があり、自転車を積んでいる。
バスは自転車を2台まで、正面に積むことができるとわかった。早起きをして得をした。

エイプレッソを飲み終え、僕はバスでチャイナタウンに向かう。
バスはインタナショナル・ディストリクト駅に着く。

降りてすぐ、汚いエリアだと思った。汚い格好のアジア系がうろうろしている。
 チャイナタウンで朝食を…と思ったのだが、開いている店は一軒もなかった。

 紀伊国屋書店に行く。帰りの10時間の機内で読もうと思ったのだが、開店は10時50分からという。今は朝の8時半。とても待ってはいられない。

どこに行こうか考える。
シティ・パスのクーポン券は2枚、余っている。航空博物館とウッドランド動物園だ。
航空博物館は朝10時からオープン。動物園は9時半から。
だけど動物園の方が遠く、行き方も分かりにくい。どっちにしようか…。

 結局、航空博物館にした。でもまだ少し早すぎる。
時間をつぶすために、近くのキング・スタジジムで警備員に
 「今日のチケットはないの?」
 と尋ねたが、
 「ないねぇ。日曜日にしか・・・」
 との返事だった。

 ぶらぶら歩き、航空博物館行きのバス停にたどりつく。
少し迷ったので、見つけるまでに30分くらい歩いてしまった。

 バスに乗り、航空博物館の前に着く。なんと開館時刻の40分前。
外は寒い。しかし博物館には鍵がかかっている。
しばらくぼけっと立っていると、スクールバスが停まり、中から先生が出てきて、
博物館の係員と話をしている。そして生徒たちは博物館に入っていく。
どうやら小学生の社会科見学らしく、彼らは特別に30分早く入場できるらしいのだ。

中で暖かそうな小学生たちを見ていると、理不尽な怒りがこみあげてくる。
しかも背が僕より高いときた!

仕方なく、博物館前にある少年の銅像の写真を撮っていた。

そこにゴーという音がして、飛行機がちょうど上空を飛んでいった。
しかしシャッター・チャンスを逃してしまった。

航空博物館の上を飛行機が飛ぶ。なんて面白いんだろう!
(↑あとで考えると、なにが面白いんだか、さっぱりわからない)と思って、
5分ほど待ち、次の飛行機は、ばっちり写真に収めた。

あとでデジカメ写真を見てびっくりした。
あんなに大きかった飛行機が、写真ではとてもちっぽけなのだ。
人間の目はすぐれたオートフォーカス機能を持っているのだろう。

まだ20分もあったので、僕はバスの停留所でBAJIの
「遊びに行こうよ」の歌詞を写して遊んでいた。

 「どぉにか、なるさぁ」なんて、さ
  っきから何度も言うけど、、
  本ぉん気で、思ってな いーんでしょう?

  やっと社会人 に なれた/
  と思ったらすぐに [幻滅]
  …現実は、こんなもんなーんだろう、か?

  そう_いえば、思い|きり|泣い たり、笑っ、た、りーーーーー
  しぃてないよーねーーーーーーー

  そぉだ! あ*そーび・に行・こーおよっ!
  仮病つかってぇぇぇ、今日はサっボ・り・ましょう
  ほーら、こぉんなに、晴、れーた日・に
  出かけないなぁんてえ、ちょぉと、
  もったぁいないじゃなーーい?」
  
 10時ちょうどに博物館の係員がカギを開ける。挨拶して入る。
最初にシアターが目についた。
10時10分から10分おきに、3本の映画を上映している。全部見た。

最初は「The Dream」。
ハンググライダーからロケットに至るまでの歴史を紹介した映画。

昔の飛行機から1人の婦人が降りてくるシーンが楽しい。
婦人がタラップから降りてくると、パイロットは飛行機の側面を開け、
その場で金属製のトランクを手渡したのだ。
クレームタグも、長い荷物ベルトコンベヤーもなし。古き良き時代だった。

 7分で映画は終わり、3分待つと次の映画が始まった。
今度は飛行機の製造工程を説明したもの。
実写の博士とアニメのリベット君による合成映画。

最初、飛行機が倉庫から出ようとするシーンで、リベット君が「ストップ」というと、フィルムが逆回しになり、どんどん部品に分解されていくシーンが秀逸。

組み立て工程を思いきり早回しにして、工員がほとんど見えなくし、まるで飛行機が自動的に組みあがっていくように見せるシーンもうまかった。

たとえば羽のペンキが、みるみるうちに端から1列ずつ塗られていくのだ。

最後にリベット君が最後の穴に打ち込まれ、
飛行機が倉庫から飛び出っていくところで映画が終わる。良い出来だった。

 気がつくと広い館内に僕1人だけ。次の映画が始まる。
 次は「エアフォース・ワン」。大統領専用機の話だ。
 「トイレは普通の飛行機とそれほど変わりません」と言ってトイレを写す。
 「でもキッチンは広いです」と言ってガスコンロが4台もある部屋を見せる。
 そしてタイプライターやコピー機がある秘書部屋などを見せていく。楽しめた。

 映画を見終わり、僕は博物館内を巡る。
メインはさまざまな飛行機モデルの展示なのだが、僕は興味がなかった。

しかし重力などを体験させるコーナーはとても面白かった。
悔しいことに僕が行ったときは、小学生たちのために立ち入り禁止だった。
あまりに悔しかったので写真だけ撮らせてもらった。

分厚い手袋をはめて細かい作業(レンチでナットを占める等)を体験させるコーナーで、一人の少女に「写真を撮っていいか?」と尋ねると、ナットを締めるところで手を止めてポーズを取ってくれた。

月のふわふわ重力を体験させるためのバネ入り靴、ペットボトルのロケット(自転車の空気入れで空気を入れ、針金を伝って発射させる)などの写真を撮る。

4種類の重りとはかりもあった。たぶんこれは月の1/6の重力を体験させる装置だろう。

 また、月面着陸の瞬間の典型的なアメリカ家庭のマネキン人形もあって楽しい。アメリカの博物館員は「何が面白いか」をよくよく知りつくしている。

 隅にフライトシミュレータがあり、3ドルとのこと。入ってみた。
 初老の係員に「コニチハ」といわれる。
 「日本語どこで覚えたんですか」と聞いたら
 「沖縄で・・・昔、空軍だったのさ。今は退職してね」
 とのことだった

フライトシミュレータは、それほどでもなかった。
ニューヨークのエンパイア・ステートビルの「スカイライド」や、ユニバーサルスタジオのすごいやつを見慣れてしまったせいだろう。

 広い館内を歩いていると、床に小学生たちを座らせて、係員が立って説明していた。2人の少女が白い宇宙服を着ており、みんなの前に立っている。

 男は片手に月球儀、片手にアポロ宇宙船の模型を持っている。
少女の1人はマイクを持っている。男が言う。
 「さあ、月面に着陸したら、アームストロング船長の言葉を言うんだよ。
3、2、1・・・」

 男はアポロ宇宙船を月につける。ところが少女は何も言わない。
 男は早口でせかす。
 「さあ、宇宙船は月についたよ。最初の言葉は?」

 少女は自信なさそうに小声で答えた。
 「タッチダウン…」

 みんな大笑いした。博物館の男はいう
 「タッチ・ダウーーーン!
  そうか! 人類最初の月での言葉は、タッチダウンなんだな!
  オッケー! それで行こう!」
 僕は楽しくなった。アメリカ人は小学生でもアメリカン・ジョークを飛ばす!
 (後に「タッチダウン」は、「着陸」の意味でよく使われることを知り興ざめ)
 
 すっかり儲けた気分でギフト・ショップに入る。
2ドル70セントの、宇宙船内で食べる「インスタント・アイスクリーム」を買った。
水をかけて食べるやつだ。「甘い豆腐みたいな味」と言っていた人もいたがどうだろう?
 日本に帰ったら試してみよう。(2年たった今でも開封していない)

博物館でホットドッグと水の軽いブランチをとる。
ホッドドッグはパンにソーセージを挟んだだけのもので、あとでタマネギ、キャベツ、ケチャップ、マスタードは、横にある箱から好きなだけ自分で詰めるようになっている。うれしい。
オニオンをたっぷり詰め込み、ケチャップをたっぷりかけて食べる。おいしい!
 
ダウンタウンに戻るためバスを待つ。
するとそこに、白いシャツに
 「Boeing! Do the right thing Now!」(ボーイング社に即座に改善を要求する)
 という文字入りTシャツでジョギングをしている3人の中年男が通りすぎていった。

 ・・・と思っているうちにバスがつく。

 バスに乗りしばらく行くと、沿道にたくさんの人がいて、プラカードを持っている。

 「No Brain, No Plane」(作業員なくして飛行機なし)
 「×People Profit」(本当は「People」をバツで消してある)

 といったプラカードを持ち、40〜50人の人が、みんな車道に向かって叫んでいる。アメリカは車社会、誰も通行人になんか呼びかけないのだ。

 僕は運転手に「ウッドランド動物園に行きたいのだが」
 という。運転士は
 「OK! 降りるバス停で合図する」という。

ところが運転手が、いつまでたっても合図しない。
僕の地図によれば、そろそろ降りた方がいいいのでは、と思うところまで来ても合図はない。
 まいっか…と思っているうちにみんな降りだす。終点についてしまったのだ。
 
 あの運転手め、忘れやがったなと思いながら、
 「戻ったほうがいいですか?」と聞くと、運転手は
 「そのようだね」
と答えた。

 僕はバスを降り、歩きだした。
しばらく迷い、別のバスの運転手に尋ねてから、ようやく動物園行きのバス停にたどりついた。
運転士にしつこく確認し、ようやく動物園についた。

 動物園は閑散として、ものさびしい。雨も少し降っている。金曜日の昼なので、ほとんど人はいなかった。

入口に向かう。ところが…クーポン券がない! どこかで落としてしまったのだ。
航空博物館まで持っていたものから、途中で落としたのだろう。仕方なく9ドルを払う。

 がっかりして、入ってすぐ左の食堂ではコーラとピザを食べる。
残ったコーラはトイレに捨て、そして歩き出した。

 向かうところはただひとつ。ライオンだった。
途中、動物園はヒョウやトラという名前の、変な模様の偽ライオンを提示してきたが、僕はそんなものに騙されなかった。

 そして…丘の石の上に、ライオンはいた。
オスとメスが2頭、寄りそって大きな石の上で寝ていた。

 近くにガラス貼りの小屋があり、テレビとボタンがある。押してみた。
「ライオンは一日、何時間寝るでしょう?」
 という、たいへんライオンの本質をわきまえたビデオで、答えは狩りのあとなら16時間〜20時間、という答えだった。

 ビデオは、近年ライオンは減少しており、未来の子供たちは
 「ライオンって何だったの?」
 と質問するかもしれない、と締めくくっていた。
 僕は頭を思いっきり縦に振っていた。

ライオンは2匹しかいない。丘の回りをまわると双眼鏡があった。
25セント硬貨を入れてライオンを眺める。
僕は2匹のライオンを尻から眺めることになった。

ライオンは2匹とも僕に尻を向けたまま、ほとんど動かない。
たまに身体を揺する程度だ。

ところがそのうちメスのライオンが起きあがり、舌を出して大きなあくびをした。
と思う間もなく、また寝たところで3分が切れた。僕は最後の25セントを放りこむ。

 またライオンは動かない…と思ったら、コインが切れるころに、オスのライオンがむっくり起き、あくびをし、一瞬こっちまで見て(美男子!)、そしてまた寝てしまった。すごくラッキー!

でももう25セント硬貨を持っていなかった。僕はがっかりして、再び歩き出し、
ギフトショップに向かった。

ライオンのぬいぐるみか何かないかな…と思って店に入ると、あった!
 しかもかわいい! しかもオスの大人のが!

一言言わせてもらうならば、オスの大人のかわいいライオンのぬいぐるみは
皆無に等しい。
僕が唯一、持っていたライオンのぬいぐるみは多摩動物園の2700円のやつで、
それは仔ライオンのなのだ。

 僕は速攻でぬいぐるみを買った(勝った、とすら言いたい)。
ライオンの布バッグも買った。

 僕はレジに行き、ぬいぐるみを出しながら店員に言い訳をした。
 「うちの妹がライオン好きなもので…」
 店員は「そうなの」と言ったが、あんまり信用していない様子だった。

 僕はもう少し補強が必要と感じた。
 「ええ。ありゃライオン・クレイジーですね」
 と言いながら、僕はTCを出した。

 店員は興味のなさそうにおつりをくれた。その中に25セント硬貨が1枚あった。
 僕はただちに丘にとって返し、25セント硬貨を双眼鏡に放りこんだ。
 すると…今度は2頭のライオンが同時に起きて、キスをしたのである!

 本当にいいものを見た。双眼鏡に顔をつけながら唸っていると、3分が切れた。

 僕はガラス貼りのテレビがあった小屋にとって返す。
そこからライオンの石までは、10メートルくらいの距離があった。

 僕はガラスの仕切りをガンガンたたく。
30秒ほどたたき、手が痛くなったころ、やっとメスのライオンがこちらに気づいた。

 そのチャンスを逃さず、僕は踊った。
 するとライオンが、じっとこっちを向いている!

 さらに踊るとライオンは、しっぽをひょっと横に振り
 「面白いわ、もっと続けて(はーと)」
 と言ったように見えた。絶対にそう言っていた。というか自分で言った。

 僕はもう少し踊ったが、恥ずかしくなってきたので、だんだん自信のなさそうな踊りに切り替えた。

 ライオンはそのごまかしをすばやく見ぬき、興味が失せたように、また昼寝に戻っていった。

 すっかり満足した僕は、他の動物には目もくれず、紙袋をしっかり握りしめてまっすぐバスに乗り込んだ。

ぬいぐるみの入った紙袋を、買ったばかりのライオン・バッグに入れ足の間にはさみ、強盗に取られないようにしっかり見張った。

 僕の横には黒人の小学生くらいの少年がいて、こっちを興味深そうに見ている。
 僕は心の中でつぶやく。
 君もライオン・ファンかい。そりゃ結構なことだね。だけどこのぬいぐるみは僕のだぞ。

 5分ほど神経戦が続いたが、ついに僕が勝ち、少年はとあるバス停で降りた。
 まったく、犯罪都市アメリカには怪しい奴が多すぎる。油断もすきもない。

YHに戻り、バッグとぬいぐるみをロッカーにしまうと、すぐ鈴木信然さんのお土産を買いに行く。

近くの店をぶらぶら歩き、スーパーで薬を買う。胃薬、風邪薬、ビタミン剤など。
ついでに夕食用のコーンフレークの小箱を6箱、買った。
 5時ごろYHに戻り、ライオンのように一眠りした。今までの疲れが出たのだ。

 夕方6時ごろに起き、ラウンジでメールをチェック。小川さんからメールが来ていた。

  こんにちは! 新年おめでとうございます

  12/31と新年はどう過ごしましたか?
  何を食べていましたか?

  私はたくさんのおせちを食べました。
  私は栗きんとんと黒豆が大好きです。
  自分で作ったんですよ。
  太っちゃったので、昨日からダイエットを始めました。

  元気そうで、飛行機も大丈夫だったみたいで安心しました。
  シアトルで楽しそうでうらやましいです。
  シーフードがおいしいんでしょ?

  研究は1/5から始めました。
  聡子と私が論文書き、ゆりえと紀江がプログラムです。
  論文はほとんど書き終わりました。
  要旨をチェックしていただけますか?

  最後の街を楽しんで、無事に日本に帰ってきてください。
  それでは。

 シアトルは魚料理の街だったのか! とはじめて気づいた。
 僕は返事を書いた。

  僕は1月1日は、ハリウッドの映画館前にいました。
  たくさんの若者がいて、10のカウントダウンを叫びました。

  僕はリトル・トーキョーで買ったミルクを飲み、アンパンを食べました。
  「アン」は日本、「パン」はアメリカを意味していました。
  ビールかワインを飲みたかったのですが、
  酒が飲めないのでミルクにしました。

 ここまで書いたら、残りが1分しかなかった。
しめくくりにふさわしい言葉が思いつかず、こう書いた。

  シアトルは最高の街だと思います。またね
  (I think Seattle is best. Good-bye!)

 僕はインターネットを切った。

 夕食はコーンフレークにミルクでもかけて食べようかと思っていたのだが、小川さんのメールを読んで気が変わった。TCは250ドルも残っている。
そうだ、シーフードを食べよう! 50ドルぐらい夕食に使ったってOKだろう。

 夕方6時15分に水族館に行き、iMaxシアターで「オリンピックの栄光」を見た。
これもよかった。スキーの清水や原田も出てきて、スポーツは万国共通の言語なのだ。
最後の字幕も良い。

 「オリンピックは、勝つことではなく参加することに意義がある。
  人生が勝つことではなく、戦うことに意味があるように」

 水族館を出て、すぐ近くの海沿いのレストラン「フィッシャーマン」に入る。
 薄暗く、とても雰囲気のある高級レストラン。
 親切なウェイターがテーブルについてくれる。
 僕はキング・クラブ(たらばガニ)のコース料理を注文した。

 最初に野菜のスープが届く。とてもおいしくて、あっという間に飲んでしまった。
サラダもパリパリして新鮮。キング・クラブを待ちながら、僕は旅行の最後には何がふさわしいか考えていた。

 そうだ、手紙を書こう! と僕は思った。
 いちばん番好きな人に、このレストランから葉書を出そう…
僕はすっかり、その思いつきに熱中した。
 僕は葉書を取り出すと、手紙を書き始めた。

 いまシアトルの海ぞいのレストランにいます。夜の7:00です。
 店内はうす暗く、テーブルやイスは木製で、各テーブルにロウソクが灯っています。

 せっかくシアトルに来たのだからと、旅行最後の想い出に、
 スープとサラダ、キングクラブとオレンジジュースを注文しました。
 これくらいのゼイタクはいいでしょう?


 ウェイターがカニを持ってくる。
 僕はウェイターに頼んで、カニと僕の写真を撮ってくれるように頼む。パチリ。

 大きな足の白い肉をフォークでかき出す。レモンと溶けたバターをたっぷりかける。
 レモンが足りないので、ウェイターを呼んで追加した。
 6切れのレモンをすべてかけて食べる。おいしかった! 僕は手紙を書き足した。

 サラダもカニも最高でした。
 カニは大きな足にジューシーな白い肉がたっぷりつまっていて、
 レモン汁(6切れも)ととけたバターをかけて食べました。


 すっかり満足! 僕はウェイターを呼び、デザートの注文のため、メニューをもう1度、持ってくるように頼む。メニューをにらんで…そして決めた。

 デザートには何がいいか考え、最もアメリカ的なものしました。
 コーヒーとチョコレートケーキ&アイスクリーム。
 どう? ベストチョイスだと思いませんか?


 レモンの4切りを載せたナプキンが届く。僕はナプキンにレモンを絞って手を拭く。

 デザートが届く。コーヒーはクリームたっぷり。
 下は甘ったるいウイスキー入りのアイリッシュ・コーヒー。
 アイスクリームは甘いチョコレート・スポンジの上にアイスクリームと
 生のホイップ・クリームがたっぷり乗ったおいしいケーキ。

 ウェイターを呼んで、普通のコーヒーを追加注文。のんびりコーヒーを飲む。
 窓の外は港の夜景。MP3ウォークマンからは「悲しい色やね」が流れ出す。

 ∨にじ・む街/の燈を ふたーぁりー 見てぇ/いたぁ
 ∨桟橋にいぃ_停め/た くる まにぃ もたぁーれてぇ
 泣い たぁら ∨あかん 泣い たら
 せ
 つーなくー   なぁるだけーー

 Hold me tight、大 阪ベイ・ブ・ルース
 俺のこと_好き_か、あんた聞、くーけどーー
 Hold me tight、そんな こと さえー、わからん
 よぉに/なぁっスんかーーー

 ∨大阪の/海は 悲しい…色、やね…
 ∨サヨナラを、みん。な、ここに、捨てにーー来るからーーー

 次にゼルダの「かなしくて」が流れたのは偶然ではない。
 MP3ウォークマンに曲名順で入っていたせいだ。

 かーぁなしく てっ、かぁーなしく てっ、やりきれな
 いぃーーーーーーーーーーー いぃつまで
 も、変わらない とぉ、信んじぃ、てぇえたぁ… 恋しく
 て 恋ぉぃしく て、やりきれ
 なーーーーーいよぉおおっーー!ーーーーー
 あーーなーーたにっ、っもっ、会えないか
 らぁーーーーーーーーー

 ーーーーーわかれたぁ、朝のぉーあ
 おぉぞらーーーぁぁっーーーーまぁーぁぶしい
 くぅらい/っ かがや/いっーてぇた/たい
 よぉおーーーーーーーーー

 ∨∨∨∨∨あなたのぉひぃとぉーみぃぃに
 ううーつるるるるるるるるる、わ、たぁーしの、かーお
 ぬーーれーーテ・・・・泣いていーーーたで・しょぉぉぉぉぉぉ

たーーーーだふたりーーーーみつめ
あーーーーーっていたーーーーーーさいしょ
かーーーーらさいごぉーの/あぁーさ
まぁでーーーーーーーーーーーあいの
ひーーーーはきえてぇーーーーまばた
きーーーも↑ せ/ずぅうにーーーーーーー
とーーーーーお、っくーーーーみぃいえー
なーーーーくなるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

 ああ

 悲しくて 悲しくて やりきれない
 永遠に終わらないと信じてた
 恋しくて 恋しくて たまらないよ
 明日はもう会えないから

 あんまり浸っていたせいだろうか、隣の老夫婦が声をかけてきた。
 「写真を撮ってあげようか?」
 「お願いします」
 「イチ、ニー、サン…チーズ!」
 僕はびっくりした。
 「日本語、できるんですか?」
 「少しね…。アメリカはどうだった?」
 「シアトルがベストです!」
僕は力いっぱい答えた。老夫婦は満足そうにうなずくと去っていった。

 僕には彼らがシアトルそのものに思えた。上品で円熟した老夫婦。
 これこそシアトルだ。シアトルが僕に挨拶に来たのだ。そう思った。
 僕は手紙を書き足した。

 明日で旅行も終わりです。楽しかったです。また行くつもりです。

 ウェイターにチェックを頼む。46ドル。カードにサインし、別に10ドル札をチップとしてボーイに渡す。
 僕はコートを着て、手紙に署名をした。

 2000年1月7日、PM 9:05 シアトルのレストランにて 竹内俊彦

 そして葉書をひっくり返し、宛て先に僕のいちばん好きな人の住所と名前を書いた。

〒155-0032 東京都世田谷区代沢×-×-×
                      竹内俊彦 様



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