オレは眠りにつくまでのわずかな間、ぼんやりとフジのことを考えていた。



無邪気に、虚ろに笑うフジ。



どうしてだろう、嫌悪してしまいそうになるぎりぎり一歩手前で、オレは妙にそれに惹かれている。
昔のフジは透き通った真水のようで、この世界の汚い物を何も知らないかのような笑顔だった。



・・・そんなはずはないのに。



















** ** *** *銀雪*参










眠りに落ちてゆく寸前だった。突然電話が無遠慮に鳴って、オレはふらふらとした頭で起きあがらなくてはならなかった。

もう夜中だった。静まり返った家の中でけたたましく響くベルの音は、何か不吉な知らせを予感させた。

『菊丸君ですね?!フジ君が病院からいなくなってしまったんです!君の家には行ってませんか?どこか思い当たるところは!?』

若い看護婦の声だった。あわてた様子で問いかけてくる。

「さ、さあ、おれにも・・」

混乱した頭でようやくそう言ったところで、すぐさま電話は切れてしまった。

・・・・なんだって?!フジが?!

心臓が引きつった。嫌な予感がしてならない。

オレはどくどくする心臓にせかされて、ティシャツに着替えると、行き先を思いめぐらせた。

桜だ!!

ひらめいたイメージに、オレは確信した。

あの桜並木道だ!

今日ずっとフジが見つめていた桜の木。きっとそうだ。いつもよりずっと、とりつかれたようにあの桜ばかり見てた。

オレは大慌てで玄関を飛び出した。続いて玄関の前にある門を抜けようとした。そのときだった。

「・・・エイジ」

ささやくような声に引き留められてオレはまさか、と思った。

振り返ると、玄関をでてすぐ横の茂みに、フジがうずくまっていた。外は月が隠れていて真っ暗だったけど、オレにはそれがフジだと一目で分かった。

潤んだ目は玄関の明かりで光って見えて、屈んだ体はあまりに小さかった。

かくれんぼをしてる子供みたいに、可笑しそうにくすくすと笑っている。

「場所は聞いたことがあったけど、今日初めて来たよ、エイジのいえ。」

フジは首を傾げて笑っていた。

「でもよかった、出てきてくれて。」

フジはおもむろに立ち上がると、オレに歩み寄った。

オレはフジより若干背が高く、フジはやや見上げるようにオレを見た。

「ねえエイジ、あの桜道へ行こう。一緒に。」

オレは内心どきりとした。予想は当たっていた。でも俺を誘いに来るとは思ってなかった。

フジはオレの服の裾を引いて、だだをこねるようにひっぱった。ねえ、ねえ、と。

暗闇でフジの表情はよく見えない。でも笑っている。いつもの、矛盾した笑顔で、フジは笑っている。

どうしてか分からないけど、オレにはフジをあの桜道に行かせてはいけない気がしていた。

夜はいけない。・・・・きっと狂ってしまう。

「フジ、もう遅いよ、桜は今度にしよう?早く病院に帰らないと、看護婦さん達も心配していたよ。」

オレは言い聞かせるように、できる限り優しく言った。

「だめだよ、夜でないと。」フジは引き下がらない。

「誰にも見つかっちゃいけないよ。だって人が死ぬところを見たらみんな驚くよ。」

オレは驚愕した。頭がぐらぐらし始める。フジはさっきと変わらず無邪気な笑顔を見せている。その無邪気さがかえってオレには恐ろしかった。

なぜなら彼は本気だからだ。

「誰が死ぬの」

俺の声は掠れていた。

「僕が。僕だよ。でも、一人じゃ難しいから、エイジに手伝ってほしいんだ。」

ざあ、と風が吹くのがやけに耳に触った。いつの間にか雲間から月が出ていて、笑うフジの顔をぼんやりと照らしていた。

ああ、違う。これはいつものフジの笑顔ではない。ひときわ仮面のように、真意を隠すために彼の表情は笑顔で凍っているかのようだった。

もっとはっきりした翳りを持ってオレを脅かすものだった。

それでも、それでもオレの頭の中のどこかが、なんて綺麗だと感嘆している。フジの笑顔にうっとりとしている。

桜に微笑むフジのように。

「どうして死ぬの」

「母さんが、初めて言ってくれたんだ。一緒に行こうって。でも母さんは先に行っちゃったから、僕も早く追いかけなきゃ。」
  
――――オレは知っていた。本当は知っていたけど、その事実から目を背けずに入られなかった。

 
フジが病院に運び込まれた、あの日、フジはあの桜の木の下で、母親に首を絞められていた。

母親はすでに手首を切っていて、フジの息が止まる前に事切れたという。

フジは母子家庭で、母親は精神的ストレスから、もうずっと前から精神病にかかっていたらしい。

フジの傷は、母親による物だった。暮らしていくためのお金はフジが稼いでいて、母親は狂乱して暴れ出すことも珍しくはなかったのだと。



どうしてそんな焦がれるような顔をするの?

そんな風でも、まだ母親を慕っているって? 

ねえ、可笑しいよフジ。そんな人のために死ぬなんて言うのはやめよう? 

哀れなフジ。

哀れなフジ。

・・・・幸せなフジ。
本当に哀れなのはオレかもしれない。

オレは見ていた。ずっと見ていた。見ているだけだった。





ああ、そうだね、確かめに行こうか。きっとオレの中にあるものも、この闇に紛れて姿を現すよ。
「一緒に行こうか、フジ。誰もいないうちにね。」







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ワンパターンな終わり方してるよね・・・

 こうするとなぜか安心できるような・・・気が・・・(←三話分書いてから気がついた)
(byひよこ)



ごめん。
ちょっと文字見づらいかしら・・・・。
ウフフ。菊ちゃんが先輩にはまっていく様が拝めて幸せですわvv
菊ちゃんはこうで無いとね!(オイ)
最終話(?)楽しみにしてるからね〜vv

・・・・・ってゆうか先輩自殺させたらただじゃおかないわよ・・・・・・・。(脅し)
くさっても先輩ファンですからね!(だから何よ)