"かれこれ一週間ほど喧嘩しておりますが?"



部活後、帰りに本屋寄ってもいい?いいよ、という会話を交わしていた不二と菊丸に「仲良いな」と言ったら口を揃えてそう言われた。


「ねえ?」と菊丸が不二に言う。
「全く。」と不二が笑って頷く。

――これのドコが、喧嘩中なんだ。


「全くそうには見えないな」
「そう?」
「そんなコト無いって!俺達お互いにすっげ腹立ててんだカラ」
「………本当に?」
「うん。でも僕は絶対に謝らないつもりだから」
「おうよ!俺だってぜ――ったい謝んないからな!」


そう言いつつ、あ、今日の英語の宿題一緒にやんない?いいよ僕んち来る?などという会話を交わしているのだから混乱する。


「喧嘩……してるのは判った。原因は何だ?」


喧嘩の原因は忘れてしまったが、兎に角自分は怒っているのだという感覚だけが残っているのかもしれない。普通はだからこそ意味も無く怒っているものだが、場合によっては逆もありうる。それならば未だこの状況も理解出来なくも無い。
ところが。


「エージに酷いコト言われたんだ。今思い出しても腸が煮えくり返りそうな酷いコト。乾にはとても言えないね」
「不二が俺のコト子ども扱いしたんだ。ひっでーんだ、ただの子供扱いじゃなかったもん。もー、俺、すっげ傷付いたの!」


原因はハッキリしている。なのに普段と変わらない。
――不思議な奴ら。


俺はずれてしまった眼鏡を掛け直す。


「そんなに腹を立てているのに、如何して普段と変わらない態度で接し合ってるんだ?相手の態度に腹は立たないのか?」


別にィ?別に。
二人はそう言った。

駄目だ。3年6組のこのペアは手に負えない。


「喧嘩してるなら、それらしくしていてくれ。心臓に悪い」


それだけ言って、俺は部室を出た。







× × ×








「やあ、お早う大石」


次の日の朝、何事かあったのか、青い顔でこちらに走ってくる大石にわざと呑気に挨拶をする。


「たっ、大変なんだ乾ッ」
「如何したんだ?手塚が笑ったのか?」
「そ…それに比べればまだマシだけど……でも大変なんだ!」

頼む、俺にはどうすることもできないんだ――

そう言って大石は俺の腕を引いた。
そして連れて行かれたのは、
――3年6組。




「……………………」
「……………………」


教室の後方――不二の席の周りからキレイに人が去り、そしてその真ん中に――不二と菊丸がいた。


「これは……一体?」
「わ、判らん。何が何だか…!クラスに入って行って鞄を置いて不二のトコへ行ったと思ったらずっとあの調子で……!」


菊丸は身長差を利用し、そして身体を少し傾けることで斜め45度から不二を見下している。
そしてそれに対抗するように不二は三白眼になり、近付き難いオーラを放ちながら菊丸を睨んでいる。

クラスメートでなくとも、あれには近付けまい。


「……不二さぁ、」

一瞬こちらに視線を向けた後、菊丸が口を開く。

「ムカつくんだよね。何様?ってカンジ」

すると不二は薄くフッと笑って、言った。

「何様かって?何様って訊かれる様な態度してるのは君の方だろ?」


そしてそれきりまた黙り込む。
後ろで大石がごくりと息を呑んだ。


「こ…こんなに激しい喧嘩するなんて……何があったんだ?」
「………さあ。」


答えられる訳がない。
昨日だって、(本人達曰く)喧嘩していたのだから。


「まあ、兎に角俺もあれに巻き込まれたくはないんでね。戻るよ」


俺がそう言うと大石は少し困ったような顔をしたが、黙って見送ってくれた。心配性は損だ。


――何かあったとしたら、昨日、不二の家で……か?


それでもやっぱり心配しながら、俺は自分の教室に戻った。








× × ×











不二と菊丸の喧嘩の話は一日の間に学年中に広まった。

手塚が笑った、ならば学校はおろか町中に広まっただろうが、まあそれでもかなり早い広まりだ。


どんな時でも一緒にいて、いつも仲良くしているあの二人がいがみ合いの喧嘩など、今朝まで誰も見たことが無い。
それが広まりの早さの原因だろう。





「不二と菊丸、どうしたんだろうな」

心底心配した口調で河村が言う。

部活が始まっても、二人の様子は朝のままだった。
二人の周りにだけぽっかりと穴があいたように人がいない。

様子の変化に気付いていないのは我らが部長、手塚くらいなものだ。

「一体どんな酷い原因があるんだろう。あんなに仲の良い二人が喧嘩するなんて……」

ご多分に漏れず、河村も、そして大石も二人が一週間前から喧嘩していることには気付いていないらしい。
当然と言えば当然だ。

「さあ、ね。」

部活が終わったら調査してみるつもりだよ、と言うと河村は調査ついでに、できそうなら仲直りもさせてやってよ、と言った。

「出来そうならね」

俺はそう答えた。




今思えば、あの二人を相手に呑気なことを言ったものだと思う。













× × ×











「え?昨日?」
「ああ。菊丸が英語の宿題をしに不二の家に来たんだろう?」
「ああ、うん。そうだけど?」
「その時何かあったのか?」
「?…何かって……別に」


のれんに腕押し。

今朝のあの異変に原因があるとすれば昨晩だと思うのだが、言うつもりがないのか本当に何も無かったのか、不二は微塵の揺らぎも見せない表情でそう答えた。

もし不二の言葉を信じるとすれば、今朝の二人の様子には理由が付けられないのではないのか。
喧嘩をしていても普段と全く変わらない態度だった二人が、あそこまであからさまに対立してみせる理由が。

俺は困惑する。


「しかし、だったら何故今朝………」
「やっぱ来た!乾!」

不二と向かい合わせに喋っていた俺の背後から菊丸の明るい声が聞こえてきた。

振り向くと、菊丸は普段と変わらない笑顔で俺と不二を見ている。


「思った通りだね、不二」
「クス…そうだね」


ふと気が付くと、昨日と同じ様に、俺達三人を除いて誰もが帰宅してしまっていた。
部室にいるのは俺と不二と菊丸だけだ。


「思った通り……というのはどういうことだ?」


菊丸と不二の突然の態度の変化など、状況が上手く飲み込めず、俺は思わず二人に尋ねた。


「うん。実はね…、」

クスクス、と二人は笑いながら種明かしをした――。















× × ×












「結構スリリングだったでしょ?」

学校からの帰り道、三人で並んで歩きながら、二人のしでかした迷惑なイタズラについて俺達はまだ議論を続けていた。


――そう、あれはイタズラだったのだ。
つまり、芝居。


「ああ。大石や河村なんか、胃に穴を開けそうなくらいスリルを感じていたと思うぞ」
「でもさー、手塚がねー」
「クス。そうそう、手塚は何の反応も示してくれなかったんだよね」
「あれだけは悔しい!」



二人が<傍目に見ても判る様な喧嘩>をしようと思ったきっかけは昨日の俺の言葉らしい。

自分達の喧嘩について、あの後不二の家であれこれ話し合ってみたんだと二人は言った。

「どうせ試すなら皆を巻き込んで……って思ったんだけど、一番巻き込んでみたい人が巻き込まれてくれなかったな」
「あ、乾もわりと冷静だったよね〜!」

菊丸が子供のように腕にしがみつきながら言った。
驚きが顔に出ないタチなんだ、と言うと少し唇を尖らせて、それから頬を膨らませる。

「でも、……やっぱり、今日みたいに周りに迷惑をかける様な喧嘩の仕方は好きじゃないな」
「俺も俺も〜。何か疲れる。」
「………じゃあ、今も<喧嘩>はしてるのか?」


俺が問うと二人はそれぞれ頷いた。
思わず溜息を吐いてしまう。

「……その<喧嘩>、いつまで続ける気だ?」
「不二が謝るまで」
「エージが謝るまで」
「…………」

声を揃えて言う二人に、俺はまた溜息を吐いてしまう。






暫く沈黙が続いた後、ぽつりぽつりと二人は喋り出した。


「……でも、<喧嘩>ってあんまり楽しくないね」
「……うん。俺もそー思った。今日ので判ったけど」






「何かさ、ずっと心の中に怒りを溜め込んでたけど、楽しくはなかったけど、俺、今日ので何だかすっきりした」
「エージに睨まれて、睨み返して、ああ、自分は怒ってるんだなぁって改めて思ったら、何だかすごく疲れた」










「………止めよっか。怒るの。」
「………そうしようか。疲れるし」











 「「 ごめん 」」




二人の声が重なった。
俺を間に挟み、二人はお互いに頭を下げあっている。



「もうあんなコト言わないようにする」
「俺も、もうあんなコトしないようにする」






真剣な二人の表情と言葉に、ああ、喧嘩してたんだ、と俺は思った。




そして、こういう喧嘩の仕方もあるのか、と。





「ごめんね、不二。許してくれる?」
「勿論だよ。僕の方こそ、許して貰えるかな…」
「当たり前じゃん!」







きっとこの二人は正反対過ぎて。
だから互いの何気ない無意識な態度や言葉が相手を酷く怒らせてしまうのだろう。



しかし、互いに互いが正反対な人間だと判っているから。
だから激しい怒りが湧かない。



それでも少量ずつ溜まって行く怒りは時として顔を出す。
それをぶつけ合えない二人は喧嘩したまま毎日を過ごす。




それでも。




ふとした瞬間、謝ることができる。
簡単に許すことが出来る。

その心の大きさ。



それがあるから、この二人はずっと一緒にいられる。









俺はそう思った。
正解は、どうだか判らないけれど。


「じゃあ、仲直り祝いにラーメンでも奢るかな」
「え?!マジ?!うわ〜い!乾大好きvvv」
「ふふ。それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」


面白いデータを取らせてくれたお礼だよ、と心の中で呟く。
不二は俺の心情に気付いているようだが、この際関係無い。



「ラーメンだ〜♪」
「駅前に屋台で出てるトコ、美味しいらしいよ」
「じゃあ、そこに行こう」




手に負えないほど、羨ましい関係だと。

俺はそう思った。











++++++++++++++++++++++++++++



一万打記念隠し行事ノ壱、先着五名様のリク受付に気付いて下さったわたこ様へ捧げるメイツで御座います!

…………って……。………ねえ?(何)
もっと普通に喧嘩してる二人は書けないのか!ってお声が聞こえて来そうです…(汗)ごめんなさい〜!

普通に喧嘩して寂しいな〜ってお話だったら他にもあるからアタシは何か変わったことをしなくちゃ!(義務感)って思いました。(こういう奴ですアタシは…)
しかも乾さん出張り過ぎですね…。(最近彼がスゴク好きで…)

色々ごめんなさい連発なカンジなのですが、万が一少しでもお楽しみ頂けたならば本当に嬉しいです…!
ホンマごめんなさいッ!!

それでは失礼致します!




 * * *




どうも有難う御座いました〜〜〜!!

私のわけのわからない書き込みで混乱させたあげく、こんないいものくれちゃう彼方さん・・・・もう、大好きです。(笑)

もう、メイツ可愛すぎですよ・・・・・・!!!ツボにきて、もう、言葉で言い表せれなかったのでとりあえず絵にしてみました。(死)
下に置いておきます(笑)

ってゆうか!!子悪魔!!!ふたりともほんのり子悪魔!!!!(笑)わたしも騙されたいです!!!!!!(末期)わたしも振り回されたい〜〜〜〜!!ラーメンくらいいくらでもおごってあげるから!!!!(笑)
男の子喋りな先輩って・・・・なんだかすっごく可愛いです・・・・・!!

彼方さんのお話は、ちゃんとしたストーリーがあるからすごいと思います。起承転結ってゆうんでしたっけ??(阿呆)ちゃんとしていて、すごいといつも密かに思っておりました。
も、もう、小説ありがとうございました〜〜〜〜〜〜!!!



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またしても雰囲気ぶち壊しな挿絵↓
壊しまくってすみません!
雰囲気ぶちこわしだよ!!!
って思われた方、いらっしゃいましたらわたこに怒鳴りつけてやってください・・・・・!!
速攻で闇に葬ります!!